第6話 0歳3ヶ月(秋)
やあやあ!
おれ生まれたての0歳三ヶ月!
名前はセクロスだってさ!
イヤッフォォォ――――イ!
「アハハーィ、キャッキャ!」
ヤケになってるおれの意識にあわせて、揺り籠に寝かされているおれの体は両腕をしゃかしゃかさせて大はしゃぎだ。
うん、いまいち意識と体の連動がうまくいっていないねこれ。
なんか意識にあわせて動く人形のような感じだ。
とはいえ最初に比べたらかなり馴染んできた。生まれたての時はまったく体との連携がとれず、ひどくもどかしい思いをした。現在は意識したほうへちょっと首を傾けることができるようになっている。もっとも、視力はまだかなり弱くて自分の周囲にあるものくらいしか焦点があわないんだが。
そんなはしゃぐおれを見下ろしている人影はおそらく両親だろう。
父親と母親の区別くらいはできるが、顔立ちや表情などはまだ読み取ることができない。
「セクロス、――――――、セクロス」
「――――――――、セクロス。――――」
言葉がわからん。
たぶん今の状態では日本語であってもうまく聞き取ることができないんじゃなかろうか。
うん、どういうわけか理解できる単語はあるんだけどね。
おれの名前なんだけどね!
つかなんだよセクロスってよぉ!
あのクソ神なにが許容できる名前にするだ、ぎりぎり許容できねえよ!
小さい〝つ〟を消して〝ろ〟を追加しただけじゃねえか。
てかほかに変えようがあるだろうがボケが!
どうして〝せ〟に点々つけなかったんだあの神は!
ゼックス!
いいじゃねえかゼックス!
濁音最高ゼックス!
これなら許容できる! いやいや許容どころか大歓迎よ!
さらに促音を消して――
ゼクス!
これならもう文句なしだったよゼクス!
なのにおれはセクロス!
セクロォース!!
微妙にかっこいい響なのがよけいにおれをいらだたせるセクロォォ――スッ!!
「アブブゥ、ブー、ブゥー」
おれの怒りに呼応して赤ちゃんボディが奮起する。
「――――――セクロス、――――――――?」
「――――――、――――? ――セクロス、――――――」
やめろぉぁ!
おれの名前を呼ぶぬあぁぁ!
「ブゥ……、アゥ、ブ、ビェェ――ン!」
おれが嘆けば赤ちゃんボディは泣く。
となれば両親はさらにおれをかまうわけで……
「セクロス? ――――セクロス、セクロース」
「セクロス、――セクロス、――セクロス」
連呼。
セクロスという言葉をモールス信号みたくつかう言語なのかと疑いたくなるような連呼。
もう笑うしかねえなこれ。
「キャッキャッ! アハーィ、アーイ、ウー!」
だからおれのボディよ!
おれは喜んでるわけじゃねえんだよ!?
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/08/30