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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
1章 『また会う日を楽しみに』編
53/820

第53話 8歳(夏)…助言の意味2

 導名について非常にショックな仮説が浮上したことにより、おれは熱をだして二日ほど寝込んだ。シアはセレスのお世話を母さん、それから手伝いのために残ってくれているハンサ婆ちゃんにまかせ、おれの看病をしてくれた。

 とは言ってもおれの症状は軽く風邪をひいた程度の状態だ。

 ほとんど退屈しのぎの話し相手のようなものだった。


「なるほど、そういうことでしたか……」


 おれが寝込んでいるベッドの傍ら、事情を知ったシアはやや気の毒そうな顔で言った。


「それで、ご主人さまはどうするんです?」

「もうどうするもなにもねえよ。こうなったら覚悟を決める――というかあきらめるしかねえ。あのクソ神めぇ……」

「けっこう元気になってきましたねー、昨日は死にそうな顔してましたから」


 昨日は神の間で見せられた映像――民衆にセックスの名を連呼される夢を見た。

 テラスからダイブしたところで夢から醒めた。


「ああくそっ、予定変更だ。これから発明品はヴィロックじゃなくおれの名前を使うようにしなくちゃなんねえし、ある程度、名前を呼ばれることに慣れなくちゃなんねえ。あー、もうこうなったら訓練校に通うことも視野にいれるか。ちょうどいい訓練になんだろ」

「……訓練校?」

「冒険者だよ。おれにとっては名前が知られ、呼ばれることの訓練になるだろうがな!」

「ご主人さま、冒険者やるんです?」

「なんちゃってだがな」


 とは言ってみるが、名前を広めることに耐えきれなかった場合は神の敵対者を捜すために本格的に冒険者を始める必要がでてくるかもしれない。

 なんにしろ、めんどくさい。

 おれはうんざりしてきて、毛布をかぶってそのままふて寝した。


    △◆▽


 悩んで悩んで、考えて、結果として覚悟が決まったというか開き直った。名前は広めなくちゃならないが、それについて今から思い悩むのはムダだ。そんなものはその時になったらのたうち回ればいいのだ。

 今は生まれてきた妹を愛でることを大切にしよう。

 いやいや、現実逃避じゃなく。


「お世話はお姉ちゃんであるわたしがやります。ご主人さまはセレスちゃんのためにお洋服を作ってあげてください」

「産着やおしめは冬の間に作ってもう充分あるから……」

「じゃあ、ぬいぐるみとかお願いします」

「うぐぐ……」


 シアが嬉々として妹の世話をするせいで、おれの出番がない。

 それどころか、シアはおれに妹の世話をするなと言ってくる。おしめを替えるのは弟でもやったからおれにまかせろと言っても、大きくなったセレスがおれにおしめを替えてもらっていたことを知った時どんな気持ちになるか考えろと説教してくる始末だ。

 まあ、おしめやお風呂はシアにまかせるとして……、というかそれ以外に世話することはあまりない。

 お乳はおれじゃあでねえしな。

 結局、婆ちゃんがもう大丈夫だろうと安心して町にもどるまでの一ヶ月ほど、妹の世話はシアの独壇場だった。

 シアがかまってくれなくなって弟がちょっと拗ねるという想定外の事態も発生していたが、そこはおれが機嫌をとった。

 父さんはシアが妹を世話しているのを微笑ましく見守るばかり、母さんは三人目ともなると大雑把になるのか、授乳など自分しかできないこと以外はシアにまかせていた。これはシアの意識をこの家になじませるためってのが大きいのだろう。

 そんなわけでシアのお世話を邪魔するわけにもいかないのである。


「主人のところに一休みしにくるメイドってどうなんだ?」


 セレスがお昼寝を始めたとのことで、シアは休憩のためにおれの部屋にやってきた。

 おれはちくちく裁縫仕事をしていた。


「そういうメイドもまたメイドでしょう?」

「それはそうだが」


 おれと自分用にお茶とお菓子をもってきたシアは、ふう、とひと息つきながら、おれの作ったぬいぐるみのひとつを手にとってみる。


「リラックスしたクマさんですね……」

「ああ、リラックスしているクマさんだ」

「夢の国のネズミとかも作る気ですか?」

「ゲルトシャイサーは好きじゃないから、作るならエレクトリカルな方だな」

「あれってネズミとは説明できないですよ?」

「なんだかわからない生き物のぬいぐるみでいいんだ。そのクマにしても、へたにちゃんとしたクマのぬいぐるみを作って、妹にクマは可愛い生き物なんだなんて誤った認識を与えてはいけないからわざわざそれにしたんだ。クマは猛獣だ」

「なるほど……、そうですね、セレスちゃんにおかしな誤解を与えるのはよくないですからね、さすがご主人さまです」


 うんうんとシアはうなずく。


「…………」

「どうしました?」

「いや、おまえが手放しでおれを褒めたのって、これが初めてじゃないかと思ってな。思いのほか気味が悪いと感じただけだ」

「ご主人さまは相変わらず辛辣ですよね!」


 イーだ、とおれを威嚇して、シアはなんの罪もないクマさんを虐げ始めた。


※誤字の修正をしました。

 2017年1月26日


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