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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
間章3 『にぎやかな冬』編
624/820

第614話 14歳(冬)…厚着の王様

 十二月に入ったら急に冷え込んできた。

 まだ暖かいと油断していたところだったので、これはいかんと慌てておコタを出す。

 我が家には円形の、十人くらいが一緒に入れる大きなコタツが二つあり、子供部屋となっている第二和室、それから大人たちの遊び場となっている第三和室に設置することになっている。

 第三和室に設置すると大人たちの冬の長夜がさらに長くなってしまいそうだが……、ってかなるのだが、いまさら取り上げるわけにもいかない。

 顰蹙を買うからである。

 たぶん大人げなく、なんて酷いことをするんだと文句を言ってくるに違いない。

 主に父さん、ダリス、マグリフ校長あたりが。


「なんでニャー! なんでメイドの休憩室にはコタツを置いてくれないのニャー! こうなったらニャーが買ってやるニャー!」


 過去にコタツから出なくなってジェミナとヴィルジオに力尽くで引っ張り出されることになった猫のお嬢さんが激しく憤っている。


「そーだー、そーだー、買え買えー」


 後ろにいる犬のお嬢さんはなんか適当に囃し立てる。


「実は今年は置こうかなって思ったんだけどね」

「ニャニャ!? なのにどうして置かないのニャ!?」

「コタツを置くと寝床を用意するのに手間だからさ、みんなで集まって眠るのはやめようかなって在庫確認のついでにサリスに話してみたんだけど……、文句があるならかかってこいってサリスは言ってた」

「あー、これは説得は無理だニャ……」

「んだな、人を説得する前に、まず自分に推しきれねえ……」


 猫娘と犬娘は耳と尻尾をしんなりさせて去って行った。


    △◆▽


 第二和室にコタツを設置したあと、まずセレスを呼びに行った。

 セレスはシャロと遊んでおり、その場にはピヨ、それから今日はロシャもいた。

 コタツの存在は元の世界にいる頃からシャロも知っていて、実はちょっと憧れもあったそうな。

 セレスとシャロはそれぞれピヨとロシャを頭に乗せ、おコタ、おコタ、といそいそ第二和室へ向かう。

 可愛い。

 一緒にクロアとユーニスも誘おうとしたが、二人はリィに審判してもらって熱心にデュエルしていたのでそっとしておくことにした。

 コタツでデュエルは気が抜けるもんな。

 第二和室に戻ったところで、わーい、とセレスとシャロがコタツに足を入れようとしたが――


「「???」」


 二人して困惑。

 それから布団をめくる。


「「……」」


 コタツの中にはぬいぐるみたちがみっちり詰まっていた。


「ちょっと目を離した隙にこいつらは……。ほれ、出ろ、出ろ」


 妖怪たちが渋々といた様子でコタツから這い出してくる。


「まったく。ロシャさん、こいつらってなんでコタツにもぐり込むんですかね?」

「理由か。うん? うんうん、なるほど。こやつらが言うには、屋敷の中でも特にこのコタツには――……、うーん、これはなんと言ったらいいものか、上手く説明できないが、よい気分、安らぎ、そういった場が形成されるようだ。ぬいぐるみたちは追いだされたがまだ他の精霊はみっちり――、ああわかった、すまんすまん、全然いないから気にするな」

「見えない状態のままみっちりいるんですか……」


 精霊がみっちりつまっているところに足を突っ込むのは……、まあいいか、精霊たちが気にしないならそれで。


「じゃあもう一方のコタツにもみっちり詰まっているわけですか」

「いや、あっちは邪念が渦巻いているから人気がない」

「……」


 もう麻雀は領地にある元の屋敷でやってもらおうかな……。

 そんなことを考えていたところ、部屋に新たな妖怪三体が現れた。

 クマ兄貴、プチクマ、ネビアである

 三体は意気揚々と空いたコタツに入ろうとするので、とりあえすクマ兄弟は精霊便でお外に放り出し、送れないネビアは抱えてコタツへの侵入を阻止した。


「だからおまえは潜り込んじゃダメだってのに……」

「ふしゃーッ!」


 心配してるのにめっちゃ威嚇された。

 世知辛い。


「聞き分けがない子はこの部屋に入れなくするしかないか」

「み、みゃぁ~ん……」


 今度はめっちゃ甘えた声を出してきた。

 なんて現金なやつだ。

 ともかくこれで邪魔者が居なくなり、セレスとシャロはようやくコタツに入ることができた。


「あったかーい」

「これはぬくぬくじゃのう」


 二人は寄り添ってコタツの暖かさを堪能する。


「みゃー、みゃー」


 猫が自分も入れさせろとうるさい。

 とそこに――


「ねえねえ、コタツ出したんだってー」


 精霊門でどっかに行っていた飼い主が登場。

 ミーネは鳴いているネビアを見て不思議そうな顔をする。


「どうしたの?」

「こいつ潜り込むからな。あんまりよくないのに」

「じゃあ私が抱えているわね」


 と、ミーネがネビアを受け取る。


「あら、肉球がひんやりね。温めてあげるわ。ほーら、ぷにぷにー、ぷにぷにー」


 ミーネはネビアの肉球をもみもみしながらコタツに入る。

 せっかくなのでおれも入り、しばし四人でのほほんと。

 やがて、ふと思いついたようにセレスが言う。


「シアねえさまも入れてあげたいです」

「うーん、シアはちょっとお仕事に出かけてるからなぁ……」


 迷宮都市エミルスに行きやすくなった結果、シアには妙な仕事が増えた。

 いや正確には仕事ではなく……、『ウェディング・エンジェル委員会』の名誉会員なのだが。

 シアことウェディング・エンジェルの奸計により、見事エルセナはベルラットの撃墜を果たした。

 これがきっかけとなり、エミルスで活躍する逞しすぎて相手が見つからない女性陣の力になろうと、その女性陣たちによって発足した団体が『ウェディング・エンジェル委員会』なのである。

 シャフリーン経由でエルセナの誘いがあり、本日、シアは委員会の会議に出席するようだ。

 シアが割とノリノリだったのが不安を誘うが……、まあおれには立ち入れない話だ。

 うまくいくことをささやかに祈っておこう。

 あと、アレサは今年の大晦日から始まる新年祭の会議に出席するために聖都へ出かけている。

 去年はちょっとした顔出し程度だったが、今年は勇者委員会関係で動いてもらった恩があるのでちゃんと参加しないといけない。

 こうなると屋敷で新年を祝えないので、今回はもういっそみんなを聖都に誘ってお祭りを楽しんでもらおうと思っている。


「んー、じゃあコルフィーを入れてあげたいです」


 コルフィーか。

 篭もってる砦から出て来てくれるかだな。

 と、そこでシャロが言う。


「婿殿、実はそのコルフィーなのじゃが……」

「うん?」

「気づくとな、何やらただ事ではない目でわしを睨み付けておるんじゃ。のう、わし、何か気に障ることをしてしまったのじゃろうか?」


 シャロは不安そうにしているが……。


「あ、それはたぶん――」


 と、おれが言いかけたところでセレスが口を開く。


「ちがうよー。コルフィーはね、シャロちゃんに服をつくってあげたいの。いまシャロちゃんはセレスの服をきてるでしょ? だからシャロちゃんのための服をね、つくってあげたいなって。たぶん」


 そのセレスの予想はまず間違いなく正解だろう。

 ってかそれ以外に何があると言うのだろうか?

 しかしシャロはコルフィーと会って日が浅く、そうは言われてもなかなか信じられないところもあるだろう。

 おれはちょっと退室し、コルフィーの所に確認をしに行ってみたところ……、コルフィーは現在進行形でシャロの服のデザインに取り組んでいた。

 せっかくなので、そのまま連れて第二和室に引き返す。


「すみません、まさかシャロさんを不安がらせていたとは」

「いやいや、わしの方こそ変に疑ってすまなんだ」


 誤解が解けたあと、コルフィーはあれこれとデザインしていることを話して聞かせる。


「ただ、やっぱりわたしでは、これだ、というものになりませんね。まあ普段着ならいいんですが、シャロさんに初めて贈るものとなったら気合いを入れたいじゃないですか」


 それでめっちゃ観察していた、と。

 気合いが入りすぎて大魔道士シャーロットを不安がらせるとかどんだけなんだ。


「本当は密かに仕立てて贈りたかったんですけど、バレちゃったことですし、ここはもう兄さんに協力してもらいましょう。ってか最初は兄さん手ずからの服を贈った方がいいですかね? そうでないとシャロさんだけ仲間はずれです。兄さんが考えて、兄さんがせっせと縫った服を贈らないと」

「婿殿の仕立ててくれた服か。良いのう。良いのう」

「どうせなら一着とは言わず、何着でもいいんじゃないですかね。兄さんには剣の素材にと取り上げられた針を返してもらわないといけませんし。この際、十着くらいいっちゃいましょう!」

「いやそれはどうかと」


 さすがに大変だ。

 みんなへの贈り物としてせっせと仕立てた経験があるからわかる。

 コルフィーにとってはその苦労が悦楽の日々なのだろうが。


「いやいや、コルフィーよ。婿殿をあまり働かせてはいかん。もし頼めるなら一着。それで良いのじゃよ」

「む。そうでした。兄さんたらポンコツで。早くちゃんと良くなってくださいよ、もう。では針はしばらくお預けですね」

「あー、えっとな、シャロには一着仕立てるとして、あと前に相談したリマルキス王に贈る服をそろそろ仕立てようと思ってるんだ」

「ああ、あの話ですか。いいかもしれませんね。これでもかと兄さんが真心を込めるなら、針も変化してくれるかもしれません」

「リマルキス? シ――、あー、っと知っておるぞ。メルナルディアの少年王じゃな。仕立ての依頼を受けておったのか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけどね」


 リマルキス王に会ったのは、ルーの森での騒動が終わったあと。

 そう重要な話ではないのでシャロには話していなかったが。


「そのときのリマルキス王の姿がなかなか凄い状態だったんだよ。従聖女を連れて、さらに魔装とお守りを重ねに重ね、まともに肌が露出している部分が無いくらいだった」


 もしものことを防ぐための処置だろうが、外出するのにいちいちこれでは、さすがに大変だろうと気の毒になったのだ。


「厚着の王様か……、幼いのに苦労しておるのう」

「そうなんだ。だからね、せめてそんな厚着しなくてもすむようにしてあげたいなって思ってさ」


 話してみての印象は悪くない。

 いや、だいぶ良い。

 大変な身の上にもかかわらず、王として頑張る姿勢には好感が持てるし、ちょっとシンパシーも覚える。

 それをざっと話すと、シャロはすっかり納得したようにうんうんとうなずいた。


「なるほどのう、婿殿はリマルキス王を放ってはおけんか」

「なるべくなら手助けしてあげたいなって」


 あのくらいで王様やるってのはさぞ大変なことだろう。

 ただの傀儡なら楽なんだろうけど、そんな雰囲気はなかったし。


「その王さま、ごしゅぢんさまみたいなんですか?」

「そうだなー、色々と苦労があるけど頑張ってるところとかはそうかもなー。おれとあっちとどっちが大変なんだろう。まあおれも大変だけど一国を背負ってるわけじゃないし」

「いや婿殿は大陸の命運を背負っておるんじゃが……」

「……あれ?」


 おれ、めっちゃ大変だった。


「では兄さん、シャロさんの服を一着、それからリマルキス王に贈る服を一着ということでいいですね? それではちょうどシャロさんがいることですし、ここでどんな服を作るか決めてしまいましょう。さあさあ、ちゃっちゃと描いてください! とりあえす候補を五着くらい! その中で一番シャロさんが気に入ったものを仕立てましょう!」


 ――とりあえずいくつか候補をお願いね、気に入ったら採用するから。

 デザインの仕事で嫌がられる提案である。

 しかしこれは仕事ではない。

 ならば受けなくてもいい――、とはならない。

 むしろ受けざるを得ない。

 ひとまずおれはシャロに似合いそうなデザインを頭を悩ましながら描くことになった。

 まあ不採用のデザインは、後日コルフィーが仕立てることになるので、描いても無駄にはならないのだが。

 おれがあーでもない、こーでもないと拙いデザインに取り組んでいたところ、セレスとシャロがコタツの中をもそもそ移動しておれの左右に陣取った。


「セレスもかきます」

「わしもわしも」


 興味を持ったセレスとシャロがデザインに参加して、ならばとコルフィー、そしてミーネもこれに加わり、お絵かき大会へと発展する。

 女の子というものは素敵な服の絵を描こうとするものなのだな、となんとなく納得していたが、ミーネだけは『精霊王デュエルモンスターズ(仮)』の新モンスター(?)を描いていた。

 これはヴィグレンお兄ちゃんが頑張ることになる案件だな。

 まあなんだかんだで楽しんでいると、デュエルを終えたクロアとユーニス、それから付き添いをしていたリィがやってきた。


「ミー姉さん、それは?」

「ふっふっふ、これはね、新しいモンスターを考案してるのよ!」

「あ、それぼくもやりたい!」

「ぼくも!」


 クロアとユーニスが興味を示したのは、やはりオリジナルモンスターの考案だった。

 二人はもそもそとコタツに入ると、さっそくお絵描きに取り組み始める。

 男の子というものは強そうなヒーローとか怪獣を描こうとするものだからな。

 こうしてみんなでお絵描きに勤しむなか、リィは我関せずでコタツに入っていたのだが……、やがてちょっと複雑そうな顔でシャロを眺め始めた。


「ん? どうしたリィよ、なんぞわしが気になるのか?」

「気になると言うか……、そうも懐いているのを見るとなぁ……」


 リィからすれば師匠がおれにぺたっとくっついている様子が色々と気になるのだろう。

 シャロは屋敷にだいぶ慣れ、電池が切れてぬいぐるみに担がれる度に威厳を保とうとするのを諦めていき、今では子供っぽい行動が目立つようになっている。

 周りがそう扱うからか、それともセレスに影響されたのか。

 まあそんなシャロなので、おれに甘えていても妙な印象は感じなくなっているように思う。

 でもリィからするとやっぱり妙なのかな。


「なんじゃー、文句あるのかー」

「いや文句ってわけじゃないんだけどさ……、師匠が娘の息子に甘える姿を見る弟子の気持ちにもなれよ」

「ふん、そんなもの、お主も相手が出来ればどうしようもないとわかるわ。と言うかリィよ、お主、相手はおらんかったのか? わしと離れてからけっこうな時が流れたわけじゃし……」

「いいんだよ私は。興味ねえから」

「興味無いとか言っておるとあれじゃぞ、かつてのわしの二の舞じゃぞ。お主はまだ若い姿なんじゃから」

「だからいいっての、そういうのは……。あ、いや、ほら、私にはクロアがいるから。な!」

「はい!」

「リィ、お、お主、いくらなんでも歳という――……、いや! なんの問題もないな! クロアよ、リィを頼むぞ。こう見えて寂しがりやなのでな!」

「はい!」


 あれ、クロアけっこう乗り気?

 リィなら……、べつに問題無いか。

 ただそうなると今度は母さんが妙な感じに……、いや、普通に喜ぶ可能性の方が高そうな気がする。

 父さんはびっくりするんじゃないかなー。


※誤字脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/05/01

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/04/05


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― 新着の感想 ―
[一言] リィとクロア…!?これは意外過ぎる…!!! でも、クロアくんは絶対良い男になるから、頑固なリィを宥めたり支えたりと案外良い感じになれそうでもあるな…! ヤバい、気になって夜しか眠れん…!
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