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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
10章 『魔素の王と死屍の神』編
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第633話 14歳(春)…姉と弟

 自分が弟であると告げてきたリマルキス。

 すでにその事実を知っていたらしいシアは戸惑いつつも言う。


「わたしが――双子のお姉ちゃんですね」


 双子か。

 シアとリマルキスはそっくりだが……、それでもまあ二卵性双生児なんだろう。

 一卵性双生児で男女ってのは超レアらしいし。


「姉上はすでに僕のことを? シャーロット様に聞いたのですか?」

「え? いえ……、わたしが何者であったかは別のところで知ったんです。半年くらい前でしょうか」

「僕たちが姉弟であることを知っていた者がいたんですか?」

「あー、そういうわけじゃないんです。なんと説明したものか……」

「それはわしが説明しよう」


 シアが困ったところで、シャロが会話に割って入る。


「わしは霊廟の底に自分についての情報を知ることが出来る空間を用意しておっての、シアはそこで自分が何者かを知ったんじゃよ。ちなみに自身の情報は詳細に見られるが、経歴となるとそこまで詳しくわかるものではない。よって、誰がお主らの両親を殺したのか、そういった情報を知ることはできん」


「そうでしたか。では、どうして姉上だけ遠ざけられていたかは?」

「それもわかりませんね」

「そうですか……」


 何故、メルナルディア国王と王妃は暗殺されたのか。

 原因は遠ざけられていたシアにあることくらい、リマルキスは予想を付けているのだろうが……。


「姉上、レイヴァース家に迎えられるまでの経緯を聞かせてもらえますか?」

「経緯ですか。えっとですね……」


 シアは当時の状況を説明するも、特別重要となる情報はないように思われた。

 肝心な事件の日について、シアの記憶が曖昧だからだ。

 それからは売れない奴隷としての日々である。


「姉上は大変な苦労をされていたんですね……。レイヴァース卿、姉上を保護していただき、本当にありがとうございます」

「い、いえ……」


 最初は全力で見捨てようとしていた、とは言えない。

 感じる、シアの刺すような視線を感じる……!


「僕はこれまで姉上がいることを知りませんでした。レイヴァース卿とルーの森で話をさせてもらったとき、姉上の姿を見る機会がありそこでもしやと思ったのです」

「ああ、あの時ですか」

「あれ? そんな機会ありましたっけ?」

「おまえ猫になってたから……」

「……」


 あ、シアの表情が曇った。


「あれから僕は自分が生まれた当時のことを調べようとしたのですが……、関係者はすでに亡くなっていたり、行方不明になっていたりとなかなか情報を得ることができませんでした。これはさすがにおかしいと思い、僕なりに推測してみたのですが……」


 リマルキスは申し訳なさそうな顔でシアを見る。


「わたしが原因ってことですね」

「……はい、姉上の誕生は、メルナルディアにとって好ましくなかったために、事件は起きてしまったのだと思い至りました」

「メルナルディアにとって好ましくない、というのはまた妙な話ですね。シアを匿ったのは国王と王妃、言ってみればそれはメルナルディアそのものです。それはつまり、国王よりも上の枠組みがあるということになります。国王と王妃はそれに抗った……? 単純に考えると、それは前国王となるのですが……」

「御爺様はすでに亡くなっています」

「それは……、事件の前ですか? 後ですか?」

「これは前ですね。数年ほど。しかし事件後メルナルディアでは不可解な死が相次ぎました。それもあって兄――、あっと、ロット公爵は過剰に僕を守るようになったのです。こちらのレクテアや、以前の物々しい姿もロット公爵の提案によるものです。ロット公爵自身、父親を不可解な死で亡くしています」


 メルナルディアには本当に王宮とは別の枠組みがあって、それが機能し続けているということなのだろうか?

 となると……、まいったな、やっぱシアは領地に押し込めたままの方がよかったってことになる。

 でもなぁ、なんだかんだで助けられてるからなぁ……。

 盛大にため息をつきたくなるのを堪え、こうなったら仕方ないと本題に斬り込む。


「それで、今回の訪問はシアを引き取りに来たということでよろしいですか?」

「――ッ」


 リマルキスは少し動揺を見せたが、わずかにほっとしたような表情を見せて言う。


「はい。今回の訪問はシアさん……、いえ、僕の姉である、メルナルディア王国のシリアーナ姫を迎えに来たのです」

「……ッ」


 そのときシアが示した反応は、迎えにこられたからか、それとも封印した名前を呼ばれたからなのかは判断がつかなかった。

 ともかく――、これはうちにとっても大問題だ。

 リマルキスが姉の存在を調べ始めてしまった段階で、避けられない状況になっていた。

 シアには一度、メルナルディアへ行ってもらうしかないだろう。


「仕方ありませんね」


 と、同意したところ――


「おるぁ!」

「ぐはぁ!」


 シアに張り飛ばされておれはソファから転げ落ちた。


「ちょっと! 仕方ないってどーゆーことですか!」

「いやほら、弟さんが迎えにきているわけだし……」

「ご主人さまー、言葉には注意してくださいねー、わたし今ブチキレ寸前ですからねー、屋上へ誘うなんて悠長なことしませんからねー」

「いやいやいや、おまえね、弟さんが生き別れになっていたお姉ちゃんを迎えに来たわけだろ? それを無下にするってのもどうよ?」

「う……」

「ですよねえ?」

「え、あ、えっと……、国に来てもらいたいのは確かですが……」

「ほら、こう言ってるし。それにこの問題を放置していたら、後々困ったことになるってのはわかってるだろ? それこそみんなにも危害が及ぶ可能性が――」


 と、おれが喋っていたその時。

 コンコン、と扉がノックされ、答える前にドアが開いた。


「はーい、お茶よー」

「おかしですっ」

「ぴよー」


 はぶられているのに我慢できなくなったのか、ミーネが給仕にやって来た。

 わざわざメイド服を着てくるという念の入りようである。

 セレスはお手伝いで、お菓子を運んできたようだ。

 そして――


「あれ?」

「ふわ……」


 リマルキスの顔を見て二人は固まった。


「ど、どゆこと?」


 ややこしい状況で、さらにややこしくしそうなミーネの登場は正直頭が痛いが、追いだそうとしても出て行く奴ではない。

 ここは簡単に状況を説明して、大人しく話を聞いていてもらうことにした。


「はぁー……、シアもお姫様だったのね」


 その『も』ってのがなかなかおかしい表現だが、この屋敷においてはまさにその通りで困る。

 そして姫となれば喜ぶのがセレスだ。


「シ、シアねーさま……、お、お姫さま……!? ごしゅぢんさま! シア姉さまお姫さま!」

「あー……、うん、お姫さまだね」

「ふわぁぁぁ――――ッ!」


 セレスは激しく衝撃を受けたようだ。

 お盆を雑にテーブルへ置くと、そのままシアにしがみつく。


「シアねーさま、お姫さま! 姫ねーさまー!」

「はーい、お姉ちゃんですよー、でもってお姫さまですよー」


 姉であり、なおかつ姫。

 セレスにとっては最強だ。

 何ということか、これではますますシアに差を開けられてしまう。


「く……、くそ! こうなったら……!」


 おれは応接間を飛びだし、王都屋敷に向かうとコルフィーの砦に突撃する。

 そして女装して舞い戻った。


「さあセレス、お姉ちゃんだよ!」


 姫姉さまに対抗するには、もう兄姉さまになるしか道はなかった。

 今、兄と姉が一つになった。

 つまりそれは完全に見えるようになったと言うことである。


「おほー!」


 なんかシャロが喜んだ。

 でもそんなの関係ねえ!


「これは一大事じゃ! ルフィア! ルフィア! 撮影じゃ!」

「でやぁ――ッ!」


 ルフィアが湧いておれを撮影し始めた。

 こいつ異次元屋敷にまで出没するように……!

 でも今はそんなの知ったこっちゃねえ!


「さあセレス、こっちへおいで!」

「えぇ……、ごしゅぢんさま、なんかへんー」

「ぐふっ」


 おれは死んだ。


「ルフィアよ! ちゃんと撮ったか! 撮ったかー!」

「うん、ばっちり! 連続撮影で完璧! シャロちゃんがくれた新型の撮影機がさっそく役に立っちゃった!」


 喜ぶのはシャロとルフィアだけ、まさかこんな結果になるとは。

 悲しみに打ち拉がれながらよろよろと立ち上がったところで、そう言えばリマルキスを放置していたことに気づいた。

 いかんいかんと見やったところ――


「………………」


 リマルキスはセレスを見つめて放心していた。


「リマルキス陛下? どうしました?」

「え、ああ、いや……、いやぁ!? 貴方こそどうしたんです!?」


 呼びかけに応えたリマルキスはおれを二度見。

 まるで今ようやくおれの女装に気づいたような反応である。


「ちょっと完全になる必要があったもので」

「何を言っているのかまったくわかりませんが……、ま、まあレイヴァース卿がなさっていることです、意味があるのでしょうね」


 そう言い、リマルキスは居住まいを正すと、すっと優雅に立ち上がってそのままシアにしがみつくセレスの元へと歩み寄る。


「初めまして。僕はメルナルディア王国の国王、リマルキス・サザロ・メルナルディアと申します。よろしければ、貴方のお名前を教えて頂けませんか?」

「え? あ、えっと……、はじめまして、わたしはセレス・レイヴァースともうします。お会いできて、こうえいです」


 シアから離れ、セレスがちょっとつたない挨拶をする。

 でも愛くるしいので何の問題も無い。

 百点満点だ。

 文句を言う奴がいたらおれが相手になる。

 幸いなことにリマルキスは理解ある者のようで、セレスの挨拶に感心したのだろう、ぽやんとした表情になっている。

 と、そこでリマルキスがセレスの前に跪き、その手をとった。


「セレスさん、僕の妻になっていただけませんか?」

『?』


 時が止まる。

 突然のことに、みんなびっくりして動きが止まってしまったのだ。

 いや、ミーネだけは例外か。

 自分が運んで来たお茶をのん気に飲み、お菓子をもぐもぐしていた。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/06/13


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― 新着の感想 ―
[一言] ついにこのときが…(笑) これが今までオートで稼いだ好感度を投げ捨てる少年王のすがたです。
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