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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
1章 『また会う日を楽しみに』編
56/820

第56話 8歳(冬)…残念なメイド

 さて、純粋にメイドとしてみた場合、シアはそれなりに優秀である。

 しかし、だ――


    △◆▽


『異世界もぎもぎ英雄譚』


 ―プロローグ―


 どこにでもいる普通の男子高校生、マダラ崎どろろ介は突如として異世界に召喚された。

 しかし、待ち受けていたのはめくるめく大冒険ではなく、邪悪な野望を胸に秘めた国王によって授かった力のすべてを奪われるという非情な現実であった。


「陛下、勇者の力は無事、配下の者へと分配されました」


 豪奢な執務室にてくつろぐ王に報告をする宰相。


「そうか。ご苦労であった。勇者はどうなっておる?」

「すべての力を奪ったというのにまだ生きております。ずいぶんと衰弱してはおりますが」

「ふむ、そうか」

「しかしせっかくの勇者の力、陛下は宿されませんでしたが、よろしかったのですか?」

「かまわん。儂はすでに充分な力を得ている。いや、そうだ。まだ勇者から奪うものがあったな」

「ほう? それは」

「チンコだ」

「チンコ……ですか?」

「そう、儂は常々思っていたのだ。腕は二本ある。ならば、チンコも二本あれば二倍気持ちいいのではないかとな!」


 王の目に妖しい光がともり、宰相はぶるりと身震いした。

 と、そのとき、執務室に飛びこんでくる者がいた。


「陛下!」


 それは密かに会話を聞いていた美しき王の妻であった。


「なんだ騒がしい」

「陛下、もうこんなことはおやめください。勇者とはこの世界を混沌から救うべく遣わされる者です。なのにその者を自らの野望の糧とするなど……!」

「ふん、勇者とはいっても、もとは別の世界の平民にすぎん。そんな者がどうして世界を救えるのか。であれば、王たる儂がその力をうまく使ってやるのが正道というものだろう?」

「それはあまりに横暴です。それに……チンコを二本だなんて、それは人に許される気持ちよさを超えるものです。その快楽は陛下を堕落させてしまいます」

「なにを言うかと思えば……」


 王はにやりと笑みをうかべる。


「チンコが二本になったその恩恵を一番うけるのはそなただぞ? 今夜は寝かせないからな」

「え……///」


    △◆▽


「うるぁぁッ! なにが『え……///』じゃコラなにがぁ――――ッ!」


 作りたてのハリセンで、正座しているシアの頭をおもいっきりひっぱたく。

 バチコーンといい音がした。

 うむ、いいできだ。


「痛っ! そのハリセンすごく痛いですよ!?」

「主に木で出来ているらな」

「ちょ!? 痛いに決まってるじゃないですかそんなの!」

「うっさいわボケが! 本当ならメイド服ひっぺがして雷撃くらわせてやりたいところをこれで我慢してやってんだこっちは!」

「うぐ……、なにもそんなに怒らなくても……」


 シアはめそめそとしているが、そんなことは知ったことではない。

 ことの始まりは弟のクロアが持ってきた紙の束であった。


「にーしゃん、おとしもの!」


 日頃、おれがせっせと書き物をしていることを見ている弟だから、きっとおれが置きっぱなしにしていたのだろうと届けてくれたわけだ。


「ありがとうな」

「うんー」


 弟の頭をなでなでして、それからふと、どこかに置きっぱなしにしたことなんてあっただろうかと考えながら、手渡された紙に書かれた文字を読んだ。

 そこには実にイカレた物語が記されていた。

 おれはそれからすぐにハリセンを作り始めた。

 できればこのイカレた物語を書いたうえそれを放置し、あげく弟の目にふれさせた罪人は全力の〈雷花〉でもって成敗したいところだったが、おそらくそいつはおれの雷撃を無効にするメイド服を着ているはずなので、仕方なくハリセンを自作した。

 厚紙なんかないので警策のような板を何枚も用意し、そこに布を貼って作った。警策というのは坊さんがスパーンする木の板だ。頑なにあれを卒塔婆だと言いはっていたクラスメイトは今頃なにをしてるんだろうな。どうでもいいけど。

 とにかくおれはハリセンを作った。

 普通のハリセンよりも攻撃力のある一品である。

 おれはさっそく作者ともくされる人物――シアを呼びだし、有無を言わせず正座させてから朗読を始めたというわけだ。

 事態を理解したシアは言い訳を始める。


「うぅ……、聞いてください、違うんです、それはあれですよ、ほら、ご主人さまがやってることのたしになるんじゃないかって――」

「なるわけねぇだろうがボケが! こんなもん混ぜた日にゃ即日発禁になるわボケが!」


 スパーンとシアの頭をハリセンでひっぱたく。


「そのハリセンほんと痛いんですけどー!」

「ああん!?」

「うぐぅ、なんでもないです……。で、でも、そこまで怒るようなことですか?」

「弟が落とし物つっておれんとこに持ってきたんだよ! おまえ弟が文字を読めたらどうなってたと思うんだおいこら! おれが怒ってんのはそこだよ!」

「おぉぉ……、そ、それは……確かに……教育によろしくない……」


 おれの怒りがどれだけ正当でどれほど深いか理解したか、シアが恐れおののく。


「ちょっと目をつむれ」

「へ? はい」


 シアが目をつむったところでおれは言う。


「想像してみろ。セレスが成長して今のおまえくらいになった頃、この邪悪なものが見つかってしまった」


 びくっとシアが身を震わす。


「お、おおおぉ……ち、違うの、違うのこれは、お、おねえちゃんはただ、ああっ!」


 シアはがくがくと震えながら土下座する。


「お願いです。どうかそれを燃やして塵にしてくださいませ。どうかその忌まわしきダーククロニクルを灰にしてくださいませ」

「言われんでもそうするわバカめ!」

「……しくしくしくしく……絶妙にあうと思ったんです、異世界召喚物と〝どろろ〟型のお話は相性がいいと思ったんです……そしたらつい書いてみたくなって……」

「べつに書くのはいいよ! でも卑猥なもんぶちこむな! あと、もぎもぎされたのは〝どろろ〟じゃなくて〝百鬼丸〟のほうだろうがこのボケ!」

「なっ……、そこに気づくとはやはり……、天才!」

「反省してねえだろてめえッ!!」


 バチコーンとシアの頭にハリセンが炸裂する。

 メイドとしてはそれなりに優秀なのは認めるとしても、それを無にしてあまりあるこいつの残念さはどうにかならんものか……。


※誤字の修正をしました。

 2017年1月26日

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/06/06


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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれれ・・・ 異世界転生日常もの??? いやおもしろいですが。
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