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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
8章 『砕け星屑の剣を』編
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第523話 13歳(夏)…地の星

 翌日早朝――。

 まずはデヴァスに頑張ってもらっておれたちを精霊門まで運んでもらう。

 さすがにイールは同行しない。

 しないのだが、代わりなのか何なのか、同行することになったメタマルはシアの肩に乗っかって激しく伸びたり縮んだりしていた。


「っしゃー、いくゼー! いっちゃうゼー!」

「あ、あの、メタマルさん、あんまり動かないでもらえますか? その重さでひょこひょこされると体勢を崩すので……」

「おっと、そいつはすまねえナ!」

「いえですから、あまり動かないで……」


 このメタマル、同行するとなったとき最初はおれの肩に飛び乗ってきたのだが、さすがは金属の塊、よく考えてみればそれはいきなり砲丸を肩に乗っけられたようなもので、油断していたおれは「あぁーん」とあられもない悲鳴を上げながら膝カックンされたみたいに崩れ落ちることになった。

 いや、わかっていれば堪えることも出来たのだろうが、5キロ以上はある重量を突然肩に乗せられたとなれば体勢くらい崩れるものなのである。

 やがて、デヴァスの頑張りによっておれたちは速やかにエミルスの精霊門に到着することができた。

 そしてそのままヴァイロ側へと移動し、門のある建物から外へと出たのだが――。

 そこで歓迎を受けた。


「お待ちしておりましたよ」


 そう言ったのはティアウルの上司であるルファス。

 隣には大親方のレザンドがおり、二人は建物が乗っかっている大岩、そこから下の広場へとおりるための階段前で待ちかまえていた。

 いや、待ちかまえていたのは二人だけではない。

 下の広場には大勢のドワーフ、錬成魔剣を与えられたヴァイロの精鋭――魔剣兵も集まっていたのだ。

 まいったな、まさかこの岩の上から移動させないつもりか。


「熱烈な歓迎をどうも。――で、ティアウルは無事だろうな?」

「もちろん五体満足で元気にしておりますよ。ところで、昨晩の妙な手紙の配達はどういうおつもりですか? 迎えに行くとありましたが、彼女は大工房に必要な研究員です。貴方に言われたからと送り出すことは出来ませんよ?」


 ならば力尽く――とおれが暴れる流れまで想定しての魔剣兵の配置。

 ぶっちゃけ雷撃が効くのでなんとかなりそうだが、ここで無闇に暴れても意味が無い。

 そこでおれは取り繕うのをやめることにした。


「エリーデ、ディアム、サフィール、ガルネ、リズラス、ジスト――、おれはこの六名にティアウルを加えさせるつもりはない。だから返してもらいに来た」


 そちらのやろうとしていることは把握している、そう伝えてみるが、ルファスとレザンドは驚いた素振りすら見せず至って冷静である。


「ほうほう、よく調べたようですが、ならば理解もしているのではないですか? 地の星を犠牲にすることは必要なことなのだと」

「地の星……?」

「ああ失礼。ドワーフ――特に冶金に関わる者たちの言葉ですよ。地を掘り見つけ出す鉱石。そのなかで特に希少なものを『地の星』と呼ぶのです。私たちにとっては特別な能力を持つ者たちがまさにその地の星なのですよ。この星をヴァイロと共にある特別なスライムに捧げることは、この地を守るために必要な――」


 と、ルファスが喋っていたとき、唐突にメタマルがけらけら笑う。


「ブハハハッ、何が特別なスライムだ、思わず笑っちまったゼ! 特別? ずいぶんと()()()持ちあげるんだナ! 借り物の姿ですました顔しやがってヨ! もういい加減認めろって、アンタはただちょっと変わったスライムでしかないんだゼ!」

「――黙れ」


 メタマルの言葉にルファスは取り繕うのをやめ、これまで被っていた仮面が剥がれたようにその表情を憎しみに歪ませたものにした。

 つか、こいつがその問題のメタルスライム……?

 なんだよ、はぐれメタルかと思いきや、こんなの流体多結晶合金製ターミネーター――T-1000じゃねえか。


「おっと、私をどうにかすれば事が片付くなどと思うな? これは分身だ。それにこの姿は借り物ではない。我と盟約を交わし一体となったドワーフ――盟友ルファスのものである。言葉に気をつけろクズ鉄め」

「おいら、元はお前だゼ」

「貴様などもはやクズ鉄以外の何者でもないわ!」

「ふうん、そうかヨ! じゃあ、あんたが宿敵と思っているスライムの分身として、本体からの伝言を伝えるゼ」

「伝言だと……?」

「おうヨ。『あ、おひさしぶりです。お元気でしたか? 私は元気ですよ』」


 メタマルがイールの声音で喋り始めたが、それはなんだか再会の挨拶のような気の抜ける言葉から始まった。

 この温度差――、ある意味ルファスにとっては煽りだが、おそらくイールにはそんなつもりはまったく無く、だからこそ尚のことルファスへの煽りとなっていた。


「『せっかくなのでね、ええ、挨拶くらいしようと思いまして、それでこうして伝言を伝えてもらうことにしました。なんせ、もう会うこともないでしょうからね。気づいていますか? 今貴方が前にしている人物は、私などよりも遙かに危ない存在であることを。……気づいていないでしょうねぇ、だから貴方は駄目なんですよ。今更な話なんですが、貴方は彼の身内にだけは手を出すべきではなかったんです。彼と関わらなければもうしばらく生きていられ、私に会える可能性も残っていたでしょうに……、お気の毒なことです。それではさようなら。短い余生を楽しんでくださいね』ってことだナ!」

「巫山戯た……、相変わらず巫山戯た……!」


 ルファスがだいぶオコになった。

 これによって状況は……、特に何もかわらない。

 ただルファスが不機嫌になっただけである。

 ともかくルファスがメタルスライムの分身と判明したことにより、状況はより面倒であることが発覚し、この場でレザンドとルファスを説得するという一つの案が消えた。


「ちっ、妙なものに気分を害されたが、ひとまず話を戻そうか」


 もうメタマルは無視することにしたようで、ルファスは再びおれに視線を向ける。


「我はべつに無理強いをしているわけではない。双方の合意によって、この取り組みはずっと昔から続けられてきたのだ。これを悪いことだと思うか? ああ悪いことだろうさ。だが、誰も望んでやっているわけではないのだよ。瘴気領域を塞ぐ役目を負った国だからこそ、払う犠牲を少なくするため仕方なくやらねばならぬことなのだ」


 なるほど、なるほど、やはりそうくるか。


「錬成魔剣はスナークの暴争だけでなく、魔王との戦いも視野にいれての希望の剣だ。これが有ると無いとでは、その被害にどれほどの差が生まれるだろうか。もしこの差が十人程度であったとしても、もうそれだけで元は取れているとは思わないか? 多数を助けるため、少数を犠牲にする。これは人の世、どこでも行われていることであろう?」


 それは……、認めざるを得ないこと。

 嫌な理屈だが間違ってはいない――、いや、間違っていたとしても正すことのできないことだ。

 しかしこのスライム……、スライムのくせして妙に弁が立つ。


「どうする英雄殿。各国の力を借り、ヴァイロに圧力をかけるかね? だが先に言っておこう。我々は圧力にも脅しにも屈しない。公表するならばするがいい、我らが覚悟の有り様を。誰も望んで星を砕いているわけではないのだ。代われるものなら代わりになろうと言う者はいくらでもいる。だが、それでは駄目なのだ。星を砕き生まれる星屑の剣でなければ、希望の剣たり得ないのだ」


 この言葉……、本当にスライムのものなのか?

 ただクソスライムに勝ちたいスライムの言葉にしては妙に熱がある。

 いや、これはスライムではなく盟約を交わしたルファスのものか。

 国を守るため自ら手を汚し、その身すら捧げた男――三番目の魔王の時代を生きた古き亡霊。

 己すらも喰わせてまで国に殉じ、道を示した英雄の亡霊だ。


「英雄殿、これでもまだ我らを責めるか。怒りと憎しみに身を焦がし、それでもまだ一線を越えず、この地にてスナークの群れを押し留める我らを!」

「何が一線だ、とっくに越えているだろう」

「本当に手段を選ばぬのであれば、大陸中より能力のある者たちを攫い集めるだろう! だが、それはやらぬ! この地を守護するためには、この地にて生まれた星を用いる!」

「ティアウルは――」

「この地にて生まれ育った者――大工房前大親方クォルズの娘だ!」

「……ッ」


 あのヒゲ、聞いてねえぞ……。

 つか、なら全部知ってたってことじゃねえか。

 何のん気に送り出して――……、ん?

 いや、クォルズは止めたんだったか?

 なら……、ティアウルは知りながらも行った……?


「生贄になることをティアウルは知っているのか?」

「もちろん。あの娘は望んでヴァイロへ来たのだ」

「バカな、なんでそんな……」


 どうしてそんな選択をしたか、まったく想像がつかない。


「先に言っておくが、理由は不明だ。こちらとしては地の星になってくれさえすれば良いのでな」


 理由は不明……?

 こいつにも?

 じゃあ……、ティアウルがどうしてヴァイロへ行こうと思ったのか誰も知らないんじゃないか?

 でもティアウルはいつかはわかるって――


「……?」


 いつかは、わかる?

 教えてくれるんじゃなく、いつか、おれが勝手に理解する?

 その頃にはもう自分が話せなくなっていると考えて、そうおれに答えたのか?

 ああ、ダメだ。

 ここでいくら考えても埒があかない。

 ティアウルに会い、その口からはっきりと確認する。

 まずはこれだ。

 しかし――


「さて、何か言うことはあるかね? 無いならばもうお引き取り願おうか」

「……ッ」


 一瞬、力尽くという思考がよぎったが、おれはそれを振り払った。

 それではティアウルを助けられない――、そう感じたからだ。

 この場はおれの負け。

 おれは深く長い深呼吸を一つすると踵を返す。

 後ろにいた皆――特に金銀が驚いた表情をしたが、それは無視しておれは精霊門のある建物へと引き返す。

 しかし、その建物の出入り口まで辿り着いたとき――


「――――」


 ふと、脳裏に描かれたものにおれは足を止めた。

 天啓か、それとも悪魔の囁きか。

 いや、どちらであろうとかまいはしない。

 おれはそこでふり返り、おれに続こうとしていた皆をかき分けてルファスの前に立つ。


「また明日ここに来る。その時はティアウルを返してもらう」

「おやおや、そんな我が侭――」


 ルファスが何か言いかけるが、そんなの知ったことではない。


「力尽くだ。覚悟していろ」


※誤字を修正しました。

 2018/10/26

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2018/12/27

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