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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
9章 『奈落の徒花』前編
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第554話 14歳(秋)…シャーロットの霊廟

 竜皇と和解できた以上、べつに出発を急ぐ必要は無くなっていたのだが、なんか行く雰囲気になっていたのでおれたちはアロヴの背に乗ってそのまま首都ファウェルを後にした。

 そして翌日の昼過ぎ、無事シャロ様の霊廟上空へと到着。

 霊廟は山の合間、ちょっとした平原にぽつんとある年季の入った石の建造物だった。


「あれだな」

「あれですか? わりとこぢんまりとしたものなんですね」

「地上部はな。あの通り目立たない」


 そんな迷宮の入口となる霊廟の周囲には人が活動していた痕跡がある。


「あれは調査団の野営地跡だ」


 きょろきょろと見回すおれの様子から疑問を察したか、ロールシャッハがそう言った。


「完全な調査にはならなかったがよく頑張ってくれた。相応の報酬を与えたので、今頃はのんびりしていることだろう」


 精神をすり減らすことになったであろう調査団には深く感謝を。


「あと、あの周囲に幾つもある石はなんでしょう? 墓石みたいですけど、もしかして本当に? 霊廟に挑んで犠牲となった人の?」

「いや、あれは伝言だ。引き返せ、とか、命を大事に、とかそういうことが刻まれている。当時、あまりにも帰らぬ者が多かったのでドラの奴が用意させたらしい。一応あれは管理者だからな、無駄な犠牲者を増やさないようにという配慮だ。効果があったかは謎だがな」


 ふむ、自殺の名所にある思い直させるための看板のようなものか。


「ではそろそろ下りるとしようか。アロヴ、頼む」

「あ、はい」


 霊廟の上空を旋回していたアロヴは地上へ降り立ち、おれたちが下りやすいようにと地に伏せる。


「アロヴさん、ありがとうございました」

「なに、いいってこと。途中で旨い食事も食わせてもらったことだしな。ひとまず俺は戻ろうと思うのだが……、帰りはどうする予定になっているんだ? もしかして俺はここで待機するのか?」

「あ、それなら使いを送ります。ほら、あの犬かヒヨコに手紙を持たせますので、その時に迎えをお願いします」

「ああ、あれでか」


 なるほど、とアロヴが納得しているとヴィルジオが言う。


「アロヴよ、帰るなどと言わず一緒に来てはどうだ?」

「えぇ……、いや、俺は探索とかそういうの向きませんから、遠慮しておきますよ。足手まといにはなりたくない」


 アロヴは人の状態でも強いが、本領は竜化してから。

 しかし迷宮内で竜化しても身動きが取りにくくなるだけ。

 こういう状況だと、完全な竜にはならない竜化ができるヴィルジオのような者の方が有利となるようだ。

 武運を祈る――、まあ必要無いだろうが、と言い残して飛び立ったアロヴを見送ったあと、おれたちはまずは確認作業を始める。

 必要になりそうな道具や食料については、おれ、シア、ミーネ、アレサ、リィと五人も魔導袋持ちがいるので問題無い。

 ここで確認するのはリィが用意してくれた魔道具だ。


「色々と考えてみたんだが……、罠はロシャが潰すし、必要な道具は魔導袋で持ち込めるからさ、ぶっちゃけ何も無しでもいいかと思ったんだけど……、まあ一応、気をつけないといけない罠に対処するための道具だけ用意した」

「気をつけないといけない罠?」

「落穴だよ。地味だけどやっかいだから、あれ」


 そう言いながらリィが出してきた物は二つ。

 ワイヤーアンカー発射装置の付いたガントレット。

 そして明かりも灯せる『浮遊』の回廊魔法陣が施されたベストだ。


「あっ、と思ったらまず『フライ』と叫べ。それから『シュート』でこいつが飛びだして壁か天井に固定される。応用で不安定な場所や、足場の無い場所を飛びこえることもできる。要はこういうこと」


 と、リィが装着しての実演。

 助走を付けてぴょんとジャンプし、同時に「フライ」と言う。

 浮力を得たリィは慣性に押されて十メートルほどをやすやすと跳んで見せた。

 思い切り助走をつければもっといくだろう。


「クロアがメタマル使って跳んだり跳ねたりしているのを見て思いついたんだ。まずは実際に使ってみてくれ」


 それから皆にガントレットとベストが配られる。

 ロールシャッハはロシャになるので必要ないらしい。

 そして皆の装着がすんだところ――


「えっと、三つの言葉は……」


 ティアウルがぼそっと呟いた。

 ちょっと発動句を覚えているか怪しい感じだ。

 するとミーネが元気よく言う。


「もう忘れちゃったの? シュート、ライト、フライよ!」


 と言った瞬間、ミーネのガントレットから射出されたアンカーは地面に突き刺さり、ベストはほんわかと発光、続いて発生した浮力によってミーネはふわりふわりと宙へ浮き上がった。


『…………』


 まるでバルーンライトのようになってしまったミーネを皆で眺める。

 光るミーネはそれから一分ほどふわふわしていたが、やがて浮力がなくなってするすると下りてきた。

 発光を続けながらの下降は、なんだか凄い存在が光を放ちながら降臨してきたようでちょっと神々しかった。


「……」


 さすがに――、自分でもさすがにこれはどうかと思ったのか、ミーネは沈痛な面持ちで目を瞑っている。


「ミーネ、ごめんなー、あたいのせいで……」

「い、いいのよ。今のは私が迂闊だったわ……」


 よほど痛恨だったのだろう。

 ちょっとからかうのは可哀想な雰囲気だ。

 するとそんなお通夜な空気おかまいなしでリィが言う。


「いいんだよそれで。どんどん使え。咄嗟に使えるように、今日はこれからしばらく練習するんだから。あ、ちなみに明かりを消すときは『ターンオフ』だから――」

「ターンオフッ!」


 ミーネはちょいキレぎみに叫んだ。


    △◆▽


 それから浮遊のベストと射出のガントレットに慣れるため、各自好きなように練習が行われることになった。

 助走をつけての空中遊泳。

 その途中でアンカーを地面に撃ち込み、それを引っぱって直角に曲がってみたりと、どういったことができるのか真面目に練習しているのはアレサとヴィルジオの二名。

 シア、ミーネ、ティアウルは空中で交差したり、お互いに正面からぶつかり合い、その反発力で戻ったりとなんか適当に遊んでいた。

 まあ咄嗟に使えるよう慣れるのが目的なので、そうやって遊ぶだけでも一応練習にはなっていると思う。

 そしておれなのだが、ちょっと前からシアの手により頭に布袋をかぶせられて周りが見えない状態になっており、おまけに手を後ろ手に縛られ、足も拘束されているせいでろくに身動きがとれなくなっている。

 まるでどっかの武装勢力に捕まった人質みたいな状態なため、地面に体操座りしてしょんぼりするばかりだ。

 そんなおれの側にはロールシャッハとリィが居るらしく、二人はのんびり話していた。


「にしても、君はあれだな。もう少しものの言い方というものに注意した方がいいな。特に女性に対して」

「いやー、それもどうだろ。こいつが変に気遣うようになったら、それはそれで面倒なことになると思うぞ」

「……」


 おれはただ「おパンツ丸見えなんですけどー」と注意しただけなのに、一人プンスカしたシアによってこの仕打ちである。

 まったくひどい話だ。

 おれは切ない時間をしばらく過ごすことになったが、やがてそろそろ慣れたと判断されて皆の練習も終わる。

 まだ日も傾き始めたばかりであったが、今日のところは早めに休むため野営の準備を行うことになった。


「じゃあ休める場所を作るわね! よぉーいしょっと!」


 ずん、とミーネが剣を地面に突き立てたところ、スポンッとそれなりにしっかりした土の建物が地面から出現した。

 鮮やかすぎて目が点になった。


「よし!」

「いや、よしっておまえ……、いつの間にこんな器用に?」

「うん? ほら、ここしばらく魔術制御ばっかりやっていたじゃない? それでなんかこれまでよりも上手く魔術を使えるようになったのよ。肝心の火の魔術はまだ完全じゃないんだけど」

「もう一歩ってとこだな。あとは実戦でも訓練と同じように制御できるかどうかだ」


 うんうん、と頷くのは指導しているリィだ。

 それからおれたちは早めの夕食を準備し、明日からとなる探索について話し合いをしながらの食事となった。

 まあミーネは一生懸命食べるだけなのだが。


「明日から私は本来の姿に戻り行動するのだが、道順と罠の位置・種類を記憶しているので先頭を行こうと思う。一応、地図を確認してくれる者も居た方がいいだろうから……、それは君に頼んでもいいかな?」

「ええ、ではぼくも一緒に先頭ですか?」

「そうだな、私は君の頭にでも乗っかっていようか。それで他の者たちなのだが――」


 と、ロールシャッハは迷宮を進む隊列についての説明をする。

 まず先頭がロールシャッハを頭に乗せたおれ、それからアレサ。

 この後ろに続くのはティアウルとシア。

 ティアウルがうまく罠を発見できるようであれば、未発見の罠があった場合のことを考えてサーチに集中してもらうことになる。

 シアはそんなティアウルの保護役で、あとミーティアも棒人間モードで一緒にサポートをしてもらうことにする。

 そして隊列の最後尾はリィで、ミーネとヴィルジオはこの列の左右に配置されることになった。


「前にも言ったが、押さえ込める罠は私がすべて押さえ込む。もちろんその都度、ここにどういう罠があるか説明はするが、基本はそのまま通過していくことになるだろう」


 力業だが、それが一番安全で早い。

 罠を無効化できる力があるなら、いちいち気を配って回避する必要も無いからだ。

 と、そのとき――


「もごっご、もごごもんごごごもごんご?」


 ミーネが唐突に何か言った。

 ロールシャッハは目をぱちくり。


「ミ、ミーネよ、ちゃんと呑み込んでからもう一度言ってくれるか?」


 しかし呑み込むまでにまだ時間がかかりそうだったため、仕方なくおれが翻訳して伝える。


「あー、たぶんあなたは他にどんな力があるの、とかそういうことを尋ねたんだと思います」

「もごもご」

「頷いている!? よ、よくわかるな……、さすがの付き合いか」


 ロールシャッハは少し唖然としたが、気を取り直して言う。


「念力の他には各種属性の――、いわゆる魔術が使えるぞ。他には壁をすり抜けたり、透明になったり……、君のとこの精霊ができることは可能だろうな。あと、知っての通り姿を変えられる。ちょっとミーネになってみようか?」

「いえ、くどいのでそれはいいです」

「もごごんごごごっ!?」


 ミーネ憤慨。

 どういうことって言われても……。

 そんなミーネが二人とかねぇ。

 どんな魔導反応が起きるかわからないし、場合によっては対消滅するかもしれないじゃないか。


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