表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
10章 『魔素の王と死屍の神』編
677/820

第666話 14歳(春)…王宮の魔物

「ここは儂に任せてもらおう! 手出しは無用だ!」


 バートランにそう言われてしまえば、ひとまず任せてみるしかないだろう。

 と、その前に伝えなければ。


「その人はロット公爵、シアやリマルキスの従兄にあたります。シアを殺害するつもりでいますが、いきなり殺すのは待ってください」

「なるほど、そういう人物か。承知した」


 頼もしい返事だ。

 が、その会話を聞いたガレデアは苦笑する。


「まだそんな甘いことを言うのですか。いえ、それならそれで構わないのですが、少し危機感を持たれた方が良いでしょうね」


 危機感って、いやそれはおまえの方だろう?

 なんでガレデアはこんなに余裕なんだろうか。

 確かにそこに居るのはヘンテコ被り物爺さんだが実力は確かで、ちょっと離れたところで警戒してるネコ耳おじさんも相当なものだ。さらにシャロだっているし、シアやミーネ、アロヴだってなかなかのもの、はっきり言ってたった一人にぶつけるような戦力ではない。

 それがわからないガレデアでもないだろうに……、いや、それでもシアを仕留められる秘策があるのだろうか?

 おれが不審を抱くなか、バートランはゆっくりとガレデアに接近していき――、そして戦いは始まった。

 一見、それは軽い手合わせのようなもので、相手を斬り殺すような気迫は感じられなかった。

 とは言え、あの二人のどちらかに対して、おれが同じように戦えるかとなるとまず無理だろう。戦い始めてすぐに詰まされ、剣を喉元に突きつけられて終わるだけに違いない。

 手合わせのように――、あるいはまるで遊んでいるようにも見える戦いは、互いの力量が高いからそう見えるだけなのだ。

 やがて、その剣速は徐々に速く、鋭いものへと変化していく。

 すぐにおれでは二人が何をやっているのかよくわからないレベルに到達し、ただただ『殺すつもりは無いが当たれば重傷間違いなし』という剣の応酬が続く。

 が――


「むっ」


 バートランが唸り、後ろに飛び退いた。

 と同時に、エルダーの仮面がぱかっと割れて地面に落ちる。


「ぬぅ、家宝の仮面が……!」


 おい爺さん。

 自分の物にするのはかまわんが、受け継がせようとするのはやめてやれ。

 子孫が気の毒だ。

 と、そこでアズアーフが動き、バートランに並んだ。


「バートラン殿、遊んでいられる相手ではないようですよ」

「う、うむ」


 アズアーフはバートランが負けるとは思っていないだろう。

 だが、無事に終わるとも思っていない。

 そこからはアズアーフが助っ人に入り、二人がかりでガレデアと戦うことになった。

 アズアーフが『威圧』によってガレデアの精神を疲弊させれば捕縛もしやすくなるだろう。

 だが、どういうことか、それでもガレデアを押さえ込めない。

 いや、若干だが、二人の方が押されている?

 それはちょっと信じられない光景だった。

 バートランとアズアーフは、動きにどこか精彩を欠いているようであるが、本来であればアズアーフに『威圧』を使われているであろうガレデアがそうなるはずなのだ。

 いったいどういうことなのか……、これは念のため人手を増やした方がいいか?


「アロヴさん、行けます?」

「すまぬが無理だ。俺ではあれに入っていけん。竜になって突っ込むというわけにはいかんだろう?」


 ああ、そうなるか。

 二人は連携が上手くできず精彩を欠いているというわけではない。

 むしろ絶妙すぎて他の誰も手出しできないくらいなのだ。

 二人の実力だからこそ共闘が成立しているため、力が強かろうが、素早かろうが、それだけではあそこに入ってはいけない。

 無理に入ってしまえば、それは二人の邪魔になる。

 絶え間なく続く剣の応酬、その中で二人が繰り出す攻撃の意味、攻撃を受けた意味、退いた意味、あらゆる行動を瞬間的に理解し、自分の行動に組み込んで動くなんてのは並大抵のことではない。

 例えおれが〈針仕事の向こう側〉を使って割り込んでも、二人の意識領域に及んでいないため邪魔にしかならないのである。

 またこれは、二人を援護する場合も同様だ。

 下手に手を出せば邪魔になる。

 やるならば、絶対にガレデアを怯ませられる――チャンスを作り出せると確信が持てる攻撃でなければならない。

 シャロの空間ぶん殴りならいけそうだが、きっと三人の位置が近いために控えているのだろう。だからとバートランとアズアーフを下がらせたら意味がないし……。

 何か出来ることはないか――。

 おれがそう考えていたその時、塔の入口から皆と一緒に様子を見守っていたセレスが叫んだ。


「どーん!」


 ちょっ!?

 セレスの非殺傷強制全裸魔法(?)が放たれた。

 咄嗟に「それはちょっと!?」と驚いたが、遅れてこれが絶妙であることに気づく。

 ガレデアのみという対象指定、そして問答無用の武装解除である。

 だが――


「はぁぁぁぁ――――ッ!!」


 ここに来て、ガレデアが初めて気迫を込めて叫んだ。

 打ち消されるセレスの魔法(?)。

 これで一気に無力化、とはいかなかったが――、しかし、それでも魔法を打ち消さなければならなかったことでガレデアに隙が生まれた。


破邪(マリス・ベイン)!」


 すかさずバートランが神撃の一撃を放つ。

 決まった――、いや、決まらない!


災いを喰むもの(ミザリー・バイター)!」


 ガレデアがバートランの技を相殺。

 これには放ったバートランだけでなく、見ていた誰もが驚いた。


「神撃は誰でも使えるわけではありませんが、貴方しか使えないわけでもないのですよ、バートラン殿」


 ガレデアは神撃すら使う。

 なら――、おれの雷撃も打ち消せたのだろう。

 雷撃ぶっ放してどうにかしようなんて高を括ったままだったら裏を掻かれていたかもしれない。

 ガレデアは強いのだ。

 それがどうしようもなく、はっきりした。

 セレスの魔法(?)が援護になるとわかったものの、さすがにこれ以上は協力させるか迷う。できれば避けたいところだ。だが、他に効果の有りそうなものとなると他にあるだろうか?


「ご主人さま、ご主人さま」


 そこで護衛役の皆と一緒に背後まで近づいてきていたシアが話しかけてくる。


「私の鎌を投げてみたらどうですかね? 上手くいけば戦いどころではなくなりますよ」

「もし二人に刺さることになったらどうすんだよ。隙だらけってレベルじゃねえぞ。――いや、そうだ。おいシア、これを使え」


 おれはシアに縫牙を手渡す。

 と――


「……ぽいっと」


 シアは縫牙をそのままぽろっと地面に落とした。


「なんで捨てんだよ!」

「そりゃ捨てますよ! わたしにとっちゃ鎌以外のすべての武器が危険物なんですから! ってか使えってなんですか!」

「おまえがこいつを使おうとすれば大変なことになるだろう? 対象が勝手にダメージを負っている様子を見れば、ガレデアの奴もびっくりして隙ができるはずだ」

「今はふざけている場合じゃないですよ!?」

「ふざけてなんかない! ミーネの爺さんとリビラの父さんが必死こいて戦ってるんだ、おまえのために!」

「そ、それはそうですけど!」

「おまえは何か手助けしようとは思わないのか!?」

「手助けできるならしたいと思いますけどそんなバカな!?」

「ともかく拾って投げろ!」

「ああもう、わかりましたよ! てい!」

「あ!」


 シアは足元の縫牙をヤケクソ気味に蹴っ飛ばした。

 まったくやる気無し、おまけに即座に踵を返して逃げだす。

 それでも蹴っ飛ばされた縫牙はビックリするくらいの速度でガレデア目掛けて飛んでいった。

 が――


災いを喰むもの(ミザリー・バイター)!」


 神撃の技で打ち返され、脱兎のごとく塔に避難しようとしていたシアの尻に突き刺さった。


「ぎゃぁぁぁぁ――――――ッ!?」


 悲鳴を上げながらうつ伏せに倒れるシア。

 それを見てミーネが言う。


「シアごめん! 見損ねたからもう一回お願い!」

「あなた人の心がないんですか!? ア、アレサさーん! アレサさぁぁん、助けてくださぁーい!」


 この大惨事、ガレデアもさすがに二度見した。

 絶好の隙だ。

 だがしかし――、残念、バートランとアズアーフも二度見だった。

 作戦失敗。

 いや、そう思われたが、一人だけこの機会を逃さぬ者がいた。

 シャフリーンだ。


魔刃(エセリアル・ブレイド)!」


 一人駆け出したシャフリーンは牽制に魔技を放ちガレデアに接近、果敢に戦いを挑んだ。

 シャフリーンが強いのは知っている。

 だが、あの二人と一緒に戦えるほどだろうか?

 そんな考えが、おれの思い違いであったことはすぐに判明した。

 シャフリーンはバートランとアズアーフに驚くほど噛み合った。

 精彩を欠いているように思われたバートランとアズアーフの動きが良くなり、代わりにガレデアの動きが悪くなる。

 近くにいる者が何をしようとしているか、感じられるシャフリーンだからこそ二人の連携に加わることができ、そしてガレデアに対抗できたのだ。

 分が悪いと判断したのか、ガレデアは包囲から逃れるように大きく退く。

 ここが畳み込むチャンスか。

 そう考えた瞬間、シャフリーンが叫ぶ。


「皆さんは何もしないでください!」


 それは意気込んだおれたちへの制止だった。


「誰が何をしようとしているか、すでに公爵には悟られています!」


 悟られている?

 一瞬どういうことかわからなかった。

 が、そこでガレデアは苦笑して肩をすくめた。

 シャフリーンの発言を肯定したのだ。


「ロット公爵、貴方は私と同じく周囲にいる人が何をしようとしているか感じ取ることができるのですね?」


 シャフリーンと同じ、ときたか。

 達人がシャフリーンと同じ能力を持っていれば、そりゃ強いわけである。

 ところが、その問いかけに対しガレデアは首を振った。


「違いますよ。そうではありません。紛い物と同じに扱われては困ります」


 紛い物……?


「私には、誰が何を考えているか完全にわかるのですよ」


 その発言に驚きつつ、おれは漠然と理解する。

 リマルキスの周囲に味方しかいなかった理由。

 一時、メルナルディアの王宮に影を落とした不審な死の原因。

 これらは……、ガレデアによる粛清の結果か?

 するとその時――


「待て! そこまでだ!」


 制止を呼びかける声があり、遅れて何者かが降ってくる。

 着地の衝撃をやわらげるためしゃがみ込んでいたのは――


「あれ、ヴィルジオ!?」


 しばらく別行動をしていたヴィルジオだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ