表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
9章 『奈落の徒花』後編
597/820

第588話 14歳(秋)…INTERVAL―スタンド・バイ・ミー

 強制的に【拠点】に戻されたおれたちは、衝撃的と言うよりもちょっとあんまりな展開に茫然としたままだった。

 あれでカルスとアヴァンテは袂を分かつことになったのか?

 いや、イリスを自由にするため、カルスが苦渋の選択をしたということはイリス、そしてアヴァンテもいずれ理解するだろう。

 もちろん納得するかどうかは別として、なのだが。


『さて、次の六章は前回よりもさらに長い期間――三年が経過したところから再開されることになる』


 三年?

 確か最初にシャロ様は、おれたちが放り込まれるのは魔王が誕生する数年前を再現した世界と言っていた。

 ならば、もういよいよ魔王の誕生が近いのだろう。


『見守ることしか出来ないでいるのはつらいだろう。しかし、そのつらさも含めて君たちには知ってもらわなければならない事実がある。どうかここで投げだしたりせず、最後まで頑張ってもらいたい』


 そしてNPCロシャのウィンドウに【三年経過させる】の項目が追加された。

 身体的な疲れは感じないが、精神的にはひどく疲弊している。

 行き着く先が悲劇的な結末でしかないというのが、余計に気分を憂鬱にさせて気力を削いでくるのだ

 このまま進むか、休憩をいれるか。

 確認を取ろうとしたところ――


「……」


 ミーネが黙ったままNPCロシャに近づき、【三年経過させる】をタッチしてしまう。

 いや、タッチしていない。

 ミーネの指は画面に触れる寸前で止まっていた。


「……ッ」


 葛藤があるのだろう、タッチすることも、それをやめることも出来ずそのままの体勢でミーネは動きを止めてしまっている。

 これじゃあ休むに休めないから――。

 半分まで来たならあとは一気に――。

 そう言っていたミーネは、もうこの先に希望が無い――あの四人が笑い合う未来は無いことを悟ってしまったのだろう。

 最後まで進めて結末を確かめたい気持ちもあるだろうが、もう先を見たくないという気持ちがそれに拮抗してしまっているらしい。

 それはおれも同じ、アレサも同じ。

 努めて冷淡な目で夢の世界を観察しているシアだって、内心は同じなはずだ。

 だいぶ意識が引きずられている。

 ここは一度現実に帰還して、意識をリセットした方がいいのだろう。


「ミーネ、一度現実へ戻ろう。な?」


 ウィンドウに伸ばしたままのミーネの手を取り、下ろさせる。

 ミーネは抵抗をせず黙りこくっていたが、やがて【帰還】の項目にタッチしてさっさと現実に帰還してしまった。


「ミーネさん、まいっていますね」


 アレサが心配そうに言う。


「自分の先祖の話で、おまけにイリスさんが自分にそっくり。私たちよりもずっと複雑な心境なんでしょうね」

「そうですね。しかし、かといっていまさら現実で待機させるわけにはいきませんし……」

「ええ、それでは収まりがつかないでしょう。向こうでは長めに休憩をとって落ち着かせた方がよいでしょうね」


 そうアレサが心配する一方、シアも内心は同じのようで、すごく何か言いたげな顔をしておれを見つめていた。

 たぶん戻ったらミーネを励ませということなのだろう。

 おれたちは少し話し合い、ミーネを追って現実へと帰還した。


    △◆▽


 二度目となる現実への帰還。

 一度目のような苦痛は無かったが、意識の混濁の方はどうにもならないようでやはり不愉快な目覚めとなった。


「あんちゃん、やっぱりつらいかー?」


 意識がはっきりするまでは下手に動かない方が良いと一度目で学習していたこともあり、おれは横になったまま、ティアウルに頭をさすりさすりされていたが――


「ん? どうしたミーネ? 私を撫でたいのか? ちょ、ちょっと待て! おおぉい! もう少し優しく頼むぞ! いや逆撫ではやめい! こら、こねくり回すな!」


 ロシャの戸惑う声が。

 気になって体を起こしてみると、わさっと毛羽立ったロシャがぐったりした様子でふよふよ浮かんでいた。

 ミーネの姿は……、無い。


「あれ、ミーネはどこに?」

「ミーネならロシャを撫でくり回してすぐ上へ行ったぜ」


 リィが扉を指しながら教えてくれる。

 そうか、ロシャをモフりまくるだけでは溜まったストレスすべてを解消することはできなかったか……。


「主殿、ミーネはだいぶ表情が硬かったが……、向こうで何かあったのか? 寝間着姿はまあいいとしても、剣も持たずに行ってしまったのはミーネらしくない」


 外出する時は常に帯剣しているミーネだ、もう安全とは言えここは迷宮内、ヴィルジオが指摘する通り手ぶらで行ってしまうのは確かにミーネらしくない行動である。


「あんちゃん、ミーネどうしたんだー?」

「それなんだがな……」


 様子の違うミーネを心配する皆に、おれは向こうであったことを説明した。


「なるほど。やはりミーネはつらいか……」


 ロシャはミーネの様子がおかしいと理解して、敢えて抵抗せずもふもふされてくれたのだろう。


「ロシャさん、一つ聞きたいのですが、この装置で再現されている世界と、クェルアーク家に伝わる日記、どちらが実際の過去に近いんですか?」

「夢の世界の方だな」


 やはり、か。

 つまりイリスとラヴィアンは実在の人物だった、と。


「日記がなんのために存在したのか、それを教えてもらうわけにはいきませんか?」

「すまんが言えん。それは夢の世界で理解するだろう。おそらくはあともう少しだ」

「もう少し、ですか……。ん?」


 と、そこでシアがおれをつんつんしてきた。


「ご主人さまー、ミーネさん見に行ってあげませんと」

「わかってる。じゃあそっちは先に休憩していてくれ。おれはミーネの様子を見に行くから」


 そう言い残し、それからおれはミーネを追って螺旋階段をのぼり始めた。


    △◆▽


 そう言えば螺旋階段は超長かった。

 つらい。

 しかしつらいからと、このままミーネをほったらかしというわけにはいかないのでおれは頑張った。

 しかし十分ほど上ったところ――


「あれ?」


 てっきり上の広場まで行っていると思われたミーネは、階段の途中で座り込んでしょんぼり俯いていた。

 考えてみれば、一人になりたいのならわざわざ広場まで行く必要は無いか。

 おれはそのまま階段を上り、以前にもこんな様子のミーネを見たことがあるなーと考えながら隣に腰を下ろした。

 それからしばし寄り添っていたが、ミーネが何も言おうとしないのでこちらから話しかけようとしたところ――


「日記と違う」


 ぽつり、とミーネは言った。


「そうだな」


 日記とて、痛快な冒険活劇というわけでもなく、どちらかと言えば悲嘆の滲むものであったが、それでも夢の世界で展開されるような悲劇的なものではなかった。

 いやそもそも――


「どういうことなの。どうして日記にはイリスとラヴィアンの名前が一度も出てこなかったの? なに、あの二人は夢の世界のために用意された人物なの?」


 そう、日記には夢の世界での出来事がさっぱり出てきていないのである。


「さっきロシャに聞いたんだが……、日記よりも夢の世界の方が現実に近いらしい」

「じゃあどうして書かなかったの? あの二人のことを書かないなんておかしいじゃない」

「何か理由があったんだろうな。あの日記はそれを隠すための、よくできた物語なんだと思う。こういうことがありました。だから、これ以上のこと、余計な詮索はするなっていう」


 そう言うと、ミーネは顔をあげておれを見た。


「日記がおかしいってわかってたの?」

「まあな」

「どうして教えてくれなかったのよ」

「おまえんちに伝わる大事な日記だ、下手なことは言えないだろ」

「でもシアには教えたんでしょ?」


 それは少し責めるような声。

 さすがのおれも誤魔化していい状況と、そうでない状況の区別くらいつく。


「ああ、教えた」

「どうして?」


 どうして、か。

 どうしてだろう?

 理由は幾つか思いつくが、それを言う前にミーネがさらに続ける。


「本当に重要なことはシアにだけ話すの? それはシアにだけわかっていることがあるから? それがわからないと私はのけ者なの?」


 今度は少し悲しそうな声。

 おれとシアに何かあると薄々気づいてはいたが、そのうち話してくれると考えていたのだろうか?

 今回はそれが我慢できなくなったのか。


「んーとな、おれにはさ、でっかい秘密があるんだよ」

「秘密?」

「ああ。で、それはあんまり人には知られたくないことなんだ」

「だからシアだけに教えたの?」

「いや、シアは最初から知っていた」

「知っていた……?」

「そう、あいつもおれと同じで、でっかい秘密があるんだ。おまえが気にしているのはまさにその秘密を共有していることなんだが……、まあそれでも、おまえにはそのうち聞いてもらった方がいいかなとも思ってたんだよ。ただな……」


 出会った頃のミーネにはさすがに言えなかったが、ここまで濃い付き合いになった今、おれが別の世界から転生してきた存在であることを知ってもらっても問題無いと思えるようになっていた。

 それが言えずにいたのは――


「ただ、話すのがすっげえ面倒くさいんだよ」

「は?」


 その答えは予想できなかったかミーネはきょとんと。


「ちょ、ちょっと待って、面倒って、え、それだけの理由……!?」


 ミーネはひどく困惑したようで、なんだかあたふたしているように挙動がおかしくなってしまった。


「うん。それだけの理由なんだこれが。いや本当に面倒なんだよ。理解してもらうためには説明することが山ほどある。そうだな、例えばおまえの親父さんが、自分の半生をおまえに説明しようとするようなものだと思う」

「うっ」


 親父さんの長話を引き合いにだしたところ、ミーネが怯んだ。


「いやまあそれよりは楽しいと思うが、とにかく大変なんだ。話すことがありすぎて、正直どこから説明したらいいのか判断がつかない。おまえを混乱させるだけになって、同じ内容の説明をどんどん噛み砕いて繰り返すことになるかもしれない」


 それを思うと、まあそのうちでいいや、となってしまうのだ。

 簡単に説明したとしても、今度はミーネの方が気になってひたすら聞いてくるだけになるので結果は同じである。


「あとはそうだな、がっかりされるのが恐いというのもあるか」

「がっかり?」

「英雄だの何だの言われているけど、本当は大した奴じゃないってバレるのがな」

「そんなことはないと思うけど……。じゃあ、例えば今話してっていったら話してくれる?」

「ああ。じゃあそうだな、まず理解してもらわないといけないこととして――」

「待って。それはまたでいいわ。たぶん、こんなふうに聞いたら損な気がする。だから、あなたが話してもいいなって時に話して」

「お、おう。わかった」


 なんだ、二日くらい説明で潰れる覚悟をしたのに……。

 話を先送りにしたあと、ミーネは再びしょんぼりと猫背でうつむき、しばし黙り込むことになった。

 まさか面倒くさいから話してくれなかったとは思いもせず、内心混乱しているんではないかと思う。

 やがてミーネは大きなため息を一つ。


「……ごめんね。八つ当たり。なんか私、本当に苛々して、どうしたらいいかわからなくなっちゃって」

「それは仕方ないな。おれも見ていてつらいからな」

「うん……。つらいわ。あの四人は何も悪くないのに、頑張ってるのに、どうして幸せになれないの? 幸せになっちゃいけないの?」


 実際に幸せになれなかったから、なんてことを言っても意味は無い。

 そんなことミーネだってわかってる。

 ただ納得がいかないのだ。


「あの四人が幸せになれていたらよかったのに……」

「まあそりゃそうだが……、それだとおれは困るかもな」

「どうして?」

「おまえが居なかったかもしれない。おまえが居てくれないとおれは困る。いや、寂しいのかな」

「……」


 ミーネはまたしばらく黙ったが、ぽつりと言う。


「居るわよ。ずっと居るわ」


 そう告げたあと、ミーネはよいしょっと立ち上がった。


「私はもう少しここに居るけど、あなたは先に下へ行っていて」

「え? べつに行かなくても――」

「いいから、ほら、立って。ほらほら」

「いや、ちょっ」


 戸惑っている間におれはミーネに引っぱり起こされ、背中にぺしぺしと突っ張りを受けて追いやられた。


「じゃ、じゃあ、先に行ってるからな」

「うん、あとでね」


 ミーネの気が少し晴れたところだ、変に粘っても仕方ないとおれはすごすご螺旋階段をおりていく。

 そしてしばし下ったところで、シア、アレサ、ティアウルの三名がおれを待ちかまえていた。

 ミーネを心配して様子を見に来ていたのだろう。

 ひとまずミーネは大丈夫、そう報告しようとしたら、おれはシアとアレサに左右の腕をがっちりと拘束され、あまったティアウルには腰にひしっとしがみつかれた。


「ミーネさん、元気が出たみたいですねー、よかったですねー」

「お、おう」

「ところで猊下、いずれ私にもその秘密を教えていただけるのでしょうか?」

「あ、聞こえてましたか」

「はい。聞こえてしまいました。すみません」

「いやべつに謝る必要は……、心配して来てくれたわけですし」


 長い階段をえっちら上ってきてくれたわけだしな。


「それで猊下、私にも聞かせていただけるのでしょうか?」

「え、ええ、いずれですが……」

「そうですか。ではその時を心待ちにしておりますね」

「あんちゃん、あたいは? あたいは?」

「ま、まあティアウルにもな……」

「そっかー、じゃあ待ってるな」


 その時はアレサとティアウルだけでなく、メイドのみんなにも聞いてもらうことになるだろうが……、おれへの信頼はそこで終わりになるかもしれないな。

 切ないことだ。


「ひとまず下へ戻ろう。歩きにくいからちょっと離れてもらえると嬉しいんだけど……、特にティアウル」


 おれは離れてくれるよう促すも――


「まあまあ、まだいいじゃないですか」


 シアにあっさり流された。


「で、ちょっと聞きたいんですけど、ご主人さま、わたしが居ないと寂しいですか?」

「……。まあな」

「猊下猊下、私は、私はどうでしょう?」

「寂しいですよ」

「あんちゃん、あたいはー?」

「ヴァイロで盛大にやらかすことになったでしょ」

「お、そだな。そだなー」


 それからもおれは三人からいちいち質問をされ、下へ戻るのに余計な時間をくうことになった。


    △◆▽


 リッチたちの居住空間だった広間で休憩していると、やがてミーネが戻ってきた。

 その表情からは険がとれ、見た感じでは普段通り、だいぶ落ち着いたように見える。

 そんなミーネは、戻って来るやいなや言う。


「さあ、行きましょう」

「行きましょうって……、もう行けるのか?」

「うん。どんな終わりでもそれが今に通じるなら、私はちゃんと見届けられると思う。だから、行きましょう。ご先祖さまが私たちに伝えようとしなかったものを確かめに」

「そうか……、わかった」


 頷いてシアとアレサを見ると、二人も頷く。

 こうしておれたちは装置で横になり、夢の世界へ三度目となるダイブをした。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/03/03

※脱字と文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/04/12

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/07/25


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この話最高ですね❗ [一言] どんな話でもそれが今に繋がるならってところがものすごく良かったです❗ 
[良い点] いいね20回ぐらい押したい [一言] ここまでもいいね100回ぐらい押したいところもあった。素晴らしすぎるんですけど!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ