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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
10章 『魔素の王と死屍の神』編
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第645話 14歳(春)…試練の塔(1/3)

 フロアの奥にある小部屋、そこに設置してある即席精霊門をくぐり、リマルキスを成敗するべく出撃してきたぬいぐるみたちの士気は高い。

 一見、ただわちゃわちゃしているだけのようであるが、その実、野郎を捻り殺してやろうと激しくいきり立っているのである。

 しかし、どう頑張ってもほのぼのとした印象を与えてしまうのは致し方なく、リマルキスを応援する者たちの多くはこう思ったことだろう。

 試練とは言っても形だけなのだな――、と。

 本当はセレスがリマルキスの婚約者になることを認めているが、すんなり承諾するのが癪なので、こんな茶番を行っているのだと。

 違う。

 それは大きな間違いだ。

 本当はもっと過酷な試練にしたかったのだ。

 塔も四層ではなく、三倍の十二層くらいにして、各階層にはリマルキスを半殺しくらいにできそうな刺客を用意したかった。

 例えばバートランの爺さんとか、アズアーフ父さんとかだ。

 でも断られた!

 マグリフ爺さんにも、エルフの認定勇者ネイにも断られた!

 それどころか上級闘士たちにも断られた!

 正直に言うと、上級闘士たちに断られたのは本当に予想外だった。

 それこそ「おれの指示に従えないのか!」と怒鳴りつけることになったのだが、上級闘士たちは悪びれもせず「冷静になって常識的にものを考えてください」と窘めてきやがった。

 それおまえらが言える台詞じゃないよね!?

 こうなったら、とおれは竜皇国に行ってドラスヴォート父さんに竜騎士貸してくれ、と頼んでみた。

 そしたら物凄い平謝りで断られた。

 何ということか。

 リマルキスを妨害する役を誰も引き受けてくれないのである。

 ならばと、今度は報酬を用意し、仕事として頼んでみてはどうかと考え、試しにおれが実現可能なお願いを一つ叶えるから引き受けてくれないだろうかとみんなに相談してみた。

 反応は良かった。

 ミーネ、シャロ、コルフィー、ジェミナ、ティアウル、シャンセル、リオは色めきだった。

 が、芳しい反応を示さなかった六名、アレサ、サリス、リビラ、アエリス、パイシェ、ヴィルジオに窘められて終わる。

 そういった条件で釣るのはよろしくないと。

 さらにヴィルジオはおれに言った。


「後々、皆が自らの行いを恥じることになるような誘いをするべきではないな」


 わりとマジな口調だったので、皆を駆り出すのをあきらめた。

 それからもおれは刺客役を捜したが、期待できる猛者は二名しか揃わず、試練の塔と銘打ちながら二階建てというのはあまりにもしょうもないと感じ、間に合わせの刺客を用意して一層、二層を守らせることにしたのだ。

 とは言え、ただの投げやりというわけではない。


「これはいったい……」


 目の前で群れとなっているぬいぐるみたちを眺め、リマルキスは唖然としていた。

 どんな猛者が現れるかと警戒していたところに、ファンシーな軍団が現れたらあんな反応にもなるだろう。


「ずいぶんと可愛い刺客なんですね……」


 ふふっ、と笑うリマルキスに、おれはちょっとイラッとする。


『しゃーねーだろ! 誰も協力してくれなかったんだから!』


 シャロが用意してくれた各階層への伝声管に怒鳴りつけ、リマルキスのいる一階へ声を届ける。


「なるほど、実際はもっと酷い試練を計画していたわけですか」

『その通りだよ! 人望が無いと笑うがいいさ!』

「いや、むしろ人望があるから断ったように思いますが……」

『うっせえ! おまえの慰めなんぞいらん! それより貴様は自分の心配をした方がいいぞ! そいつらはただ動くだけのぬいぐるみではないからな! それに、セレスがまだ赤ちゃんの頃から一緒だったぬいぐるみもいる! セレスにとっては弟妹のようなぬいぐるみだ! もし傷つけようものなら……、ふふ、どうなることやら!』


 ぬいぐるみを傷つけてしまえばリマルキスの好感度は地に落ちる。

 なんとしてもセレスの好感度を下げたくないリマルキスは、ぬいぐるみたちに攻撃をすることはできない。


「くっ、なんと卑劣な……!」

『ふははは! 褒め言葉として受け取ろう! ついでに言うと、そいつらは自分たちからセレスを奪い去ろうとする貴様に激しい怒りを燃やしている! 貴様が攻撃できないからと、手加減をしてくれる相手ではないぞ!』

「貴方どれだけ僕のこと嫌ってるんです!?」

『べつに貴様を嫌っているわけではない! セレスを奪っていこうとする奴らを平等に憎むだけだ!』

「たちの悪い……!」

『何とでも言うがいい! さあ行け! ぬいぐるみたちよ!』


 おれの号令に、ぬいぐるみ軍団はリマルキスに襲い掛かった。

 次々とリマルキスに取り付き、ぽすぽすと殴打し始める。

 うーむ、やっぱりダメージはまったく期待できないな。

 だがリマルキスもまたぬいぐるみにダメージを与えることは――


「くっ……! ずっとセレスさんと一緒にいたぬいぐるみ……! いけない、なんだか幸せな気分になってしまう……!」


 リマルキスは自分を攻撃してくるぬいぐるみを捕まえ、顔を埋めてふがふがし始める。

 何てことだ!

 野郎、ここにきて覚醒しやがった!

 まさかそうくるとは……、さすがはシアの弟と言うべきか。


「つかあいつ、セレスも見てんのにいいのかオイ……」


 あまりの事態に思わずおれですら呟く状況だ。

 もはやリマルキスにとってぬいぐるみたちの攻撃はご褒美。

 捕まったぬいぐるみが嫌がって逃げ出すと、リマルキスはすぐに別のぬいぐるみを捕まえてふがふが。

 無抵抗の相手をぽこすか殴るだけたったはずが、とっ捕まってふがふがされるという事態にぬいぐるみたちは恐れおののいた。

 事実、ふがふがされたぬいぐるみは役割を放棄してすたこら小部屋に撤収、きっと王都屋敷にまで戻ってしまっている。

 リマルキスの勢いは止まらず、ぬいぐるみたちの士気はもはや見る影もない。

 やがてぬいぐるみ軍団は揃って撤退を始めてしまった。


「あぁ、そんな……」


 なんで残念そうなんだよあいつ……。


    △◆▽


 その身に宿す変態性を覚醒させたことでリマルキスはぬいぐるみ軍団を撃破し二層へと上がった。

 そこに待ち受ける次なる刺客――。


「むっ、今度は妖精ですか……」


 そう、二層を守るのはピネを筆頭とした妖精たちだ。

 その数だいたい三十匹くらい。


「ふひひひ、よく来たな、メルナルディアの王様よぉ……!」


 代表するようにピネは言う。

 周りにいる妖精たちも「ひっひっひ」とか「へっへっへ」とか実に悪そうに笑っている。

 ガラが悪いってレベルじゃない。

 メルナルディアの人々があれを見て妖精とはああいうもの、と誤解してしまうことは、世の妖精たちに対し非常に申し訳なく思うところである。


「まずはあたしらが守るこの階まで来られたことを褒めてやんよ」

「いやあの、ここ二階ですしそんな大げさな――」

「だが! お前の悪運もこれまでよぉ! お前はここであたしらに破れ、そしてこの国は我ら妖精帝国の属国となるのだ!」


 な、なんだと……!

 奴ら、うちの一室からメルナルディアを支配するつもりか……!

 くっ、あいつら、逞しくなりやがって!

 これは報酬であるお菓子の増量もやぶさかではない!


「あ、あの……、みなさん、僕に何か恨みでもあるのですか?」

「恨みなんてねえさ。これは純然たるお仕事よぉ」

「仕事……、報酬があるのですか?」

「おうよ、前払いで今日までお菓子食べ放題! さらに成功報酬で食べ放題三ヶ月さ!」

「では僕はお菓子食べ放題一年という条件を――」

「おっと、そう来るとは予想されてんぜ、王様よ。食べ放題一年ってのは確かに魅力的だが、あの屋敷で出されるお菓子はそんじょそこらのお菓子とは格が違うのよぉ。それに、持ちかけられた買収に応じて報酬の追加も約束されている。あんたが一年と言うなら、あっちは一年と三ヶ月になるのさ!」

「くっ、無駄に抜け目のない……!」

「ってことで王様よ、あたしらのおやつになってもらおうか!」


 ヒャッハー、と襲い掛かる妖精たち。

 邪悪な光を身に纏い、びゅんびゅん飛び回って体当たりを仕掛ける者や、ビームっぽい閃光を放つ者など。

 つかあいつらちゃんと戦えたのか!

 とは言え、一体だけならそこまで脅威ではなさそうだ。

 しかしあれだけの数が四方八方から攻撃してくるとなると話は別。


「くっ……!」


 リマルキスは回避するので精一杯。

 いや、よく回避できていると感心すべきか。

 そのあたりはさすが古き民の血を引く者、ということなのだろう。

 だが、その邪悪さとは反比例するように見た目だけはか弱そうな妖精。

 リマルキスは反撃するのを躊躇っている。

 他にも、ぬいぐるみがそうであったように、うっかり攻撃して妖精を痛めつけてしまうとセレスに嫌われてしまうのでは、という心理が働いているはずだ。

 ふふ、思う壺である。

 協力者に恵まれなかったおれだが、それならそれで、効果が最大になるよう知恵を絞ったのだ。

 いいぞ妖精たちよ、そこをリマルキスの墓場とするのだ!


「おいおい王様よぉ、逃げ回るので精一杯かぁ? 結局、セレスへの気持ちはその程度ってわけだな!」

「――ッ!」


 ピネの挑発に、リマルキスがピタッと動きを止めた。


「ヒャッハーッ! かかれーッ!」


 ここぞとばかりに妖精たちが突撃。

 が――。

 なんということか、リマルキスは妖精たちの突撃を両手で弾いて逸らし始めた。


「お、おお!? ちょ、ちょっとはやる気になったようじゃねえか。おいおめえら! 距離をとって――」


 とピネが言っているうちに、リマルキスは動いた。

 素早くピネに肉薄すると、むんずっと握る。


「あ、あれ……?」

「むん!」

「うぎゅ! ――ま、待った待った! 出ちゃう出ちゃう! お菓子だったものが出ちゃうぅ!」


 ピネが掴み取りされた魚みたいにぴちぴち藻掻く。

 チャンスだ!


『よーし! ピネの尊い犠牲を無駄にするな! 今だ、総攻撃だ!』

「おまっ!? おまぁ!? ダメだぞ!? ダメッ! 攻撃ダメーッ! みんな待機、お願いだからーッ!」


 ピネが必死に懇願したことで、妖精たちは攻撃をやめてしまう。

 なんということだ、せっかくのチャンスを……!

 妖精たちの攻撃がやんだところで、リマルキスは握るピネを顔の前に持ってきてにこやかに凄む。


「貴方、先ほど、なんと、言いましたか?」

「あ、あー……、な、なんて言ったかなぁー、最近もの忘れがひどくなっててさぁー、えへへ」

「そうですか。ところで、貴方はどうしてここにいるのですか?」

「え、えぇ……、いや、それは……」

「それは?」

「な、なんでだろうなぁ! あははー……。――あ、あたしらそろそろおやつの時間だからさ、もう帰っていいかな!」

「そうですか。ところで、僕は上へ向かっていいんですよね?」

「い、いいんじゃねえ? い、いや、もちろんさ! あんたの邪魔をしようなんて奴はここにはいねえよ!」

「それはよかった」


 今度はにっこりと微笑み、リマルキスはピネを解放した。

 おれとしてはここで奇襲に出る妖精たちの邪悪さを期待したが、残念、むぎゅっと握られたことで戦意喪失してしまったか、ピネは仲間を引き連れて一目散に撤退、王都屋敷に逃げ帰ってしまった。

 くそっ、今度は単純にリマルキスの性能に負けたか。

 だが次は!

 次はそうはいかんぞ!

 覚悟するがいい……!


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/07/04


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