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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
9章 『奈落の徒花』後編
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第585話 14歳(秋)…CHAPTER5―戻らない日々

 カルスに同行するのは騎士にお断りされてしまったため、ならばとアヴァンテを捜してみたが見つけることはできなかった。

 そこでどうしたものかとクエストの確認をしてみたところ――


《 CHAPTER 4 》

 ★【イリスに必要なポーションを買いに行こう】(達成!)

 ★【アヴァンテを捜そう】(達成!)

 ☆【拠点に戻ろう】


 一度戻る必要があることがわかり、後ろ髪を引かれるような気分ながらもおれたちは【拠点】へと帰還した。

 すると帰還したところでNPCロシャが話しかけてくる。


『やあやあ、順調に活動を続けているようだね。ひとまずこれで物語は半分といったところだ。君たちの【拠点】への帰還をもって四章は終わりとなるが、次の五章に進むには半年ほど時間を経過させる必要がある』

「え、半年……!?」


 驚いたようにミーネが言う。

 確かに、半年とはまたずいぶん時間をぶっ飛ばすな。


『その半年の間、カルスは城で軟禁生活を送り、アヴァンテは一人ふて腐れて暮らしている。そして君たちはこつこつと冒険者として仕事をこなしているという設定だ。もし何かやり残したことがあるなら、それを片付けてからまた私に話しかけてくれ』


 そう説明を終えたところでNPCロシャは黙り、ウィンドウには新しく【五章へ進む】という項目が追加されていた。


「これは……、どうする? 一度現実に戻って休憩してもいいが」

「進めましょう」


 休憩という選択肢をすぐに蹴ったのは、おれが一番休ませたいと思っていたミーネだ。


「……大丈夫か?」

「平気。前にも言ったけど休むに休めないし。それにこれで半分なら一気に終わりまで行ってしまいましょう。たぶんその方が楽だわ」


 ミーネはシアが心配していた通りかなり入れ込み気味。

 良くない傾向だが、しかしここで無理に休ませようとしても、逆に意固地になって反発されるだけだろう。


「……わかった」


 確認ののち、おれは【五章へ進む】にタッチ。

 NPCロシャの怪しい踊りによって時間が経過したところで、まずはクエストの確認を行う。


《 CHAPTER 5 》

 ☆【カルスに会いに行こう】


 最初の目標はカルスに会いに行くこと。

 ひとまず【拠点】から出てみるが、都市にそれほど変化はみられない。季節の変化も春から秋だったので、そこまで気温の変化を感じることはなかった。


「さて、まずは城か……」


 城で軟禁生活というのだから、会いに行くなら城だろう。

 現実ではクェルアーク家の住まい――ミーネのお家である。


「お家なのにお家じゃない……、なんかすっごく変な感じがするわ」


 小国とは言えど城、ミーネって凄いとこで育ったな。

 城に到着したおれたちは、城門にて衛兵にカルスに会いたいことを告げる。


「勇者殿にだと? 貴様らは何者だ?」

「前に冒険者として一緒に活動していた者ですよ。ちょっと挨拶に来たんです」


 うーん、こんな返答で大丈夫だろうか?

 ここは選択式で『話しかける』からの『カルスに会いに来た』であってほしかった。

 国にしてみればカルスは金の卵である。

 普通、こんな返答では本当に知り合いであったとしても「怪しい奴め!」と追い払われることになるだろう。

 それは国がカルスを抱き込みたいというのもあるが、勇者という存在にあやかろうと海の物とも山の物とも知れない連中が群がってしまうのを防ぐためという側面も持つ。

 要は宝くじに当たった人に親戚やら親友やらが増えるあれだ。

 しかし、幸い(?)なことにここは現実ではない。

 衛兵は「そうか」と職務放棄とも思える謎の納得をして、おれたちに待つよう告げると城内へと向かった。


「ひとまずいきなりの門前払いは回避されたか」

「ふむふむ、お城に忍び込むまで考えていましたが、そこまでする必要は無さそうですね」


 それから少し待ったところ、カルスが姿を現した。

 前は少し身なりのよい少年、だったのが、今ではぱっと見でわかるくらい身なりが整い、貴族然とした雰囲気を纏っている。

 勇者としての訓練を課されているのか、顔には精悍さが宿り、その立ち姿からは逞しさを感じられるようになっていた。


「みなさん、お久しぶりです。その節は本当にお世話になりました」


 カルスは破顔して嬉しそうに言う。


「あれ以来になってしまいましたが、お元気でしたか?」

「ああ、こちらはなんとかやっているよ」

「すみません、本当は冒険者の仕事を教えるはずだったのに……。アヴァンテがどうしているかはわかりますか?」

「あれから会いにくくなってしまってね。君は会っていないのか?」

「僕はなかなか城から出してもらえないもので……」

「そうか。城では勇者として何をしているんだ?」

「勇者としての働きはまだ何も。まずはこの国を代表する勇者にふさわしい素養を身につけるようにと、日の出から夜が更けるまでみっちりと教養、作法、戦闘訓練と色々叩き込まれています。あまりに詰めこもうとするので最初の一ヶ月は後悔すらしましたが、この半年でようやく慣れてきました」

「勇者も大変だな。イリスの調子は大丈夫か?」

「ええ、おかげさまで。すっかりよくなりました。今では伏せっていたのが嘘のように活発になり、僕の訓練にも参加するくらいです」

「訓練に? どうしてまた?」

「冒険者になるそうですよ。アヴァンテと一緒に活動すると」


 そう言ってカルスは微笑むが、すぐに表情が暗くなる。


「難しい?」

「難しいでしょうね。僕が勇者である以上は。イリスは勇者の妹としての価値が生まれてしまっていますから。イリスもそれはわかっているようですが、諦めてはいません。そのうち城を抜けだしてアヴァンテと逃げるとまで言っています。冒険者として活躍してアヴァンテを養うそうです」

「……」


 なんか性格の傾向がミーネに寄ってきたような……。

 そのミーネはイリスの展望に、それでいいとばかりにうんうんと頷いている。


「あいつを養うというのは、あながち夢物語でもないような気がしますね。イリスはなかなかのものですよ。剣の素質は僕よりイリスの方があったようです」

「そんなに?」

「ええ、剣を扱うための勘と言ったらいいのか、イリスはそれが凄いんです。そこは僕を指導してくれている騎士も認めていましたね。さすがにまだ僕の方が強いですが……、油断はできません。イリスは気づくと急に強くなっているので。妹に負ける勇者とかさすがにまずいので実はけっこう必死だったりします」


 そう朗らかに近況を話してくれるカルスだが、どこか陰があった。


「アヴァンテのことが心配か?」

「……はい。ラヴィ姉さんを留めておくには、こうするしかなかったんですが、結果としてアヴァンテを一人のけ者にすることになってしまいました」

「アヴァンテもそれは理解していたようだが?」

「それはわかります。ですが、それでいいわけがありません。あいつにしても、あの場の勢いがあったのでしょう。一人で過ごすアヴァンテはどうしているのか。ラヴィ姉さんも心配していますね」

「ラヴィアンはどんな立場なんだ?」

「僕とイリスの世話役といった感じでしょうか。ただ、父はそれがあまり気に入らないようで」

「父? 父親も一緒にいるのか。ほとんど行方不明みたいなものだったのに」

「王命もあって捜し出したようです。一応、勇者を出したガーラック家の当主でしたから」

「親父さんは……、こう言ってはなんだが、正気には戻ったのか?」

「戻っていませんね。それもあって陛下は僕を当主としました」

「親父さんはそれに納得したのか?」

「そこはすんなりと。むしろ歓迎していました。勇者の僕がガーラック家の当主となり、復興することで母が戻ってくれると信じているようです。実はそれが問題で、父としてはその栄えある一家の近くにラヴィ姉さんが居るのが気にくわないようなのです」


 そう言ってカルスはため息をつく。

 すべてが順調というわけではないようだ。


「それでも、僕はこの生活に感謝しなければなりません。アヴァンテとは離ればなれになりましたが、永遠に会えなくなったわけではありませんから。貧しくとも、四人でいられた日々は幸せでした。けれど、それはほんのささいなきっかけで崩れてしまう危ういものでもありました。所詮、僕はまだ子供だったのです。そして今は芸を仕込まれる籠の鳥。ですが、いつか勇者として名を馳せるようになったら、僕はあの日々を取り戻します。そのためなら魔王だって倒してみせますよ」


 カルスはそれを目標に頑張っているらしいのだが、それが叶わない夢であることを知っているおれたちは複雑な心境になった。


「あ、そうだ。僕は城を離れられませんが、幸いイリスはそこまでではありません。アヴァンテに会いたがっているので、よければ護衛をお願い出来ませんか? 本当はラヴィ姉さんも一緒に行ってもらいたいのですが……、それはちょっと無理だと思うのでイリスだけでも。こちらは無事だと伝えてもらいたいんです」

「ああ、引き受けよう」

「ありがとうございます。では、イリスを連れてきますね」


 そう言ってカルスは城へと引き返していき、おれはそこでクエストの確認をしてみた。


《 CHAPTER 5 》

 ★【カルスに会いに行こう】(達成!)

 ★【カルスの依頼を受けよう】(達成!)

 ☆【イリスを連れてアヴァンテに会いに行こう】


 ふむ、この流れのまま進めてもよさそうだ。

 やがてカルスに連れられてイリスが姿を現し、こちらにぶんぶん手を振りながら駆けてきた。

 そんなイリスは荷物でぱんぱんになった大きな皮のリュックを背負っている。

 登山かな?


「みなさん、おひさしぶりです! いつぞやはお世話になりました! おかげですっかり元気になりました!」

「その荷物は……?」

「あ、これはアヴ兄さんに持っていってあげるものです! 食べ物とか、道具とか、服とか!」

「そ、そうか……」


 イリス、本当に元気になったな。

 か弱い雰囲気を纏っていたのが、晴れやかな笑顔を浮かべる活発なお嬢さんに……、ますますミーネと区別が付きにくくなった。


    △◆▽


 半年ぶり――、ということになるアヴァンテの家は荒れていた。

 もとからボロ屋であるが、さらにボロに――、いや、屋内で小規模の嵐でもあったように、簡素なテーブルや棚が倒れたまま放置されており、唯一そのまま残るベッドではアヴァンテがこちらに背を向けるようにして横になっている。

 呼びかけてみたが、返事をするのも億劫なのか身をよじる程度の反応しか示さない。

 おれたちは入口あたりでしばし茫然と屋内とアヴァンテの様子を眺めることになったが、やがてイリスが言う。


「もう、アヴ兄さんたら、こんなに散らかして」


 散らかしてと言うか、おそらくアヴァンテが八つ当たりをした結果の荒れようだろう。

 もちろんイリスもわかっているのだろうが、努めて明るく振る舞い、まずは背負ってきた荷物を下ろした。


「アヴ兄さん、わたし色々持ってきたのよ。食べ物とか、日用品とか。でもまずはお掃除しないといけないわね」


 と、イリスは甲斐甲斐しく片付けを始めようとするが、そこでアヴァンテが言う。


「……余計なことはすんな。早く帰れ……」

「……そ、そういうわけにはいかないわ。待っててね。片付けたらすぐに食事の用意をするから」


 するとアヴァンテがむくっと起きあがり、ベッドから下りてイリスに近づき、その腕を掴んだ。


「ここはお前が居ていいような場所じゃない。帰るんだ」

「……帰らない。色々と話したいことがあるし、話さないといけないこともあるし」

「お前の様子を見れば何も聞く必要なんて無いんだよ。幸せにやっているんだろう? ならそれでいいじゃねえか」


 そうアヴァンテが吐き捨てるように言うと、イリスはキッとアヴァンテを見た。


「よくない! アヴ兄さんが幸せじゃないもん!」

「いいんだよそんなことは……!」

「ぜんぜんよくない!」

「いいつってんだよ! そもそも誰のせい――」


 と、アヴァンテは言いかけ、続く言葉をぐっと呑み込む。

 それを言いきらなかったのはまだアヴァンテに理性が残り、そして意地があったからだろう。

 すると――


「知ってるよ」


 イリスは微笑んで言った。


「知ってる。わたしだもん。わたしが全部、こ、壊しちゃったって、そんなのよくわかってる――」

「ああ待て待て待て」


 微笑みながら泣くイリスに、アヴァンテは慌てた。


「すまん。今のは八つ当たりだ。俺たちの誰かが悪いって話なら最後まで警戒してなかったおれとカルスが悪い。でもって本当に悪いのは錬金術ギルドのデブだ。あんなのがのうのうと生きている世の中だ」

「で、でも、わたしが病気で、それがなかったら、こんな――」

「それはお前のせいってわけじゃねえだろ。むしろ今はそれがあったから城で生活できてるんじゃねえか」

「でも、アヴ兄さん、一人になっちゃったもん……」

「いやだから、俺は平気だってのに……」


 そうアヴァンテは言うが、とても平気には見えない。

 それが自分でもわかるだけに、アヴァンテは苦々しい笑顔でイリスをなんとか慰めるのに必死になっている。

 いくらふて腐れていても、泣く子の前には降参か。

 ひとまずこれでイリスとアヴァンテのぎくしゃくは改善されそうに思えた。

 が――


「イリス! こんな所で何をやっているんだ!」


 突然の訪問者。

 これに驚いたのはイリスだ。


「と、父さん!?」


 どうやらこの男性がカルスとイリスの父親、妻恋しと狂えるガーラック家の前当主か。

 親父さんはずかずかとイリスに歩み寄り、その腕を掴んで強引に連れだそうとする。


「イリス、来なさい。こんな所にいてはいけない。お前は貴族の娘であり、勇者の妹なのだ、付きあう人間は選ばなければならない」

「そ、そんなこと父さんに言われたくない!」

「なんだと――!?」


 かっとなった親父さんが手を上げるも、振りおろされたところでアヴァンテが受けとめた。


「な、なんだ、貴様!? 邪魔立てするか!」

「いや、んなことしねえよ。イリス、お前は帰った方がいい。ここはお前が来るような所じゃないんだ。俺は元気だって伝えてくれたらそれでいいからさ」

「うぅ……」


 渋々といった様子でイリスは抵抗をやめ、それを見た親父さんはふんっと鼻を鳴らして言う。


「カルスに取り入ろうとする娘の弟にしては、身の程をわきまえているようだな」


 そう言い残し、親父さんはイリスを連れて去っていった。

 アヴァンテは怒る様子もなく、深く長いため息をつき、それからおれたちを見る。


「あんたらには変なところばかり見られちまうな。まあ最初がゴブリンから逃げまわってたところだからな、しゃーねーか。悪いけど、しばらく俺のことは放って置いてくれよ。色々と教えてやるなんて偉そうなこと言っといて悪いんだけどさ」


 少し悲しげな笑みを浮かべ、それからアヴァンテはまたベッドにごろんと寝転がった。


※誤字脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/25


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