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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
9章 『奈落の徒花』後編
584/820

第575話 14歳(秋)…CHAPTER1―容赦無きミーネ

 冒険者ギルドはわりとこぢんまりとした建物だった。

 ミーネによると、現実の方はもっと大きくて見栄えのする建物らしい。


「まだ冒険者って枠組みができたばかりの時代だからだろうな」

「あ、そっか、シャーロットが始めたものだから」


 ミーネに納得してもらったところで、建物に入って正面の受付にいるおっさんに近づく。

 もうだいぶ見慣れた『話しかける』が出現したので、これを選択。


「冒険者になりたいのかい? ならお前さんたちは運がいいな。今この都市は冒険者が不足しているから来る者拒まずだ。冒険者証を用意するから、三時間くらいしたらまた来てくれ」


 ものすげえザルな登録だなおい。

 まあここで筆記試験やら実技試験をおれたちに課す意味は無いからな。


「あれ、ってことはもうクエスト達成じゃ……、あ、ないみたいね。三時間待たないといけないみたい。また町を散歩する?」

「ミーネさん、そんな律儀に待たなくても平気ですよ。ほら、サブクエストも増えています」


 ミーネとシアがそれぞれメニュー画面を確認しながら言う。

 おれも確認してみたところ――


《 CHAPTER 1 》

 ★【町に行ってみよう】(達成!)

 ☆【冒険者になってみよう】

 ◆[外を散歩してみよう](達成!)

 ◆[戦闘を体験してみよう](達成!)

 ◆[人に話かけてみよう(10/10)](達成!)

 ◆[町を散策してみよう](達成!)

 ◇[拠点で時間を経過させてみよう]

 ◇[夢の世界から出てみよう]

 ◆[初めての投獄](達成!)


 サブクエストに時間経過を促す項目が増えていた。

 なるほど、三時間待たせるのは、ここで時間経過を試させるためだったというわけか。

 となると、ひとまず【拠点】に行ってNPCロシャに時間を経過させてもらい、また戻る、という手順を踏むことになる。

 ふむ、一度【拠点】に戻るのなら、いっそここらで現実に戻って報告するというのもありである。


「なあ――、って、あれ?」


 少し考えたのち、意見を聞こうとしたらお嬢さんたちが居なかった。

 捜してみると、三人はNPC冒険者たちにまぎれ、依頼が張り出されている掲示板を眺めていた。

 何か不思議なものでもあるのか、揃って仲良く首を傾げている。


「どうしたんだ?」

「なんかね、薬草採取のお仕事が凄いことになってるような気がするの」

「凄いこと?」

「ここでの貨幣単位はわからないのですが……、どんどん報酬が上がっていることだけはわかります」

「うん? あ、本当だな……」


 確かめてみると、最初の報酬金額が棒線で消され、その下にそれよりも高い金額が書かれている。そしてそれもまた消され、さらに高い金額、さらにさらに高い金額と何度も変更されていた。


「これはポーション不足の影響ってことですかね? 当時の世相がちゃんと反映されているとか、シャロさんの強いこだわりを感じます」

「そうか、シャロ様は凝り性か……」


 そんなことを話していたところ、ギルドに二人の少年がやってきた。

 一人は金髪、一人は黒髪。

 金髪の方は育ちの良い雰囲気があり、整った凛々しい顔立ち。

 黒髪の方はみすぼらしい姿だが、可愛らしい顔立ちをしている。

 二人とも年齢はおれと同じくらいで、見た感じいいとこの坊ちゃんとその悪友といった雰囲気である。

 そんな二人は、きっと狩ってきたのだろう、ヒモでくくったウサギを三羽づつ肩に掛けていた。

 サリスにはお見せできない光景である。

 少年二人は買い取りカウンターへ向かってウサギを置き、金髪の方が受付のおっさんに話しかけた。

 ん?

 NPCがNPCに?

 あ、もしかしてこれイベントか?


「買い取りをお願いします」

「あいよ。ふむ、こんなもんだな」


 受付のおっさんが代金を置くと、それを見た黒髪が不平をもらした。


「ああ? 少ねーだろ。余計な傷もないし、血抜きもちゃんとしてる。もうちょっと高く買い取ってくれてもいいんじゃねーの?」


 可愛い顔して口が悪いな、黒髪。


「あのな……、不満なら露天でも開いてそこで売れ」

「露天は許可に金がいるし、やたら値切ろうとする奴がいるから面倒なんだよ。巡回の警備はたかってくるしよー」


 黒髪が言うと、金髪はため息をつく。


「だから、公正に買い取ってくれるギルドに持ちこんでいるんだ。ほら、あまりごねていては迷惑がかかる」

「ちぇっ」


 不服そうな顔をしながらも、黒髪は代金を受けとった。

 それを見たおっさんがため息まじりに言う。


「アヴァンテ、おまえちったあカルスを見習えよ」


 ――なっ!?

 アヴァンテとカルス。

 魔王と勇者。

 おれがその名に驚いた、その時――


「てりゃーッ!」


 ミーネがアヴァンテに斬りかかった!


「うわぁー!」


 斬り倒されるアヴァンテ。

 瞬間――


「「「そこまでだッ(スタァァァップ)! お前はサフィアス王国とその民に対して罪を犯した!」」」


 どこからともなく出現する三人の衛兵!

 そして――


「……ありゃ?」

「ありゃじゃねえ、ありゃじゃねえよ……!」


 おれたちは再びお仕置き部屋に送り込まれてしまった。

 そして困り顔で現れたのはシャロ様だ。


『ふむ、まあ霊廟に挑戦した者たちじゃからな、あの少年たちが何者か知っておるか。しかしのう、この世界の魔王を倒すのはお主らの仕事ではないんじゃ。お主らの役目は、飽くまで魔王の誕生と討伐を見守ることなんじゃよ。じゃからな、直接手を出して殺してしまってはいかんのじゃ。と言うか、あんな子供に襲いかかるとかちょっと容赦なさすぎではないか? そんな心の余裕すら失うほど、お主らの時代は切羽詰まった状況になっておるのか?』


 こんなパターンまで用意してあるとは、と感動すると同時、それをおれたちが達成してしまったことへの申し訳なさで一杯になる。


「ミィーネェェー……ッ!」

「だ、だって魔王……、魔王が……」

「キシャーッ!」

「あうぅー!」

「ミ、ミーネさん、駄目ですよ、今のご主人さまに屁理屈は通用しません。むしろ逆効果です。ここは素直に謝らないと」

「うぅ、ごめんなさい……」

「シャー?」

「まあまあご主人さま、ミーネさんが冒険の書で無茶やろうとするのはいつものことじゃないですか」

「そ、そうですよ猊下、そんなに恐いお顔をしては」


 シアとアレサの二人がかりで宥められる。

 む、おれはそんな恐い顔をしているのか?

 ひとまず深呼吸を繰り返し、おれは気分を落ち着かせた。


「まったく。次から何かしようとするときはちゃんと言うように。ここも冒険の書と同じだ。まずは仲間に相談。わかったか?」

「わ、わかったわ」


 やがておれたちはお仕置き部屋から解放され、冒険者ギルドの建物前から再開することになった。


「これって申し込み前からですかね?」

「なんじゃないか? まあそう手間でもないし、ちゃっちゃと申し込んで今度は大人しくカルスとアヴァンテを見守ろう」


 おれたちは建物に入り、再び受付のおっさんとのやり取りを繰り返す。

 するとほぼ同じタイミングで、二人の少年――カルスとアヴァンテがやってきて、まったく同じやり取りを始めたので今度は大人しくそれを見守った。


「あの二人の姿ってどういう基準なんでしょうね。いくらシャロさんでも子供の頃の二人は知らないわけで、再現なんてできないでしょうし……」

「どうなんだろうなぁ……」


 気になる。

 確かに気になるが、それは答えの出せない疑問だ。

 逆に、本当に三百年前に存在したカルスとアヴァンテ、その幼い姿を再現しているとするのなら、それこそいったいどうやってという話になる。

 やがて幼い勇者と幼い魔王はウサギの代金を受けとり、おれたちの知らないイベントの続きが始まる。

 まずは代金を受け取りはしたものの、やはり不満らしいアヴァンテが言う。


「なあなあ、日が暮れる前にもう一回狩りに行こうぜ」

「いや、下手すると森で日暮れを迎えることになる。それは危ないから明日改めてだ」

「へいへい」


 そんな会話をしながら、二人は冒険者ギルドから立ち去った。


「何もしなくてもよかったの?」

「たぶん、今の会話を聞くことが重要なんだ。よし、ひとまず時間経過だけさせて、現実に戻って報告をしようか」


 おれたちもギルドを後にし、それから建物の裏手に回って【拠点】の入口を呼びだした。


    △◆▽


 何とも表現のしづらい、とても不愉快な意識の混濁。

 それはひどく疲労した状態で、ようやく眠りについたところを無理矢理起こされた時に感じる、頭痛すら感じる眠気であった。

 覚醒した瞬間はわけがわからず苦しむばかりであったものの、少しずつ苦痛が引き始めたあたりでおれは現実に戻ったことを認識した。


「あんちゃん、大丈夫かー?」


 呻いていたところ、すでに寝台のカバーは開いていたようでティアウルが心配そうにおれの頭をさすりさすりしていた。


「あ、ああ、ひとまず大丈夫だ……」


 体を起こし、のっそりと装置から出る。

 見回してみればシアとミーネもひどく陰鬱な顔をして「あうあう」唸りながら額を押さえていた。

 結局、おれたちはそれから五分ほど意識の混濁に苦しみ、それでようやく意識がはっきりとしてくる。

 それを見計らい、まずはロシャが尋ねてきた。


「もう終わった、というわけではないんだろう? どうしたんだ?」

『……』


 あっちの世界でもロシャを見ていたので思わず皆で黙ってしまう。


「ん? どうした?」

「えっとね、夢の世界にもロシャがいたの」

「なんだとぉ!?」

「え、ええ、説明役としていたんですよ」

「な、なるほど……。そうか。しかしシャロの奴め、私に断りもなく……、まったく……」


 ロシャはぶつぶつ言うが、ちょっとだけ嬉しそうな感じだ。

 すると今度はリィが尋ねてくる。


「なあなあ、その夢の世界とやらはどんなんだった?」

「昔のクェルアーク領があったわ。なんだか帰ったみたいだった」

「……は?」


 ミーネの説明が雑すぎてリィはきょとんとすることに。

 それからおれを見て言う。


「解説を頼む」

「あー、えっとですね、夢の世界は約三百年前のクェルアーク伯爵領――まだサフィアス王国だった頃の状態が再現されているようでした。しばらく見回ってきたんですが、こちらでは数分しか経過していないようですね。夢の世界は時間の流れが現実に比べて早く、向こうの一時間がこちらの一分ほどのようです」

「へえ、じゃあ私らからすればすぐに戻って来たようでも、お前らはもう何時間も向こうにいたってわけか」

「ええ、その通りです。ひとまず本格的に活動を始める前に報告だけしようかと戻りました。ぼくらは向こうで、どのように魔王が誕生したか、そして討伐されたか、それを知るために活動しないといけないようです」


 そう説明すると、ロシャが「えっ」と戸惑うように声をあげた。


「どうしてわざわざそんな酷なことを……」

「酷?」

「あ、いや、んー……、わかるだろう? 魔王は悲劇と絶望から誕生すると言ったのは君だ」

「ああそうか、ロシャさんは顛末を知っているんですね?」

「知っている。――が、言えんぞ」

「言えない……?」

「言えないのだ。何故言えないのかという理由すら言えん。守らねばならない約束があってな。しかし……、そうか、これはそのための代物……、だが、それに何の意味があるのだ? いや、その意味こそが、か?」


 ロシャはそう呟いたきり黙り込んでしまったが、今のおれには何を考えているのかまったく予想がつかない。

 まあ何も教えてはもらえない以上、ここはそっとしておくしかないのだろう。

 それからおれたちは遅い夕食をとることになり、そのなかでおれは夢の世界がどんな場所だったかを待機組に改めて説明した。


「へえ、なんだか面白そうだな」

「あたいも行きたいぞー」


 この夢の世界についてはリィも興味を持ち、ティアウルはひたすら羨ましがった。


「主殿たちはすぐに夢の世界へと戻るのか?」

「いや、一度こっちでちゃんと睡眠をとってから戻るよ」

「そうか。うむ、その方が良いであろうな」


 それからおれたちはシアとミーネによって設置された風呂場でさっぱりして、リッチたちの居住空間になっていた隣の広間を片付けて眠りやすい寝床を拵えた。

 初日からの流れでリィ以外はペアで眠るようになっていたが、いざ就寝となったところ、おれと一緒に眠るべく隣で横になったアレサの様子がおかしい。

 妙によそよそしい――、いや、そうではないな。

 なんだろう、もじもじ?

 いや、いまさら照れくさいというわけでもないだろうし、本当になんだろう?


「アレサさん、何か都合が悪いなら、少し離れて眠るように――」

「いえっ、不都合などありませんからっ」


 おれの提案を途中で遮り、アレサはおれの頭を胸に抱くように抱え込む。


「……。……ふふ……」


 吐息のような笑い声。

 それはセレスが犬やヒヨコ、猫を抱えているときに自然とこぼれる笑い声のようであり、であるなら、アレサはおれを抱えて癒されているということなのだろうか?

 そんなことをぼんやりと考えているうちに、もう意識が曖昧になり眠気に抗えなくなってくる。

 自覚は無かったが、体はずいぶんとくたびれていたようだ。


「シアよ、妾の胸に当たるのはやめてくれんか……」


 眠りに落ちるところで、最後にヴィルジオのうんざりしたような声が聞こえた。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/05

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/12

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/02/24


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