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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
10章 『魔素の王と死屍の神』編
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第634話 14歳(春)…セレスの変事

 いったい何が起きたのか。

 それを理解した瞬間、おれはかつて無い俊敏さでもってリマルキスを張り倒した。


「どぇりゃぁぁ――ッ!!」

「ぐはぁ!」


 星すらも砕く意気込みを込めた張り手であったが、実際の威力はそうでもなかったらしく、リマルキスは倒れてすぐ起きあがり、そして文句を言ってきた。


「な、な、何をするんですかいきなり!」

「何をだと!? 何をじゃねえぞこのたらしめが! いきなり人の妹に結婚申し込むとか国が国なら市中引き回しの上に打ち首だぞてめえ!」

「どこの国ですかそこ!? それに何のつもりもなにも、見た通りですけど! あと、貴方にたらしとか言われたくないのですが!」

「んだとこらぁ! おれのどこがたらしだってんだ!」

「まさかの無自覚!? こ、これが真性……!」

「真性ってどういうことだ! つかこんな小さな子に結婚を申し込むおまえが真性のド変態だボケめ!」

「し、失敬な! 僕とセレスさんくらいの年の差なんて何の問題にもなりませんよ! むしろ女装なんかしてる貴方の方が変態では!? それにですよ、姉上にしろ、セレスさんにしろ、妹にメイド服を着せて御主人様と呼ばせてる貴方こそ真実のド変態でしょう!」

「んだとコラァ! 事情があんだよオラァ! それに女装についてはもっと言葉選べよてめえ! パイシェが倒れたじゃねえか!」

「あ」


 女装は変態。

 仕える王の無慈悲な言葉が流れ弾となってパイシェを撃った。

 パイシェは瀕死だ。


「……へ、陛下、ボクは国のためになればと……」

「す、すまない。本当にすまない」


 と、パイシェを気遣ったのがリマルキスの隙となった。

 セレスからも離れている。

 よし、今だ!


「くたばれぇーッ!」


 あまり人には撃たないかなり強めの雷撃をぶっ放す。

 バチコーンと爆ぜる雷。

 これで色ボケ小僧も一巻の終わりだ!

 ところが――


「うわっ、わっ、び、びっくりした……」


 リマルキスは雷撃など何処吹く風と、ぴんぴんしている。


「レ、レイヴァース卿! これは冗談ではすみませんよ! 僕はこれでもメルナルディアの国王です! その僕めがけて雷を放つとか!」

「神にもバシバシ撃ってるから関係ねえ!」

「とんだ狂犬だこの人……!」


 リマルキスは依然隙だらけであったが、冷静に考えてみればおれの雷撃が効くわけはないのだ。


「くっそう……、そういやてめえおれの作った服着てやがったか!」

「え、脅しじゃなくて本気だったんですか!? 信じられない人ですね! しかし、まさか貴方からの贈り物の最初の活躍が、貴方からの攻撃を防ぐこととは、なんとも皮肉な……」

「ええい! てめえその服返せ! そしておれの怒りを受けろ!」

「あ、ちょっ!? いきなり人の服を脱がそうと……、てい!」

「ぬあ!?」


 服を引っぺがそうとリマルキスに襲い掛かったところ、何か妙な体術を使われて床に押しつけられてしまった。

 決して油断していたわけではなく、むしろかなり本気だったのだが、そんなの関係無いとばかりにあしらわれてしまう。

 どうやら地力が違うらしい。

 シアほどではないだろうが、この小僧もなかなかやるようだ。


「貴方と違ってちゃんと加減しましたよ! これでちょっと頭を冷やしてください!」

「あたたたた……!」


 こいつ、極めた関節を攻めてきやがった。

 なかなか容赦がねえ!


「おいこらてめえ、放しやがれ! おまえんとこがスナークに襲われても助けにいってやんねえぞ!」

「ははは、大丈夫ですよ。いくら僕が気に入らなくとも、貴方は助けにきてくれる人ですから――ね!」

「あっだ――ッ!?」


 なんか凄く痛いことされて、おれぐったり。

 その隙にリマルキスはまたセレスに近寄りやがる。

 くっ、体が弛緩していて止められない……!

 こうなったら、と一縷の望みをかけて訴える。


「ミーネェー! そいつを止めてくれー!」

「へ? えぇー、それは駄目よ。こういうのは邪魔してはいけないのよ?」

「こいつ珍しくまともなことを……! ならアレサ! そいつを殴って昏倒させるんだ!」

「え。あ、そ、その……、まだ幼い子にそういう仕置きは……」

「ダメですか! じゃあシャロ! あのなんか凄そうな封印魔術でそいつを封じ込めて!」

「婿殿!? いや、あれは人に向けて使うものではないし……」

「ダメなんですか!? だったら……、パイシェ! そいつの息の根を止めてくれ!」

「ボクの所属国忘れていませんか!?」

「ああもう! えっと、おいルフィア!」

「はぁぁ――ッ!」


 こいつバシャバシャバシャッとおれを撮るばかりで何もしねえ!


「ダメかっ、ダメなのか! 神はいないのか! 死んだのか!」


 やはりおれが殺るしかない!

 動け、体、動け……!

 念じながら必死で体を起こす。

 その間に、リマルキスはまたセレスの前に跪いてさっきの続きを始めようとしていた。


「セレスさん、どうでしょうか? 僕の妻になって――」


 と、そこでリマルキスに襲い掛かる銀の影。


「だらっしゃ――ッ!」

「おひょぉう!?」


 今度はシアがリマルキスを張り飛ばした。

 さすがはシアと言うべきか、リマルキスはぴょーんと張り飛ばされて奇跡的にソファに着席した。


「あ、あ、姉上ッ!?」


 まさか姉に張り飛ばされるとは予想もしなかったらしく、リマルキスは愕然とした顔でシアを見やる。

 動揺する弟に対し、シアはセレスを背に庇いながら毅然と言い放つ。


「一度目は誤射かもしれないと我慢しましたが、二度目となればもう容赦はしませんよ! どこのゴブリンの骨とも知れない人にセレスちゃんはあげられません!」

「ゴ、ゴブリンの骨!? あ、あの! 僕ってメルナルディアの国王ですけど!? ってか貴方の弟なんですけど!?」

「知ったこっちゃありません!」

「言ってること無茶苦茶ですけど……!」

「はっ、何を! 無茶苦茶はそっちじゃないですか! いきなりセレスちゃんを嫁にしようだなんて、お姉ちゃんは貴方をそんなこと言いだす子に育てた覚えはありません!」

「僕も姉上に育てられてた覚えはありませんねぇ! 本当に言ってること無茶苦茶ですよ!? それに想いを伝えることの何がいけないんです!? この気持ちに嘘はなく、であれば伝えることに何の後ろめたさもありません! それに機会を逃して先延ばしにするという選択肢は僕には無いんです! 何しろずっと身辺に気をつけなければならないような生活をしているもので!」

「ぐっ……」

「それに姉上も身にしみているのではないですか! 機会を逃すと言いだしにくくなるどころか、伝えることが困難になるほど状況がややこしくなってしま――」

「くたばるがよいです!」

「ぬがっ!」


 シアの投げつけた靴がリマルキスのおでこにクリティカル。


「レ、レイヴァース卿! どういうことですか、姉上は滅茶苦茶です!」

「そんなことおれに言われても困る!」

「そんな無責任な! 貴方がこんなことにしてしまったんじゃないんですか!?」

「こいつはもともとこうだ! つか最初はもっとひどかった! なにしろ――」

「召されるがよいです!」

「うがぁ!」


 シアの投げつけた靴がおれのおでこにクリティカル。


「おいリマルキス! おまえの姉ちゃん滅茶苦茶だぞ!」

「そんなこと僕に言われても困ります! ってか僕こんな理不尽な暴力を受けるの生まれて初めてなんですが! そしてレクテア! こういう時のために貴方は僕の側にいるのではないのですか!?」


 そう話を振られたレクテアお婆ちゃんはにこにことして言う。


「あらあら、ごめんなさいね。でも、陛下がこんなに楽しそうにしているのに邪魔するのは気がひけますから」

「今のところ何一つ楽しくありませんけど!? ああもう、パイシェ! 何を見守っているのですか!」

「あ、す、すみません! わりとよくある日常風景なので、うっかり見過ごしていました!」

「どうなっているんですレイヴァース家は……!?」


 よし、いいぞ、リマルキスが勝手に困惑している。

 ひょっこりやって来てひとんちにケチつけるとかまったく腹立たしいところだが、おかげでおれは回復、戦線に復帰だ。

 しかし雷撃が効かず、無手でもわりとやることが判明した今、下手に挑んでも返り討ちに遭うだけだ。

 セレスの前であまり無様にやられるのは避けたいところ。

 と、そこで閃いた。


「セレス、そいつはシアを攫って自分の国に連れて行っちゃおうとしている悪い奴だぞ!」

「ちょっ!? なんてこと言うんですか!」


 リマルキスとしてはシアをメルナルディアに連れ帰りたいところだろうが、そんなことをすればセレスの不信感はリミットブレイク、もう顔も見たくなくなるだろう。


「そ、そうなんですか……?」

「あ、いや、その……」


 シアにひしっとしがみつきながら言うセレスに、リマルキスはあわあわと狼狽してろくに弁解もできないようだ。

 いや、出来るものならやってみろという――


「ご、誤解があるようですね! 確かに姉上には国に来て頂きたいと思います。しかし! もう姉上にとってはここが家、みなさんが家族、それを引き離すなんて僕にはできません!」


 こいつ訪問目的ぶん投げやがった!?


「おいてめえさっきと言っていることが違うじゃねえか!」

「そ、そんなことはありませんよ? それよりもレイヴァース卿、貴方こそ姉上を僕に引き取らせようと話に乗り気でしたよね?」

「はあ!? おいてめえ!」


 とんでもねえ意趣返しかましてきやがったぞこいつ……!


「ふぇ……、ごしゅぢんさま、そうなんですか……?」

「そ、そんなことはないぞ!? 相手は王様だからな、ここはシアを連れ帰りたいっていう話に乗ったように見せかけてだな、シアが嫌って言ったらその気持ちを尊重してお断りしようって考えていたんだ! 兄ちゃんはシアを追いだしたりはしないからな!」


 なんとか誤魔化そうとしたところ――


「ちょっとご主人さま! そんな回りくどいことしないで最初から断ってくださいよ!」


 セレスじゃなくてシアが反応してきやがった。

 ああもう、事態の重さはわかっているだろうに……!


「うっさい、おまえはちょっと引っ込んでろ!」

「はぁ!? はぁぁぁ!? 当人であるわたしに引っ込んでろってどーゆー了見ですか!」

「あ、ちょ、あだだだだだっ」


 シアがずんずん迫ってきて、おれのほっぺをぐにーっと引っぱる。

 こうなったらと、おれもシアのほっぺを引っぱってやった。


「いひゃいいひゃい、ほまへいいはへんひひほほ!?」

「んひゃ!? ひゃんでふかー! ひゃるっへんへふかー!?」


 おれとシアによる、不毛なほっぺつねり合戦。

 するとその隙を逃さず、リマルキスが懲りずにセレスに近寄った。


「それで……、セレスさん、どうでしょうか、僕の妻となってはいただけませんか?」


 こいつまだ言いやがるか……!

 おれとシアが一時休戦してリマルキスに襲い掛かろうとした、その時――


「えっと……。はい、おうけします」


 セレスが結婚の申し込みを受けた。

 おれとシアは灰になった。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/06/14

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/03/04


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで一気に読み進めてしまいました。 この作品の雰囲気がとても好みです。   [気になる点] セレスの立場がクロアで似たような事が起こった場合兄姉の反応はどんな感じになるんだろう [一言…
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