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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
9章 『奈落の徒花』後編
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第601話 14歳(秋)…びっくり祭り

 シャロがちっこくなった翌日。

 竜皇国に別れを告げ、おれたちは精霊門をくぐってザナーサリー王国の王都エイリシェへと帰還した。

 思えば竜皇国は一週間にも満たない滞在期間であったが、何かと濃い時間を過ごすことになった。

 おれはすぐ屋敷へ帰るつもりでいたが――


「のう婿殿、少し王都を見て回りたいんじゃが……」


 もじもじとシャロが言う。

 シャロからすれば三百年ぶりの王都、様変わりした様子を見たくなるのも当然だ。

 そこで軽く王都観光をすることにして、これにはおれと金銀赤、それからリィとロシャが付きあうことになった。

 ティアウルとヴィルジオの二人には、先に屋敷へと帰還してもらいシャロが屋敷の仲間に加わることを伝えてもらうことにする。

 みんなも心の準備とかいるだろうしな。


「おー、ずいぶん発展したのー」


 はぐれるかもしれんから、とおれの手をしっかり握り、頭にぺとっとロシャをくっつけたシャロはきょろきょろしながら都市の様子を眺めては感心している。

 様子だけ見れば、もう完全に初めて都会へやってきた幼女である。


「名所とかに案内できたらよかったんだけど、おれって未だに王都のことをよく知らないんだ」

「ふふ、観光地に住んでおる者は案外そんなものじゃよ。気にすることはないぞ。ただこうして町を歩くだけでも、婿殿と一緒ならわしはそれだけで楽しいからの」


 シャロの声は弾んでおり、建前やお世辞で言っているわけではなさそうだ。


「おい師匠、そいつばっかりひいきしてると、頭の上にいる小動物が拗ねるぞ」

「んお? 拗ねておるか? ふふ、もちろんロシャと一緒なのも嬉しいぞ。それにリィ、お主もな」

「拗ねてない」

「私は関係ねえだろ」


 素っ気なく言うロシャとリィだが……、まあ内心は違うのだろう。

 それからおれたちは王都の正門正面広場へと訪れる。

 この広場の目玉となるのは、言わずと知れたシャーロット像(2号)である。


「む、むぅ、ちょっと照れるの」


 凛々しいシャーロット像を眺め、もじもじするシャロ。

 喜ぶかと思ったが、ちょっと困らせてしまった。

 そうだな、おれも自分の像が偉そうにそびえ立っていたら何とも言えない気分になるな。

 これは失敗だった。


「き、今日はこれくらいにして、そろそろ屋敷に戻ろうか」

「うむ、そうじゃの。あとは後日の楽しみするとしよう。わしはもうここでのんびりできるんじゃからな!」


 シャロ様は凄く嬉しそうだ。


「婿殿、戻りながら屋敷にいる者たちのことを少し話してもらえるかの?」

「ああ、じゃあ簡単に……」


 屋敷やそこで暮らす皆のこと。

 シャロなら見ればわかるのだろうが、話をするとなるとまた別、おれからある程度聞いていた、としたほうがスムーズに進むだろう。

 ひとまず家族構成からかな、と思っていたところ――


「シャロシャロー! こっちこっちー!」


 ミーネが広場の隅で開かれている露天でシャロを呼ぶ。


「むむ? 婿殿、あれはなんじゃ?」


 シャロが指さすのは、広場の隅で開かれている露天。

 そこでは聖女の折檻で更生した灰者さんたちが製作したシャーロット像の販売が行われている。


「ああ、あれはお土産用の小さい像を売ってるんだ」

「像って……、あれか。欲しがる者がおるのか?」

「昔おれ百個買おうとしたけど……」

「どういうことじゃ!?」


 シャロがびっくりする。

 簡単に道祖神にしようとしたことを説明しておいた。


「いや、しかし百個って……、婿殿、わしを好きすぎじゃろう。そんなに好きなら結婚してくれてもよいではないか」


 ちょっと拗ねたようにシャロが言う。


「そ、それは憧れだったから、うん」

「推しのアイドルがいきなり現れて結婚してくれって言っているようなものなんですよ。さすがに戸惑いますって」


 シアが助け船を出してくれる。


「アイドル? あー、ああ、知っておる。馴染みは薄いがな。要はなんらかのスターが、ということじゃな。なるほどのう」


 誤魔化せた。

 シアに深く感謝しつつ、おれたちは手招きをしているミーネの所へ。

 並べられているミニチュアなシャロ様像。

 それはシャロもわかっていたのだが――


「なんぞこれ!?」


 厳かに寝そべる涅槃仏姿は想定外だったらしく、度肝を抜かれたように声をあげることになった。


「どうして寝ておるんじゃ……?」


 そう困惑するシャロに、答えられる者はいなかった。

 でも答えないとなぁ……。


「実はあそこにある像は二代目でさ、初代はなんだかんだあってうちにこっそりやって来てしばらくこうやって寝てたんだよ。それでこの像が作られたんだと思う」

「?」


 この説明にシャロはぽかんと。


「婿殿、よくわからん。像が寝に来たとかどういうことじゃ?」

「もともとは普通の像だったんだけど、王都に出現した怪人が像を精霊たちの依代にしたんだ。それで精霊たちは像に宿ったまま、戻って来たと言うかなんと言うか……」

「なんで婿殿の屋敷に来てしまうんじゃ?」


 まあそう疑問を持ちますよね。

 するとそこで、リィがうんざりしたように言う。


「その精霊、こいつの屋敷に住んでんだよ。つか、そもそもその怪人ってのがこいつだしな」

「???」


 ダメだ、断片的な説明ではシャロを混乱させるだけだ。


「シャ、シャロ、詳しくはあとで説明するよ。少なくともベルガミアでの騒動から説明しないことには、どうしてそんなことになったのか理解してもらうのは難しいだろうからさ」

「そんな大変な理由があるのか……!?」


 大変と言うか……、まあ変ではあるが。

 ひとまずおれがこの場を誤魔化そうとする一方――


「あー、なるほどー、わかってもらうために説明することがいっぱいすぎて面倒くさくなるのってこういうことなのね……」


 ミーネがなんか一人納得していた。


    △◆▽


 それからおれたちはシャロを連れていよいよ屋敷へ。

 みんなへの説明はティアウル……、はちょっと無理だな、きっとヴィルジオがうまく説明してくれているだろう。

 そしてもうすぐ屋敷へ到着するとなったとき――


「わん! わんわん!」


 敷地の入口で待っていたバスカーがこちらへと駆け寄ってくる。


「おー、バスカー、ただいま」

「わん! へっへっへ!」


 しゃがみ込んでわしゃわしゃしてやるとバスカーは喜んで悶えた。


「ふふ、可愛いのう。この種は知っておるぞ。確かシバと言うんじゃ……、じゃない!? なんぞこれ!?」


 おっと、シャロをまた驚かせることになってしまった。

 そう言えば犬と鳥のことは説明してなかったな。


「こいつ、実はシャロがバスカヴィルと名付けたスナークの成れの果てなんだよ」

「バスカヴィル!? 成れの果て!? 成れの果てってどういうことじゃ!?」


 あれ、びっくりが止まらない。

 するとロシャが小さくため息をつき、そっと言う。


「シャロ、彼は『スナーク狩り』だろう?」

「はあ……。はあ!? 初耳じゃぞそんなん!」

「ん? 称号の確認はしていなかったのか?」

「ごちゃごちゃすぎてしっかり確認はしておらん!」


 え、おれの称号ってそんなことになってんの?

 まあそれは忘れることにして、おれはシャロに落ち着いてもらおうと話しかける。


「ごめんごめん、そういう話はさ、屋敷で落ち着いてからって思ってたんだ。ってか、その説明もベルガミアからになるな」

「え、ちょ、婿殿!? 本当にスナークを倒したのか!? あれ倒せるようなものではないぞ!?」

「正確には倒してはないんだよ。浄化して精霊に変えただけで」

「精霊!? もっと難しいわそんなん!」

「あれ? そうなの?」

「いや婿殿? え、婿殿ちょっとおかしいぞ? おいロシャ、婿殿はどうなっとるんじゃ!?」

「どうと言われても……。困ったな。私もだいぶ慣れてしまっていたから」

「師匠師匠、あんまり難しく考えるな。こういう奴だから」


 妙に優しげな表情でリィが言う。

 自分もこんなだったなーとか思ってるんだろう。


「こういう奴ってそんな……、え、ちょっと待て。婿殿は他にも何かやっておるのか? 慣れてしまうくらい?」

「大きなところだけだと……、ベルガミアとエクステラで起きたスナークの暴争に参加して、押し寄せたスナーク全部精霊に変えた」

「はあぁ!?」

「んで、魔王になりかけた奴を元に戻した」

「ほわぁ!?」

「あと、邪神の誕生を阻止した」

「?」


 シャロが目をぱちくりする。


「え、邪神?」

「うん、邪神」

「いやいや、いやいやいやいや、それ本当に邪神か? さすがにそれはないじゃろ。まず邪神が何か知っておるのか?」

「世界樹計画だろ?」

「本当に邪神誕生阻止したんか!?」


 くわっとシャロが目を剥いておれを見た。


「お、おかしいぞ! おかしい! 婿殿おかしい! おかしい!」

「はは、だよなー」


 嬉しそうにリィが同意する。

 それからしばらくシャロは興奮状態だったが、やがて落ち着いてきたところでおれに謝ってきた。


「む、婿殿、すまぬ……。あんまりびっくりしたもので、つい失礼なことを言ってしまった……、本当にすまぬ……」

「いや、慣れてるから」


 リィにさんざん言われたからなー……。

 と、そのとき――


「ぴよー!」


 ピヨがふわふわーっとこっちにやって来た。


「ヒヨコが飛んできたーッ!? ってこやつもそうか!」


 困った、シャロのびっくり祭りが終わらない。

 屋敷はもう見えているのに、連れて行くのが心配になってきた。


「ぴよっ、ぴよよ!」


 ピヨはおれの頭に乗っかり、ぴょんぴょんしながら何かを訴えるように鳴くと、すぐに飛び立ち屋敷へと戻っていった。


「なんだったんだ?」

「皆が待っているらしいぞ」


 いまいち何をしにきたのかわからなかったピヨだが、リィが翻訳してくれたことで理解した。


「あ、そうか。シャロ、詳しくはあとでゆっくり説明するから、まずは屋敷へ行こう。そこでもまた驚くかもしれないけど……」

「う、うむ、わかった。そうじゃな、皆を待たせるのは悪いからな。頑張って驚かんようにするぞ」


    △◆▽


 屋敷の玄関前にはみんなが集まっていた。

 おれの家族にメイドたち、それからティアナ校長やデヴァス、そして妖怪(犬、ピヨ、ニャン、クマ兄弟を始めとしたぬいぐるみ、ピエロ、妖精たち、メタルスライム)と勢揃いだ。


「……?」


 いや、勢揃いじゃない。

 父さんがいない。

 どうしたのか聞いたら、シャロがおれのお嫁さんになりたがっていると聞いて倒れてしまったようだ。

 そんなにびっくりしたのか……。


「うむ、ではローク殿には改めて挨拶することにしようかの。なんせわしの義父になる方じゃからな! ここはしっかりせんとな!」


 シャロが気合いを入れている。

 父さん、また倒れるかも。

 それからシャロは皆の前に出て言う。


「もう聞いておるとは思うが……、わしはシャーロット・レイヴァースじゃ。大層な伝わり方をしておるようじゃが、今のわしはこの通りただの小娘、特別扱いなどせんでもよいからな。畏まったりせず、仲良くしてくれると嬉しいぞ」


 にっこり笑うシャロに皆の緊張は少し解けたようだ。

 姿がちっこい幼女であることのほか、駄目押しに頭にロシャを乗せているというのが大きいかもしれない。

 何だかよくわからない存在を頭に乗せているというのは、我が家ではわりとよく見かける光景だからである。

 主にセレスだが。

 それから集まった皆が順番に挨拶する。

 まずは前当主の母さんから。

 ちょっと興奮している。

 まあシャロは魔導学の提唱者だからな、仕方ない。

 それからクロア、そしてセレスと続いたのだが――


「シャロちゃん?」

「うむ、シャロちゃんでよいぞ」

「シャロちゃん、ロシャちゃんはシャロちゃんのなの?」

「そうじゃ、わしの精霊じゃ」

「セレスもね、ぴーちゃんがいるの。いっしょ!」


 そう言って頭にピヨを乗っけたセレスはにぱっと笑う。

 シャロもつられて笑った。


「婿殿の妹はえらく可愛らしいのう。これから屋敷で世話になる。仲良くしておくれ。頭に精霊を乗っけておる者同士じゃ、友達じゃな」

「友だちー」


 シャロとセレスがきゃっきゃと喜び合う。

 頭に謎の存在を乗っける者同士、セレスは不思議なシンパシーを感じ取ったのかもしれない。

 そうか。

 とうとうセレスに同い年の友達ができたか。

 ……。

 ダメだ、自分を誤魔化しきれない。

 でも同い年に見えるから……、まあいいんじゃないかな?

 それからは特に何事もなく自己紹介が続く。

 クマ兄貴がぬいぐるみと精霊代表として、精霊文字で挨拶したことにはシャロは唖然と。

 そしてすでに顔合わせ(?)をした犬とヒヨコ、続いて猫も紹介を受ける。


「わん!」

「うむ、お主はバスカーじゃな」

「ぴよ!」

「うむ、お主はピスカじゃな」

「にゃー」

「おうおう、可愛らしいにゃん――、霊獣!?」


 プチどっきり。

 それから妖精たちはピネが代表で挨拶をする。


「へへ、あたいらはルーの森で暮らしていたケチな妖精でさあ。シャーロットの姉御とはこれから何かと顔を合わせることになると思いやすが、どうぞよろしくしてくんなせえ」

「こ、ここの妖精はわしの知っておる妖精とだいぶ違うのう……」


 怒らせたらヤバイ相手ということは伝わった結果だろう、下手に出すぎておかしくなったピネたちはシャロを愕然とさせていた。

 つかピネたちってやっぱおかしかったんだな。

 そして――


「おいっス、おいらメタマル! 悪いスライムじゃねえゼ! よろしくナ!」

「?!??!!?」


 いかん、シャロが大混乱だ。


    △◆▽


 顔合わせが終わったあと、おれはシャロに屋敷の案内をすることにした。

 シャロの手を引き、屋敷のどこに何があるかをゆっくり順番に説明していくのだ。


「ふふ、わしはこれからここで暮らすのじゃな」


 ちょっと屋敷を案内されるだけでも、シャロは嬉しそうだ。


「ロシャとずっと一緒じゃないのは残念だね」

「うむ、そうじゃな。戻ったら可愛がってやらんと」


 ロシャは仕事があるらしく、シャロを残して出掛けていった。

 これからはシャロが暮らすこの屋敷を拠点とし、ここから仕事に出掛けて、片付いたら戻って来るようにするようだ。


「ところで婿殿、わしはぬいぐるみたちに警戒されておるのか?」


 おれたちの様子をぬいぐるみたちは離れてこそっと窺っている。

 前方からこそっと、後方からもこそっと、天井あたりからはふわふわと。


「警戒じゃなくて興味があるんじゃないかな? 普段は隠れている精霊たちもけっこう姿を見せているし」


 シャロが気になるのか、ぬいぐるみだけでなく精霊も姿を現して屋敷をふわふわ舞っている。

 シャロがそっと手を伸ばすと、精霊たちはするすると集まってきて無邪気にシャロの周囲を舞った。


「そうか、この世界はこんなにもファンタジーじゃったんじゃな……」


 シャロは感慨深そうに言う。

 それがちょっと寂しげな顔だったので、おれは気をそらそうとぬいぐるみについてもう少し話をすることにした。


「あのぬいぐるみたち、今は落ち着いたけど昔は派閥争いが激しかったんだよ。毎日どっかで抗争を起こしてたんだ」

「こ、抗争……? あのもふもふたちが……?」

「うん。まあ群れてぽふぽふ叩き合うだけだったんだけど」

「そ、それはちょっと見てみたかったのう」


 シャロは可愛いもの好きかな?

 あ、ロシャの姿があれなんだからそうに決まってるか。

 それからもおれは屋敷の案内を続けたが、そろそろ終わりとなるところでシャロに尋ねた。


「シャロの部屋はひとまず空いているところを選んでもらおうと思ってるんだけど、それでいい?」

「かまわんぞ。あ、そうじゃ」

「うん?」

「のうのう、夜は婿殿と一緒に眠ってもよいか?」

「え、おれと? ならみんなと一緒になっちゃうんだけど……」

「みんな?」


 答えてみたが、シャロはよくわからずにきょとんとすることに。

 まあそれもそうか。


「ちょっと事情があって、大勢で一緒に寝ているんだ」

「みんなというのは?」

「え? えっと……」


 名前を列挙していくと、シャロは難しい顔をして唸り始めた。


「ま、まあわかった。わかった。では婿殿、今夜からはわしもそこに参加させてもらうぞ。あ、そうじゃ。のうのう、今晩は新参者優先ということで、わしが婿殿の隣で寝てもよいか?」

「それはかまわないけど……」

「うむ、ならばよし!」

「じゃあ、眠るときにシャロが気になっている話をしようか。おれが生まれてから、今日に至るまでのまあ色々とさ」


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/04/04


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