第55話 8歳(冬)…能力開発のすすめ
導名への第一歩として考案した計画はそれなりの形になってきたがまだ時間はかかりそうだった。少なくともこの冬の間でどうにかなる段階ではない。とはいえできれば再来年には完成させ、はたしてこれが商品化できるものかどうか反応を見たいところだ。
とにかく今は時間を無駄にせず、製作を急ぐのみである。
が――
「ご主人さまー、能力をもっと活用しましょーよー」
人が忙しくしてるというのに、それを邪魔しにくるアホメイドが我が家にはいる。
「ほらー、雷なんてせっかくの〝勝ち組〟能力じゃないですかー、もっと色々なバリエーション考えましょーよー。名前も考えましょうよー。絶対楽しいですからー」
ぐでんぐでーんと軟体動物のように絡んでくる。
ここ最近、シアは妹の世話に全身全霊をかたむけ、それ以外のときは気の抜けたへろへろの姿でろくに家事もせずだらだらしている。まあメイドとしての役割はおれに対してだけだから、家事をしなくても問題ないのだが、息抜きに絡んでくるのはどうかと思う。
「まず技らしい技が〝雷花〟だけってどんだけやる気ないんですか」
「うっさい。そもそも力がでかすぎてそれまで扱いようがなかったんだよ。それに汎用性の高い技がひとつあればそれでいいんだ。おれはべつに戦いに明け暮れるような生活を送るつもりはないからな」
「せっかくファンタジーなんですよー?」
「ファンタジーのすべてが戦闘であるかのように言うなこのバカめ」
おれをうっかりぶっ殺したきっかけがそうであったように、この元死神はやや中二病をわずらっている。
「そんなこと言わないでなにか考えましょうよー。一個だけじゃしょぼいですよー」
「もう一個あるわ。自分の頭に電撃くらわして無理矢理にゾーンにはいるのが」
「そんなんあったんですか! なんですかもう、そんな素敵な技があるなら試合でばんばん使ったらよかったじゃないですか」
「ばんばん使っててばんばん負けまくってたんですけどね!」
所詮は凡人。
どうにもならないことは、やはりどうにもならない。
「……え、そ、そうだったんですか? それはなんというか……、すいません。その技はなんていう名前をつけてるんです?」
「あ? とりあえず〝針仕事の向こう側〟だけど?」
「雷関係ないじゃないですか!」
「針仕事してて身についたからいいんだよ!」
実はシャロ様がちょいちょいルイス・キャロルのアリスから引用しているので、おれも〝不思議の国〟とか考えたのだが、語呂的に針仕事の方がよかったので採用はしなかった。
「よし、改名しましょう」
「はあ? いいよこれで」
「よくないです! 叫ぶときにいまいちぱっとしないです!」
「そもそも叫ばねえよ!」
「なんで叫ばないんですか! 絶対叫んだ方がいいです! あ、でも〝雷花〟に関してはあの指鳴らしでいいと思います。あれはあれで完成していると思います」
なんか〈雷花〉の評価は高いな……。
「あ、でも魔法みたいに〝英語〟を使うのもいいかと思いますよ。えっと――〝ほらあれです、日本語の単語に英語のふりがないれる感じのあれ!〟」
「〝サンダーフラワー……、ださくね?〟」
「〝確かにいまいちですね……、じゃあブロッサムで……、あ、でもそれだと桜の木みたいに咲き誇るイメージ……、いや、いやこれでいいんじゃないですかね! 初対面のとき、雷花あたりにまき散らしたじゃないですか、あれは雷花とは別枠ってことで!〟」
「〝ってことでって言われてもな……、となるとサンダー・ブロッサムになるのか? やっぱりださくね?〟」
「〝そこは色を押しましょう! クリムゾン・ブロッサムで!〟」
「……、そだな」
五十歩百歩だと思った。
シアの感性はどうもおれとはそぐわないものらしい。
「〝ほれ、もう満足したろ。とっとと出てけ〟」
「〝はあ!? ちょっと待ってくださいよ! まだ〈針仕事の向こう側〉を改名してないじゃないですか!〟」
「〝いいじゃねえか針仕事で。なにがダメなんだよ〟」
「〝そんな名前の技で倒される敵の気持ちを考えてあげてください!〟」
「〝知るかそんなもん!〟」
びっくりするくらいどうでもいいことを言われた。
「〝それにせっかくです、雷をつける名前で統一しましょう〟」
「〝あー? んじゃあ……、雷ポンだな〟」
「〝なんですか雷ポンて!? むしろかっこ悪くなりましたよ!?〟」
「〝覚醒するような感じだから、ヒロポンにあやかってだな……〟」
「〝あやかるものがおかしいです! イメージ悪いです! ポンの字どうすんですか!〟」
「〝梵字の梵で雷梵はどうか〟」
「〝字面は微妙にかっこいい!?〟」
その発想はなかったのか、シアは愕然とした様子だ。
「〝ご主人さまのセンスは何気にあなどれませんね……、でもやっぱりちょっとまぬけじゃありません?〟」
「〝めんどくせえ。やっぱ針仕事でいいわ〟」
「〝あきらめないでくださいよ! あー、もう、名称については後にしましょう! 今は技を考えることが先決ですからね!〟」
「〝技を考えるって、そんな簡単なもんじゃないだろうが〟」
「〝いやですよぉ、もう、魔術なんて思い込んだら勝ちなんです。それにご主人さまの力の大本は神の力そのまんまなんですから、ぶっちゃけ電気が関係ありそうだったら実際は間違っていてもどうにかなっちゃうくらいなんですよ〟」
「〝うさんくさいな。元からして死神の鎌なんて実にうさんくさいものだし〟」
「〝失敬な! わたし本当はすごいんですよ!〟」
「〝まあうさんくさいのは置いとくとしても、すごすぎて扱いづらい。へたに使おうとして自滅なんて笑えないからな。こっちの神の恩恵で少しは扱えるようになってきているが……〟」
目の前に手をかざし、ひさしぶりに自分を〈炯眼〉で確認してみる。
いちいち自分の名前を見なきゃいけないから、あまり自分に使いたくないのだ。
《セクロス・レイヴァース》
【称号】〈暇神の走狗〉
〈おにいちゃん〉
【神威】〈善神の祝福〉
〈装衣の神の祝福〉
〈商業の神の祝福〉
【秘蹟】〈厳霊〉……〈雷花〉〈針仕事の向こう側〉
〈炯眼〉
〈廻甦〉
あれ!?
ちょっとステータスが変化していた。
善神の恩恵は加護から祝福になり、そして商業の神の恩恵がひょっこり増えていた。
いくつか世に商品を送りだしているからついたのだろうか……。
あと〈廻甦〉なんてのがあったんだった。
空気すぎてずっと忘れてたわ。
「〝おかしい……、〈廻甦〉はようするに治療や回復だろ? なんでバカメイドにぼこぼこにされたときすぐ回復しなかったんだ?〟」
ほかにも、これまで小さな怪我をすることはたくさんあったが、とくべつ回復が早かったとか、そんなことはなかった。
ポンコツなのだろうか。
「〝廻甦はよっぽどの損傷でなければ発動しませんよー? 単三電池を充電しようと思ったからって、原子力発電機に直結したりはしないでしょう?〟」
「〝瀕死の重傷くらいでないと発動しない? 死んだ場合はどうなるんだ?〟」
「〝死にますね〟」
「〝役立たずじゃね!?〟」
おまけでもらった能力だからな、こんなもんかもしれん。
「〝特別な力が使えるとなったら、普通はもっとこう、色々と試してみるもんでしょう? どうしてそうストイックなんですか〟」
「〝まあすごい応用が出来るかもしれないとは思う。だが、いまいち電気ってのがよくわからん。電圧とか電流とか電界とか電子とか電波とか電磁力とか電磁場とか、そのどれもがいまいちピンとこないというか、しっくりこないというか、よく理解できない〟」
「〝ふーむ、ご主人さまは正面から考えすぎですね。さっきも言いましたが、出来ると思えば出来るんです。だからもっと自由に、欲張りにいっていいんです。レールガンいくぜーとか、おまえをチーンしてホカホカにしてやる、とかやってやろうと思えばきっとできます〟」
「〝いやおれそんな物騒な人になりたくないんだけど……〟」
「〝こっちだって脳の活動や体動かすのは基本電気信号なんです。だったらご主人さまはそこに割りこむ技とかやってみるべきです。脳に電気とばして操り人形にしてやるんです。そこまでいかなくても、五感に異常を引きおこさせたり、あれです、おれの目を盗みやがったなーとか相手に言わせるんです〟」
「…………」
なんでこいつこんなに物騒なんだろう。
おれは深々とため息をついて言う。
「わかった。そこまで言うならやってみよう」
「〝お?〟――おお! わかっていただけましたか!」
「ああ。おまえがドMということがよくわかった」
「は?」
きょとんとしたシアにおれは言う。
「この話の流れからして、おまえが自発的に実験台になってくれるんだろ?」
「………………」
シアは真顔で黙りこんだ。
おれはそっと指を立てて、そこに線香花火の火花のような小さな雷撃を纏わせた。
パチチチチ……。
「あ! セレスちゃんが目をさました気がします! こうしちゃいられません!」
そう言い残し、シアはすごい速さで部屋から逃げだしていった。
まったく、バカめ。
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/02/04
※文章を修正しました。
2019/12/18
※さらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2020/12/19




