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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
10章 『魔素の王と死屍の神』編
685/820

第674話 14歳(春)…魔王の嘆きをとめる者(前編)

今回は2話同時更新、こちらは1/2です。

 行くぞこのバカ野郎め――。

 そう宣言して俺は飛び出した。

 するとその瞬間、不思議な感覚を体が支配する。

 一瞬、仮面に体を乗っ取られでもしたのかと思ったがそうではない。

 これは――


『(宿した戦士が猛っている。ここは身を任せるのだ)』


 俺と一体化を果たした幽霊たち――群霊がこの状況で行うべき最適な行動を体現させようとしているらしい。

 自身の技量など知れたもの、俺は群霊を信じ身を任せた。

 するとどうだ、体の動きが自分で動かすよりも遙かに洗練されたものへと書き換わる。ブレの起こらない体運び、安定した重心、無駄な力みは無く、余計な疲労を抱え込むことのないよう込める力は必要分、と見事な最適化がなされている。それは本来であれば長い修練の果てに体得するのであろう体の使い方であった。ただ『走る』という行動にも最適化の成果は如実に現れ、足を踏み出すごとに加速度は増し、これまでに体験したことのない速度領域へと突っ込んだ。

 そして、そこからの軽やかな跳躍。

 上へではなく、前へ。

 跳躍の瞬間に身を捻って回転を加えたことで、俺はフィギュアスケーターのアクセルジャンプのように高速回転しながらガレデアへと突っ込んでいくことになった。

 しかし飽くまでアクセルジャンプのよう、であり、両腕を閉じることはしない。俺は両手に持った剣を真っ直ぐ上に伸ばしており、ここまでくるとアクセルジャンプと言うよりも羽根の無い竹とんぼ――つまり軸だけを相手に向かって飛ばしたような状態に近いのだろう。

 ああ、それにしても何という回転速度か。

 加速した意識であっても景色はめまぐるしく変わり、もはや何回転しているのか数えるのもバカらしくなるほどである。この回転に付き合うことになったバスカーはと言うと――


「わわわんわんわわわんわん!」


 なんと、回転数に呼応するように吠え、意味不明に辺りへ雷撃をまき散らしていた。

 おそらく――、目が回っているのだろう。


「なんん――ッ!?」


 高速回転しつつ放電しながら飛んでくる俺に、ガレデアは明らかな動揺を見せた。

 そんなガレデアに対し、俺はそこでさらに身を捻り、掲げた剣を横凪ぎに放つ。

 奇想天外な動きから繰り出された、たっぷりの遠心力を加えた一撃はある意味不意打ちに近く、ガレデアは迎撃できないと悟ったか防御を優先する。

 横から来る攻撃に対し、剣を立て手を添えての盾。

 だが、俺の放った一撃はその程度で受けられるような代物ではなかった。

 爆発――、そう例えるしかないような技の衝撃。


「おうぉぉう――ッ!?」


 ガレデアは堪えきれず吹き飛ばされ、王宮の塀まで飛んでいって激突する。

 この威力――、ガレデアとて予測できなかったのだろう、炸裂の瞬間には強い戸惑いの声を上げていたが、その驚きは奴だけのものではない。


「なんぞこれ!?」


 放つことになった俺も凄く驚いた。

 だが、俺の驚きはここで終わってはくれない。

 突如、脳裏に謎の声が響き始めたのである。


『(通じた――、俺の技が、万象廻り斬りが……、あぁぁ……)』


 瞬間、俺の中に途方もない喜びが溢れ、それと同時にフラッシュバックが起きる。

 思い起こされたのは、俺ではない誰かの記憶だ。

 そいつは回転した。

 来る日も来る日も回転し、遠心力に曝され続けた脳がクモ膜下出血を起こして命を落とすまで回転し続けた。

 それは昼と夜が、季節が、大いなるものが巡ることに閃きを得た一人の武人が、その巡る力を己がものとすべくひたすら回転し続け一つの技を完成させるに至った変態的記憶であった。

 つまり、俺が放った技の開発者の記憶である。

 尋常でないアホだ。

 しかしアホだったからこそ、その一念は奇跡を起こし魔技となった。

 そう言えばエイリシェの冒険者訓練校にやたら左腕にこだわる教員がいたような気がする。たぶんああいう人の上位互換(世間体を考えると下位互換)なのだろう。


「――ん?」


 と、そこで俺は体から何かが失われる感覚を覚えた。

 これは……?


『ふむ、培った技が魔王に通じたことにより、呼び寄せた霊が昇天したようだ』

「なんだそれ!? えっ、ちょっと待って、もしかしてこいつら技を使うごとに逝っちゃうの!?」

『案ずるな、その技は汝の身体に宿っている』


 そうか、なら良い――。

 いや良くねえ!

 とてつもなく恐ろしい予感が俺を襲う。

 召喚して体に宿した霊たちは……、まさか全員こんなのばっかりだったりしないよな?

 もしそうだった場合、全員が技を使い切って昇天したら、俺はあらゆる変態技を習得した世界最強の変態になっちまうじゃねえか!

 望みが果たされて昇天するのは構わん!

 でも技も――、技も一緒に引き取って逝ってくれ!


『代償はつきものだ』

「こんな代償は予想できねえんだよ!」


 判明した事実に打ちのめされる俺。

 一方、変態技を喰らわされぶっ飛んだガレデアは少し堪えたようであったが――


「はぁぁ――――ッ!」


 剣を掲げて叫びだした。

 魔素を剣に集めている……?

 おそらく、今のままでは俺の攻撃を受け続けることはできないという判断があったのだろう。

 ガレデアの戦意は未だ確か。

 なんてことだ、俺の方は戦意喪失しかけてるってのに……!


「巫山戯ているが……、威力は確か。なるほど、油断していなくても油断させられてしまう。これが貴方のやり方というわけか!」


 違う、変な深読みはやめてくれ!

 そう叫んだところでガレデアは信じてくれないだろう。

 くそっ、ちゃんと心の声が聞こえるなら、俺が嘘をついていないとわかってもらえるのに!

 最初の一発でガレデアは油断できないと判断したのか、もうその様子だけで気合いの入れようが見て取れるようになった。

 バートランの爺さんとアズ父さん、二人と戦えていた男が魔王化によってステータスが底上され……、俺、大丈夫かなぁ……。


『来るぞ!』


 そう仮面が告げるとほぼ同時、ガレデアが凄い勢いで迫ってきた。

 意識を加速していなければ、気づいた時にはもう目の前というシアのそれに近い速さ。咄嗟に対処しようとするが、ガレデアは正面から攻撃を行うことはなく、さらにそこから俺の背後へと回り込む。するとその瞬間、俺は我知らず腰を落とし、それと同時に剣を水平にして頭上へと掲げていた。

 ガレデアの振りおろされた剣が、俺のかざした剣に当たる。さらに支えの左手を少し下げていたことでその一撃は剣身を滑り逸れた。

 剣と剣が擦れる甲高い金属音が響き――


「きゃいん!」


 ちょっと痛かったらしくバスカーが鳴いた。

 ひとまずガレデアの攻撃をいなすことが出来たものの、背後を取られていては状況は不利なままだ。中腰になって攻撃に対処したせいですぐに飛び退くこともできず、このままでは追撃を喰らう。

 だが、俺の体は攻撃を凌いだその瞬間から次の行動へと淀みなく流れるように移行した。中腰のまま剣を掲げた両手を足元につき、そして両手足で思い切り地面を押す。その反発力によって勢いを得た俺は渾身のヒップアタックを背後にいたガレデアに喰らわした。


「ぐあぁ――――ッ!?」


 吹き飛ばされるガレデア。

 俺が繰り出すことになったのは、ただのヒップアタックではなかったのだ。

 大地臀部撃。

 それがこの一連の動き――変態技の名称であった。

 背後を取り「殺れる」と意気込んだ相手の一撃を受け流すことで体勢を崩し、すかさず大地の力を宿した(と信じている)ヒップアタックを叩き込むという体当たりの一種である。両足だけでなく両手も使うのは、手でも押すのだからその方が威力が増すに決まっているという思い込みのためであり、さらに言えば、大地の力を吸収する経路も倍になるに違いないという、やっぱり思い込みの結果であった。

 両手足から吸い上げた大地の力を尻に収束させて敵を粉砕する。

 この妄想を実現するため、無名の変態は来る日も来る日もヒップアタックを続け、やがては巨大な岩山を一瞬にして砂山へと変貌させることに成功する。

 そして――、変態はそのまま砂に埋もれて死んだ。

 最初に続き、今度も尋常でないアホだった。

 しかし――。

 岩山を砂山に変えるという、ある種、浸透勁とも言える変態技であったが、半熟魔王を木っ端微塵にすることは叶わなかった。

 それでもそれなりのダメージは入ったらしく、ガレデアは俺のケツがぶち当たった辺りを抑え苦悶の表情を浮かべている。

 それを確認した瞬間――


『(おぉぅ……、オレのケツは間違ってはいなかった……)』


 まただ、また宿っていた幽霊が歓喜しつつ昇天した。

 これでまた変な技を身につけてしまったのか、俺は……!


「何と……、何という巫山戯た技だ! 恥ずかしくはないのか!」


 悲嘆する俺の心中など知らず、ガレデアは怒気混じりに叫んでくる。


「恥ずかしくねえとでも思ってんのかこの野郎ッ!」


 心無いガレデアの罵倒に俺は激怒した。

 おまえが――、おまえがととっと降参していれば!

 ガレデアへの強い怒りが俺を支配し、その怒りに応えるように群霊は己が編み出した技の数々を俺で実践しようとする。

 認めよう。

 凄いのは確かに認めよう。

 でも何故だ、何故おまえらはそ(・)う(・)なんだ!?

 変態技の数々は、放てばガレデアに身体的なダメージを与えると同時に俺には精神的ダメージを被らせる諸刃の剣であった。

 薬丸自顕流の蜻蛉みたいな何かかと思ったら跳び蹴りだった。

 いや、いや、それはいい。マシだ。だいぶマシだ。逆立ちして足に剣を挟み突っ込むことになったさっきのよりは遙かにマシだ。腕よりも足の方が力が強いのはわかるが、だからってどうしてそうなるんだ。何となく思いついたことを突きつめて魔技に昇華するのはやめろ!

 人智を越えた戦いが続くなか、俺の気は散りっぱなしで、それがまた群霊には好都合らしく好き勝手に体を動かしやがる。披露される奇抜な技の数々にガレデアは驚きの連続だろうが、それは俺だって同じだ。実際に放たれるまで、自分の体が何をやろうとしてるかわからないのである。

 ああくそっ、今度は何だ。

 ガレデアに背を向け、俺の体は足を大きく開いての前屈運動、あらよっ、とケツを突き出す。

 意味がわからない。

 だが、それが挑発以外の何物でもないことはわかる。


「割れろぉぉ――――ッ!」


 だいぶ頭に血が上ったガレデアが、俺のケツめがけ剣を振りおろしてくる。

 奴は俺のケツを割る気だ。

 もう割れてるのに!

 俺は焦るが――、俺の体は動かない。

 何か手があるのだろうとは思ったが――、そこでハッと閃く。

 いや、いやいやいや! 嘘だろおい! やめろ! ケツの割れ目は真剣白刃取りするためにあるんじゃねえんだよ! や、やめっ、アァァ――――、って止めたぁぁっ!?

 どうなっちまったんだ俺のケツは!

 俺が愕然とする内に、この機を逃してはならぬと体が動く。

 逆手に持った剣を、股の間から背後にいるガレデアに向かって鋭く突きだしたのだ。

 そう、これは剣がケツに挟まっているが故に、相手は剣を手放さなければ回避することのできぬという必殺の技であったのだ。さらに放出系の魔技であるため、ただ飛び退くだけでは充分ではないという意地の悪い技である。


「ぐぉぉ――――ッ!」


 剣を手放すことをよしとしなかったガレデアは、この技をまともに受けることになった。

 ただ、おそらくは剣を手放せなかったのではなく、振りおろした剣がケツに挟まれて止められるという理解を超える現実に打ちのめされて反応が遅れたのだと思う。


『(双子山大噴火の巻――、見事な技だ)』

「おまえ本気でそう言ってる!?」


 技も技の名も、とにかくセンスが最悪だ。

 おまけにイボ痔が破裂してショック死という死因も最悪である。

 ちくしょう、誰だ、戦士の幽霊集めて憑依させたらなんとかなるなんて考えた奴は!

 ああそうだよ、俺だよ!

 自業自得だよ!

 でもさ、でもまさかこんなのが来るなんて思わないじゃん!?

 もう何て言うか、これ人の技じゃないんだよ!

 化生の技だ、化け物の技だ。

 絶対的な威力を持つも絶えた技、そして絶えるべきだった技。

 絶技――、色んな意味でそう呼ぶべきしかない代物だ。

 ああ、せめてクロアとセレスが見ていなければ!

 ってダメだ、見てる、この兄が加速度的に変態へと近づいていく様子を真剣な表情で!


「うぉぉ――――ん!」


 俺は泣いた。

 泣いて咆えた。

 戦いは続き、残る群霊たちはやはりどうしようもない絶技を次々と俺の体で実践していく。

 それはつまり、受け継がれることのなかった絶技――一代限りの突然変異を俺が継承してしまったということだ。


「ウヴォアァァ――――ッ!!」


 もう俺は自分が何をやっているのかわからなくなり、ただひたすら感情のままに咆えた。


『そうだ、感情を解き放て!』

「おまえもおまえなんだよぉ!」


 やがてすべての絶技が放たれ、この身に宿っていた群霊たちは一体残らず昇天していった。

 砕け散った俺の精神と共に。


※誤字脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/08/31

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/09/21


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― 新着の感想 ―
[良い点] みんな、何を言ってるんだ! ケツこそ最強の凶器だと越中詩郎先生が証明したではないか(笑)
[一言] なんてひどい戦い。 こんな絶技をくりだすのは、まさに勇者! というか、まともな技の持ち主は、きっと後継者に託して、 ちゃんと昇天していると思う。
[一言] 個人的神回。 ここの技の冴えはある意味感動を覚えるレベルでした。結局尻でしたが。
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