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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
8章 『砕け星屑の剣を』編
535/820

第527話 閑話…悪役宣言

今回は2話同時更新しています。

こちらは2/2です。

 ネイとしてはレイヴァース卿のことを評価しているつもりでいた。

 しかし、今まさに世界に向けて宣戦布告をする姿を見ると、それでもまだ過小評価していたと思わずにはいられなかった。

 レイヴァース卿の宣言。

 その根本思想を掻い摘んで言えば『おれの気に入らないことは許さん』というかなり独善的なものになる。

 要は『我が侭』だ。

 しかしそれを表明するまでの演出が並ではない。

 誰の耳にも届く声、空に浮かぶ光の文字というわかりやすい演出もあるが、彼自身の身振り手振りも人の目を惹きつけた。

 それは彼の意志を表す動き。

 誰もが見とれ、それはまるで舞台劇の一幕のようであった。

 今まさにレイヴァース卿はレイヴァース卿を演じきり、心臓を抉り出すようにしてその胸の内を見せた。

 演技にしろ、踊りにしろ、歌にしろ、本当に惹きつける力を宿した者は、それを目に、耳にした者たちを魅了し、自分もああなることが出来たら、という憧れを焼きつける。

 自分には無理だ、と理解させる孤高の存在ではなく、自分も、と惹きつけてしまう存在なのだ。

 今日、ここに集まった者たちは見てしまった、聞いてしまった。

 そして魂の震えと共に理解してしまったことだろう。

 あれが唯一、と。

 そして焦がれるあまり、せめてその礎に、と願うことだろう。

 従いたいという欲求の発現。

 これは特に道を見失った勇者たちの心の隙間を埋めることになった。

 決定的であったのだ。

 自分たちであれば、おそらく凄く頑張って助けようとすることしかできない問題を、『必ず助ける』という結果を引き寄せるためにここまでやる者がいるという衝撃、その愚かさ、有り得無さ、……だが、それこそが、それこそが――。

 それぞれが抱いていた『勇者像』が崩壊したなかで、ただ一人の少女を助けるため世界すら敵に回そうとする少年の姿は彼らの心へ強烈に焼き付いた。

 そして――勇者委員会。

 各国・各機関から担当として集まった者たちによる烏合の衆でしかなかった集まりは、この瞬間を以て誰もがまったく同一のイメージを共有する本当の組織へと変貌を始めた。

 各国・各機関の勇者委員会担当であった者は、逆に勇者委員会におけるその国、その組織担当へと化けることになったのである。

 あやふやな組織でしかなかった勇者委員会、それを構成する者たちの心に今この場で打ち立てられた太い芯。

 レイヴァース卿は理解しているのだろうか?

 今、この瞬間をもって勇者委員会は彼を頂きに置く、『正義のようなもの』に対抗する組織への変貌を始めたことを。

 国家を股に掛け、非人道な実験に対しての取り締まりを行う超法規的国際組織を誕生させることになったことを。

 各国・各機関の代表者が主と認めた彼は国土無き国家の王。

 勇者たちが傅くのであれば、それはもう逞しい闘士が叫んだように『勇者王』と呼ぶべき存在であるのだろう。


「すげえな、まったく……」


 思わずネイは呟いた。

 これを凄いと言わずなんと言おう。

 いや、もはや凄いと感心するよりも、ネイは恐れすら抱いていた。

 ネイたちだけはわかるのだ。

 昨日、レイヴァース卿はルファスに言い負かされ立ち去ろうとした二十歩ほど――、たった二十歩ほどの時間で()()を思い描いたのである。

 大工房だけではない、ヴァイロ共和国だけではない、世界を巻き込む可能性を秘めた宣言を、こうして演出することを考えた。


「これが本物ってやつか」


 ネイは妙に納得して苦笑するなか、レイヴァース卿は階段をくだり、やがて広場へと下り立った。

 誰も動ける者がいないなか、ネイは次に起こる事態を予測して速やかに動く。

 すでにこの場には彼を害しようとする者は居ない。

 魔剣兵たちは、例え命ぜられようとも彼に襲いかかることはできないだろう。

 だが、彼の宣言により孤立することになった『人ではないもの』だけは例外である。

 と、そこでネイの予想通りルファスが自らの手でレイヴァース卿を害すべく襲いかかろうと動く。

 その手を刃へと変形させての攻撃であったが、レイヴァース卿に振りおろされるそれをネイは剣にて防いで弾く。

 そしてネイは呼びかけた。

 レイヴァース卿は一人きりで戦争をしかけてきたが、そんな彼に賛同して勝手に戦列に加わることは禁止されていない。

 だからネイはまず動き、そして訴えた。


「おい勇者ども! ぼさっと見てねえで手伝え!」


 これに「え」と動揺する勇者たち。

 ネイはさらに続けた。


「ただ一人の少女のために世界を敵に回す覚悟決めた奴、これが勇者でなくてなんだ! お前らもそろそろ目を覚ませ! 今、自分が何をすべきか、その胸に問いかけてみろ! 弱い強いじゃねえんだ! 今動くか動かないかだ!」


 さらにネイは魔剣兵へと呼びかける。


「そして飲んだくれドワーフども! まだ不味い酒を飲み続けたいのか! 来たぞ、とうとう過ちを正す時が来た! この時を逃せばもう次はない! それとも、このままいつまでもいつまでも魔王が誕生し続けるかぎり終わらない負の連鎖に縛られたままでいいのか!」


 このネイの呼びかけに、勇者・魔剣兵たちはようやく反旗を翻す覚悟を決めたらしく顔つきが変わる。

 しかし、それでもまだ動かないのはレイヴァース卿と共に現れた乙女たち、それからずっと魔剣兵と睨み合いを続けていた闘士たちだ。

 が、そこでレイヴァース卿が言う。


『賛同する者は我に続けッ!』


 有志を募るような言い方ではあったが、この場において彼の言葉はもはや命令に等しく、この言葉を以て彼の味方、そして敵であった者たちは彼のために雄叫びを上げた。

 そして始まる革命。

 これが後世、広く知られるようになる『勇者王による悪役宣言』である。


※誤字を修正しました。

 2018/10/31

※さらに誤字を修正しました。

 ありがとうございます。

 2018/12/27

※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/10


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