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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
9章 『奈落の徒花』前編
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第567話 14歳(秋)…リッチ

 死人落としが効かないと知ったリッチたちは動揺を見せた。

 しかしまだ万策尽きたわけではないらしく、すぐに意識を切り替えてくる。


「むぅ、小癪な奴らめ。死人にして使ってやろうと思っていたが、これではただ始末するしかないではないか」

「木偶では気が利かぬからな、残念なことだ」

「こうなれば我らが放つ魔導の粋、極大破壊魔法を存分に味わうがよいわ」

「いや、それでは我らも危ういぞ? 適度な魔法にした方がよい」

「うむ、その通りだ」


 リッチと言ったら魔導師の干物。

 やはり凄い魔法の一つや二つは使えるようだ。

 と――


「ディバイン・シールド!」


 危機を察したアレサが速やかに魔法障壁を周囲に展開。

 皆はそれぞれ臨戦態勢に移り、おれも〈雷花〉で詠唱妨害をすべく構えてみたが――……。

 起きない。

 何も。


『……、……? ……?』


 それもそのはず、リッチたちは魔法の詠唱もせず仲良く首を傾げるばかりなのだ。

 魔導的な儀式なのだろうか?

 そう訝しんだその時――


「……、フ、ファイヤーボール!」

「ファイヤーボール!」

「ファイヤーボール!」


 リッチたちは一斉に火球をぶっ放してきた。

 そして放ってすぐに次の火球、次の火球。

 ひたすらひたすら、一心不乱にファイヤーボール。

 飽きもせずにファイヤーボール。

 これでもかと叩き込まれる火球だが、その程度の魔法ではアレサの魔法障壁を撃ち抜くことなどできやしない。にもかかわらず、リッチたちは馬鹿の一つ覚えのように火球、火球、また火球。

 てっきり凄い魔法を放ってくると警戒していたおれたちは、迂闊にも隙を突かれることになり、結果としてリッチたちのファイヤーボール祭りを困惑気味に見守るというよくわからないことになっていた。

 そんな集中砲火のなか――


「なあ! あいつら呪文忘れてあれしか使えねーんじゃねえの!」


 リィが大きな声で言った。

 ぼわーんっ、ぼわわーんっ、と火球が障壁にぶつかって掻き消える音がうるさいからだが……、それが向こうにも聞こえたのだろうか?


「アイスアロー!」

「ウィンドカッター!」

「サンダーアロー!」

「ウォーターボール!」


 放たれる魔法の種類が増えた!

 増えたが、それらは各属性の初歩的な攻撃魔法である。


「リィさんの予想が当たりっぽいですね!」

「えー、初級魔法しか使えないリッチって、それってどうなんですー? 他のリッチさんから苦情来ますよこれー」

「己が研鑽の果てにリッチへと転じたわけではないからな、所詮はこんなものだろうよ!」


 予想よりもだいぶ攻撃はしょぼいが、困ったことにこの集中砲火、これはこれで効果的だったりする。

 弾幕のせいで反撃がしにくいのだ。

 もちろん、やろうと思えばいくらでもできるのだが。


「まああれだ、まともに付きあうだけ無駄というわけだ! ひとまず私が出て隙を作る! 一体は片付けるから、皆も他を頼む! とっとと始末してしまうぞ!」


 打って出る、と告げるロシャ。

 この宣言にお嬢さん方もやる気になった。


「じゃあ私も一体引き受けるわ」

「それではわたしも一体引き受けますねー」

「んじゃ私も。ヴィルジオも頼めるか?」

「うむ、引き受けよう」

「なら残ったのはあたいとあんちゃんでだなー」

「あ、では私は猊下の守りを」


 それぞれが受け持つリッチを決め、そこでロシャが防御壁の真上へと飛びだした。

 そして放つ念動波。

 力の波は飛来する魔法を掻き消し、その余波でもってリッチたちをよろめかせた。


「今だ!」


 叫び、ロシャはガフロフトへ突撃。

 その合図を受け、他の面々もそれぞれぶっ殺すと決めたリッチへと駆けた。

 その中でまず最初に一撃喰らわせてやったのはシア。

 一直線、最速で突撃し、よろめいた赤リッチが態勢を立て直す前に跳び蹴りを喰らわせたのである。


「そぉ――れッ!」


 ドゴッ、と。


「ほんげーッ!?」


 シアの突撃、その勢いすべてが乗った一撃をもろに喰らった赤リッチは為す術も無く吹っ飛んだ。

 まずは水平にかっ飛び、それから床を二回バウンド、最後にゴロゴロゴロッと転がってからようやく止まる。

 そこにシアの追撃が。


「とう!」


 疾走、そしてスカートを押さえつつの跳躍からの踏みつけへ。

 が、赤リッチは両手も使ってその場から跳ね、すんでのところでシアの強襲を躱してのけた。

 結果、シアは誰も居ない場所を踏み砕くことになったが、着地の衝撃を殺すべくしゃがんだ体勢からさらに跳躍しての蹴りを放った。

 これはさすがに躱せない。

 シアは身体能力の高さ――特に速さを生かした攻めにより、リッチに即発魔法を使わせる隙すら与えず圧倒的な優位を保っていた。

 そんなシアと同じく、ヴィルジオも身体能力の高さで攻めている。

 受け持った緑リッチを殴り飛ばし、蹴り飛ばし、壁際まで追い詰めてからは壁に叩きつけて跳ね返ってきたところをさらに攻撃するというリッチの壁打ちを始めていた。

 そしてこの二名よりもさらに激しいのがロシャだ。


「おらーっ! このボケがーっ!」

「フ、フレイムランス!」

「効くかボケがーっ!」


 いったいどれほど頭に来ていたのだろうか、ロシャは紫リッチ――ガフロフトが放つ魔法を気合いで掻き消し、念力でぶっ飛ばしては宙を駆けてそれを追い、さらにぶっ飛ばすという暴力の化身と化している。

 まあ動物がオモチャで遊んでいるようにも見えるのだが。

 一方、まともに戦っているのはミーネ。

 白リッチが放った魔法を剣で斬り――


「いいわよ! どんどん来て!」

「なんだこいつ……!?」


 訂正、まともに戦ってはいなかった。

 完全に練習相手にしていた。

 そして何をやっているのかよくわからないのがリィだ。


「くっ……!」

「だから遅いっての、ほれ」

「ぐおぉぉ――ッ!?」


 リィは気怠そうな感じで青リッチと対峙しており、火の魔術でもって青リッチを繰り返し炙っていた。


「つか、お前らこの二百年ほど何やってたんだ? 魔法の練度が全然だぞ?」


 どうやらリィはディスペルで青リッチが使おうとする魔法を片っ端から封じ、その都度、不合格を言い渡すように火の魔術で攻撃を加えているようだった。

 魔法の発動を妨害される度に青リッチはキャンプファイヤーと化していたが、それでも炎を耐えきっている。


「しぶとさだけは見事だな」


 確かにリッチたちはなかなかタフだ。

 ただの乾物ならシア、ヴィルジオ、ロシャがとっくに木っ端微塵にしているところなのに、まだ五体満足でわめいている。

 どんだけ頑丈なんだ、と思いつつ、おれは黄リッチをびりびりで痺れさせ、ティアウルにぽこぽこ殴らせていた。


「マ、マジック・シールド!」


 びりびりー。


「ぐぉぉぉ――ッ! 貫通してくるのは何故だ!? えぇい、ではこれならばどうだ!」


 と、黄リッチは素早くティアウルの背後に回り込んだ。


「お、なんだー?」

「ふはは、仲間が近くに居ては――」


 びりびりー。


「ぐぉぉぉ――ッ! な、仲間ごと!? なんて容赦の無いガキだ!」


 んなわけねえだろ。

 今回、ティアウルが着ているのはメイド服じゃなくておれの作った服、故に雷撃なんぞ何の効果も及ぼさないのである。

 よってティアウルは雷撃の嵐の中でも平然と動き回れ、逆に痺れて動けないリッチを斧槍でボコボコに出来るのだ。


「よいしょ! よいしょー!」

「あぐっ! へぐっ! お、おのれぇぇ……!」


 黄リッチは為す術無く斧槍でぶん殴られ続けているのだが、どういうことだろうか、まだその身躯はまったく損傷を負っていない。

 いくらなんでも頑丈すぎるのではないか――。

 ようやくリッチたちの異常な耐久力に不審を抱き始めたとき、シアが叫んだ。


「ご主人さまー! ちょっと問題! リヴァちゃんの効果が無いみたいです! アプラちゃんも駄目です!」


 リヴァはアンデッド特攻。

 アプラは生けるものへの特攻。

 その両方が効果無しってのはどういうことだ?


「たぶんリッチじゃねえぞ、こいつら!」


 そう叫んだのはリィだ。


「常軌を逸したシアの鎌が通じねえってんならそういうことだろ! こいつらアルフレッドの奴が拵えた生きても死んでもいねえ、負の現象として存在するリッチみたいな何かだ! フレッシュゴーレムが近いかもしんねえな!」


 フレッシュゴーレム――。

 生物の死肉を素材にしたゴーレムのことであり、フランケンシュタインさんが誕生させちゃった『名無しの怪物』がそれにあたるだろう。

 こいつらはそのフレッシュゴーレムそのものではないが、死体から誕生した自律行動できる『怪物』であるため、確かに近い存在だ。

 シャロ様の弟さん、ちょっとマッドすぎやしませんかね?


「あのー、リィさーん、いま何かうちの子たちが言われ無き中傷を受けた気がするんでするけどー」


 リィの発言に対し、シアがささやかに抗議するもそれはロシャの声によって掻き消された。


「はっ、どうりで無駄にしぶといわけだ! こいつらの実力は大したものではなかったが、こいつらを作り替えたアルフィーはシャロを除けば魔導の頂点だったからな!」

「じゃあこれどうやったら倒せるのー!? ちょっと本気で斬ってみても効かなかったんだけどー!」


 ミーネが本気で斬って?

 そこまで頑丈となると、けっこうマズいのでは?

 そんな不安を抱いたとき、毅然と叫んだのがアレサだった。


「猊下、ここはわたくしにお任せを!」


 そう告げるやいなや、アレサはびりびりさせている黄リッチに突っ込んで行く。


「今こそアンデッド退治が得意と言った意味を! 居ないとわかったときはがっかりでしたが、これでお目に掛けることができます! そこだけは感謝します! 行きますよ!」


 と、その時、リッチめがけ駆けるアレサの体に変化があった。

 暖かな淡い光が灯り、辺りにしぶとく漂っていたリッチたちの黒いオーラを消滅させ始めたのである。

 光を宿したアレサはそのまま黄リッチに抱きついた。


「き、貴様! 離せーッ!」

「離しません!」

「ぐ、ぐおぉぉ――ッ!」


 黄リッチは苦しみ、纏っていた黒いオーラが掻き消されていく。

 リッチたちは生者を死人に変えた。

 それは巨大な負の力が正の力を丸ごと飲みこみ、負の存在に変えてしまったが故の現象だが、今アレサがやろうとしているのはその逆、高めた己の正の力にてリッチが宿す負の力を掻き消し、死というゼロ――機能停止に導こうとしているのだ。

 自分はアンデッドに強い――、そう珍しくアレサが張りきっていたのは自分自身が対アンデッドな存在だったからということか。

 奴らにとってアレサの抱擁は死の抱擁。

 苦しみ藻掻いていた黄リッチだったが、やがて力無くぐったりとしていき、最後は何の反応も示さなくなる。

 アレサが抱擁を解くと、黄リッチはその場に崩れ落ちた。


「お? お? ねえちゃんやったか?」


 側にいたティアウルがミーティアでつんつんしても、黄リッチはもう枯れ木のように倒れていて動かない。


「猊下、やりました!」


 見事リッチを昇天させたアレサは、今度はおれに駆けよってきて抱きついた。

 だが――


「ねえちゃん、まだダメだぞ!」


 ティアウルの叫び。

 再び黄リッチを見やると、広間を漂っていた黒いオーラが渦巻きながら奴に吸い込まれていくところだった。

 そして――


「ふ、ふはははは、我らは――不滅よ!」


 黄リッチは高笑いをしながら復活を果たした。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/12


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