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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
10章 『魔素の王と死屍の神』編
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第646話 14歳(春)…試練の塔(2/3)

 塔の三階に到着したリマルキスを待ち受けていたのは、仮面で顔を隠した二人のお嬢さんであった。

 まあお嬢さんとは言っても、二人ともおれより年上なのだが。


「来ました! シャフ、来ましたよ! 私からセレスちゃんを奪おうとする憎きあんちくしょうが! さあ、やっておしまいなさい!」

「そう大声を出さなくともわかっていますから、ちょっとさがっていてください。うろちょろされると邪魔ですので。そう、後ろへ後ろへ。壁にめり込むくらいでお願いします」


 立場的に正体がバレるとちょっと問題な人がいるので顔を隠しているのだが……、うちの面々にはもうバレバレである。

 リマルキスに立ち向かえる人材に恵まれなかったおれが、かろうじて誘えたのがシャフリーンだった。

 とは言え最初はお断りされた。

 だが怒りに燃えるミリー姉さんの猛プッシュがあり、なんとか引き入れることに成功したのである。

 そんなシャフリーンが守る三層。

 それはつまり、この試練の塔は三層からが本番ということだ。

 ちなみに、戦うのはシャフリーンだけで、ミリー姉さんはリマルキスがいたぶられるのを間近で見学したいと駄々をこねてそこにいるだけのおにも――おまけである。

 シャフリーンは邪魔なミリー姉さんを充分にさがらせたところで、様子を窺っていたリマルキスに言う。


「リマルキス国王陛下、わたくし個人は何の恨みもありませんが、掛け替えのない恩人の頼み、そしてわりと恩義を感じている主の命により、貴方の歩みをここで留めさせていただきます」

「そうですか……。貴方も大変なようですね」


 リマルキスはシャフリーンの言葉にちょっと驚いたように目を見開いたあと、ひどく納得したような顔になり、そしてしみじみと言った。


「最初はぬいぐるみ、次は妖精、今度は何が来るのかと少し不安になっていましたが、真っ当で少しほっとしました。大精霊でもぶつけてこられるのかと思っていましたから」


 もちろんそれも考えた。

 でも犬は戦っているうちに楽しくなって懐いちゃうかもしれないし、ヒヨコはセレスの護衛として片時も離れさせたくない。ハムスターははまだ性格が掴み切れていないので除外した。

 あとみんなに倒せない存在をぶつけるのはあまりに不公平すぎると怒られたというのもある。


「真っ当? 真っ当と思われますか……」


 シャフリーンはすっと右手を真上に挙げ、そして告げる。


「陛下、今から攻撃しますので、ちゃんと避けてくださいね」

「へ?」

「――エセリアル、ブレイドッ!」


 振りおろされる右手。

 放たれるは放出系の魔技。

 実母ネルカから受け継いだ魔刃(エセリアル・ブレイド)


「――ッ!?」


 宣言されていたこともあり、驚きはしたもののリマルキスはシャフリーンの魔刃を横に飛び退くことで回避した。


「陛下、ご期待に添えず申し訳ございません。わたくし、それほど真っ当ではないのです」


    △◆▽


 そしてリマルキスとシャフリーンの戦いは始まった。

 シャフリーンはその場から動かず、両手で魔刃を放ちリマルキスを仕留めようとしている。

 一層二層とまともな戦いを行ってこなかったリマルキスは、ここにきて急に本格的、そして格上との戦いに戸惑っているのか動きに精彩が無く、迫り来る魔刃を大げさに躱すので精一杯。広いフロアを跳び回り、逃げ回ることで回避している。

 一方、リマルキスを撮影しつつ、流れてくる魔刃をひょいひょい避けているレクテアお婆ちゃんはさすがである。


「ちょっと危なっかしいけど、ちゃんと避けてるわね。さすがシアの弟ってことかしら?」


 投影される映像から目を離さずミーネが言う。

 ミーネが言う通り、身体能力の高さ故か、リマルキスはまだ掠らせもしていない。


「何とか避けているが時間の問題だろう。あいつはシアと違っていつまでも動き回ることはできないだろうからな。このままシャフリーンが攻め続けていれば、いずれ疲労したリマルキスは躱しきれなくなり、最後には木っ端微塵に砕け散る運命だろう」

「そうかしら? シャフリーンが疲れちゃう方が先じゃない?」

「む……」


 確かにミーネの言う通りだ。

 あんなバカスカ魔技をぶっ放していては、いくらシャフリーンとて疲労の蓄積は早いはず。

 ここは短期決戦で、一気に決めてもらいたいところだが――


「野郎、慣れてきてやがる」


 最初は危うかったリマルキスだが、徐々に動きに余裕が出てきた。

 フロアを広く使い逃げ回る回避方法から、あまり動き回らず放たれた魔刃を的確に回避するようになっている。

 と、そこでシャフリーンの左側に移動したリマルキスは、魔刃を躱しざま飛びだした。


「あ、あいつミリー姉さん盾にするつもりか!」


 なるほど、シャフリーンからすれば何の役にも立たないミリー姉さんだが、リマルキスにとっては魔刃の盾として有用なのか。

 だがそれを許すシャフリーンではない。

 すんでのところでミリー姉さんとリマルキスの間に割り込む。

 作戦失敗だ。

 が――、リマルキスの動きに戸惑いが無い。

 そのままシャフリーンに肉弾戦をしかけた。


「実はそっちが狙いだったみたいね」

「接近戦に持ちこみたかったわけか」


 フェイントをかけてミリー姉さんを守らせるように誘導し、そのわずかな隙をついて優位に立とうとしたのだろう。

 だが、シャフリーンにそんな駆け引きは意味が無い。

 リマルキスの攻撃はやすやすといなされ、そして突撃の勢いをそのまま利用されてぽーんと投げ飛ばされた。

 放物線を描いたのち、床に落下するリマルキス。

 背中を打ちつけることになってリマルキスは悶えたが、治療のために駆け寄ろうとするレクテアお婆ちゃんを手で制し、顔をしかめながらもすぐに身を起こして態勢を整えた。


「シャフ! いま攻撃の機会だったじゃないですか! 変に情をかけるのは良い結果を生みませんよ! さあ今からでも!」

「ちょっと黙っていてください。あまり騒ぐなら盾にしますよ」

「うぅ……」


 ミリー姉さんを黙らせたあと、シャフリーンはリマルキスに語りかける。


「接近戦なら勝ち目があると考えたようですね。わかりました、あまり魔技ばかり使うのも疲れますので、少し殴り合いましょうか」

「そう言われるとお断りしたくなりますが……、女性に恥をかかせるわけにはいきませんからね、胸を貸してもらうことにしましょう」


 軽口を叩き、リマルキスがシャフリーンに迫る。

 だがそれは無謀だ。

 身体能力が高く、戦闘訓練も受けているであろうリマルキスの攻撃は、そのことごとくが放たれる前にシャフリーンに潰される。

 とんっ、と体のどこかをシャフリーンに軽く押されるだけでリマルキスは攻撃のための予備動作を潰され、その様子、傍から見れば何でもないシャフリーンの攻撃をリマルキスが無様に全部くらっているように見えた。

 やがて、これでは埒があかないとリマルキスは悟ったらしく、シャフリーンの手の届かない位置へ大きく飛び退いた。

 しかしそれは、リマルキスなら一足飛びで攻撃に移れる距離。

 そこからリマルキスは攻撃を加え、すぐさま距離を取るというヒットアンドアウェイに移行したが、すべてを防がれ、躱されては意味が無い。

 たまらずリマルキスは叫ぶ。


「貴方は僕の心でも読めるのですか!?」

「心が読める、とまでは言いませんが、私は陛下がどのような行動をしようとしているか、それがわかります。私を倒すならば避けようがないほど広い範囲の攻撃、もしくはわかっていても防ぎきれないほど速い攻撃を加えるしかありませんよ」

「そんなの……!」


 リマルキスの攻撃が止まる。

 勝ち目が無いと悟ったのだろうか?


「降参いたしますか?」

「いえ、どうすればよいか考えているだけですよ。心までは読めないのでしょう? ならばやりようはあるはずです」


 リマルキスはまだ諦めない――。

 そう理解したシャフリーンは「ふむ」と納得するように頷いた。


「なるほど……。動きは生まれ持っての素質が大きいようですが、攻撃は闇雲なものではなく、修練によって身についた鋭さがありました。陛下は努力家なのですね」

「お飾りの王であれば努力の必要はなかったんですけどね、そうもいかなかったんですよ。僕がメルナルディアの王なのです。ならば、王に相応しい能力を身につける必要があったのです」

「使命感が強いのですね」

「いえ、そんなものではありませんよ。誤解されることを覚悟で言えば、諦めでしょうね。逃れられぬ定めへの。父が亡くなり、玉座に最も近かった僕が国王となった。そう望まれたから。しかし国王という立場は恐ろしいものです。判断を誤れば、容易く民が死にます。誤らなくとも民は死にます。上に立つ者は無能であってはならない。そのためには努力を怠ってはならない」

「この戦いも、その努力に含まれるのですか?」

「はは、違いますよ。これは僕の我が侭です。セレスさんが必要なんですよ。セレスさんが居てくれたら、僕はすべてを受け入れられる。もう神々に誓う必要すらありません。僕が、僕自身に誓えるんです。この至らぬ幼き王が、いずれは誰しも認める偉大な王になってみせると誓えるんです。だから降参なんてしません。まだつきあってもらいますよ」

「……」


 シャフリーンはリマルキスを見据えていたが、やがて深々とため息をついた。


「皆さんがこの役を引き受けなかったわけです。悪役もいいところですよこんなのは……」


 うんざりしたように言い、シャフリーンはため息まじりに続ける。


「リマルキス国王陛下、私には貴方を諦めさせることができないようです。ここは大人しく降参することにいたします」

「「え?」」


 困惑の声が重なる。

 一人はリマルキスで、もう一人はミリー姉さんだ。


「シャ、シャフ!? どうしたんです!? も、もうひと息ってところじゃないですか! なんとか頑張ってください! その子を倒せばセレスちゃんは私のものなんですから!」


 そんな約束してないんですけど!


「駄目です。諦めてください」

「そんなこと言わず、なんとか――、って、シャフ、そんな強く引っぱらないでください! あ! ま、まだ帰りません! あー、待ってくださいよー! あー!」


 シャフリーンはジタバタするミリー姉さんの襟首を掴んでずるずる引きずり、そのまま即席精霊門のある小部屋へと消えていった。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/07/06


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