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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
10章 『魔素の王と死屍の神』編
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第636話 閑話…セレスの真意

今回は2話同時更新。

こちらは1/2です。


 会議は仲違いから取っ組み合いを始めた二匹の猛獣を外に放りだしたことで、ようやく建設的な話し合いができる状況になった。


「……おまえに妙な弟がいるからー……!」

「……それわたしのせいじゃないですしー……!」


 猛獣の咆吼は室内にまで届いていたが、気にしていては埒があかないため皆は努めて無視している。


「やれやれ、婿殿とシアはあの状態じゃが……、かといってわしらだけでは何を話し合ったらよいかわからんのう」


 シャロが言うと、これにサリスが同意する。


「御主人様がおかしいときは、シアさんが治すなり代理になるなりしてくれるのですが……、今回はそのシアさんごとおかしくなっていますからね、舵取りをする人が不在では……」

「あたしらが話し合っても、ダンナとシアが却下したら意味ないからな。ってかさ、二人みたいにセレスの婚約に大反対って奴、この中にいるか?」


 このシャンセルの問いかけに、名乗り出る者は居なかった。

 国王としてのリマルキスはよく知らない。

 しかし、よってたかって張り飛ばされても、めげずにセレスに結婚を申し込める根性のある奴、という認識は共有されていた。

 どちらかと言えば、リマルキスを評価している者が多いのだ。

 出来ることならリマルキスの恋路を応援してやりたいとも思うのだが……、それでセレスが連れて行かれてしまうのは望ましい展開ではなく、この複雑な心境に、主に乙女たちがもやもやしていた。

 活発な話し合いとはならない状況のなか、これまで大人しく成り行きを見守っていたロークがふとクロアに尋ねる。


「なあクロア、王様がセレスの旦那になったらどうする?」

「え? うーん、どうもしないよ? いまさらだし」


 急に話を振られたクロアはちょっと考え込んだものの、わりと素っ気ない様子で答えた。


「まあ……、そうか。そうだな」


 変なところが達観してしまっているクロアにロークは申し訳ないような顔をして頷き、あと、一部のメイドがもじもじした。

 と、そこでリィが盛大にため息をつきながら言う。


「まー、これはあれだろ、あたしらが話し合ってもしゃーねーだろ。それよりさ、セレスに本当にあの王様が結婚相手でいいのかちゃんと確認すべきじゃね? セレスはまだちっちゃいんだからさ、よくわからずに答えちまったのかもしんねえだろ」

「ありえる話だニャ。あの王様、シアにそっくりだったニャ。セレスはお姉ちゃんっ子だから、つい承諾しちゃったのかもしんねーニャ」

「だろ? いやまあそれでセレスが幸せになれるんならべつにいいんだけど、そんなのわかんねえしさ。まずあの王様の一目惚れってのがなー」

「な、なんじゃ! 一目惚れの何がいかんのじゃ!」

「ややこしくなるから師匠はちょっと黙っててくれ」

「うぅ……、弟子が冷たい……」

「まあ一目惚れでもいいよ? いいんだけど、その気持ちが持続するかどうかなんて本人にもわかんねえじゃん。つか会ってすぐに結婚を申し込んで来るとか、いくらなんでも急すぎるんだよ。これから会うようになって、それでやっぱり無し、なんてこともありえる」


 セレスが振り回されて終わる、なんて事態は避けたいとリィは思っており、この考えに反対する者はこの場には居なかった。


「ひとまずさ、婚約者じゃなくて『婚約の約束』程度にとどめておいて、しばらく様子を見た方がいいんじゃねえかな?」

「リィ、もしやお主、勝手に惚れられて、勝手に幻滅された経験があったりするのでは――」

「師匠、次に何か言ったら外で暴れてる二匹の間に放り込むからな」

「うぅ……、弟子が恐い……」


 シャロはリィに睨まれて縮こまり、側に座っていたミーネにドーナッツのお裾分けを渡されてもくもく食べ始めることになった。

 シャロはミーネを筆頭とした『話は皆に任せておやつを食べる会』の一員に迎えられたのである。

 他の会員はティアウルとジェミナの二名だ。


「ふーむ、なるほど。リィ殿の言うとおり、まずは婚約の約束くらいにとどめ見守った方がよいかもしれんな。変に引き離そうとしても、くっつけようとしても、あまり良い影響を与えるとは思えん。っと、その前にセレスに確認するのだったな」


 ひとまず確認することになり、ぽかんと話し合いの様子を窺っていたセレスにリセリーが尋ねた。


「ねえセレスちゃん、本当にあの王様と結婚してもいいの?」

「はい」


 そう答えたセレスに迷いは無いようだった。

 先ほどは迷っていたが、それは兄と姉がおかしくなってしまうことに少し後ろめたさを感じてのものだったのだろう。

 六才児に気を揉ませる兄姉は、今も外で奇声を上げながら醜く争っている。


「じゃあ、セレスちゃんはどうしてあの王様と結婚してもいいと思ったか教えてくれる?」

「えっと……、セレスが王さまとけっこんしたら、シアねーさまはずっとセレスの姉さまです」

『……!?』


 このセレスの発言に、居合わせた者たちは程度の差はあれど揃って驚くことになった。

 つまりセレスは、シアとの繋がりを強めるために、シアの弟であるリマルキスとの結婚に踏み切ったということになる。

 皆が唖然とするなか、やがてリオが口を開く。


「これを聞いたら……、シアさんは喜びますかね? それとも悲しむ? ご主人様はまあ大暴れを続行でしょうけど……。あと国王くんはどうでしょう? 落胆……、いえ、案外それでもきっかけになったからと受け入れるかもしれませんね。自分のことを知ってもらって、ゆくゆくは好きになってもらおうとか考えるかも……」

「貴方の場合は難航していますけどね」

「アーちゃん!?」

「まずは気持ちを伝えませんと。現状では、女王になるのが嫌だからうまいこと――」

「アーちゃんちょっと! ちょっとこっち! こっちー!」


 リオはアエリスを引っぱって退室。

 特に問題は無いので会議はそのまま続行される。


「えっと、じゃあセレスちゃんは、シアお姉ちゃんにずっとお姉ちゃんでいてほしいから結婚することにしたの?」

「はい。……あ、でもまだあります。だいじなことです」

「大事な? どういうこと?」

「ごしゅぢんさまにききました。王さま、ひとりぼっちです。でもセレスとけっこんしたら、かーさま、とーさま、ごしゅぢんさまは、王さまにとっても母さまで、父さまで、ごしゅ……、兄さまです。クロ兄さまは弟でコルフィーとジェミナは妹です。かぞくです」


 皆は再び――、いや、今度こそ本当に驚くことになった。

 セレスがそこまで考え結婚を受けたとは、考えもしていなかったからだ。


「兄貴とはまた違う方向にぶっとんでんな……。でもセレス、それって姉ちゃんと王様のために結婚するってことだろ? セレス自身は王様のことどう思ってるんだ?」

「どう……?」


 リィが尋ねると、セレスはこてんと首を傾げる。


「ああ、えっと、ほら、王様のことをだな、好きとか嫌いとか、どう思ってるのかなって」


 通常、貴族の令嬢であれば政略結婚の駒、個人の感情を無視されることは当然であるが、このレイヴァース家は非常に特殊な貴族であり、令嬢としての責務が存在しない。

 責務とは領地の繁栄――領民から得る税によって養われた者に課される駒としての役割であるが、そもそもレイヴァース家に領民は居ないため、結婚となれば何の束縛もなく個人的な感情を優先できる。

 さらに言えば、特殊な立場にいる当主のおかげで、望まぬ結婚を申し込まれてもきっぱりと断ることもできる。

 つまり今回の問題は、セレスの気持ち一つなのである。

 そしてセレスは――


「セレス、王さますきですよ」


 にこっと笑って答えた。

 セレスの様子に陰はなく、至って自然、本心を素直に語ったようにしか見えない。

 皆はセレスもまた一目惚れだったのかと考えたが――


「王さま、シアねえさまそっくりです。あと、ごしゅぢんさまにもなんかにてます」


 あ、と誰もが腑に落ちた。

 姿は大好きな姉にそっくりであり、そしておそらく内面のことなのだろうが、そちらはたぶん大好きな兄に似ている。

 少なくともセレスはそう感じた。

 リマルキスはセレスに一目惚れであったが、セレスにとってリマルキスは理想の相手のようなものだったのだ。


「あー、こりゃもう温かく見守るしかねえな……」


 あきれたようにリィが言うと、皆も納得したように頷いた。


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