表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
9章 『奈落の徒花』前編
570/820

第561話 14歳(秋)…聖女は何とか活躍したい

 死人たちの運動会。

 単純なはずのリレー走ですらアレだった。

 じゃあ他の競技はどんなことになってしまうのか?

 もう不安で仕方ない。

 そして続く競技は……、やはりアレなものが多かった。

 いや、アレなものだけだったと言うべきか。

 だがそれでもおれは我慢した。

 でも――


『それでは次の競技に移りましょう! 侵入者の皆様は準備が整うまでしばしお待ちください!』


 ヴァズのアナウンスがあり、次の競技で使用する器具の準備が始められる。

 そこでとうとうおれに限界が訪れた。


「うおぉぉ――い! おい!」

『はい? 何でしょう!』

「何でしょう、じゃねえよ! 何でしょうじゃねえんだよ! 我慢してたけどもう限界だ! 何だよ、何だよあれは!」

『次の競技に使う器具ですが……?』

「それはわかる! まあわかる! たぶんその上の籠に何か放り込んでその数を競い合う競技だってこともなんとなくわかる!」


 要は玉入れだ。

 しかし――


「なんで器具が骨なんだよ! どれもこれも骨! ほねー!」


 細い柱、その天辺にある籠、それは骨を組み、髪を束ねた紐で固定されているという、悪夢から引っぱりだしてきたような代物だ。

 これまでの競技も使用される道具・器具は骨だった。

 さっきのドクロ運び――要は玉運び・スプーンリレーなのだが、使う道具がひしゃくやスプーンではなく、肘から先の腕の骨。

 その手の平に頭蓋骨のっけて、のろのろゾンビたちを躱しながら走るというルナティックなものだった。

 やっている競技はまあ普通(?)なのだ。

 なのに道具が!

 道具が骨!

 骨ーッ!

 猟奇的すぎんだよ、夢に出るわちくしょう!


「むっ、骨が気に入らぬのか」


 おれが憤慨していると、宥めようと代表のベリサクスがやって来た。


「すまんな。なにぶん、こんな場所なので資材が無く、迷宮を巡り侵入者の遺体を集めて材料にしたのだ」

「え、迷宮に死体が無かった理由ってそれなの!?」


 わっかんねえよそんなもん!

 真面目に考えてたおれがバカみてーじゃねえか!


「他に手段は無かったの!? 服とか裂いて使うとかさ!」

「むろんそれも考えた。しかし……、手を出すと歯止めが利かなくなる予感がしたのだ。そうなった場合、我々は君たちを全裸で迎えることになっていただろう!」

「――ッ!?」


 まいった、こいつら賢明だ!

 どっかの村でやってたら村ごと焼かれること請け合いな運動会ではあるが、こうなるとおれとしても納得するしかない。

 視界の隅、向こうの方に見える骨の塊――たぶん大玉転がし用の骨玉――も認めるしかないのである。

 常識的であろうとした結果がこの狂気とはなんとも皮肉な話だ。


「納得してもらえたようだな。――では! 競技に移るとしよう! ヴァズ、解説を頼む!」

『はい、それでは解説を。次の競技は『骨入れ』です! 地面に散らばる骨を拾っては投げ、拾っては投げ、あの柱の上にある籠に入れるわけです! 骨によって得点が異なるので軽く投げやすい骨ばかりを入れるのはお勧めしませんね! 基本的に重い骨の点数は高い傾向にあり、頭蓋骨が一番となっております! さらに、投げ入れた骨が人一人分揃っていれば特別得点! ぜひとも狙っていってほしいところです!』


 狙えねえよそんなもん!

 頭を抱えるおれをよそに、骨入れの準備は速やかに進む。

 広間の中央と四方に骨柱が立ち、その周囲にばらばらーっと大量の骨が撒かれた。


「あれを拾って投げるのか……」

「骨骨ファンタジーですねー。ま、頑張りましょう。モンクジョブではないですがわたしも頑張りますので」


 シアが何か言っている。

 たぶんネタだろうが、反応する気力が湧かないので流した。


    △◆▽


 そして『骨入れ』が始まった。

 今回、おれたちはロシャを除く七名での参加である。

 勝っても負けても一度帰還する予定なので頑張る必要はないのだが、ここで勝っておけば次に来たときはこの茶番に参加する必要がなくなるのでなるべくなら勝っておきたいところである。

 負けるとやっぱりもやもやするし、またこの狂気の運動会に参加しなければならないというのは気が滅入る話だ。

 なので勝ちたい。

 後顧の憂いを断っておきたい。

 だからおれは骨を投げた。

 せっせと骨を拾って投げ、拾っては投げ、を繰り返した。

 しかしこの骨入れ……、これでなかなか難しい。

 普通の玉入れなら重さが均一なので、投げているうちにだいたいの力加減がわかってくるものだが、骨は同じ重さのものが少ない。

 だから慣れない。

 いつまでたっても投げにくい。

 それでもおれはなんとか骨籠に骨を入れようと頑張る。

 どれだけ頑張って、まかりまちがって骨入れのスペシャリストになったとしても、もうその能力を活かす機会は絶対に訪れないとわかるのがなんとなく切ないけど頑張る。

 そしてみんなはと言うと――


「あーもー! なかなか入らないじゃないのこれー!」

「あたいこれ苦手だー!」


 ミーネとティアウルは文句を言いながらもわりと楽しそうにやっている。

 骨についてはもう受け入れたのだろうか?


「妾は何をやっておるのか……」

「やっぱりろくな事にならねえ……」


 ヴィルジオとリィは戸惑ってしまってなかなか調子があがらない様子。

 そんな中、頑張っているのがアレサだった。


「えい! えい! よし、これで肩胛骨が二つです! 次は肋骨! えっと……、これは右の第三肋骨……?」


 アレサはせっせと骨だらけの床から肋骨を拾い集める。

 開始前「人体には詳しいのでお任せください!」とか張りきっていたが……、まさか人一人揃えるつもりなのか?

 そして頑張ると言っていたシアは、ふらふらっとしてはひょいっと骨を摘んでぺいっと放り投げ、簡単に骨籠に入れていた。

 妙なところで器用な奴だ。

 それからどれくらいの時間が経過しただろうか?

 短いような気もするが、やっているおれとしては苦悩のあまりやたら時間が長く感じた。

 やがて競技の終了が告げられ、まずは床に撒かれた骨が片付けられる。

 次に柱が倒され、骨籠に入った骨を床に。

 そして死人たちによって得点の集計が行われた。


『現在、得点は死人三組が一位! 二位が死人一組、三位が侵入者組となっています! しかし、まだ勝負はわかりません! これから投げ入れられた骨を組み合わせ、人一人が出来上がるか確認が始まります! さてさて、どうか! ――あ、わりと時間がかかるので、侵入者の皆さんは休憩をどうぞ!』


 色々とアレな競技ばかりさせやがる死人たちだが、こういう気遣いはしてくれる。

 すでに何度か休憩をとっていたため、魔導袋からテーブルとイスが出してあり、おれたちはそこでひと休み。


「ぜんぜん駄目だったわー」

「あたいもだぞ。これまで骨なんて投げたことなかったからな」

「ティアよ、あったらそれはそれで恐いぞ……」


 やれやれ、とミーネ、ティアウル、ヴィルジオは水に塩と砂糖、レモンっぽい果実の果汁を加えた自家製スポーツドリンクをぐびびーっと飲んで水分補給。


「今回の競技はな……。ま、次で挽回しようぜ」

「うむ、リィの言うとおりだな。私も参加できればよかったのだがな……、ペット扱いしおって」


 ペット扱いで競技に参加できないロシャは応援するしかない。

 あと棒人間モードのミーティアも応援だ。

 こっちは身振り手振りでわちゃわりゃするしか出来ないが。

 そんなぐったりしていたり、気持ちを切り替えようとしている者たちがいるなか、しょんぼりなのはアレサだった。


「一揃えには至りませんでした……、無念です」

「いや、そこは揃ったらいいな、くらいの話ですから」


 張りきったけど上手くいかなかったアレサは落ちこんでいる。

 と、そこで興奮したヴァズのアナウンスがあった。


『おっと! どうやら人一人揃えた組があったようです! 素晴らしい! その組は――、なんと! 侵入者組です! これにより骨入れは侵入者組が一位となりました! 我々でもなかなかやれないことを見事やってのけました! 狙ったのか、それとも偶然か、どちらにしてもめでたいことです! 皆さん、盛大な拍手を!』


 めでたいのか……?

 たぶんここの死人たちにはめでたいのだろう、ヴァズの言葉を受け死人たちは盛大な拍手をおれたちに送る。

 しかしよく揃ったものだな、と思っていたところ――


「ふふーん!」


 シアが得意げな顔をしてぐいぐい迫ってきた。


「え、もしかしておまえ狙ってやったの?」

「もちろんです。ほら、始まる前に頑張るって言ったじゃないですか。得意と言うのもおかしいですが、わたし、詳しいので」


 元死神だからってことなのだろうか?

 何にしてもこの落としても仕方のない競技で勝利できたのはシアのおかげだ。


「よーし、よしよし、よくやった!」

「おぉっ!? 想定以上の喜びよう!?」


 正直諦めていたこともあり、思いのほか嬉しくなってシアを撫で回す。

 たぶん狂気の世界で変なテンションになっていたというのもあるだろう。

 そんなおれの視界の隅。

 なんかアレサがぷくーっと膨れていた。


「……!?」


 目の錯覚かと、一度ギュッと目を瞑って開いてみる。

 アレサは微笑んでいた。

 やはり目の錯覚だったようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ