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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
間章3 『にぎやかな冬』編
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第621話 14歳(冬)…ティアナ校長の試練(1/3)

 去年の暮れ、一度メイドたちと話をする機会を持った。

 初期からテスターに参加していたサリス、ティアウル、リビラ、ジェミナ、リオ、アエリス、ヴィルジオは、三月いっぱいでひとまず契約終了となるため、そのあと皆はどうするつもりなのか、それを確認しておこうと思ったからである。

 あと一名、シャフリーンも初期組だが、彼女はすでに卒業してミリー姉さんの専属メイドをやっているため、わざわざ呼び出す必要は無いだろうと参加させてはいない。

 この機会を作るにあたり、おれはまずサリスに相談した。

 以前、こういう話をする際は自分に相談してからにしてくれと言われていたからである。


「そうですね、そろそろ確認しておいた方がよいでしょう。わかりました。では皆さんには食堂に集まってもらうことにします」


 こうして初期組七名は食堂に集まり、事情を説明をしたあと率直にどう考えているか尋ねてみた。


「当初とは状況もずいぶん変わってしまったし、予定が狂ってしまったのはわかるんだけど……、どうだろう?」


 皆がこの屋敷に集ったのはメイド学校を開校するための取り組み――カリキュラム構築のための一環だった。なので、おれとしてはティアナ校長の指導を受けたメイドの皆には、開校した学校で講師役を引き受けてもらえたら……、などと考えていたのである。

 しかし、今となってはそれも難しくなった。

 これはおれの知名度が増したことにより、メイド学校への注目度も上昇し、入学希望者が増大したことに起因する。

 この事態にティアナ校長は計画の見直しを迫られ、結果、王宮侍女長であった伝手を生かし、かつての優秀な部下、それからその紹介者を集め、急遽構築した短期集中カリキュラムによって熟練侍女を精鋭メイド指導員へと生まれ変わらせるという方針をとった。

 こうなると、うちのメイドたちが講師をする必要は無くなるのだ。


「ひとまず、みんなはどんなつもりなのか聞かせてくれる? おれの影響で予定が立たなくなっているところが大きいし、何も決まってないんだったらそれはそれで構わないからさ」


 そう促したところ、まず口を開いたのはサリス。


「私は御主人様と父の橋渡しという役割もありますので、これまで通りお仕えさせていただきたいと思っています」

「そうか、サリスはそうだよな」


 サリスには居てもらわないと商品の企画・販売に支障が出る。

 そこで次にティアウルが言った。


「あたいはあんちゃんのメイドだからな! 居ていいって言ってくれたからな、居るぞ!」

「うん、そうか」

「ジェミも。エイリシェ、好きにしろって。だからメイド」

「うんうん、そうか」


 おれは微笑みながら、メイドになるつもりなら二人は居残り組になるんだよ、と言いたくなるのをぐっと呑み込んだ。テスターの契約は終了するが、まだ一人前のメイドではないので外には出せないのである。

 ひとまずこれでサリス、ティアウル、ジェミナの三名は四月からもうちに残ることがほぼ決定した。

 では残る四名はどうするのか?


「ニャーはどーしたもんかニャー。一応、シャンの教育係だから、シャンが一人前になるまでは一緒に残るかニャー」


 ベルガミアの伯爵令嬢は王女のつきそいで居残りか。

 そして別の国の王女と公爵令嬢は――


「亡命してきてメイドを始めた私ですが、今はまた別の訳ありで亡命希望です! ここに置いてください! 私、まだ若いんです! 女王になるのは嫌なんです!」

「我が女王はこう申しておりますので、もう一、二年ほどお世話になりたく思います」

「そ、そうか……」


 それならそれでいいのだが……、まあ何かあればエルトリア王国から使者か何かが来て、強引に引っ張っていくことだろう。

 そしておれは残り一名に視線を移す。


「ん? ああ、妾のことは気にせんでもよいぞ。ここのメイドたちの重しとして、どっしりと構え続ける所存なのでな」


 ヴィルジオも居残り、と。


「じゃあ結局みんな残るわけか」


 それは何やら気の抜ける結果であったが……、いや、気が抜けるのではなく、ちょっとほっとしている感じかな?

 と、そこでサリスが尋ねてくる。


「あの、御主人様としては私たちにどうしてもらいたいと思っているのですか? お側に居た方が好ましいと思いますか?」

「へ? そりゃみんなには屋敷に居てもらえたらいいなって思ってるよ?」


 そう答えたところ――、うむ、と。

 皆は示し合わせたように頷き合った。


「では皆さん、そういうことで」


 そしてサリスが締め括る。


「あれ? どうしたの?」

「現在、御主人様の望みはだいたいの場合において優先されます。御主人様が私たちに居て欲しいと仰るのであれば、それはもう決定事項なのです」


 おやおや……?

 もしかして、おれはまずいことを言ってしまったのではないか?

 皆の人生に大きな影響を及ぼすような……。

 が、みんなはよかったよかったとほがらかな様子で解散していく。

 おれの心配しすぎだったかな……?


    △◆▽


 そんな話し合いがあっての翌年。

 一月中旬。

 異次元屋敷の立派な応接間に十人のメイドたちが集められた。

 サリス、ティアウル、リビラ、シャンセル、リオ、アエリス、ジェミナ、ヴィルジオ、パイシェ、そしてシャフリーンである。

 整列する皆の前にはハリセン握ったティアナ校長がおり、その傍らには話を聞いてこの取り組みを見学することになったおれとアレサが待機している。


「このレイヴァース家はここ二年、季節ごとに大きな変化を迎えてきたことは皆さんもよく理解していると思います。そして、特に昨年の秋頃から始まった変化は、それまでの変化よりもさらに大きなものであったということも。レイヴァース卿の名声はとどまるところを知らず、今や星芒六カ国の王家に匹敵する――、いえ、場合によってはそれ以上に重要な超名家となっていることでしょう」


 はは、ティアナ校長ったら大袈裟だな。

 大袈裟であってほしいなぁ……。


「そして、そんなレイヴァース卿の元には新たなる精霊門が開通したことにより、いずれは重要各国・各機関からの使者が訪れることになるでしょう。であれば、それをお迎えするわたくしどもは、レイヴァース卿が抱えるに足るメイドであることを証明すべく、間違いの無い対応と心よりのおもてなしで歓迎しなければなりません」


 おっと、そうか、そうだよな。

 おれの知名度の上昇は、そういう問題も招くわけか。


「その家に仕えるに相応しい質を持つメイド……。実を申しますと、私はみなさんで問題無いと思っています。これは高貴な身分、由緒ある家柄、特別な出自、または特殊な能力を授かっているなど、そういったこととは別の話で、意識の低い使用人が起こしがちな、ささやかな犯罪、主人への裏切り、そういったものをまったく心配する必要が無いという理由からです。これは私としても実に僥倖なことでした」


 そうだな、そういった心配は無いな。

 まあ一回だけドラ猫が出たが。


「また、いざとなれば主人のためと、自らの命を差し出そうとする方までいますからね。これはわたくたちの取り組みが、レイヴァース卿が目指す『主とメイド』という関係に近づけているという可能性を示唆するものでもあります。しかし、本来であればそれで充分であったはずなのですが……、この家だけ、そしてメイドという存在の理解者だけで良いと思われていた状況が、それではすまなくなってしまいました。この屋敷に訪れる誰もが、メイドに造詣が深い方たちとは限りませんからね、そこはこちらで対処するしかないのです」


 変にメイドを誤解され、悪評が広まっては困るということか。

 そのためにみんなには気を引き締めてもらい、メイドとは斯くなるものとむしろ宣伝させるくらいにしたい、とティアナ校長は考えているらしい。


「そこで私は考えまして、まずは皆さんが訪問された方をしっかりとお迎えできるか、確認することにしました。出来るのか、出来ないのか、そこを確かめなければ研修のしようがありませんからね」


 こうしろ、という一辺倒な指導ではなく、この試験の結果を踏まえて、個別に指導しようとティアナ校長は考えているのだろう。

 指導する生徒が少ないからこそできる指導法である。


「そして注意して頂きたいのは、今回確認するのは技術面ではなく精神面であるということです。それは良くも悪くも、メイドというものがお仕えする主人を中心とする存在だからです。例えばそれは、主人がどうでもよいと感じた訪問者には、皆さんもその意をくんだおざなりな対応をとってしまう、というような。これは直さなければなりません。今回の試みは、ある意味でその矯正のための試練とも言えるでしょう。今日この日にと選んだのは、この試練に快く協力してくれると答えてくださった方々の予定がうまく合ったからです。なるべくなら、まとめて行った方が良いですからね」


 ふむふむ、訪問客役の誰かが異次元屋敷に来るので、メイドたちはその客にうまく応対できるか、それを確認しようというのが目的か。


「それではこれから、皆さんのメイドとしての振る舞いを確かめさせてもらいます。動揺したりせず、しっかりと、失礼の無いように対応してくださいね。動揺している、または明らかに失礼を働いていると判断した時はこのハリセンでお仕置きとなりますので、そこは覚悟しておいてください。この判断はアレサさんにお願いしてあります。アレサさん、厳格な裁定をお願い致します」

「はい、お任せください」


 アレサは審判か。

 となると……、なかなか容赦が無いな。


「自分ではとても対応できない、己の未熟さを痛感したときは素直に申し出てください。こちらのハリセンを受けての退出を許可しますので。傷は浅くすみますよ。そういった判断も必要なものですから」


※誤字脱字、文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/05/15

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/05/16

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/02/28


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