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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
10章 『魔素の王と死屍の神』編
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第663話 閑話…真銀(2/3)

 邪神教の教祖、人の覇種、アーレグの始祖、世界樹計画を実行した古の魔導師、魔導王――。

 それがアーレゲントという男であった。


「私を殺す、か。大した自信だな」

「さすがに全盛期の貴方に敵うと思うほど自惚れちゃいないけどね。でも王女に喰われた力は戻らないままだろう? まあ魂を囓られちゃったとなれば仕方ないよね。魔力も生命力も、精神力も身体能力も、何もかもが下がったまま二度と戻らない。恐い話だ」


 覇種とは凄まじい存在であれど、それでも絶対ではない。

 事実、幾多の覇種が邪神に喰われスナークへと堕ちた。

 その身に〈喰世〉を宿す者は生きとし生けるものすべての脅威、それは覇種であろうと例外ではないのだ。


「それに、今回のことで貴方はずいぶんと力を使った。今の貴方はせいぜい世界最強だ。その程度なら何とかなる。ああいや、この程度を何とかできなくちゃ、胸を張って世界の敵を名乗れないからね」

「その意気込みだけでどうにかなるとでも考えているのか?」

「意気込み? まあそうだけどね、どうせなら執念とでも言ってもらいたいところだよ。貴方にはわからないかな? 貴方にとって世界樹計画は大きな実験の一つでしかない。生涯を掛けて取り組むものではなく、成功したならば良し、失敗したならそれはそれ、また別の取り組みを始める。貴方にとって研究と実験は生命活動のようなもので、そこに特別な感情を抱くことはない。出来るからやってみる。それだけだ。そこに執念は無い。予言しよう。貴方は執念を侮って死ぬことになる」

「そうか。それは楽しみなことだが……、ここは手早く終わらせるとしよう。貴様の後先考えぬ企みが原因で計画の邪魔――最大の障害となる者が生まれ、野放しのままになっている」

「おっと、それは違うな。計画通りだよ。ロット公爵はレイヴァース卿が対処してくれる。だから何の問題も無い」

「レイヴァースがしくじった場合を考えないのか?」

「考えないね。ただまあ、もしそんなことになれば、だいぶまずいことになるね。ロット公爵は貴方たちを消し去ろうとするだろう。その戦いに巻き込まれて、世界は大変なことになるかもしれないね」


 他人事のようにベリアは言う。

 そんな未来は訪れないと確信しているからこそであるが、例えその未来が訪れる確率が高かったとしても計画を取りやめたりすることが無いことはアーレゲントにも察せられた。

 ベリアはまったくの正気で、望みを叶えるためならば世界を壊すことも厭わず真摯に努力を重ねる狂人なのだ。


「さて、確かに向こうの様子も気になることだし、そろそろ始めるとしようか。手早く終わらせようという提案については、実は私も賛成なんだ。あ、でも悪いね、これ決闘とかそういうんじゃなくて、ただ貴方が死ねばいいってだけの戦いだからさ、真っ当にやり合うつもりはまったく無いんだ。極端なことを言えば、誰が貴方を倒そうがそれでいいんだよ。と言うわけで――」


 パチンとベリアが指を鳴らすと、彼の周囲に空間の穴が出現し、それをくぐって人影が現れた。

 それは金――、いや、王金の全身鎧を身につけた者どもで、誰も彼もがどす黒い靄――黒いオーラを漂わせていた。


「紹介しよう。一緒に戦ってくれる私の友人たちだ」

「友、か。死体が友とはな」

「はは、なんせちょっと前までほぼ死んでいたものでね。――さあみんな、とうとう約束の時が来たよ! 彼こそが怨敵! 君たちから大切なものを奪った邪神教の教主だ! どうだい、魂無き体であっても魂が震えるようだろう!」


 ベリアの言葉に応じるように荘厳で禍々しい死者たちはガクガクと身震いし、全身鎧からはガシャガシャと音が鳴る。


「ここにいる彼、または彼女らは、貴方の言う通り一人残らず魂無き死体だ。でもね、意識はあるんだよ。意志はあるんだ。魂を溶かしアンデッドに堕ちようとも、必ずや復讐を果たすことを誓った執念がある。怒りがある。憎しみがある。失われた尊きもの、それに殉ずることを決めたこの者たちは騎士――死霊騎士だ」


 死霊騎士は邪神教の教主にまみえたことにより、長きにわたり蓄え続けた黒いオーラを吹きださせた。

 この黒きオーラは『負』であり、生きるものにとっては毒である。


「ほう、真っ当な瘴気とは珍しい」


 己を八つ裂きにせんと高ぶる死霊騎士を前にしても、アーレゲントは顔色一つ変えず、むしろ黒きオーラ――瘴気にわずかばかりの興味を抱くだけであった。


「おや、反応はその程度? 王女に命を囓られた貴方からすれば、やっかいな相手なはずだけど?」

「ただの瘴気など、王女のそれに比べられるものではない」


 一般に、瘴気とは穢れた場所に溜まり、それは『死』にまつわる陰惨な出来事があった場所であると考えられている。

 ごく最近の話、スナークの浄化能力を有するレイヴァース卿によって瘴気領域に漂う瘴気が極小のスナークであると判明し、これにより世にあるすべての瘴気がそうなのである、と考えられ始めていたが、実はこれ、まったくの誤りであった。

 瘴気という穢れは、スナークの発生よりもずっと以前から世に存在していたのである。

 邪神――世界樹計画由来の瘴気はレイヴァース卿以外には浄化することのできない『瘴気の突然変異』とでも言うべきもので、実際の瘴気は生命力から発生する生気によって浄化は可能であり、それはまさに、シャーロットの霊廟にてアレサが万魔信奉会を名乗る偽リッチたちを討ち滅ぼしたことに証明されていた。


「ただの瘴気か。なるほど、確かにただの瘴気だね。でもこれは普通の瘴気ではないし、その普通ではない瘴気を纏うこの騎士たちも真っ当なアンデッドではないんだよ」


 万魔信奉会の偽リッチたちは、ベリアが自身をリッチへと変貌させるために行った実験の失敗作であった。

 が、失敗作ではあれど、彼らは思わぬ収穫をもたらした。

 リッチ化の過程でうっかり肉体から抜けだしてしまった魂だが、類い希なる妄執がこびり付いていたが故に周囲の魔素を穢し、結果として霊的な『腐った土壌』――瘴気を生んだのだ。

 妄執を宿す瘴気はかつて自身の魂であったが故に、その骸によく馴染んだ。そして瘴気であるが故に周囲の魔素を穢し続け己をより豊かな土壌へと変え、土壌の器となった骸は瘴気の肥大に比例するように強固になった。

 それは己の骸を、己の魂を触媒として作り出された瘴気でもって呪った結果の呪物化であった。

 ただのアンデッドとは一線を画す変貌を遂げた要因は何か?

 考えたベリアは、対象に施す処置を生きながらに、死なせながらに行った結果であり、さらに言えば対象が強くそれを望んでいたためなのだと結論した。

 死にゆく者の精神の超越性が大きく作用するのだと。

 一種の超越者であるため、その者はおぞましき即身仏であり、また、不朽体――聖人の遺体のようであるが、この場合、その不朽を約束するのは神の恩寵ではなく己自身の執念――呪いである。

 では、死霊騎士とは何か?

 それは邪神教に『大切な何か』を奪われた者である。

 奪われたものが己の命よりも大切であったが故、己の魂を瘴気に変えてでも復讐を果たすことを願った者である。

 己を呪い呪い呪い、最後に怨敵を討ち滅ぼす者。

 それが死霊騎士という存在であった。


「さあみんな、復讐の時間だよ」


 ベリアが号令をかけると、死霊騎士たちは一斉にアーレゲントへと襲い掛かった。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/08/09

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/08/11

正気せいきはわかりにくいので「生気」に変更しました。

 ありがとうございます。

 2020/01/22


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