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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
8章 『砕け星屑の剣を』編
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第508話 13歳(夏)…錬成魔剣

 今朝は皆でシャロ様像にお参りしてから精霊門へと向かった。

 まずは昨日と同じようにミーネとシアを聖都に送っていくのだが、この二人、昨日は勇者連中とちょっと揉めたらしい。

 なんでも、おれがミーネの手柄を横取りしているなんちゃって英雄であると勇者連中が考えていることが発覚し、これにミーネがひどく憤慨したとのこと。

 てっきり「そんなことないもん」とか言い返したと思いきや、いきなり連中を斬り殺しかねないレベルのガチギレであったようだ。

 ちょっと想像できないでいると、シアが『クロアとセレスをバカにされた場合のおれみたいなもの』と例えてくれたおかげでよくわかった。

 実際はそれよりも危うかったらしいが。

 ミーネには「おれがバカにされることなんて気にするな」と言いたいところだったが、ミーネとおれの立場を、ミーネをおれに、おれをクロアとセレスに置き換えた場合、気にしないなんて不可能であったため、ここは大人しくミーネにお礼を言っておいた。

 それとネイには世話になったので、お礼を伝えてくれとシアには言っておく。

 そのうち粗品でも用意しようかな。

 今日、ヴァイロへ移動になるまでミーネとシアは勇者連中に絡まれないようネイたちにまざって行動するようだ。

 シアが威圧で対処するのも一つの案で、そちらの方が角が立たないのでいいかもしれない。

 活動的な馬鹿より恐ろしいものはないとゲーテさんも言っていた。

 そういうのは近寄ってきてから潰すのではなく、まずは近寄らせないようにしておくことが重要だ。


「じゃあ、またあとでね!」

「それではー」


 おれが神殿まで行くと勇者連中を刺激するかもしれないため、今日のお見送りは門のある建物まで。

 それからおれとアレサは精霊門をくぐり直してヴァイロ側に出る。

 そして大工房本部へと向かったのだが――


「え、会わせることはできない……?」

「はい、申し訳ありません。どうかご理解を」


 受付のドワーフさんにティアウルとの面会を断られてしまった。


「昨日は会わせてもらえましたが……」

「本来であれば面会の予約が必要となるのです。昨日は他ならぬレイヴァース卿ということで、特別に許可が下りました」

「ここでしばらく待ったら時間を作ってもらえたりしません?」

「別の日であれば可能かもしれませんが……、今日は勇者委員会に関係する業務があり立て込むことが予想されるため、訪問はお断りすることになっているのです」


 なんてこったい。

 ひとまずおれとアレサは本部を出ると、修繕中の建物隅っこに行って作戦会議をする。


「この国の上層部に働きかけて無理矢理面会をとりつけるか……」

「猊下、大工房はヴァイロでは少し特殊な立場にありまして、上から命じられても無視することができます」

「じゃあ忍び込んでこっそり会いに行くとか?」


 ちょっと精霊たちに協力してもらい、本部建物をくまなく捜索してもらって――、あ、〈星幽界の天文図〉で見つけることは出来るか。


「忍び込んで、それで話をするのですか?」

「ティアウルが交換条件でここに居るなら、よく話せば取りやめてくれるかなと」


 言うと、アレサは少し考え込む。


「交換条件であったなら嘘が混じると思うのですが、ティアウルさんの言葉に嘘はありませんでした。もし本当にここに居たいと願っていた場合、どうするおつもりですか?」


 アレサは努めて冷静におれの思いつきに指摘を入れてくる。

 おそらく突撃して片付くことであれば賛同するのだろうが、今回はむしろ面倒なことにしかならないからと、ふわふわっとした提案には反対の姿勢をとるようだ。


「ティアウルが仕方なくここに居るなら誘拐も視野に入れるが、望んでいるなら余計なお節介でしかない。どうしたもんか……」


 人生に別れはつきものだ。

 仲の良かった友人とも、進路が違えば離ればなれになる。

 何故なら自分は自分の人生を生きなければならないから。

 それをこちらの我が侭で歪めることはよろしくない。


「なんとか一度、ティアウルとゆっくり話をしたいんだがなぁ……」


 犬やヒヨコに手紙を持たせ、ティアウルの所に送ってもダメなのだ。

 向かい合って言葉を交わさないと。

 そう考えながら今更に思うのは、これまで話す時間は充分にあったということ。

 仕事ばかりで話さなかったのはおれ。

 よく話すようにしていれば、ティアウルもさっさとヴァイロに行くのではなく、おれに相談くらいしたかもしれない。

 そしてこれはティアウルだけでなく、他のメイドたちにも言えることだろう。

 テスターとしての契約期間は来年の三月いっぱいまでだ。

 それから皆はどうするのか?

 これはちゃんと話して、把握しておかないといけないことだろう。

 できれば皆にはこのまま屋敷にいてくれたらな、と思う。

 何か特別な展望があるわけでもない漠然とした願望、本当にただの我が侭なのだが。

 さて、あれこれ考えてみたが名案は浮かばず、結局、今は足を運んでこちらの姿勢を理解してもらう段階なのだと納得するしかなかった。


「あまり強引な手段をとると、大工房側も強硬姿勢になって聞く耳持たなくなってしまうかもしれませんからね」


 ですよねー。

 うーん、明日も来て三顧の礼ってわけにはいかないかなー……。

 でも、べつにおれが偉いわけじゃないから、三度訪れようが、四度訪れようが、それはただのしつこい奴なだけだろうか?


    △◆▽


 何の進展も無いうちに勇者御一行がヴァイロに来てしまった。

 御一行はまず大工房の見学をするらしく、おれとアレサは今朝ぶりとなる金銀に合流して見学ツアーに混ざることにした。

 まずは都市に点在する大工房の施設を巡る技術力自慢ツアーが始まった。

 それなりに楽しい物作り見学を終えたあと、御一行は大工房本部の広間に集められ、いよいよ本題、ヴァイロ共和国が提供する錬成魔剣の説明に入った。

 なんでもこの魔剣には『完成』という状態が無く、研究次第で性能を向上させていくことができる代物らしい。

 錬成魔剣は使われている特殊な金属あっての錬成魔剣。

 この金属はさまざまな形に加工できるため、希望があれば剣だけでなく望む武器の形で提供してくれるようだ。


「この魔剣は大工房の技術の粋を集めた強力なものです」


 そう説明するのはティアウルの上司になるルファス。

 説明が始まる前にティアウルとの面会をお願いしてみたが、せめて倶楽部の問題をどうにかしてから、と言われてしまったのでどうにもならなかった。


「強力なだけに、取り扱いには注意していただかなければなりません。そこでまずは等級の低いものから試用してもらい、慣れてきたところでより性能の高いものを提供しようと考えています。最上級のS型はなんと王金が含まれる特別なもの。我がヴァイロ共和国をスナークから守る魔剣兵の隊長格にしか提供されていない代物ですよ」


 この説明に認定勇者たちから「おー」と声が上がる。


「まずは明日から三日間、危険なく実戦を行える場所にて試用してもらうことになります。そこは昨日すでに皆さんが訪れたことのある場所――迷宮都市エミルスにあるダンジョンです」


 なぬ!?


「エミルスの迷宮は別名『死なないダンジョン』とも呼ばれています。普通であればダンジョン内部で魔物にやられたら死んでしまいますが、エミルスのダンジョンは死んだとしても蘇生され、傷も癒されてダンジョン外へと返されるのです。失われてはならない貴方がたが訓練を行うのにはうってつけの場所でしょう」


 えぇ……。

 いやまあ確かにそうかもしれんが、死に戻りはあの都市の荒くれ者どもでも心が折れて引退するんだぞ?

 つかこれ領主のフリード伯爵に話は……、いやさすがに通ってるか。

 勇者御一行がぞろぞろ精霊門で行ったわけだから。

 でもクソスライム――イールの方はどうなんだ?

 あの迷宮がイールと名乗るスライム覇種であること、そして『死なないダンジョン』なのは人との共存を望む奴の気まぐれであることも六カ国には伝わっている。

 エミルスの迷宮なら『もしも』は起きないし、閑散期の今ならば勇者連中の特訓に使うのにもちょうどいい。

 確かに絶好の場所とも言えるのだが……、大工房は会ったこともないイールを信用しているのか?

 アレに関わって何事もなくすんなり物事が運ぶとは思えないんだよなぁ……。

 ハッキリ言って嫌な予感しかしないのだ。


「まずはこのあと宿へご案内します。それからは自由行動です。明日に備えて休養を取るもよし、この都市を観光するもよし、お好きになさってください。ダンジョン探索の準備については、魔導灯、地図、携帯食に飲料水など、これら必需品はこちらで用意しますのでご安心を。個人的に必要と思われる物については、各自で準備してもらうことになりますが、この都市で揃えるよりもエミルスに行ってからの方が手っとり早いと思いますね」


 ふむ、今日はここまでか。

 おれは一足先にエミルスへ行って話を聞きに行くつもりだったが、これなら金銀も同行できる。

 おれは金銀にそっと話しかけた。


「……あそこで特訓とかもう不安で仕方ないから、おれはちょっと話を聞きにエミルスへ行く。おまえらはどうする……?」

「……私もいくー……!」

「……ミーネさん、準備は……?」

「……魔導袋のおかげで私はいつも準備万端よ。これでもうルーの森のときみたいにひもじい思いをすることもないわ……!」

「……それ食事のことだけじゃないですか……」


 シアはちょっとあきれていたが、ミーネは食料さえどうにかなればどこに放りだされてもどうにでもなるのである意味正しい。

 いちいちこちらへ戻るのは面倒なので、明日、ミーネは迷宮都市で合流する旨を委員会の人に伝えると、御一行は迷宮入口にある広場に集合するのでそこに来てくださいと言われた。

 確認をとったのち、おれたちは久しぶりの迷宮都市へ向かうべく、そそくさと大工房本部を後にした。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/28

※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/08

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/03/20


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