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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
間章3 『にぎやかな冬』編
641/820

第631話 閑話…祭りの後に

今回は2話同時更新+おまけの人物紹介。

こちらは2/3です。

 ニバル祭のあった日の夕方――。

 帰宅したベリアを迎えたのは、引き籠もり歴が一年半ほどになったレスカであった。

 かつてはルーの森で女王イーラレスカとして君臨していたレスカであったが、今や落ちぶれに落ちぶれ、ベリアに養われる不機嫌そうな侍女でしかなくなっていた。

 レスカはいつも通り面倒くさそうにベリアを迎えたのだが――


「えぐえぐ……」

「――ッ!?」


 泣きながら帰宅したベリアに度肝を抜かれることになった。


「お、おまっ、ど、どぉーしたぁぁぁ――――ッ!?」


 いつも何かと弄られたり、からかわれているレスカは、すっかりベリアを警戒するようになっていたが、それでも、さすがに泣きながらの帰宅となれば話は別、激しく動揺しながら尋ねた。


「な、ななな、な、なんだ、どうした!? だ、誰かに苛められたか!? ちょっと文句言いにいってやろうか! コラッて!」


 レスカが慰めようとするも、ベリアはぐずぐずしっぱなし。

 これはどうにもならないと、レスカは困惑しながらもベリアについて泣き止むのを待つことにした。

 やがて――


「家の前まで堪えていたんだけどね、つい気が緩んじゃって」


 ようやく落ち着いたベリアが言う。


「へいへい、んで、何があったのだ?」

「運良く姉さんに会えたんだ」

「姉さん……? お前、兄の他に姉もいたのか?」

「ん? ああ、違う違う。この姉ってのは、私がリッチになる前の姉のことなんだ」

「それこそおかしいだろ! なんで会えるんだよ!?」

「レイヴァース卿がなんとかしてくれたんだ。いやー、姉さんのお墓にお参り行くよう伝えた甲斐があったよ」

「ちょっと待て、わからない。訳がわからない。まず聞かせろ、その姉ってのはどんな人物なんだ?」

「シャーロットだけど?」


 あっけらかんとベリアは言う。

 レスカは一度ぽかんとしたあと、ぷるぷるする指をベリアに向けながら言った。


「お、お、おま、お前!? シャーロットの弟だったの!?」

「うん」

「うんって、うんってなんだよ! 言えよ! 前にリッチだったとか、体を入れ替えたとか、色々と話したときついでに言えよ! 言えない理由でもあったのか!?」

「理由って言うか……」

「うん?」

「レスカさんの反応が寂しくなってきたときに使おうかなって……」

「お前いい加減にしろよ!?」


 レスカは激しく地団駄。

 ベリアはその様子を嬉しそうに眺めていたが、そこで少し落ち着いた声になって言う。


「まあ姉さんのことを語るのがつらいってのもあったんだけどね」

「あ? つらい?」

「何も出来なかった自分を思い出すんだ。レスカさんも若気の至りを語るのはつらいでしょ?」

「うっさいわ!」


 くわっとレスカは言い返す。

 なんだかんだで、いつも通りのやりとりである。


「ったく、心配して損した」

「あ、心配してくれた? それはありがとう」

「――!? お、おう……」


 やけに素直に礼を言うベリアに、レスカは少し戸惑いながらもしかしたらまだ調子が戻りきっていないのではないかと考えた。

 そして、化け物のような存在であり、ちょっと普通ではない精神構造をしているベリアであっても心が無いわけではないのだな、と妙に感心することにも。


「なんだかレスカさんが失礼なことを考えているような気がする」

「そんなことはないぞ。珍しく素直に礼を言ったなと思っただけだ」

「うん? 礼を言ったことはこれまでにもあるでしょ?」

「素直に言ったことは無い」


 いつもは余計な一言がおまけでついてくる。


「そっか。じゃあ今日はまだ調子が出ていないんだね。それでもこれくらいですんでいるのは、やっぱりレスカさんが居るからかな」

「ああ?」


 警戒してレスカが威嚇するも、ベリアはにこやかに微笑む。


「こうやって迎えてくれる人がいるのはいいもんだなって思ったんだ。私一人だったら、まだめそめそしていたんじゃないかな?」


 そう言って、ベリアはふと遠い目をする。


「姉さんにとって、私はレスカさんのような癒しになれていたのだろうか……」


 自分のことを『癒し』と言われてレスカはぎょっとする。

 肯定する気にはなれないものの、アホか、とこれを否定することも躊躇われ、レスカは大人しくベリアの反応を待った。

 レスカ自身はそんなつもりなかったのだが、それはベリアを慮ってのものであり、もし、リィがこのレスカを見たら度肝を抜かれ、どこか具合が悪いのかと本気で心配し始めるような変化であった。

 それからどれくらい待っただろうか。

 記憶の向こうへと行っていたベリアが、ぽつりぽつりと自分がアルフレッドという名の少年であった頃のことを語り始める。

 しかしその話、当のアルフレッドの話は少なく、代わりに姉であるシャーロットのことばかりであった。

 今でこそ高く評価されているシャーロットも、当時は誰にも理解されず挫折の日々を送る時期があったらしい。

 誰よりも姉の凄さを理解していたアルフレッドであっても、残念なことに、姉の思い描くものを理解しきることは出来なかったようだ。

 何故、ベリアは力を求めるのか?

 何を目指しリッチと化し、さらには肉体を入れ替えたのか?


「(偉大すぎる姉に並ぶため、か)」


 そのために、そのためだけにベリアの人生はあったのだ。

 しかしそれも今、叶いつつあるのでは……?


「私が姉さんのように凄ければ……、いつもそう思っていたな。でもまあ、これは昔の話だ。今なら姉さんは正当に評価される。もしかしたら、もうそんなことは望んでなくて、あの一家の一員として穏やかに暮らしていきたいだけかもしれないけど」


 ならば、それはそれでいい、とベリアは小さく笑う。


「レイヴァース卿には本当に感謝をしないと……」


 その言葉を聞き、レスカは小さくため息をついた。


「じゃあ私はこれでお別れってことだな」

「え? どうして?」

「だって、お前はレイヴァース側になるんだろう?」


 ならば――、もう相容れない。

 あっちにはリィが、そしてあの聖女がいるのだから、それは出来ない。

 せめてギャフンと言わせるまで。

 それはレスカの意地であったが――


「私はべつに向こう側になるわけではないけど……?」

「へ?」

「姉さんが幸せになるのに、私が側に居る必要は無いからね。それに今だからこそ、私は私の望みを叶えるために動かないといけない」

「お前の望み……?」

「うん。私は自分がどれくらい姉さんに近づけたのか、それを確かめなきゃならないんだ」

「はあ……、どうやって?」


 この何気ないレスカの質問。

 ベリアも何気なく答える。


「私はレイヴァース卿の敵になる」


 あっけらかんと、事も無げに。

 しかしレスカにはわかった。

 ベリアはこれで本気なのだと。

 レイヴァースの敵。

 言うのは容易い。

 しかし今やあの小僧は星芒六カ国を動かすだけの影響力を持ち、さらには闘士倶楽部という私設軍と呼んでも過言ではないような教団を有している。

 それでも……、ベリアは挑むのだろう。

 自分という存在が、倒すべき敵に値すると姉に認めてもらうためだけに、こいつはレイヴァースに挑もうと考えているのだ。

 やっぱりおかしい、とレスカは改めてベリアを評した。


「あ、でもそっか。そうなるとやっぱりレスカさんとはお別れになるのか」

「は? どうして?」

「だってここからは私の趣味だからね、付き合わせるのは悪い」

「あー? いいよ別に。レイヴァースの奴らと事を構えるなら、私の目標でもある聖女も出てくるからな」


 これにベリアは意外そうな、そうでもないような顔をする。


「碌なことにはならないけど?」

「どうせもう碌なものではないのでな」


 ため息交じりにレスカは告げる。


「(まったく、面倒な奴に――……)」


 拾われてしまったものだ、と。

 レスカは余計な考えを打ち消すように唇だけを動かした。


これにて間章3『にぎやかな冬』は終了です。

次章――10章『魔素の王と死屍の神』は6月10日(月)からの更新を予定しています。


※誤字と文章、そして前書きの間違いを修正しました。

 ありがとうございます。

 2019/06/02


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