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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
10章 『魔素の王と死屍の神』編
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第678話 14歳(春)…魔王撃退記念式典

今回はおまけの人物紹介が同時更新されています。

こちらは1/2です。

「なーんか、そこはかとなくご主人さまに距離を感じるんですけど」


 アレサと共に常駐して俺の看病をしてくれているシアが言う。

 俺としては普段と変わらない調子でいるつもりだが、シアには違いがわかるのだろうか。

 無駄に鋭い奴め。


「気のせい気のせい」

「気のせいですかねぇ」


 ろくに動けず第一和室で寝ているしかない俺だ、問い詰められたからと逃げるわけにもいかず、ここは全力で誤魔化す。

 そのうちおまえと結婚することになるかもしれん、なんて伝えたらシアだって看病しにくくなるだろう。


「まあ、今は養生に専念してもらいますか。……後でちゃんと答えてもらいますからね」

「……」


 いずれは話さなければならない事だが、シアがしつこく聞いてくるならXデイは予想より早く来てしまうかもしれない。

 この、シアとの婚約話が心の重しになってはいたが、ともかく俺は大人しく養生を続けた。

 そんな寝たきりの俺ができることと言ったら、それこそお喋りくらいのものである。

 話し相手になってくれるのは常駐するシアとアレサ、あと交代で看病しに来てくれるメイドのみんなで、そこに様子を見に来たほかの面々が加わったりする。

 会話は概ねたわいもない話だ。

 今回はちっとも活躍できなかったとミーネが愚痴ったり、結局は俺に任せきりになってしまったとシャロがしょんぼり謝ってきたり、何度大丈夫と言っても大丈夫かとティアウルが尋ねてきたりと、そんなもの。

 そんな中で重要だったのがヴィルジオの話。

 要は別行動で何をしていたか、というものだが、その話の前にざっと昔話――このエイリシェに辿り着くまでの経緯を聞くことになった。

 その後、あの日いきなり別行動をとった理由について説明され、ここでようやくメルナルディアの騒動の裏で暗躍していた者についての話が出てきた。

 出てきたのだが……、どんな人物だったかは内緒にされた。

 正確にはひと月ほど黙っていなければならないらしい。


「仇討ちを果たすことが出来たのはあの者のおかげなのだ。正体についてはどうかしばし待ってほしい」

「あー、いや、いいんだ」


 語れないことを申し訳なさそうにヴィルジオは謝るが、いずれ話してくれるならそれでいい。

 ただ、聞かせてもらった話だけでも、その人物についてなんとなく見当が付いてしまうことをヴィルジオはわかってないのだろうか?

 同席する二人のうち、アレサは気づいていないようだが、シアの方はちょっと考えるような素振りを見せていることから、俺と同じようにとある人物のことを思い出しているのだと思う。

 ヴィルジオに協力した人物は死霊騎士という配下を使った。

 死霊騎士は邪神教の被害者、またはその関係者であり、邪神教とその教主に深い怨みを抱き、いずれ見え討ち滅ぼすために特殊なアンデッドの素体となることを望んだ者であったそうな。

 高い耐久性を持ち、黒いオーラを纏うアンデッド。

 それってシャロの霊廟に居候してた万魔信奉会の連中と似たようなものなんじゃないのか?

 となると、浮かび上がる人物は一人だ。

 アルフレッド・レイヴァース。

 シャロの弟さんである。

 彼ならば、ガレデアと教主を手玉に取れるのではないかと納得も出来てしまう。

 一緒に霊廟に潜ってぽんこつリッチたちと戦ったヴィルジオなら気づけそうなものだが……、この話がそこに気づかせないようにと配慮してのものでなかったことからして、思い至ってはいないらしい。

 また、その人物がアルフレッドであったとして、そのことはヴィルジオには伝えておらず、さらに見た目がリッチ的――要はホネホネしくなかったのだと推測できる。

 ヴィルジオはその人物をアルフレッドとは『別』として認識して話しているからだ。

 死霊騎士がぽんこつリッチたちと似ている、とヴィルジオが気づいていれば今回の話もずいぶんと変わったのだろうが、まあ、その時のヴィルジオは教主――長年捜し続けた友の仇にまさにこれから挑むという状況だった。頭に血が上ってあれこれ考える余裕は無かったのだろうし、無事、仇討ちできた今、ヴィルジオにとってその人物は恩人のようなもの、怪しいとは思いつつも探るのは人情的に難しくなっているのかもしれない。

 これについてはヴィルジオが語れるようになるのを待ち、その時はシャロにも同席してもらって一緒に考えようと思う。


    △◆▽


 安静にしていた甲斐があったのかは謎だが、俺の調子は日ごとに良くなっていった。

 ところがちょっと予想外。

 メルナルディアで式典が執り行われる前日になっても、一人で行動するのはちょっと怪しいふらふら具合にまでしか回復しなかったのだ。

 たぶんあと二、三日あればよかったのだろうが……、まあそれを言っても仕方なく、式典には車椅子で参加することにした。

 そこで「はい、はい、はーい!」と車椅子押し係を買って出たのはアレサである。

 そして式典当日の早朝、うちの家族やメイドの皆のように招待を受けたバートランの爺さんやアズ父さんが屋敷に到着したところで、俺たちは向こうに新しく設置された精霊門でメルナルディアの王宮へと移動した。

 この際、何故かうきうき顔のルフィアが混ざっていたが、もう面倒なのでこのまま同行させ、後でメルナルディア側に置き去りにすることにした。

 王宮へと到着した後、俺たちはそこから式典会場へと馬車での移動があるため外へと案内されたのだが――


「まだ残ってたのか……」


 試練の塔が未だそのまま残されているせいで、王宮の景観は大いに損なわれていた。

 これについてはパイシェが事情を教えてくれる。


「記念に残すべきなのではないかという声がありまして……」

「でもすっごい邪魔そうだけど」

「それでも残すべきではないかという声が……、ええ、あるのです」


 残して何の問題も無いならこのままでいいのだろうが……、問題が有るなら建てさせた張本人である俺が何かしらの妥協点を提案することになるかもしれない。

 記念の石碑とかじゃダメかなぁ……。

 ともかく試練の塔については後日の話、俺たちは用意された馬車に乗りこんで王都を移動し、やがてシャロが郊外に用意した式典会場へと到着する。

 整地されただだっ広い広場に、大きなステージ。

 なんだか野外ライブ会場のようなのだが……、まあ合理性を求めるとこんな感じになるのかな。

 ステージの正面はうちの面々のような招待客や王宮関係者、その後ろが一般――市民たちのエリアになっているようで、もうすでに市民たちがずいぶんと集まってきている。

 俺と付き添いのアレサ、それからシアはそのうちステージに移動することになるが、式典の開始までにまだ少し時間があるようなのでそのまま皆と過ごすことにした。

 するとそこに、リマルキスがレクテアお婆ちゃんに付き添われて顔を見せにやって来る。


「もっと先に延ばした方がよかったのではないですか?」


 挨拶もそこそこに、車椅子状態の俺をリマルキスは心配してきた。


「こうしてるぶんには問題ないからいいさ。あと数日もすればだいぶよくなるだろうしな」

「そうですか……。調子が悪くなったら、式典のことは気にせず戻ってもらってかまいませんので」

「ああ、その時はそうさせてもらう」


 それからしばしリマルキスを交えて話をしたり、やたら記念撮影したがるルフィアを邪険にしたりしていたが、やがて逞しい肉体のスタッフがやって来て、そろそろ移動をお願いしたいと伝えてきた。


「じゃあ行くか」


 と、俺たちが移動をしようとしたとき――


「……あれ?」


 クロアがステージを見つめながら困惑の声を上げる。

 ステージはすっかり準備が整い、中央にある演台には拡声用の魔道具が設置されているのだが……、そこに一人の男性が立っていた。


「カルロさん……!?」

「あいつ生きていたのか……!」


 クロアとパイシェが声を上げる。

 カルロ・ルーフォニアル。

 邪神教の刺客に殺されたと伝えられた人物だ。

 カルロは演台の魔道具を少しチェックしたのち、朗らかな調子で喋り始めた。


『あー、あー、どうも皆さんこんにちは』


 式典前の確認作業か何かだろうか、と思ったが、リマルキスはきょとんとしてしまっている。

 どうやらこれは予定には無かったことのようだ。


『本日はこれより魔王撃退記念式典を行う手筈となっておりますが、その前に、少し皆さんにお伝えしなければならないことがあるので、しばしお時間を頂こうと思います』


 カルロは勝手に話を進めるが、あまりに堂々としているためかスタッフはこれが式典の乗っ取りであると判断しきれないようだ。


『それでは、まず失礼して――』


 とカルロは上着を脱ぎ、次いで肌着も脱ぎ捨てる。

 ステージ上で上半身裸になるカルロ。

 なんでやねん、と内心突っ込みつつも、カルロの体につい視線が吸い寄せられる。

 それは右の肩から先が作り物――魔導義手であるため、物珍しさから興味を惹かれたためだ。

 やがてカルロは魔導義手を左手で軽く撫で、それからガッと握りしめるともぎ取るように取り外した。

 そこで起きたどよめきは、ここに集まった人々のほとんどがあれが義手であると知らなかったためだろう。

 カルロは二の腕の半ば辺りから腕が無かった。


『おっと失礼、驚かせてしまいましたね。ですが大丈夫、今取り外したのは義手ですので。私の右腕はほれこの通り――』


 カルロは肩からわずかばかり伸びる途切れた右腕を空に向け、そして言う。


()()()()()()()()()()()()()()


 カルロが言った途端、虚空から蜘蛛の糸のようなものが集まり始め、それは撚り束ねられ、編まれ、途切れていたカルロの二の腕から先をみるみる間に作りあげていく。

 やがて右腕がすっかり完成すると、カルロはその右腕を軽く振るった。

 すると半裸であったカルロが、荘厳な鎧を身につけ、その上から煌びやかな衣を纏った神々しい姿へと変貌する。


『では、自己紹介といこうか』


 先ほどまでの朗らかな調子から打って変わって、強い威圧感を与える口調でカルロは言う。


『我こそはシス。悪神である』


これにて10章『魔素の王と死屍の神』は終了です。

次章――11章『想うはあなたひとり』は9月14日(土)からの更新を予定しています。

ここは間を空けず次章に繋ぎたいと思っていたのですが……、駄目でした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず物語の展開がジェットコースターΣd(゜∀゜d)
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