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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
9章 『奈落の徒花』前編
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第549話 14歳(秋)…我が家にロシャがやってきた

 流星の斧槍――ミーティアは今日もピエロの着ぐるみを着てメイドたちのお手伝い。

 ティアウルよりも仕事が正確で速いとみんなには評判で、これをティアウルは自分のことのように喜んでいる。

 ……。

 何か違うと思う。

 まあティアウルにはそのうちお話するとして、そんなミーティアを見かけるとついふらふらついて行ってしまうのが我が妹のセレスだ。

 実に微笑ましい光景なのだが……、我が家にはそれを快く思わない心の狭い者もいた。

 シアである。


「ご主人さま、これは着ぐるみという存在が何か不思議な力を発している証拠かもしれませんよ! この子供を引き寄せる魔力……、まるでハーメルンの笛吹きではありませんか! ――ハッ、もしや笛吹きマダラ男は先進的な恰好――つまり着ぐるみだった……? これは……、ご主人さま、すぐにMMRにお手紙です!」

「セレスの興味を独り占めされるからって錯乱すんな。つか何が起ころうとだいたいは人類滅亡エンドに収束するんだから、これ以上過程を増やしてややこしくしないの」


 きっとセレスにとってミーティアは『新しいお友達』という認識なんだと思う。


「……ん? お友達?」


 そこでおれははたと気づく。

 セレスって同年代の友達がいない……。

 ちょっと本人に確認してみたところ、セレスの認識で『友達』となっているのは犬猫ヒヨコ、ぬいぐるみ軍団、妖精たちだった。

 ちょっとファンタジーすぎですね!


「リリリ、リィさん、どど、どうしたらいいんでしょう!」

「いやなんで私に聞くんだよ……」


 クロアを指導中だったリィに相談したところ、物凄く面倒くさそうな顔をされてしまった。


「前にセレスを取り巻く環境が異常だって注意してくれたじゃないですか、それでなんとなく」

「なんとなくって……。べつに仲良しのねーちゃんがいっぱいいるからいいじゃねえか。友達なんか居なくても死にはしねえよ」

「あー、なるほどー」

「うおい。お前、いま『確かにこの老いぼれエルフって友達いなさそうだもんな』とか思っただろう?」

「思ってませんよ!?」


 いかん、この人は相談しちゃいけない人だったかもしれない!


「お前、いま『このエルフには相談すべきじゃなかった』とか思っただろう?」

「いやそんな思……、まあ思いましたけども」

「だよな……」


 途端にリィがしょんぼりした。

 これ、本当に話を振ってはダメな人だったっぽい。


「うぅ……、クロア、お前の兄ちゃんが苛める……」

「え、えっと……、兄さんごめん、相談はほかの人にしてよ」

「はい、すみません」


 落ちこんだリィはクロアに任せ、そそくさとその場を逃げだしたおれは他に相談できる者はいないかと考えた。

 父さんと母さんは……、ダメだな。

 あの二人は生粋のぼっちだ。

 考えた末、一番常識的で庶民的な観点からも物事を考えられるサリスに相談することにした。


「貴族の子供でセレス様くらいの年齢ですと、仲の良い同年代の友人を持っている方がめずらしいと思いますよ? 大貴族ともなれば友人兼配下という子供が用意されますが。通常は……、そうですね、親同士の紹介によって知り合うくらいでは? 知り合ってからも、例えば庶民の子のように毎日仲良く遊ぶという状況にはならず、ときどき訪問しては互いの理解を深めるといった感じです」

「でもミーネを見てると……」

「あの、御主人様? これは一般的な貴族の子弟子女の話ですよ? ミーネさんはミーネさんという特殊な枠組みですので、これを何かの指標とするのは間違いです」

「なるほど」

「もちろんリビラさんもリビラさんという特殊な枠組みですし、アエリスさんの場合は先ほど話した友人兼配下ですから」


 ならうちにいる貴族のお嬢さんたちは参考にならないか。


「セレス様でしたら、いずれは魔導学園に入学するでしょうし、友人はそこで作ればよいのではないでしょうか」

「そうかな?」

「ええ、セレス様はまだ六歳になられたばかりです。これからいくらでも友人を作る機会はありますよ」

「そっか。じゃあ何も焦る必要はないな」


 サリスの話を聞いておれは大いに安堵した。

 一方、シアは訓練場でピエロと取っ組み合いを続けていた。


    △◆▽


 十月に入ったその日、シャロ様の霊廟を調査させていたロールシャッハがひとまずの報告のため屋敷を訪れた。

 あれは去年の夏頃だっただろうか。

 シャロ様の異空間屋敷にリィと出向いたとき、ロールシャッハにシャロ様が何らかの手段を使ってまだこの世に留まっている――例えばリッチになっているとか――という話をした。

 いずれお墓参りに向かうという決定がなされ、そこでロールシャッハは霊廟について情報を集めることになったのだが、ヴァイロの一件でおれになるべく急ぐ必要性が生まれてしまったため、急かされるような感じで現在までの調査結果を報告しに来てくれたのである。

 シャロ様の霊廟はザッファーナ皇国に存在するものの、そのことはあまり一般には知られていない。

 理由はシャロ様が言い残した『魔王が倒せなかったら墓を暴け』という言葉に由来する。

 この言葉が広まるうちに『霊廟にはシャーロットの秘宝が眠る』と噂されるようになり、結果、盗掘が盛んになった。

 が、突撃した奴らはもれなく溶けてアンデッド化。

 もともと高難易度であった霊廟攻略の難易度をさらに押し上げ、大陸でも有数の凶悪ダンジョンにしてしまった。

 以上が霊廟誕生から五十年ほど経過するまでの話。

 それ以後は難易度が高すぎて挑戦する者も居なくなり、徐々に世間から忘れられていったのだが――


「半世紀ほど前だったか、霊廟の地図がでてきたのだ」


 仕事部屋での会議に参加するのはお参りに同行してもらう金銀赤、それからリィの四名だ。


「地図? それは設計者が残したものとかそういう?」

「いや、霊廟はシャロがこしらえたものだ。設計図など無い。出所の定かではない地図は保管されたままだったが、今回、信憑性の検証もかね、調査団を潜らせていた。これがその実物だ」


 ロールシャッハが渡してきたのは、地図帳みたいな厚みを持つ代物。


「その地図によれば、霊廟は地下三十層。潜るに従い層は小さくなっていくようだ」


 なるほど、逆ピラミッド型なわけか。

 おれはパラパラと地図を眺め、次にリィに渡す。

 と、そのとき――


「やあやあ、ひさしぶりじゃないかロシャ」


 ひょっこり部屋にやってきたのはジェミナ……、ではない。

 ジェミナの体を借りた精霊――エイリシェだ。


「エイリシェか。何の用だ?」


 ロールシャッハはちょっと面倒そうに言う。


「何の用かって、せっかくだから挨拶に来たんだけど……」

「信じられんな」

「うわ、信用ないなぁ……、まあいいけど。それにしても、君がシャーロットの姿をしているのはちょっと慣れないな。もしかして霊廟にもその姿でいくのかい? 危険な場所なんだろう? なるべくなら本来の姿で行った方が力も使いやすくていいんじゃないかな?」

「む……」


 これにロールシャッハは渋い顔をしたが――


「そうかもしれんな。万全を期すべきだ」


 もっともだと納得し、渋々といった感じで頷く。

 するとリィが言った。


「お、あの愉快な姿に戻んのか?」

「愉快言うな。――はぁ、いつかはと思っていたが……、ちょうどいい機会だ、君たちにも少し見せておこうか」


 そこでロールシャッハは光に包まれ、その光は徐々に小さくなる。

 やがて人の頭くらいにまでになり、最後にぱっと強く光って消えた。

 そしてそこに居たもの……。


『…………』


 あまりの変わりように金銀赤黒、仲良く口をぽかんと開けることになった。

 いったい何と言ったらいいのか……。

 ぱっと見ではちょっと寸法を詰めた長い毛並みの白いオコジョ?

 でも背中には蝶のような形の、半透明の翅が浮いている。

 ロールシャッハの正体。

 それは魔法少女のオプションとして側にいてもおかしくない、ふわふわとしたファンシーな小動物だったのだ。


「言いたいことはわかるから言わなくてもいいぞ」


 誰かが何かを言う前にロールシャッハは不機嫌そうに言ったが、口調はそのままでも声がやたら可愛らしくなっていた。

 またずいぶんと愛らしくなってしまったものだ。

 たぶんいま屋敷にいる珍獣のなかでも一番可愛らしいのではないか。

 これじゃあ威厳も何もあったものではない。

 この姿と声で怒っても可愛らしいだけ、怒られる方はむしろ幸せな気分になるかもしれない。


「……」


 そんなロールシャッハにミーネがそっと抱きつこうとする。

 が、それに気づいたロールシャッハは「うがーッ」と威嚇。

 その威嚇にともない、半透明だった翅がうっすらと赤くなり、それを見たシアが「攻撃色……!」と唸った。


「この子、凶暴よ!?」

「や、やめなさい、後が恐いから、お願いだから」


 たぶんおれの名前と同じように、あまり触れて欲しくないところなのだとなんとなくわかる。

 あっちの世界の精霊はこういう姿なのだろうか。


「その姿は元からですか?」

「あー、この姿に関しては……、この場では話せない」


 この場――、ああ、ミーネやアレサがいるからかな?

 なんにしてもこの姿だとロールシャッハではなく……、ロシャだな。

 と、そこにタイミング悪くサリスが給仕に現れ、お手伝いにとついてきたセレスが遅れて部屋に入ってくる。


「――!?」


 セレスがロシャをロックオン。


「なになに、なんですか! あたらしいお友だちですか!」


 セレスはててっとロシャに近づき、抱きかかえて撫で撫で。

 さすがにセレス相手では威嚇もできず、ロシャはなすがままだ。

 中身が可愛くないことを知っているだけに後が恐い。

 なんか微かに「ギギギギ……」って声が聞こえてくるし、翅はさらに赤みが増しているし……。

 だがロシャがそんな状態でもセレスはお構いなしに撫で続ける。


「エイリシェ……、貴様、計ったな……!?」


 たまらずロシャが言う。

 が、それは墓穴。


「しゃべれるんですか……!?」

「あ」


 ロシャのうっかりにより、セレスはますます興味を持った。


「おなまえはなんていうんですか?」

「……ロ、ロシャ……」

「ロシャちゃんですね!」

「ぶふぅっ!」


 そこでリィが我慢の限界。

 盛大に吹きだした。

 おにぎりを食べているところだったりしたら、きっとショットガンみたいなことになっていたことだろう。

 それからリィは堰を切ったように笑い続け、ミーネはセレスに新しい友達が増えたことを喜び、アレサは苦笑いをするばかり。

 おれとシアの心境はリィに近かったが、笑うわけにもいかないのでひたすら腹筋の限界を試され続けることになった。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2018/12/19

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/09

※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/12

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/03/21

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/07/03


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