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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
10章 『魔素の王と死屍の神』編
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第677話 14歳(春)…兄上?

 目が覚めたら第一和室で寝かされていた。

 これはもはや形式美の領域へと辿り着きつつあるのではないか、そんなことをぼんやり思う。


「……お、おはよう?」


 日差しの感じからしてもう明らかに朝ではないが、ひとまずそう挨拶してみた。

 すると、おそらく付き添いをしていてくれたのだろう、すぐ横に並んで座り、ひそひそと囁きあうように話していたシア、アレサ、シャンセルが一瞬きょとんとして、そしてくわっと表情を変えた。


「ご主人さま!」

「猊下!」

「ダンナ!」


 三人は驚き――、そしてあたふた。


「ど、どうです調子は!」

「具合はいかがですか!?」

「どっかおかしいところあるか!?」


 俺がこうしてダウンするのはもうお約束だが、それでも心配はかけてしまう。平気平気、全然問題無い、とでも返したいところだが……、そうもいかない。


「んー……、体が動かん」

「あー、動きませんか……」

「動かねえんだなぁ、これが」

「猊下の体におかしなところは無いようですが……、困りましたね」


 ってことは、ヴァイロの時と同じか。

 なら時間経過で回復していくのだろう。


「あ、俺が倒れてからどれくらいたってる?」

「ダンナはまる二日寝込んでたぜ。今は三日目の昼過ぎだ」

「そっか、ヴァイロの時はまる一日だったから、記録更新だな」

「いやそんな記録伸ばさないでくれよ……」


 シャンセルはあきれたように言い、それからよっと立ち上がる。


「よし、それじゃあさ、あたしとアレサはみんなにダンナが目覚めたって伝えてくるよ。シア、後は頼むぜ」

「はいな」


 こうしてシャンセルとアレサは退室……、しない。

 アレサが座して動かなかったからである。


「いや、アレサ……、な?」

「猊下の容態が急変するかもしれませんので!」

「体は何の問題も無いって言ってただろ!? ほら、来る!」

「うあぁぅ……」


 シャンセルに引っぱり起こされたアレサは、何やら情けない声を上げながらそのまま連行され退室していった。

 こうして室内には俺とシアだけになる。


「……」


 シア、もじもじ。

 途端に挙動不審になった。


「どうした?」

「あ、いや、何と言いますか……、今回のことは……、その、わたしの事で色々とご迷惑をおかけしましたので……」

「あー、それか。まあ気にすんな」

「ありがとうございます。でも気にしないってわけにはいきませんし」

「立場が逆だったらおまえも何とかしようとするだろ?」

「そりゃしますけど、でもご主人さま、その場合はご主人さまだって今のわたしみたいに気にしてると思いますよ?」

「む……」


 なるほど、そう来たか。

 確かにシアが「気にしない」と言ってくれ、実際に気にしていないとわかっていても何か言わずにはいられないだろう。


「わかった。じゃあ精一杯感謝してくれ」

「はい、精一杯感謝してます」

「ならば良し」

「良しですか」

「良しなのだ」


 さて、これでシアの調子が戻ってくれるといいのだが。

 何かにつけてもじもじされると、俺としても気を使う。それはとても面倒くさい。とは言えニヤニヤしながら「ぐふふ、すいませんねぇ、わたしのために頑張ってもらっちゃって!」とか言ってきたら「おまえなんぞ知るかー!」と頭を引っ叩いてやるのだが。


「メルナルディアはどうなってる?」

「わりと落ち着いていますね。大騒動にはなりましたが、それでも邪神教のボスが倒されたことや、魔王の誕生が阻止されたという事実が良い方向に働いて混乱は抑えられています。あの後、弟がすぐ市民の皆さんに一生懸命説明して、損害については補償すると約束したのも影響していると思いますよ」

「なるほどな、うまく落ち着かせたか。邪神教についてはあとでヴィルジオに話を聞くとして……、ガレデアはどうなった?」

「大人しくしているみたいです。軟禁に近いですね。今は王都の状態を落ち着かせるのに手一杯で、処罰の決定や話を聞くのはちょっと後回しみたいです。ご主人さまも話をした方がいいですよね?」

「そうだな、聞きたいことはある。たぶん一週間くらいで回復すると思うから、それからだな」


 それから少しすると、皆がどっとお見舞いにやってきた。


    △◆▽


 目覚めた翌日、寝たきりを強いられる俺のところに、のこのこお見舞いにやって来たのがリマルキスだった。

 俺が目覚めたことは、今回協力してくれたクェルアーク家、ベルガミア、ザッファーナなど各方面に伝えられたようだが、同時に養生に専念してもらうため見舞いは控えてもらうようにとお願いもしてあったそうだ。

 にも関わらずリマルキスがやってきたのは、セレスに会いたいがため――かと思ったがそうでもなく、メルナルディア国王として確認しないといけないことがあったからのようだった。

 リマルキスは謝罪やら感謝の言葉を一通り語ったあと、予定されている式典について説明してきた。


「魔王撃退記念式典っておまえ……、それやる必要ある?」

「あるのです、これが。もう我が国にはやましいところがないと、大々的に宣伝しなければならないのです。何しろ、あわや魔王の誕生という事態でしたから……。あと、邪神教の教主を討ち取ったことなども加えて公式に宣言しなければなりません」

「ふーん、そういうものか」

「そういうものなのです。それで――、なのですが、どうかその式典に参加してもらえないかと……。あ、もちろん体調が回復してからですよ。今回の訪問は、どれくらいで回復するか、ある程度の予定を聞かせてもらえないかと伺いました」

「俺……、要る?」

「要ります。貴方が主役のような式典ですから」


 わざわざ国王であるリマルキスが訪問してまで確認する内容ではないような気もするが……、たぶん自分が動くことでその重要性を示しているのだろう。確かに使者とかよこされたら「面倒くさいので嫌です」と返答したと思う。

 さて、どうしたものか。

 なるべく早めにガレデアと面会したいとも思っていたし、なら式典はそのついでに参加するような感じでいいかな。

 となると――


「んじゃあ……、一週間後くらい?」

「え……、そんなに早くて大丈夫なのですか? てっきり半年後とか言われると思って、なんとか二ヶ月くらいになりませんかってお願いするつもりでいたのですが……」

「まあ大丈夫だろ。完全回復ってわけにはいかないだろうが、そこそこ回復はしてるはずだ。あれだろ、基本は座ってて、ちょろっと話して終わりだろ? あ、貴族の懇親会とかそういうのは不参加な」

「充分です。ありがとうございます」


 これでリマルキスは帰るだろうと思ったが――、まだ居座る。


「今回のことは本当に感謝しています。いずれ充分なお礼を」

「別におまえやメルナルディアのためにやったことじゃないから、お礼とかいいんだけどな。そういうわけにもいかないか」

「国としても、僕としてもそうですね」

「ならセレスを諦めろって言ったら諦める?」

「――ッ」


 言ってやると、リマルキスは小さく身震いして動きを止める。

 やがて、絞り出すような声を出した。


「……ゆ、猶予を頂けませんか」

「猶予?」

「何時までに自分を認めさせろ、といった……」

「いや認めてるけど?」

「あれ?」

「でもセレスのことは別なだけ」

「……」


 あ、リマルキスが絶望した。

 これにて一件落着――、といきたいところだが、これをセレスに伝えるとなると問題がある。貸し借りではなく、自分から折れてくれるのが理想なのだ。とは言え切り札は手に入れたので、しばらくは別の方法を模索してみるか。


「ま、これについては落ち着いてからだ」

「……!」


 あ、リマルキスが復活した。

 おまえが箱の底から見つけた希望は、さらなる絶望のための前振りかもしれんのだがな。


「ちなみに、落ち着くまでセレスと会うのは禁止だ」

「わかりました」

「あれ、素直だな」

「さすがにそれくらいの分別はありますから」

「姉ほったらかしでセレスに会いに来ていた頃よりは成長したか」

「そ……、ええ、はい」


 渋い顔でリマルキスは認め、それからふと思い立ったように言う。


「あ、そうです。せっかく姉上の話が出たので一つ確認を」

「確認?」

「はい。僕はこれから貴方を兄として扱うべきでしょうか?」

「ああん!? おまえのような弟を持った覚えはねえ!」

「え? ――あ、いや、違いますよ!? セレスさんとのことで兄上と呼ぼうというのではなく、姉上の関係です!」

「へ? シアが俺の妹だから、おまえも弟ってことか?」

「いや……、そうではなくて……、あの、では先に物凄く重要なことを確認させてください。レイヴァース卿は姉上を妻に迎えてくれるのですよね?」

「……ん?」


 今こいつ何て言った?


「シアを……、何だって?」

「妻に迎えてくれる――、つまり姉上と結婚して頂けるのかと確認しました」

「ちょ、ちょい待て! え、どっからそんな話でてきたん!? 俺が寝てる間に勝手に決められたのか!?」

「いえ、貴方がロット公爵から姉上を守ったことで、もうそれは決定したようなものなのですが……」

「ど、どうして……?」

「貴方しか守れない姉上を、貴方が娶らないでどうするのですか」

「え……、あれ!? そういうものなの!?」

「そういうものなのです。今回のことで姉上には良くない印象も生まれました。しかし他ならぬ貴方が娶ることでそれは相殺されるのです。ここで貴方が放りだしたら、姉上の立場はまずいことになります」

「……」

「あ、あの……、ほ、本当に何も考えていなかったのですか……?」

「うん」


 やべえ、きっとシアもわかってないはずだ。

 もし知ったらシアは何て言うか……。


「よしリマルキス、ちょっとどうしたらいいか話し合おうか!」

「話し合うって、結婚するしかないのでは!? 姉上と結婚するのは嫌なんですか!?」

「嫌とまでは言わないが……、どうなの?」

「そこを僕に聞かれても……。ですがこれで貴方が妻に迎えないとなると、やはり姉上に問題があって捨てられたのだという風評が……」

「……」

「そんな諦めきった顔をしなくても……。ま、まああれですよ、すぐに発表しなければならないというわけではないので、落ち着いてから改めて考えましょう」

「お、おう」

「姉上にも少し話を聞いて来ましょうか?」

「それはやめとけ。ややこしくなる。ともかく色々と落ち着くまでこの話は誰にもするな。それを約束するなら、今日だけはセレスと会ってお話するのを認めよう」

「わかりました。口が裂けても言いません」

「いや口が裂けそうになったら言っていい。なんか俺にそういうこと言う奴って本当に口が裂けても言いそうにないから恐いんだよ」


 こうして――、婚約だったり結婚だったり、ひとまずそういう話は先送りとなった。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/09/04


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