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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
10章 『魔素の王と死屍の神』編
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第665話 14歳(春)…集結

 王都に起きた異変の終息。

 あまりに違和感が無かったため逆に戸惑うことになったが、おそらく影響が出ないようにとシャロが解除してくれた結果なのだろう。

 ところがそのすぐ後に、また空間に歪みが発生した。


「あれぇ!?」


 解除の失敗か、完全ではなかったのか。

 またややこしいことになるのかよ、と内心悪態をつくが――


「んん?」


 その歪みは何の影響も及ぼさず、戸惑っている内にふっと消えてしまった。

 いや本当に何だったのか?

 この異変の消失はおれたちの隙になったが、ガレデアの方も驚いていたのだろう、幸いなことに襲い掛かってくることはなかった。

 おれが「こんにゃろう雷撃をぶっ放すぞ」と牽制しといたのが功を奏したのかもしれない

 しかし王都の正常化によって緊張の糸が切れてしまい、このまま話を続けるのもどうかという空気になってしまっている。

 いや何かしらアクションを起こさなければならないのは、おれにしてもガレデアにしても同じなのだが……、どうしたものか。

 そう思っていたところ――


「よーし、これでひとまず合流じゃぞ!」

「やっぱりこれって楽ちんね!」


 ちょっと離れた位置――空間をぶち破ってシャロとミーネが飛び出してきた。

 いつか見たごつい杖を手にしたシャロと、のん気なことを言っているミーネの登場で場には賑わいが増す。でも今はそういうのは求めていないのだ。ますます脱線した状況を戻しにくくなった。

 ひとまず二人にはガレデアがシアを殺害しようとしていることを簡潔に伝えようと思ったが、何か言うよりも前にミーネが剣を抜いた。


「ぬお、どうしたんじゃミーネ」

「え? 立ち位置的にあの人が敵なのかなって。ほら、なんか剣持ってるし」


 確かにその通りだが、なんだその判断は。

 シャロが困惑しておれを見てくる。


「え、あ、んー、まあその通りだ。具体的に言えばあの人はロット公爵でシアを殺そうとしてる。でもって説得中な!」


 説明は簡潔どころか盛大に端折ることになったものの、ともかく現状はそんな感じだ。

 説得できるかどうかは怪しいところだが、ガレデアは余計な被害を出すまいと訴えかけてくるくらいの冷静さは持っている。逆に言えばそれだけの判断ができるにも関わらず、本気でシアを殺そうとしているところが恐いのだが。


「つまりは敵ってわけね!」


 我が意を得たりとばかりにミーネがガレデアに突撃。

 説得中だつったのに。

 そんなミーネに対しガレデアは防御行動を行わず、まるで斬ってくれと言わんばかりであったが――


「てやー!」


 と、ミーネが斬りかかったところで動きがあった。

 いや、動き?

 よくわからない。

 何しろガレデアは一歩も動かず、身じろぎすらしなかったのだ。

 にも関わらず振りおろされたミーネの剣はガレデアを逸れてあえなく空を斬り、次の瞬間、ミーネは体勢などおかまい無しでその場から飛び退くと、そのまま風の魔術でもって自身を吹き飛ばしてこっちに飛んできた。

 それはなりふり構わない『逃げ』だ。

 最後にはごろごろ転がることになったが、ミーネはおれの前辺りまで来ると立ち上がって剣を構え直す。


「ど、どうした?」

「あの人、剣を振りおろした私の手に左手を添えてそのまま横に逸らしたの。本気の一撃じゃなかったけど……、だからって普通そんなことできる? まあシアならできそうだけど」


 窘められた、ということなのだろう。

 ミーネの捨て身の接触によって、ガレデアは本当に不必要な殺しをするつもりが無いことはわかったが、同時にミーネが一気に余裕を無くすくらい強いということも判明した。

 これは武力行使となったら、なんとか雷撃叩き込んで痺れているうちに取り押さえてもらうしか――……、いや、ダメだ。

 これではミーネと一緒だ。

 ガレデアという人物の能力を低く見積もっている。

 今日シアを殺害しようとしていた人物が、その時、側にいるであろうおれの雷撃に対して無策ということはありえるか?

 雷撃を警戒しているのはそう思い込ませるためのブラフと考え、おれはより警戒レベルを上げる。

 するとそこでシャロが言った。


「婿殿、こんな状況じゃが確認したい。わしはここにおった方が良いか?」

「それは……、うん、居て欲しい。シアの守りを頼む。いざとなったらどっかに逃がしてもらいたいし」

「そうか、わかった」


 シャロは何かやることがあったのかもしれないが、おれの指示に従ってシアの護衛に加わってくれた。

 今や王都の異変は解消され、シャロが側にいることでいつでもシアを逃がせる状態、こちらがだいぶ有利だ。

 これでガレデアが打つ手無し、と諦めてくれたらいいのだが……、どうだろうか。

 見た目にはガレデアの様子は変わらず、内心焦っているのか、それともまだ何らかの策があって余裕なのかもわからない。

 ならば……、尋ねてみるか。


「状況は変わった。ここは諦めた方がいいんじゃないか?」


 この質問、返答次第でガレデアの心境がわかる。

 まあ返答の真偽をアレサとレクテアに判断してもらうという他力本願なものなのだが。

 するとガレデアは苦笑して首を振った。


「私は諦めることはありません。――どうですか? 聖女のお二方」


 こいつ……、あっさりおれの目論見を看破してきやがった。

 もうアレサやレクテアを見る必要も無い。

 ガレデアは未だシアの殺害を諦めていないのだ。

 説得することで済ませられるならそれが一番。しかしさすがに会ったばかりの相手、さらにはどういう人物なのかもわからないとなるとその心に踏み込んだ説得などできるわけもない。おまけにリマルキスの言葉にも耳を貸さない状態となれば……、これはもう万策尽きさせてから降伏を迫るような説得、つまり『まずはぶん殴る、話はそれから』という手段しか無いように思える。

 戦闘は避けられないか、とおれが考えたその時――。

 ぶわっと上空を何かが横切り、地面を大きな影が通り過ぎた。


「なん――!?」


 と驚いたそこでおれの正面に落下してきたもの。

 ズダンッ、と音を立て、着地したその者は怪人。

 頭に被るは禍々しき猪、腰に下げるは家宝の魔剣。


「お爺さま!?」

「否! 我が名はエルダー・オーク! 義によって助太刀致す!」


 何やってんだこの爺さん……。


「ふむ、状況はよくわからんが……、なるほど、この構図からしてお主が敵というわけだな!」


 孫娘と同じようなことを言ってバートランは宝剣クェルアークを抜く。

 いや爺さんがコレだから孫娘がアレなのか?

 ともかく、クッソふざけているものの、バートランは頼りになる爺さんだ。家宝魔剣クェルアークまで引っぱりだしてきてくれたとなれば現状では最高戦力だろう。被り物しているせいでスペックはさがっているだろうが、それでも最高だ。

 さらに――


「よしよし、大捕物には間に合ったようだな!」


 地面に下り立った四体の竜の内の一体――アロヴが言う。

 竜はアロヴとデヴァスと……、あと誰だ?

 きっと引っぱりだされた人だろうが、その背から屋敷で待機していた面々が下りてくる。

 リィ、サリス、ティアウル、リビラ、シャンセル、リオ、アエリス、シャフリーン、そして助っ人二人目であるアズアーフだ。

 一気に騒がしくなったなか、リィが叫ぶ。


「みんなは無事か!」

「ヴィルジオとコルフィーは別行動。他は塔に避難してますよ」

「敵はあいつか! 強さは!」

「ちょっと一当てしたミーネが青ざめるくらいですかね!」

「アズアーフとアロヴ以外は塔の近くで待機!」

『ええっ!?』


 せっかく来たのに待機しろと指示された面々が声を上げる。

 だが……、それが賢明か?

 むしろもう後はバートランの爺さんに任せ、みんなで塔に避難したいくらいだ。

 皆はちょっと残念そうであったが、指示通り塔の入口近くへと向かい待機する。

 支給した魔導袋から武器を引っぱりだしていたリビラ、シャンセルあたりは本当に残念そうだった。

 みんなにはこの状況をどうにかした後、邪神教徒との戦いで活躍してもらいたいところである。

 ともかくこちらの戦力は心に余裕が生まれるくらい増強された。


「シャロ! シャロ! 私の仮面を! 仮面をちょうだい!」

「あ、すまぬ。仕上げが終わっておらんので駄目じゃ」

「ああもう!」


 いやお嬢さん、余裕こいてられない相手で遊ぶのはやめようか。

 場は一気にわちゃわちゃしてきたが、ガレデアにとっては非常に不利な状況になっている。しかし――、にもかかわらず、ガレデアの表情は苦境に立たされたことを悔しがっているように見えない。

 少し――ほんの少しだけ、あきれたように微笑んでいるのだ。

 が、それもわずかばかりの間だけ。

 ガレデアは表情を改め、ここでだらりと下ろしていた剣を構えた。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/08/13

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/01/22

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/05/13

※やってきた竜の数が間違っていたのを修正しました。

 ありがとうございます。

 2021/08/03


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