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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
8章 『砕け星屑の剣を』編
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第502話 13歳(夏)…錬金術ギルド聖都支店

 実技審査が終わったあと一同は都市に引き返し、参加者やその関係者たちは神殿にて待機、おれをおまけとした審査員は別室にて最終的な選定を行うことになった。

 結果から言えば全員が認定勇者となることが決定し、この知らせを受けた参加者たちは大いに喜んだが、一週間後には合格しなければよかったと大いに後悔するのではないかとおれは他人事に考える。

 こうして審査はひとまず終了となったが、明日から一週間は勇者委員会所属の『勇者』として、各国・各機関から支援を受けるため契約など手続きが行われることになる。

 この支援内容は素晴らしいものだと思うが、残念なことにミーネにとってはいまいち魅力が無い。

 剣技に関しては爺さんが強いし、魔術、魔道具に関しては母さんやリィがいる。ポーションなどは買いあされるくらい財力があるのでめぐんでもらう必要は無い。

 わざわざ余計な契約を背負ってランクが下の支援を受ける意味は無いため、本当に何かの役に立つかもしれない認定勇者という肩書きのために参加してくれたようだ。

 まあ例外として――


「エミルスの精霊門から港町へ行けばお魚を仕入れられるわね……」


 一人で魚介類を仕入れに行くことができるため、精霊門の使用許可だけは、勇者うんぬんとはまったく関係のないところでメリットがあるようだ。

 でもミーネ一人でお出かけってのはちょっと心配なような……。

 その時はメイドの誰か、それと犬に同行してもらうようにしよう。


    △◆▽


 審査の結果発表が行われた後、今後の予定が説明され、明日からに備えてゆっくり休んでもらうよう今日はこれで解散となった。

 明日、認定勇者たちは聖都からの支援である精霊門利用のため、まずは大陸中の精霊門巡りを行うことになる。

 これでひとまずおれの特別審査員という名の見学が終わり、聖都での二泊三日、自分探しの旅が終わりを迎えることになった。

 これでおれはもう屋敷に帰ってもいいのだが――


「もう帰っちゃうの……?」


 聖都に残らなければならないミーネがしょんぼりだ。

 あんまりにもしょんぼりだったので、おれはちょっと勇者委員会と相談して我が侭を聞いてもらうことになった。


「夜はエイリシェに戻ってもいいことになった。明日から朝になったらこっちに送ってくる感じだな。夕方になったら迎えにくるよ」

「うぅー……、頑張る」


 ミーネは少し気を取り直した。

 こうしてミーネも一緒に帰れることになったのだが、お世話になった宿から出たところでおれに接触してきた者がいた。

 それは白を基調とした清潔感のある制服を身につけた男性で、左胸には錬金術ギルドの紋章があった。


「私は錬金術ギルドに所属するフィジクと申します。実はレイヴァース卿にお話を伺いたいと思いまして。これからギルド聖都支部にお出でいただくことは可能でしょうか?」

「かまいませんが……、ここでは話せないようなことなのですか?」

「はい、公の場では」

「時間はかかりますかね?」

「場合によってはかかるかもしれませんが……、その時は日を改めてと考えております」


 これはここで断っても後日ってパターンか。

 片付けられるなら今日のうちに片付けてしまおうと、おれはひとまず話を聞きに錬金術ギルドの支部へ行ってみることにした。


    △◆▽


 おれたちは聖都の錬金術ギルド支店へ連れられて行き、そのまま会議室とおぼしき場所へ案内された。

 室内にはおれ、金銀赤、それからギルド本部から来たフィジクと、この支部の支部長を務めているウァレンスというおっさんの六名。

 支部長というだけあってウァレンスは堂々としたものだが、どういうわけかフィジクは妙におれの顔色を窺うような、おどおどとしたものである。

 いったい何の話をされるのだろう?

 心当たりはないなー、と思っていたところ、フィジクが言う。


「まず確認させていただきます。レイヴァース卿、貴方がザナーサリー王国とエルトリア王国の間にある国境都市ロンドで錬金の神より祝福を授かったというのは本当のことなのでしょうか?」


 あ。

 そっか、そりゃそうだ。

 錬金の神から祝福もらった奴が現れたとなれば、錬金術ギルドは放置ってわけにはいかないのか。

 祝福自体が重要で、もらった神のことはあんまり気にしてなかったからそのことにまったく気づかなかった。

 まあ気づいていたとしても、おれの方からアプローチをするような理由はないので、結局は同じことになっていただろうが。


「えっと、はい。祝福を授かりました」

「そうですか。お答えいただき、ありがとうございます」


 いやただ答えただけですが……。


「あの、ちょっといいですか?」

「はぃ!? あ、はい、なんでしょうか!」

「あのですね、ぼくはこれまで錬金術ギルドに直接的に関わったことが無いためよく知らないのですが、もしかしてそちらは錬金の神に対して強い信仰心を持って活動していたりするんですか?」

「信奉はしていますが……、そうですね、例えば聖都における善神のようなものではありません」


 妙にへりくだるのでそう考えたが……、違うのか。


「ずいぶんと気を使っているようなのでそう思ったんですが……、ではどうして?」

「実はそれが今回お招きした理由に関係するのです。我々錬金術ギルドは極端な話、錬金術士たちが集まって活動しているだけの団体です。錬金の神に命ぜられて立ち上げたわけでも、使徒が作りあげたわけでもないのです」

「あ、ぼくの存在が邪魔になってるってことですか」

「いえいえいえ! そんな、邪魔だなんてことはありません! ただ……、貴方が祝福を授かったことで、ギルド内では幾つかの意見が出るようになり、現在少し混乱が起きているのです」

「混乱って……、どんな意見なんです?」

「レイヴァース卿は自ら新しい錬金術ギルドを立ち上げるのではないかと……」

「えぇ……、どうしてそんな意見が?」


 困惑していると、そこで何気ないことのようにシアが言う。


「闘神さんの団体を作っちゃったからじゃないですかー?」

「あ!」


 そっか、同時期に祝福をもらった一方は団体を作ったんだった。

 闘士倶楽部の存在は、確かに錬金の方もなんらかの取り組みを始めると警戒されるには充分かもしれない。

 正直、倶楽部のことは忘れていた。

 任せきりにしているパイシェから報告を受けるたび、邪悪なポップアップ広告を消すように意識から追いだしていたから。

 でも……、倶楽部はおれが作ったんじゃなくて、むしろ潰そうとしていたら闘神の奴が勝手に認定しちまっただけの話だぞ。

 ちなみに、その辺りの話はおれが苦汁を飲んで倶楽部を畳もうとしているところに闘神が救いに来た、みたいな美談になっているらしい。

 くそう、筋肉め、本当に祟りやがる。


「他にも、錬金の神より祝福を授かったならば、ギルドに干渉することなく沈黙を保っているのはおかしい、何か企んでいるのではないかという意見もあります。もちろん、レイヴァース卿はそんな方ではないと言う者もいるのですが、多くは新しい錬金術ギルドの立ち上げを行い、ゆくゆくはこちらを乗っ取るつもりであるという考えになびいています」

「そんなことしませんよ!? 干渉しなかったのは……、実はですね、無関係と考えていたと言うか……、ついさっき、やっと関係なくもないのかと気づいたばかりでして……、言われなければおそらくぼくは何の関わりも持とうとしないままだったと思います。まあこれは信じてもらうしかないのですが」

「そうでしたか。こちらが疑心暗鬼になっていただけなのですね」

「ええ、干渉する気が無いとかではなく、そもそも自分に関係あるとは思ってなかったんですよ。でも……、どうして乗っ取りなんて乱暴な話になったんでしょう? ぼくはこれまでそんなことをした覚えはないのですが」


 不思議に思っていると、それを聞いたフィジクは苦笑いをしようとしたものの、笑えなくて苦々しさだけが残ったような表情で言う。


「発端はベルガミア王国でのポーション売上減少からでして……」

「…………」


 なんか泣きたくなった。

 ご、ごめん……。

 ウォシュレットのせいでごりっと売上げ減らしちゃったよね……。

 ある意味、シェアを奪っちゃったことになるよね……。

 そら反感を覚えられるだろうし、そこに錬金の神の祝福を貰ったとなれば警戒もするわな。


「我々はポーションの販売により多大な利益を上げていると思われがちですが、錬金術ギルドを錬金術ギルドたらしめるポーションを安定して供給するための取り組みに莫大な費用がかかるのです。特に薬草畑の維持管理、これがもう、本当に……、異常気象で全滅なんてことになったら多くの者の心臓が止まるか、頭が禿げあがるか」


 話ながらフィジクが衰弱しているが大丈夫か。

 あんまりつらいことを思い出すものじゃないぞ。

 目を逸らせ、そして忘れるよう努力するんだ。


「大変なようですね。えっと、ぼくは余計な干渉をするつもりはありませんので、そこは安心してください。もしそう伝えても混乱が続くようであればぼくが直接説明にうかがいますので。そのときはぼくを警戒する勢力の取り纏めをしている方に話をしようかと」

「実はその取り纏めなのですが……、名はファリバーン、当ギルドのギルド長なのです……」

「…………」


 錬金ギルドのボスがおれを敵視してんのかよ……!


「ギルド長は……、本来は立派な方なのです。三番目の魔王の時代、国や裕福な者たちがポーションを過剰に溜め込んだせいで、助かるはずの者も助からないという状況がありました。ギルド長の一族はそんな状況を二度と起こすまいと、ポーションの安定供給と有事の際の買い占めを防ぐための枠組み――、現在の錬金術ギルドの基礎を築いた由緒ある一族なのです。そしてだからこそ、レイヴァース卿を過剰に危険視してしまっているのでしょう」


 う、うーん、そのうち誤解を解きに行った方がいいな、これは。


「もちろん、ギルド長が敵視しているからと、錬金術ギルド全体がレイヴァース卿を警戒しているわけではありません。むしろ星芒六カ国の支店長は好意的ですね。ただその結果、今度は本部と支店の対立という構図がですね……」


 やろうと思えば支店連合がおれをトップに据えて、新しい錬金術ギルドを創設することも出来てしまう。

 なるほど、これは警戒されるわな。


「ひとまず今回お話を伺えましたので、これをしっかりと本部へ伝えようと思います。もし何かあればまたそちらへ伺うことになると思うのですが、その時はどうぞよろしくお願いします」

「い、いえいえ、こちらこそ、よろしくお願いします」


    △◆▽


 錬金術ギルドはこれからどうなるのだろう……?

 そんな一抹の不安を抱かせる話し合いが終わり、フィジクはこれからのこともあって政庁へと戻ったが、そこで静かに話し合いを見守っていたウァレンスが少し支部を案内したいと言いだしたのでおれはその申し出を受けた。

 今回のことは錬金術ギルドと関わりを持たなかったが故に誤解が大きくなってしまったのが原因だ。

 これからは少し交流を持ち、おれが無害であることをそれとなくアピールしておこうと思う。

 この支部の案内という何気ない交流はそのための第一歩だ。

 ウァレンスに説明を受けながら建物を回り、それから外へ出て敷地にある薬草畑へと向かう。


「各支部にある薬草畑は、もちろん研究に利用もされますが、一番の目的は育てるのが難しい薬草の栽培法を確立するために存在しています。専門の研究施設もありますが、案外、こういった専門ではない場所でも意外な発見というものは有るものなのですよ」


 レンガで囲まれた一見普通の薬草畑の他、温室、気温が一定以上にならない冷室、布の都市カナルの毛玉飼育場みたいな魔道具の冷房をきかせた冷蔵室などがある。

 薬草を育てるためだけに用意された特別製の装置となればさぞ値が張ることだろうし、それを常時稼働し続けるとなれば維持管理費も大変なものだろう。

 これが専門の研究施設ともなればどえらいことになるのでは?

 なるほど、錬金術ギルドも楽な商売をやっているわけではないのだな。

 そう納得するおれに、ウァレンスはいくつかの薬草の成長具合を見せてくれる。

 くれるのだが……、なんかウァレンスさんたら、やけに見覚えのある特殊な薬草ばっかり見せてくるのだ。


「今はまだ冒険者に任せるしかない種類も多いのですが、ゆくゆくはすべての種類の栽培技術確立を目指しています。ここを始めとした六カ国の支部では、それぞれに日々努力を重ねておりますので、いずれは()()の量産も現実のものとなることでしょう。もうしばしお待ちください、()()()()()

「…………」


 おれは……、あれか?

 錬金術ギルドに迷惑をかける星のもとに生まれたのか?


    △◆▽


 正直なところ、勇者大会は息抜きにならなかった。

 エイリシェへと帰還したおれたちは屋敷へ戻る前に一度クェルアーク家に向かい、そこでミーネが三番目の魔王の本名をうっかり明かしてしまったことをバートランの爺さんに報告したのだが、実はこれ、爺さんですら知られてなかったことに気づいておらず、おそらく口止めする理由はないだろうということでミーネのうっかりは不問とされた。

 ひとまず肩の荷が下りたおれと、もしかしたら怒られるかもと心配していたミーネはこれで気が楽になり、意気揚々と一路屋敷へ。


「早く帰りましょう! お腹が空いたわ!」

「……?」


 何かがおかしいような気がしたが、この際――、いや、もう気にしても仕方ないのかもしれない。

 ともかく今は早いところ屋敷へ戻りゆっくり休みたい。

 やっぱりお家が一番だなと、おれは癒しを求め屋敷に戻ったのだが――


「は? ティアウルが暇乞い?」


 まず知らされたのは、おれたちが聖都へ行っているこの三日間でヴァイロ共和国の『大工房』にティアウルが引き抜かれたという事実だった。

 これにはシアやアレサも同様に驚いていたが――


「は? なんで? 意味がわからないわ」


 何気に付き合いの長いミーネにとっては、ちょっと理解が追いつかないくらいの衝撃だったようだ。

 屋敷の皆もまだ動揺が収まっていないようで、ミーネと同じく付き合いの長いサリスが特に困惑している。

 ひとまずおれが居ない間に何があったかを説明してもらったところ、まずティアウルが実家の鍛冶屋『のんだくれ』へと呼ばれて戻ったのだが、そのまま大工房で働くことになったらしく行ってしまい、今日になってその旨が大工房の長である大親方レザンドからの手紙で知らされたらしい。

 手紙の内容は突然な引き抜きに対しての謝罪であった。


「ちょっと急すぎるだろ……」

「ですよね、どうしますー?」

「連れ戻しましょう!」

「いやいや、無理に連れて行かれたんなら連れ戻すが、ティアウルが望んで大工房で働くことにしたなら、そこは祝福してやらないと」


 世間的には男爵家の侍女から、一国を代表する研究機関への転職なのだ。

 しかしまあ、これですんなり「はいそうですか」と納得することは出来ないので、ひとまず明日は『のんだくれ』へと出向き、父親のクォルズから詳しい話を聞きに行くことにした。


※誤字脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2018/12/26

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/18

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/05/14

※さらに脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/01/20

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/02/20

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/11/13

※さらにさらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2022/02/04


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[一言] 錬筋術師がギルドを乗っ取るのか…。
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