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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
9章 『奈落の徒花』前編
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第562話 14歳(秋)…騎馬戦

『さて、続いての競技は激しいものとなります!』


 このヴァズの言葉に、死人たちが「あれか!」と色めきだった。

 うん、良い予感がまったくしませんね。


「な、なんだよー、今度はどんなトンデモ競技なんだよぉー」


 おれは恐れおののくばかりだったが、逆にうちのお嬢さん方は乗り気になった。


「激しいもの……? むしろその方がいいわね」

「腕力でごり押しできると、わたしとしては楽ですねー」


 謎の器用さが求められる競技であった場合、どうしても慣れている死人たちの方が有利となるため、うちは純粋な身体能力の高さがものをいう競技が勝ち星を挙げるチャンスとなっていた。


「あいつらが普通に襲ってきてたらもう片付いてんだけどなー」


 リィが身も蓋も無いことを言うと、アレサが「まったくです」と同意した。

 アレサさん、戦いたかったの……?


『えー、侵入者の皆様は御存じないので説明しますと、この競技、参加する四人組を騎馬に見立てた肉弾戦となっております!』


 ん……?

 それってもしかして……。


『三名が組み合って馬役となり、その上に騎士役が乗っての騎馬! この競技は騎馬が最後の一騎になるまで戦い続けるという生き残り戦なのです! あと、騎馬数を侵入者の皆さんに合わせると全部で五騎だけという寂しい戦いになってしまうため、今回は特別に侵入者側となる騎馬をこちらで用意し、それぞれの組が合計で五騎、計二十五騎による戦いになります!』


 やはりそうだ、騎馬戦だ!

 やったった、まともだぞ!

 つかうちにはシアとヴィルジオが居るからこんなのボーナスステージみたいなもんだ!


「シアとヴィルジオは行ける?」

「もっちろんです」

「無論だ」

「じゃあひとまず二人が参加で、あと二名は――」

「はい! 私が行くわ!」

「猊下、私も参加させてください!」


 ここで名乗りを上げたのはミーネとアレサ。

 それ以外となると、残っているのはおれ、ティアウル、リィの三名である。

 これはもう決定かな。

 ティアウルは斧槍を手にしていないと普通のお嬢さんだし、リィは肉弾戦が特別強いわけでもない。

 そしておれ。

 あっちで騎馬戦に参加したことはあるものの……、いや、まともに参加してはいなかったか。

 記憶にある騎馬戦のエピソード。

 馬の正面役になったおれは、他の馬役二人と共謀。

 相手チームの騎馬が突撃してきた瞬間、おれが「トライアングル・フォーメーション!」と叫び、これにより馬役は役割を放棄、三方へ散開して逃げる、という、まあ悪戯のようなものを計画した。

 うん、あとで騎士やってた奴にめっちゃ怒られたのを覚えてる。

 そんな実にどうでもいいエピソードを思い出して少し懐かしい気分になりながら、おれは出場する面々でどう騎馬を組むか考えた。

 シア、ミーネ、アレサ、ヴィルジオ。

 騎士にシアかヴィルジオを据えたいところだが、馬にミーネを入れると踏ん張りやぶちかましを受けたときの耐久性が心配になる。

 相談の結果、ミーネを騎士、正面をアレサ、左右をシアとヴィルジオにして、馬で轢き殺すスタイルで挑むことになった。

 この戦い、つらいのはアレサだ。

 敵に接触しやすいのも、左右のシアとヴィルジオの力がもろに伝わるのも、ミーネが咄嗟にしがみつくのも馬の正面役だからである。

 下手するとそれで怪我を負うことになるが、そこはアレサの頑丈さに期待してきつい役を引き受けてもらった。


「アレサさん、大変だと思いますが……、お願いします」

「お任せください! 必ずや猊下に勝利をお届けします!」


 アレサの気合いは充分だ。

 こうして騎馬の構成を決めたところで、今回こちら側になる十六人の死人がやってきて懇切丁寧に騎馬の組み方をレクチャーしてくれた。

 ここは問題なし。

 そして――


『さて、準備は整いましたか? よければそろそろ開始位置へと移動をお願いします!』


 ヴァズのアナウンスがあり、これによって各組の騎馬が広間の中央へと移動する。

 そして各組五騎の騎馬が横並び、五角形な感じに陣取っての睨み合いとなった。

 敵の騎馬の中には死人代表ベリサクスを騎士に据えたものもある。

 つかあいつ剣を腰に差したままだけど……、さすがに飾りだよな?

 まあ抜いたら抜いたで、ミーネも魔導袋から剣を引っぱりだして対抗するだけだが……。


『さあさあ各組の騎馬が出そろいました! 準備はよろしいですね? それでは騎馬合戦――開始!』


 ガーンッと開始の合図が鳴らされ、出場する死人たちが猛々しい怒号をあげながら突撃していく。

 しかしそんな状況にあって、うちの騎馬はまだ動かない。

 これは『まず死人たちがどんな戦い方をするか見てから』と最初は様子見をするよう指示を出してあったからである。


「ん?」


 と、そこでおれは気づく。

 開始位置に留まる騎馬がうち以外にも一騎。

 それはベリサクスの騎馬で、どういう作戦なのか、始まった乱戦など気にも留めぬようにどんと構えている。

 一方、突撃していった二十三騎の騎馬は広間の中央で盛大にぶつかり合った。

 もうそのぶちかましだけで三騎が崩壊するほどだ。

 景気よく開幕のひと当てをしたあと、残る二十騎は散開。

 近くの獲物へと襲いかかる騎馬もあれば、一旦距離を置いて再度突撃を試みる騎馬、乱戦の中をするすると抜けつつ隙を見つけ強襲する騎馬と、それぞれの戦術を取り始めた。

 これらの行動により、最初の派手な突撃からではわからない、騎馬戦における死人たちの練度が見てわかるようになった。


「騎馬戦っちゃー騎馬戦だけど、別物だろこれ……」


 反復横跳びめいた華麗なステップ、騎士が不利とわかれば馬役たちがその場でターンして敵を振り払うなど、状況に対してのセオリー――技が完成しているのである。

 それを可能としているのは連中の異様なまでの連係。

 まあ練習しまくったんだろうからそれも納得だが、それにしてもちょっと気持ち悪いくらい連中の動きは良い。

 馬役と騎士役、その四人の息がぴったりで、まるで一つの生き物――六本足の怪物のように戦場を自在に動き回るのだ。

 それはボールルームダンスを行う男女のペアのように、時に自分を相手に任せ、時に自分が相手を受ける、一人ではないからこそ可能となった動きなのだろう。

 もし騎馬戦が国際的な競技であったなら、おそらく選手たちの騎馬はあの死人たちのような動きをするに違いなかった。

 戦場はそんな歴戦の騎馬による戦いが繰り広げられていたが、新参者とてうちの騎馬も負けてはいない。

 柔よく剛を制す。

 されど剛よく柔を断つ。

 シアとヴィルジオの突撃力に敵う騎馬など存在しないのだ。

 まあ突撃が強すぎて敵騎馬を撥ね飛ばしたあと勢い余って体勢を崩すこともあったが、二人は自分以外のメンバーが体勢を崩しても自分一人の力で支え、立て直させるだけの力を持っているのでなんの問題にもならなかった。

 アレサはそんな二人の力を受けながらよく頑張ってくれている。

 ところで――


「あはははは! 次はあの騎馬よ! 突撃ー!」


 ミーネって高笑いしてるだけじゃねえ?

 ともかく、乱戦の中、次々と騎馬が崩壊していくのだが、そんな状況になっても未だに動かないのがベリサクスの騎馬だ。

 だが、奴が戦っていないというわけではない。

 これまでに三騎ほど、助走を付けてベリサクスの騎馬へと突撃していった奴らがいたのだが、ぶつかった瞬間、そいつらは車に撥ねられたようにぶっ飛ばされてしまっていた。

 まるで魔法でも使って弾き飛ばしたようであるが、実際は卓越した技術を用いているのである。

 突撃してきた奴らが接触する瞬間、ベリサクスの騎馬はその騎馬に向かって瞬間的に一歩踏みこむ。

 馬役の三名がまったく同じタイミングで踏み込み、ベリサクスはその方向へ姿勢を傾けるのである。

 それが必殺の騎馬戦技。

 もう訳わかんねえが、おそらくそれは中国拳法の流派の一つ、八極拳における震脚と、そこから繋げられる至近距離での突進――貼山靠のようなものなのだろう。

 何故、ベリサクスの騎馬が動かないのか?

 それはベリサクスの騎馬が強すぎるからであり、であるが故に待つことを許されているのだ。

 絶対強者として、この乱戦を勝ち残る猛者――自分たちが戦うに値する騎馬が目の前に立つその瞬間まで。

 そして――。

 生き残ったのはもちろんうちの騎馬だった。


『何ということでしょう! 侵入者の騎馬が生き残り、我らがベリサクスとの一騎打ちとなりました!』


 ヴァズが興奮気味に叫びつつ、中央――うちとベリサクスの騎馬の中間あたりに移動する。

 この一騎打ちを近くで実況しようというつもりだろう。


『技術に勝る騎馬を次々と力で撃破していった侵入者たちの騎馬は、ベリサクスの騎馬に敵うのでしょうか!』


 確かにベリサクスの騎馬は頭おかしいんじゃないかと思うくらい鍛え上げられた変態的な騎馬だが、シアとヴィルジオを有するうちの騎馬ならばそれすらも打ち砕いてみせるだろう。

 だが、つい『もしも』を考えてしまうくらい、ベリサクスの騎馬が変態的なことも確かなのだ。

 すでに敗退した騎馬は撤収し、広場はうちの騎馬とベリサクスの騎馬が対峙するばかりとなっている。

 先ほどまで喧しく騒いでいた死人たちも、固唾を飲んで決戦の瞬間を待っていた。

 死人たちはベリサクスの騎馬がどれほど強いか、そんなことは充分把握していることだろう。

 うちの騎馬では敵わない――、そう断言できるなら、きっと死人たちは大声でうちの応援をしていたのではあるまいか。

 それがこうも静か、静寂が訪れるまでになったのは、うちの騎馬ならばベリサクスの騎馬を倒すことも不可能ではないという予感を抱いているからではないだろうか?

 二騎の騎馬はしばし睨み合いを続けていたが――


「さあ、行きましょう!」


 ミーネの合図によってまずうちの騎馬が動き出す。

 と、それに合わせるようにベリサクスの騎馬が歩みを進めた。

 二騎は引かれ合うよう、徐々に加速して迫っていく。

 が、その時だった。


『ぬぁぁにをやっとるか馬鹿共がぁぁ――――ッ!』


 突如、広間の上空にでっかいミイラ顔が出現したのである。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/12

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/03/21

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/02/23


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