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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
10章 『魔素の王と死屍の神』編
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第640話 14歳(春)…避けられていた話

 リマルキスが帰ったあと、まずおれはシアを呼びに行った。

 途中、話に加わりたいのか、ミーネとアレサとシャロが「ぐぬぬぬ……」と熱い視線を飛ばしてきたが、内容が内容なので話すかどうかはシアに確認をとってからになる。

 と言うわけでバスカーには引き続き部屋の前で番犬。

 プチクマはもう少し霊廟で過ごしてもらうことになるため、一体では心細いかと思って通りかかったクマ兄貴も飛ばしておいた。


「さて、真面目な話だ」


 まずそう切り出すと、シアは途端に不機嫌な顔になった。


「どういうことですか」

「どういうことって……、ちゃんと話しておかないとまずいからこうして来てもらったんだが」

「まずい? いったい何がまずいんです?」

「おいおい、下手するとみんなに危害が及ぶかもしれないんだ。もう見て見ぬふりは出来ないんだよ。これに関して話し合うのは不愉快だと思う。でもいつかはこういう時が来るって、おまえもなんとなくは感じていたんじゃないか?」

「……」


 むすっとシアが押し黙る。

 よく見れば半泣きだ。

 これは……、困った。

 予想していたよりもずっとシアは自身の問題に弱気だ。


「ご主人さまは味方だと思ってたのに……」

「は? いやいや、味方だよ?」


 いきなり何を言いだすのかとびっくりしたところ、返した言葉が気にくわなかったのか、シアはくわっと表情を変えた。


「何が味方ですか! こんな、結局あの子の望むままで、みんなに危害が及ぶからなんて言い訳して! いつものご主人さまはどこへ行ってしまったんですか! こういう時が来る? わかってましたよ! でもだからってこんな急に……、こんなの受け入れられるわけないじゃないですか! わたしは、わたしは嫌です!」


 あー、泣かれた……。

 これは……、もう母さんにも来てもらうしか――


「セレスちゃんは渡しません!」

「そっちの話じゃねえしッ!!」


 思わず叫んだ。

 叫ばずにはいられなかった。


「……ふえ?」

「ふえ、じゃねえよ! ああもう、こんな大声で突っ込みしたのは生まれて初めてだこのバカめ! なんでだよ! なんでそこなんだよ弟も姉も! いや確かにおれもそうだけど、それを何とか押しやってメルナルディアの問題に気を揉んでるのに、どうして当事者のおまえらがボケボケしてんだこんちくしょう!」

「あ、あの……、ご主人さま、では何の話なんです?」

「何の話!? 何の話だとコラてめえ!」


 さすがに我慢ならず怒鳴り散らしていると、扉の向こうでバスカーがわんわん吠え始めた。

 ドアが開き、ミーネがひょっこり顔を出す。


「ねえねえ、どうしてそんなに怒ってるのか知らないけど、そんなに怒鳴らなくてもシアは――」

「シャーッ!!」

「うん、また後でね」

「ミ、ミーネさん! そんな……!」


 あっさりとミーネは引っ込み、見捨てられたシアはがっくりとうなだれることになった。

 さて、ではまず説教から始めることにしよう。


    △◆▽


 説教のあと、リマルキスと話した内容をシアに説明してやった。

 まあシアも急に生き別れの弟と対面することになって動揺していたのだろう、そこは情状酌量の余地があると思う。

 でもやっぱりボケすぎだとも思うのだ。


「す、すみません、わたしったらついてっきり……、えへっ」

「おまえ本当に反省してんの?」

「はい、反省しています!」


 うーん、いまいち信用できねえ。

 説教して、さらに危うい立場に立たされているかもしれないと説明したにも関わらず半笑いってのはどういうことなのか。

 気になるところだが、今は話を進めよう。


「つまり状況は……、あれだ、領地で暮らしていた頃にちょっと話した問題そのまんまになっちまったわけだ」

「ああ、わたしを置いて王都に行こうと考えていたあれですね。導名のために有名にならないといけないご主人さまについて行っちゃうと、わたしを殺そうとしていた人たちに見つかっちゃう可能性が高くなるっていう」

「そういうことだ。過程はちょっと違ったが、結果は同じだからな」

「連れてきたのを後悔してるんですか?」

「後悔してないって言えば嘘になるんだけどな。でも領地を出てからのことを思い起こすと、おまえ無しの状態ってのがまったく想像できねえし、つーことは逆に言うとおまえの助けがあってやっとこさ今の状態ってわけだ。なのに連れてきたのを後悔ってのはおかしな話だろ? だからなんつーか……、申し訳ないっての? おれとしては負い目みたいのがあるんだよ。……ってなに身悶えしてんの? お腹痛いの?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど、こっちこそ申し訳なかったりもにゃもにゃだったりでして」


 なんだもにゃもにゃって。


「えっと、つまりわたしを狙う者が周りの人にまで危害を加えるかもしれないので、罠張って誘き寄せようってわけですね?」

「そういうことだ。屋敷と領地、あと迷宮庭園に篭もっていれば安全ではあるが、いつまでも篭もりっきりってわけにはいかないし、それよりさらに広い範囲の人たちが狙われるとなればもうお手上げだ」


 おれたちに手が出せないからと、これまで関わった人々に危害を加えてあぶり出そうとする可能性は否定できない。


「相手の正体がまったくわからない状況で、関わった人たちを守るなんてのはどう頑張っても無理だ。精霊たちに手分けしてもらって守りについてもらうってのも考えたんだが……、いまいち現実的とは思えなくてな。現状ではリマルキスの提案が最適だと思う」

「んー、そうですね、わたしもそう思います」

「囮にしちまってすまんな」

「いやいや、これわたしの問題ですから。それにただ守りに入るよりも攻めたいですからね。実の両親については、敵討ちだーってほど親しみを覚えてはいなかった――、いなかったと思ってたんですけど……、なんでしょうね、ちょっとしか会えなかったんです。それでも会えない分だけわたしを可愛がっていてくれましたから……、なんでしょうねこれ、もやもやしますね」


 これまでわからないことが多すぎて留まっていた感情が、ここにきて目覚めたらしくシアは戸惑っているようだった。


「なんでわたしは狙われたんでしょうね」

「なんでだろうな」


 そう答えてはみたが、おおよそ推測はついている。

 物語の展開、どのような因果関係があるのかをなんとなくパターンやセオリーとして考えられるシアだってわかっているのだろう。

 おそらくは〈喰世〉という能力が原因なのではないか、と。

 疑い始めたのはルーの森でリィから『邪神は白い炎のようであった』と伝わっていることを聞いたのがきっかけだ。

 最初は下手するとシアが邪神にでもなっちまうのかと思っていたのだが、今では依代――邪神の器になれる存在なのではないかと考えている。

 そんなシアが狙われるのであれば、メルナルディア王家は邪神についてある程度の情報を持っていたということになる。

 いや、元を辿ればメルナルディア王家ではなく、古き民――アーレグが、か。

 邪神誕生以前の知識を持つ民族。

 こいつらがシアを狙っているとも考えられるが……。

 シアは〈喰世〉についてどこまで考えているだろうか?

 これについて、これまでシアと話し合ったことはない。

 けれど、おれはシアが理解していることをなんとなくわかっており、シアもおれがなんとなく理解していることをわかっていて、お互いそう思っていることもわかっている。

 ただ言いだすきっかけがなかっただけだ。

 今回が話し合うきっかけなのだろうか?

 でもそれを話し合ったところで、敵の正体がわかるわけでもない。

 話し合うのはもう少し後でもいいような気もする。

 そのときは、シアが今の体に転生してきたことが偶然かどうかというところまで話は進むのではないだろうか。

 そしておれについても――、いや、おれの方はべつに今でもいいか。


「話は変わるけどさ、おれってあのアホ神が言っていたこと、もしかしたら全部でたらめなんじゃないかって疑ってるんだ」

「へ? でたらめ?」


 そうシアがぽかんとするのは、なんとなく予想していた。

 シアはおれのサポートという役割についてだけしか知らされていないのだ。


「でたらめって、どこまでです?」

「だから全部――、いや、全部ってほどではないのか。肝心なところ、つまりおれの名前について、そのあたりだ。あのとき訳のわからない状況に戸惑ってあいつの言うことを鵜呑みにしすぎた。立場的に弱いおれに、わざわざ嘘八百を並べる必要性が見いだせなかったというのもある」

「は、はあ……。でもご主人さまの予想が当たっていたとして、何の意味があるんです?」

「おれをここに送り出したかったんじゃないか、そう思ってる」

「いやあの、送り出して……、それで?」

「何か、をやらせたかったんだろうよ。悪辣なやり方だ。あいつはおれを操ろうなんて考えていない。ただおれが、おれの望むように勝手に踊って、その結果として奴の望みを叶えてしまうだけなんだから」

「そんなことって有り得ます?」

「有り得る。人にでも出来るんだ、神ならもっとうまくやるだろうさ。もちろん勝手にやらせるんだから、思惑通りにいくかどうかは賭になる。それでも相手のことをよく理解しているなら、まったくの賭けでもない。あと絶対に成功させる必要が無い場合って注釈もつくがな。上手く行ったら儲けもの、失敗したら諦める程度の状況だ」

「うーん、そういうものなんですか……。それで、何をやらされると考えてるんです?」

「順当に考えると、魔王をどうにかしろって話だろうな」

「あー、魔王ですか。関わってますからねぇ……」

「……そういうことだ」


 結局、話を振っておいておれはそこで話を止めた。

 もしかして暇神は、魔王を倒してもらいたいとかそんなレベルではなく、おれに悪神をどうにかしようとさせているのではないか?

 そんなことを考えて少し不安になったからだ。

 おれが、すでにそこまで考えているから。


※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/06/24


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