第506話 閑話…ここにひとりの味方(前編)
セントラフロ聖教国による契約の履行――精霊門巡りは実に慌ただしいものであった。
まず訪問したのは星芒六カ国――聖都を除いての五カ国だ。
このうちミーネが訪れたことのあるのはベルガミア王国とエクステラ森林連邦で、まだ訪れたことが無かった国はザッファーナ皇国、メルナルディア王国、ヴァイロ共和国の三カ国であった。
この三カ国のうち、一番ミーネの印象に残ったのはヴァイロ。
街並みが物凄くごちゃごちゃでびっくりしたのだ。
六カ国を巡ったのち、それから勇者御一行は精霊門のある各国、各都市へと順に巡っていくことになった。
始めのうちはミーネもまだ楽しめていた。
しかし、最初は楽しかった精霊門巡りも、門のある建物から出て少しばかり景観を眺め、すぐ次の門に移動するせいですぐに感情が摩耗して何も感じなくなり、やがてはミーネですらただぞろぞろと門での移動を繰り返す集団の一員に成り果てた。
ぼんやりとしながら、導かれるままに次々と門をくぐり、なんとか午前の予定を消化していく。
これがみんなとゆっくり巡れたら楽しいのに、とミーネは思わずにはいられなかった。
いや、認定勇者になれば気が向いたときにみんなで各国各都市を観光することができる。
いつか皆で旅行しよう。
その時はティアウルも一緒に。
ミーネがそんなことを考えているうちに午前の予定が終わり、昼食休憩のために一行は一旦聖都へと戻って来た。
自由行動となったところで、ミーネはずっと待っていてくれたシアと合流、やっとひと息つくことができた。
「おつかれさまでーす。どうでしたかー?」
「もう次々移動するからよくわかんなくなってきちゃったわ。シアはずっと待ってて退屈だったでしょ?」
「いやー、私は昨日知り合ったエルフのネイさん、あの人のお仲間さんとお話したり、聖都を観光したりしてましたから」
「むぅ、シアはそれなりに楽しんでいたのね……」
「そ、そんな怨めしい目で見ないでくださいよ。ミーネさんお腹空いていますよね? ここはひとまずお昼にしましょう。そうしましょう」
それからミーネはシアと連れだって善神の神殿の向こう、昼食が用意されている政庁の広間へと向かう。
広間ではこれまでと同様、料理がずらっと並べられたテーブルがあり、そこから好きな物を皿に取る形式になっていた。
「やっぱりお皿が小さい……」
ミーネは取り皿の小ささに不満を持ちつつも、気分に任せて並ぶ料理をあれこれこんもり皿に載せ、すでに料理を取り終え食事用のテーブルで待っているシアの元へと向かった。
「これまた見事な盛り具合で」
「午後もあるし、いっぱい食べなきゃ」
それからミーネは一心不乱に料理を食べ始め、シアが食べ終える前に一皿目を片付けた。
そしていざ二皿目に挑もうとしたとき、二人に話しかけてくる者がいた。
「やあお嬢さん方、よければ僕が料理を選んできてあげようか?」
「は?」
何を言っているんだお前は――、という思いの詰まったミーネの「は?」はなかなかの威力であり、その青年――トルクニア王国の勇者アハルはちょっと腰が引けてしまった。
「ああいやなに、わざわざ席を立たなくても、僕がね――」
「ああうん、そんなことしなくていいわ。自分で選ぶのが楽しいんだから」
ミーネに言われ、アハルはなんとも言えない表情になった。
一方、シアは『この人、料理をとってきたついでにここに居座る気なのでは?』と推測していたが、ミーネがどう対応するかも興味深かったため、しばしそっと見守ることにした。
なんとか食い下がろうとするアハルと、早く料理を取りに行きたくてちょっとイラッとしてきたミーネの攻防はすぐに終わりを迎えそうだったが、そこでまた別の者が飛び入り参加してきた。
それは同じく認定勇者の男性で、最初に粉をかけにきたアハルをダシにしてミーネの興味を惹こうとし始める。
シアは慈愛に満ちた表情で引き続きそれを見守った。
「(まあミーネさんは可愛らしいですからねー。あー、ここで一発『このロリコンどもめ……!』って言ってやりたいところですが、ご主人さまが居ないと『は?』って言われて終わりなんですよねー……)」
この事態をナンパ程度に捉えていたシアだが、この判断、実は誤りであった。
ミーネが可愛らしいとしても、シアもまた負けていない。
あとは好みの問題だろう。
にもかかわらず、ミーネだけにしか声がかからないことにシアは違和感を感じることができなかった。
主以外はどうでもよかったからである。
そしてその読みの甘さが少々危うい事態を招くことになった。
「どうだい、いっそのこと俺と組まないか? ほら、勇者は勇者同士で組んだ方がいいだろう?」
「あんたと組むのはどうかとして、勇者同士で組むことについては同意見だな」
「ああ、実際のところ、レイヴァース卿の実績ってのは君の活躍を横取りしているようなものなんだろう?」
「――――」
主がブチキレた場合、表面上は取り繕っていても内心はかなりカッとしているのがシアにはわかる。
だがミーネは――。
「(あ、これマズい……)」
ミーネは怒ると「ムキャーッ」となる。
これまではそうだった。
だからシアはミーネも主と同じと考えていたのだが――。
読みが甘かった。
ミーネはここに集まった勇者たちが、彼が功績を横取りしての英雄であると勘違いしていること、そして、自分がいいように使われているならうまいこと取り入り、同じように甘い汁を吸おうなどと企んでいることを理解したとき、ぜんぜん料理を取りにいけなくてそろそろブチキレそうになっていたその熱は一気に凍りつくほどに下がった。
ミーネの気配はもうほとんど殺意であったのに、集まった勇者たちはそれに気づけず、相変わらず主のことを好き勝手に言っている。
「(なんでそうご主人さまディスりまくりなんですかねぇ……)」
勇者たちが主を敵視する理由――。
綺麗どころを三人も連れ、聖都や委員会から特別待遇だからか?
それも確かにあるかもしれないが、と、シアはさらに考える。
きっと一番の原因は勇者の称号持ちという自負ではないか。
勇者たちが集まっているのに、勇者ではない者が注目されていることへのやっかみ。それは勇者の称号持ちである自分たちが一番の好待遇であるべきという思い込みから生まれているのだろう。
そして、その称号持ちの中で最も優れた者――ミーネが主に懐いているのがことさら気に入らないのではないか?
「(うーん……、こういう問題が出ましたかー……)」
ミーネの実績は凄いものだが、主はそれを凌駕している。
しかし、一般的にはそれがどれほど凄いことか理解されるのが難しかったりもする。
スナークの討滅にしても、それを偉業と真に理解できるのはスナークと戦ったことのある者だけ――共に戦った者たちだけだ。
一方、伝え聞いた話でしか知らない者たちは、主を見てこう思う。
あんな子供でも出来たこと――、と。
これはその身分、得てしまった存在の価値に相応しい恰好と振る舞いをしようとしない主にも責任があることだった。
なにしろ、主ときたらぱっと見では身なりの良いやさぐれたお子さんでしかないのである。
勇者たちの勘違いを助長してしまうのだ。
「(まあそこはご主人さまの性分ですからねー、どうしたものか。下手に説得して凄い服とか用意されたら誕生日の贈り物が霞んでしまいますし……、ま、それはあとで考えましょう。今はそれよりガチギレしてるミーネさんをどうにか落ち着かせないと……)」
いざとなったらミーネをぶん殴り、気絶させて連れだすことまでシアが覚悟したその時――
「おうおう、ちょっとどいてくれ」
集まっていた認定勇者たちをかき分けて現れたのはエルフの認定勇者ネイだった。
「おうミネヴィア、あんたに恨みはねえ。だが実技審査で嬢ちゃんと戦うのを断ったことで俺がたいしたこと無いなんて言われるようになっちまったのはいただけねえ。こうなったらもう実際に戦って示すしか方法が無くてな。なに、そう時間は取らせねえ。ちょっと付きあってもらおうか」
「……、いいわよ」
静かに答え、ミーネは席を立つ。
そんな二人をぽかんと眺めるのはシア。
ネイがこんなキャラであることは第一印象からは想像できないし、それに仲間たちから彼の話も聞いていたが、こんなことを言いだすような人物ではなかった。
ならばどうして、と考え――
「(なるほど……)」
シアはネイの意図を理解。
となると邪魔になるのが見物しようと付いてこようとしている勇者たちだ。
シアは勇者たちの前に立ち、やんわりと『威圧』する。
が、シア自身も主を蔑ろにされたのはイラッとしていたようで思いのほか『威圧』が強くなり、数名昏倒させてしまった。
「(ありゃ、これはうっかり。ま、別にいいでしょう)」
気をとりなおし、シアは顔を強張らせ身動きがとれなくなった勇者たちににっこり微笑みかける。
「見世物ではありませんので、ご遠慮してくださいね?」
そう告げたのち、シアは踵を返しミーネとネイの後を追った。
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2018/12/26
※誤字と文章の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/02/08




