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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
9章 『奈落の徒花』後編
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第586話 14歳(秋)…CHAPTER5―勇者の妹

 ふて寝を続けるアヴァンテを残し、おれたちは一度【拠点】へと戻った。

 すると帰還してすぐ、ミーネは備えつけのベッドにばふーっとうつ伏せに倒れ込み、顔を押しつけてわめき始めた。


「……あぁぁーもぉぉーう、もうなんなのよー……!」


 そしてミーネは布団の上で溺れているように手足をジタバタ。


「あー、ミーネさん、かなりストレス溜まってるっぽいですねー」

「そうだな……」


 アヴァンテばかりが割を食っている状況、それをただ見守ることしかできないというのは行動派なミーネからすれば余計にストレスになるのだろう。

 ミーネはしばらくジタバタしていたが、やがてむくっと起きあがるとNPCロシャに近寄ってクエストの確認をする。


《 CHAPTER 5 》

 ★【カルスに会いに行こう】(達成!)

 ★【カルスの依頼を受けよう】(達成!)

 ★【イリスを連れてアヴァンテに会いに行こう】(達成!)

 ☆【イリスとアヴァンテを助けよう】


「助けようって何をすればいいのよ……」


 確かに漠然としていて、これでは何をしたらいいのかわからない。


「アヴァンテは行動を起こしそうにないし、ここはイリスに関わっていけばいいんじゃないかな?」

「イリス……、そうね、頑張ってほしいわ」


 こうしておれたちは一日経過させ、イリスに会いに行くことにした。


    △◆▽


 具体的に何をすればいいのかわからないまま、ひとまずイリスと話をしようと城へ行ったら騎士団と試合を行うことになった。

 突然の展開である。

 しかし最初は、これからもアヴァンテの所に行くイリスの護衛をしてもらえないだろうかというカルスのお願いを聞くというだけの、わかりやすい流れだったのだ。

 ところが、そこに親父さんが出てきて話をややこしくした。


「ガーラック家の娘をあんな奴のところへ行かせるわけにはいかん!」

「あなたには関係の無い話だ! 引っ込んでいてもらおうか!」


 親父さんの発言に強く反発したのは意外にもカルスだった。

 カルスにしてみれば、アヴァンテとラヴィアンは恩人であり、父親はいまさら戻った厄介者でしか無く、そんな厄介者が恩人を侮辱するのはさすがに許せないようだった。


「関係ないとはどういう了見だ! 私はイリスの父親だぞ!」

「僕はガーラック家の当主だ! 当主の言うことが聞けないと言うのなら、ここで絶縁するだけだ! さっさと出て行ってもらおうか!」

「な――」


 この国にとって重要なのは勇者であるカルスであり、カルスが望むなら大した価値も権威もない親父さんは放逐されるだけである。

 カルスに一喝され、さすがに親父さんは退場するかと思いきや――


「そ、そこまで言うなら仕方ない。……だが、本当にそいつらがイリスの護衛に相応しい実力を持つかどうかは別問題だ。そうだな、この城を守る騎士たちに確かめてもらおうじゃないか」

「な――」


 今度はカルスが息を呑む番だった。

 親父さんはおれたちに言う。


「知っているかね。この王城の警備を任される騎士は近衛騎士と呼ばれる。近衛騎士は二つの騎士団から選抜された騎士のみが就任できるのだ。この二つの騎士団と言うのは――」


 と、親父さんが騎士団についての説明を始める。

 まず説明されたのは王国軍の中核をなす戦闘集団としての王国騎士団――サフィアス騎士団だ。サフィアス王の直轄で、魔物掃討、国境警備、王国の防衛などさまざまな任務に従事する騎士団である。

 次に説明されたのは王都ノイエの治安維持を主任務とする王都騎士団――ノイエ騎士団。平時の任務は犯罪者の検挙、暴徒鎮圧など、主に都市とその近郊での活動に限定されるらしい。


「わかるかね? 近衛騎士は非常に栄誉ある騎士であり、当然ながら実力も確かなのだよ」


 親父さんはそう得意げに言う。

 これは近衛騎士の凄さを強調することでおれたちに脅しをかけているようなのだが――


「いいわよ。やりましょう」


 ミーネがそんなものに怯むわけなかった。

 普段ですら怯まないのに、苛々しているとなればなおさらである。

 このミーネの承諾に親父さんはぽかんとしたが、すぐに考えを切り替えたのか意地悪く言う。


「よし、では待つがいい。話をつけてくるのでな」


 こうして親父さんは虎たちに威を借りに行った。

 それを見送ったあと、カルスは申し訳なさそうな顔でおれたちに平謝りを始める。


「すみません。本当にすみません……」

「いや、問題無い。気にするな」

「そうよ、気にする必要はないわ」


 そう、おれたちとしてはまったく問題は無い。

 むしろ状況が進行してくれて喜ばしいくらいである。

 もっと言えば、多少はミーネのストレス解消になるので願ったり叶ったりでもあるのだ。

 やがておれたちは城の一角にある訓練場に案内され、そこで二十人ほどの騎士たちと集団戦と相成った。

 カルスとイリスは五倍以上の人数と戦わせるのは不公平だと訴えていたが、これは却下される。


「これもある意味で中ボス戦ということになるんですかねー」

「そうかもしれないな」


 ここで騎士たちに勝てない限り、イリスの護衛を請け負うことが出来ず進行が止まるのだろう。

 しかし、これもワイバーンと同様、おれたちにとっては何の障害にもならない。

 そして始められた試合は特筆すべきことも無く、おれが範囲雷撃で騎士全員を麻痺させている間に、シアが蹴り飛ばしたり、ミーネが魔弾でぶっ飛ばしたり、アレサがメイスでぶん殴ったりするだけの一方的な展開となり、騎士たちは見せ場も無く全滅した。


    △◆▽


「みなさん、とってもお強いんですね!」


 見事――と言うか、一方的に騎士たちをいたぶって護衛役と認められたおれたちは、さっそくイリスに付いてアヴァンテに会いに行く。

 親父さんはしぶとく食い下がろうとしたものの、さすがにそれは認められず、最終的にはしぶしぶ引き下がった。


「みなさんのおかげで、これからは父さんを気にせずアヴ兄さんに会いに行けます。みなさんからすればつまらない仕事だとは思いますが、しばらくお付き合いください。お願いします」

「いや、いいんだよ。ちゃんと給金も出る仕事だからね」


 一応、おれたちには給金が支払われることになったのだが、お金をもらったところで使い道が無かった。メニューには装備やアイテムの項目があることだし、実はもっと活用できるのかもしれないが、そのあたりは完全にすっ飛ばしてしまっている。

 もしかしたらチュートリアルもちゃんと用意されていたのかもしれないが……、まあ必要ないからな。


「ありがとうございます。お言葉に甘えてお世話になりますね」

「そうよ。どんどん会いに行けばいいわ」


 そうミーネが言うと、イリスは嬉しそうに「はい」と笑う。

 こう二人が一緒にいると、本当に一卵性双生児の姉妹に見える。

 二人がまったく同じ恰好をして並んでいたら、少し話をしてみないことには区別がつかないかもしれない。

 アヴァンテの家へ到着してみると、昨日とは違い、アヴァンテは起きて屋内の片付けを行っていた。

 少し前向きな心境になった現れだろうか?


「アヴ兄さん!」

「あれ!? お前どうしてまた来た!?」


 会うのがさらに困難になったはずのイリスがひょっこり現れたとなれば、アヴァンテが驚くのも無理はないだろう。


「どうしてって、そんなのアヴ兄さんが心配だからじゃない」

「いや……、いやいや、駄目だろ? また駄目親父がすっ飛んできて連れて行かれるだけだって」

「そこはもう大丈夫なの」

「はあ?」


 困惑するアヴァンテに、イリスは事の成り行きを説明する。


「あんたら物好きすぎだろ……」


 そして呆れられた。


「アヴ兄さん、失礼よ。この人たちは厚意でつきあってくれてるんだから感謝しないと」

「いやだからそれが物好きだっての」


 確かにその通りだが、それはこちらがそうしなければならないからというだけの話だ。

 現実なら――……、あれ、同じようにつきあうか?

 ちょっとみんなに聞いてみる。


「なあなあ、おれって物好きか?」

「そうね」

「は? いまさら何を……?」

「それもまた猊下の尊いところなのです」


 三人が口を添えて「そうだ」と言うのなら、これは甘んじて受け入れなければならないのだろう……。


    △◆▽


 それからはイリスを連れてアヴァンテに会いに行く日々が続いた。

 要は繰り返しのクエストだ。

 クエストに登録されている【イリスとアヴァンテを助けよう】は未だ達成されていないので、まだ状況は変わらない。

 通い妻のようなイリスの甲斐甲斐しい訪問によってアヴァンテは徐々に調子を取りもどしており、その様子は見守るおれたちをほっとさせるものであった。

 イリスが伝言役となり、城に留まるカルスとラヴィアン、離れて暮らすアヴァンテ、それぞれの様子は互いに伝わるようになった。

 イリスがカルスとラヴィアンにアヴァンテの様子を報告するとき、三人が集まるのはラヴィアンがお気に入りな城の中庭だ。

 三人の会話におれたちも参加することはあるが、基本は少し離れて様子を見守るだけに留めている。


「私もね、この中庭は好きよ。現実だと、ここのすみっこにカルスとその奥さんが一緒に眠ってる小さな石作りの建物があるの」


 変化の起きない繰り返しクエストではあるが、その穏やかさによってミーネの気分もだいぶ落ち着きつつあった。

 そしてその日も中庭に集まり、アヴァンテの所から戻ったイリスの話をカルスとラヴィアンが聞いていたのだが――


「イリス、ここに居たのか」


 そこに面倒なの――カルスとイリスの親父さんがやって来た。

 いつも不機嫌な表情をしているのに、今日は上機嫌だと見てわかるほど満足げな顔をしており、ことさらそれが嫌な予感を抱かせる。


「父さん……、なんの用なの?」

「とてもめでたい話があってな」

「めでたい話……?」


 イリスが胡散臭そうに尋ねると、親父さんは「うむ」とうなずいて言う。


「前々から陛下に相談を持ちかけていたのだがな、年齢的に近い第五王子とお前の婚約が決まったぞ」


※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/04/12

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/04/16


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