第574話 14歳(秋)…CHAPTER1―スタァァァップ!
アレサの機転に救われ、おれたちは元いた場所――王都近郊まですんなり戻って来られた。
ひとまずシアにNPCロシャから聞いたことを説明し、これでようやく活動を始められる状態になる。
「さて、それじゃあ――」
「町ね! 町へ行くのね! さあ行きましょう!」
気の逸るミーネはおれに最後まで台詞を言わせず、さっそく王都目指して歩き始めた。
おれたちはその背中を眺め、それから顔を見合わせる。
「ですか?」
「んだな」
「はい、まいりましょう」
こうしておれたちは、ぶーん、ぶーん、と腕を大きく振りながら鼻歌交じりに行進するミーネ隊長の後ろに続いた。
「それで町に到着してからはどうします? がっつり進行ですか?」
「いや、ある程度こっちの様子を確認したら、一旦現実に戻ろうと考えてる。簡単に戻れることを伝えておかないと心配するだろうし。本格的に活動するのはそれからかな」
「あ、猊下、戻るのでしたら、そちらでちゃんと睡眠をとってから再開した方が良いのではないでしょうか」
「睡眠を……?」
「はい。いま私たちは眠っているのですが、これほどはっきりと意識がある状態です。ちゃんと休息が取れているのか少し怪しいですし、現実の時間帯は深夜、色々とあって意識は覚醒状態なものの……」
「あー、そうでしたね」
死人たちと運動会したり、リッチたちと戦ったり。
興奮状態ということもあって眠気は感じなかったが、体はすっかり疲れていたはずだ。
「では戻ったら一度しっかり休息をとって、それから再開することにしましょう」
「はい、それがよろしいかと」
ひとまずの方針を決め、あとはひたすら都市を目指す。
途中、平原から歩きやすい道に出て、それからは道なりに市壁の向こうへと通じる市門へと。
そして到着した王都ノイエ。
「着いたわーッ!」
市門をくぐったところでミーネが万歳して咆える。
これにより最初のメインクエストが達成となり、次のメインクエストと共にサブクエも追加された。
《 CHAPTER 1 》
★【町に行ってみよう】(達成!)
☆【冒険者になってみよう】
◆[外を散歩してみよう](達成!)
◆[戦闘を体験してみよう](達成!)
◇[人に話かけてみよう(0/10)]
◇[町を散策してみよう]
◇[夢の世界から出てみよう]
「あ、次の目標は冒険者になることなのか」
「冒険者! どうやってなるのかしら? 試験?」
「そこは簡単になれるようになってるんじゃないですかねー。ならないことには進めないわけですから」
「だったら楽ちんね! 場所は現実と同じかしら? それなら案内できるんだけど」
ふむ、意外なところでミーネが活躍するな。
でもこれ本来ならどういう流れだったんだろう?
サブクエストに[人に話しかけてみよう]ってあることだし、町の人が教えてくれたりするのかな?
「ねえねえ、あそこにいる人に話しかけていい? ほら、サブクエストにあったから、どんどん話しかけないといけないし」
「そうだな。順番に話しかけていこうか」
門をくぐってすぐにいた、市民とおぼしき棒立ちの男性。
近づいてみたところ『話しかける』のウィンドウが現れたので、さっそくミーネがタッチする。
「やあ、ここはノイエ。サフィアス王国の王都だよ」
ああ、うん、そうか。
「形式美ですね」
「美しくはねえだろ」
シアは何やらうんうんと深く感じ入っていたが、どこに感心するポイントがあったのかおれにはよくわからなかった。
と、そこでミーネがさらに『話しかける』をタッチ。
「やあ、ここはノイエ。サフィアス王国の王都だよ」
「……。よし」
何が「よし」だったのだろうか?
そんなおれの疑問はすぐに解消されることになる。
ミーネがウィンドウを連打し始めたからだ。
「やあ、ここはノイエ。サフィアス王国の王都だよ」「やあ、ここはノイエ。サフィアス王国の王都だよ」「やあ、ここはノイエ。サフィアス王国の王都だよ」「やあ、ここはノイエ。サフィアス王国の王都だよ」「やあ、ここはノイエ。サフィアス王国の王都だよ」「やあ、ここはノイエ。サフィアス王国の――、のののの――、え、衛兵ーッ!」
瞬間――
「「「そこまでだッ!」」」
おれたちを囲むように三人の衛兵が出現。
ごつい全身鎧を身につけ、ハルバードを構えた衛兵たちは厳めしい表情でこちらを睨みつつ、威圧するように強い口調でもって言う。
「「「お前はサフィアス王国とその民に対して罪を犯した!」」」
そして衛兵たちがハルバードを天めがけ突き上げると、どういうわけか目映い光が発生。
あまりの眩しさに思わず目を瞑り、そして開くと――
「んおっ!?」
街並みから一転、おれたちは見知らぬ石作りの部屋に閉じ込められていた。
見た感じ牢獄のようだが、鉄格子すら無い密室である。
唐突すぎる展開についていけず唖然としていたところ、虚空からふわっとシャロ様が現れた。
『ふむ、確かに同じ言葉しか繰り返さない者など現実にはあまりおらんから、まあ面白くもあるじゃろう。しかし、あまりしつこくイジってはいかんぞ。なるべく、節度を持って接してやってほしい』
「……!?」
あぁーッ、シャロ様にたしなめられたぁぁ――ッ!
「あらら、ここはお仕置き部屋なんですね」
「お仕置き部屋!? え、私そんな悪いことした?」
「シャ、シャーロット様は先ほどのミーネさんの行動すら予測していたということですか……?」
おれたちがそれぞれに動揺するなか、シャロ様はやんわりと注意をしたあと、ぱぁーっと目映い光を放って消えた。
眩しさに瞑った目を開いたとき、またしても場所が切り替わっており、今度はさっきくぐった市門の手前に移動させられていた。
「あー、ここからやり直しってわけですかー」
「くっ、なんてことだ……!」
記録映像とは言え、シャロ様にたしなめられるという経験は得難いものであると同時に実に不名誉なことである。
もうこのようなことが起きぬよう気を引き締めねば、とおれが密かに決意していると、ミーネがちょいちょい突いてきた。
「ねえ、これまた同じことしたら、シャーロットはさっきと同じことを言うのかしら? それとも違うことを言うの?」
こいつ……、パターン埋めに目覚めかけている!?
「頼む。それはやめてくれ。もしそれでシャロ様に怒られたら、おれは再起不能だ。おれたちの冒険がここで終わってしまう」
「う……、わ、わかったわ、やめておく」
ミーネは素直に応じ、それからメニューの確認をする。
「む、話しかけるクエストは一人を十回じゃ駄目みたいね……。あれ、なんか追加されてるわ」
「追加されている?」
なんだろうとおれも確認してみる。
《 CHAPTER 1 》
★【町に行ってみよう】(達成!)
☆【冒険者になってみよう】
◆[外を散歩してみよう](達成!)
◆[戦闘をしてみよう](達成!)
◇[人に話かけてみよう(1/10)]
◇[町を散策してみよう]
◇[夢の世界から出てみよう]
◆[初めての投獄](達成!)
不名誉なサブクエが達成されていた……。
「隠しイベまであるとは……。シャロさん、なかなか茶目っ気ありますね。しかし衛兵があんなふうに機能しているとなると……、これは困りました」
「なんで困るんだ?」
「だってあれですよ、あんな特殊な衛兵が機能してるってことは、そこらのお宅におじゃましまーすって入っていて、タンスとかツボをあさるのは駄目ってことじゃないですか。また衛兵呼ばれてお仕置き部屋です」
なんでこいつってこんなにゲーム脳なんだろう……。
「わたし密かに楽しみにしていたのに……。あ! じゃあお城とかも駄目ってことですか!? 宝物庫で宝箱開けたかったのに! ……ちょっと試してきてもいいですか?」
「ダメ」
「……どうしても?」
「あきらめろ」
「ぐすん……」
シアはしょぼくれてしまったが、まず間違いなくお仕置き部屋にご招待されるような行動を見過ごすことはできない。
それからおれたちはサブクエの[人に話かけてみよう]と[町を散策してみよう]を達成させるために町を歩き回りながら見かけるNPCに片っ端から話しかけていった。
それでわかったのは、この都市に配置された人々はゲームのNPCと同じということ。
設定された行動を行い、会話しても決められた台詞を言うだけである。
あと、武器・防具・道具屋など商店には入ることができても、関係の無い建物に立ち入ることは出来ないことがわかった。
所詮、シアの夢は儚いものだったのである。
サブクエの[人に話かけてみよう]は早々に達成されたが、目標としていたもう一方の[町を散策してみよう]はなかなか達成されなかったため、おれたちはミーネに観光案内されながら引き続き町を歩き回り、ついでにNPCにも話しかけていった。
NPCの会話は天気などのたわいもない世間話が多かったが、なかにはこの夢の世界においての時事的な話題――魔王の季節に関したものもちらほらとあった。
それは国が勇者を捜していることや、ポーションの価格が高騰して困っているといった話である。
「国が勇者を捜してるのって、勇者大会のときにあなたが説明してくれたあれよね。周りの国に威張れるからっていう」
「そうだな。まあこの国の勇者は魔王討伐までやってのけちまったが……、その前に国が滅んでるし、なんだかなーって話だ」
「ポーション不足と値上がりに関しては、聖都の錬金術ギルドで聞いた通りですねー」
「んだな」
この時代に起きた大陸規模の深刻なポーション不足は、不安に駆られた国や組織、富裕層によるポーションの大量確保が原因であり、結果として価格が高騰したことから投機の対象にすらなった。
しかし、この騒動があったからこそ、これではいけないと改革を始めた奴が現れて錬金術ギルドは今の立派なギルドとなったのだ。
「少し皮肉な話ですね」
そう言ってアレサは苦笑。
まったくその通り、皮肉である。
それからもおれたちは町を散策しながらNPCに話しかけていったが、そのうちの一人が冒険者ギルドの場所を教えてくれた。
「うん、場所は同じみたい。じゃあここからは私が案内するわね」
行っくわよー、と先頭を行くミーネ隊長に続き、おれたちは冒険者ギルドを目指した。
奈楼小雪様、レビューありがとうございます!
カノン様、レビューありがとうございます!
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/05/05




