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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
8章 『砕け星屑の剣を』編
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第501話 13歳(夏)…勇者大会二日目・実技(後編)

 聖騎士に勝利した参加者たちによるトーナメント戦は中止、行われることはなかった。

 勝てたのがミーネともう一人しかいなかったからである。

 一応、勝者が二名いるのでトーナメント戦とまではいかないまでも対戦は出来るのだが、そのもう一人の勝者――ネイは言った。


「辞退! 辞退する! なんで頑張って勝ったのにもっと苦労せにゃならんのよ! おかしくね? おかしくね? いや、治療は任せろとかそういうことでなくてね!?」


 ネイはミーネと戦うことを全力で拒否。

 その姿は勇者の称号を持つ者にしてはあまりにも情けなく思われたが……、まあ対戦相手の聖騎士をボコボコにするのを目の当たりにしていれば仕方なくも思え、そんなネイには軽蔑ではなく同情の視線が集まっていたこともあって非難する者は一人もいなかった。

 確かに、せっかく勝ったのに待っていたのはより過酷な罰ゲームとくればわめきたくもなるだろう。

 たぶん奴の立場ならおれもわめく。

 こうしてトーナメント戦は中止されることになったのだ。


「勝てたのがミーネさんを除くと一人ってのはなんか寂しい話ですね」

「まー、しゃーないだろ」


 集まった三十六名のうち、聖騎士に勝てた参加者が二人。

 うちの規格外を除けば実質一人という結果だが、これを少ないと見るか、それとも多……くはないので、順当と見るか。

 そもそも聖騎士は瘴気領域を囲む六カ国の一角である聖都、その防衛を目的として組織された精鋭部隊だ。

 当然のことながら常日頃から厳しい訓練を課されている。

 おそらく今回相手役をしてくれた騎士たちは連係しての防衛――群れに対しての盾役をする人たちなのだろうが、だからといって個人戦が弱いわけではないだろう。

 一方、参加者は勇者の称号があるだけで特別才能に溢れているわけではない。

 これまでの活動で経験を積んでいた、あるいは国から徹底的な英才教育でも施されていた、――そんな経緯が無ければ負けるのは当然のことである。

 たぶんこれはスポーツ芸能人を夢見る若者がオーディションを受けに行ったら、何故か特殊部隊員と模擬戦をすることになったようなものではあるまいか。

 こう考えればこの結果は順当、そして妥当なものである。

 ネイは積んできた経験の成果が出た、ということだろう。


「まあ突出した才能が理解不能なほど強かったりするから、ミーネみたいなのが何人かいたら結果も違っただろうな」

「いやー、ミーネさんくらいなんて、そうそう居ませんて」


 と、その『そうそう居ないの』の一人がのほほんと言う。

 さて、こうして二日目の実技審査が終わり、勇者に相応しいかそうでないかのゆるい選定が行われたのち、晴れて認定勇者となった者たちには今後についての説明が行われることになるのだが、そこでとある聖騎士さんがトーナメント戦の代わりとして、自分とミーネとの模範試合を提案してきた。

 その聖騎士というのは一昨年の夏にベルガミアで会ってからの付き合いとなる聖騎士セトス・ルーラーその人である。

 ミーネはこれを「ええ、いいわよ」と気軽に了承。

 ベルガミアで行われた武闘祭で戦う姿を見ているため、この人ならまともに戦えそうという期待があるからだろうか。

 このセトスの提案に委員会側や各関係者も興味を示し、わりとすんなり模範試合が行われる運びとなった。

 たぶんそこにはミーネの実力を確認したいという思惑もあるのだろうが……、無理だろうなぁ、それこそスナークの暴争くらいの事態――大破壊が許容される場と状況でもなければ。

 こうして希望通り模範試合が行われることになり、セトスはすぐに試合用の装備を整えた。

 ベルガミアの武闘祭に参加したときは動きを阻害しない程度のしっかりとした防具、それから剣と盾という装備だったが、今回は盾が大盾……、いや、あの大きさになると塔盾? 壁盾? ともかくちょっと体をすぼめると隠れられるくらいの大きさで、攻撃を受け流すよう横に丸みのあるでっかい盾を持ち、武器は剣ではなく、柄が長く槍みたいになっている剣槍だ。


「なんかセトスさん、えらくがっちりした装備してきましたね……」

「あれってもしかして聖都の一大事に使用する装備なんじゃ……」

「はい、その通りです。対スナーク防衛戦用の装備です」


 おれとシアがぽかんとしてると、アレサがにこっと笑いながら肯定してくれた。

 本気装備の騎士と、その騎士が持つ盾よりも小さな少女との戦い。

 そんな二人が対峙する様子は一見異様で、ミーネの実力をあまり知らない者たちは酷い見世物になるのではと心配げな表情である。

 やがて開始の合図があり、模範試合が始まった。

 まず動いたのは聖騎士セトス。


「我が信仰に迷い無しッ!」


 シールドバッシュ――盾殴りの魔技だったと思ったが、ベルガミアの時とは違い、今回は塔盾前面に構えての突撃だ。

 ミーネはすかさず魔弾三連発を放ったが、それは盾に砕かれた。

 突撃の勢いを削ぐことも叶わず、セトスはすでにミーネの目の前。

 さらに魔弾を使うか、それとも剣を抜くか。

 うまく落穴にでも落っことせればいいのだが――、いや、セトスの周囲で発動する魔術となると、守りの魔技で潰される可能性がある。

 そう考えたのか、それとも勘なのか、ミーネは剣を抜いての迎撃を選択した。


「〝魔導剣ッ!〟」


 出し惜しみ無しの一撃を迫ったセトスに繰り出すが、そこでセトスはさらに叫ぶ。


「護るべき時は今ッ!」


 盾に仄かな光が宿り、セトスはミーネの一撃を盾で受けとめる。

 物凄い音がしたのち、体勢を崩していたのはミーネの方だった。

 セトスはせいぜい勢いを止められた程度。

 そこでセトスは半身を盾で隠しながら剣槍にてミーネを攻撃。

 盾で体を隠している関係上、動きが制限されるためコンパクトな突きを繰り出している。

 このガッチガチに守りを固めている相手、それも魔技をぶつけても崩せないというのはミーネにとって初めての経験ではないだろうか。

 とは言え、ミーネならやりようはあると思うのだが、何故か正面から挑むことにこだわっており剣で剣槍の突きを捌いている。

 そのうちミーネが捌きそこね、ちょっと体勢を崩したところを狙ってセトスは大振りの攻撃を繰り出した。


「教剣ッ!」


 器用に手の中で柄をすべらせ、広い範囲の薙ぎ払い攻撃。

 だがミーネはそれを読んでおり――、いや、体勢を崩したところから演技だったのだろう、後ろに飛んでぎりぎりで凪ぎ払いをやりすごすと、一気にセトスに迫ったのだが――


「教剣――説法ッ!」


 思い切り振った、慣性がのったままの長物――、これを切り返しなど出来るものではない。

 片手でとくればなおさらだ。

 が、しかし、それはそういう戦い方なのだろう。

 長い柄の中程は塔盾の丸みに当たっており、その状態でセトスはレバーを引くように腕を勢いよく引き寄せた。

 結果、テコの原理で剣槍は強引な切り返しを繰り出すことになり、なおかつ、その攻撃は放出系の魔技。

 飛ぶ斬撃はセトスに迫ろうとしたミーネを迎え撃つことになった。

 だが――


「〝空牙ッ!〟」


 ミーネは防ぐでも避けるでもなく、放出系の魔技にて飛来した斬撃を打ち破り、そのままセトスに迫る。


「〝震空牙ッ!〟」

「護るべき時は今ッ!」


 ミーネが放ったのはナスカ――バンダースナッチだった頃のピスカの動きを止めた一撃。

 だが――。

 それでもセトスは防ぎきった。


「やるわね!」

「鍛えたのですよ! 今ならアロヴ殿の体当たりも止めて見せますとも!」


 ベルガミアの武闘祭にて、竜と化したアロヴのダイブをくらって吹っ飛び敗退したセトスだが、それを反省して相当訓練したらしい。

 つか、今のを防がれたら、もうミーネには真っ向勝負で守りを崩す方法はないんじゃないか?

 そう思っていたところ、ミーネはひとつ深呼吸して言う。


「まだやれることはあるけど、私はあなたの守りを崩したいから次の一撃で勝負を決めましょう。防げなかったら私の勝ち、防げたらあなたの勝ち」

「ほほう、受けましょう!」


 なんかもうあの二人、周りをほったらかしで楽しんでないか?

 それからミーネは体の力を抜いて集中。

 セトスはいつ一撃が繰り出されてもいいようにしっかりと盾を構えていた。

 そして――


「〝……〟 」


 そっとミーネは囁く。

 何を言ったのかよく聞こえなかった。


「護るべき時は今ッ!」


 セトスは守りに全精力を注ぎ込む。

 そしてミーネの囁きと共に繰り出された横凪ぎの一撃はキンッと引っかかったような小さな音を立てて塔盾を通り過ぎた。

 目測を誤ったのか、と思ったところ、パタン、と。

 塔盾が横に真っ二つになり、下半分が地面に倒れた。


「よっし!」


 ミーネがぐっと左手を握りしめる。

 セトスは真っ二つにされた塔盾の断面を見ながら目をぱちくりしていたが、やがて苦笑して言った。


「これはまた見事に切断してくれましたね……、お見事」

「上手くいってよかったわ。まだ不完全だから」


 ってことは新技か?

 これまでと比べて派手さがまったく無い。

 威力を集中させたような技だろうか。

 やがてミーネの勝利が宣言され、模範試合はまた一段物騒になってしまったお嬢さんの勝利によって幕を閉じた。


    △◆▽


「勝ったわよ! 勝ったわー! 勝ったのよ!」


 聖騎士セトスとの勝負を終えたあと、ミーネは妙に嬉しそうにやってきた。

 ぴょんぴょん跳ね回るようなことはなかったが、内心はそんな感じらしく、言われずともわかるほど「褒めて褒めてー」という雰囲気をしていたのでおれは大人しく褒めた。

 ただ、具体的にどう褒めたらいいかわからなかったので「凄いぞー、凄いぞー」と言いながら頭を撫で撫でするだけである。


「んふふー」


 撫でられながらもミーネはむふーと誇らしげ。

 勝ってここまで喜ぶミーネは珍しく、それはこの勝負がミーネにとってただ勝ち負けを争うだけでない、何かしら特別な意味を持っていたからだろう――、たぶん。

 ちょっと気になるところではあったが、そろそろ撫でるのをやめ、区切りをつけて雰囲気を変える必要があった。

 今更に気づいたが、周りから様々な視線がおれとミーネに集中していたのである。

 委員会や聖都関係者からは温かい視線が、勇者連中からはおれの爆散を願うような熱い視線、そしてシアとアレサからはしらーっとした冷たい視線である。

 うん、もう強引にでも空気を変えよう。


「えー……、おっほん! ミーネくん、試合は実に見事だった。何かあるたびに強くなっているのがわかって、もうちょっとよくわかんなくなってきてるがとにかく見事だ。その剣にはこれまでずいぶん助けられてきたが、ここで改めてお願いしよう。どうか、これからもその剣でおれを助けてもらいたい」


 やや冗談めかして言ったところ、ミーネはきょとんとして、それから微笑む。


「ええ、もちろん」

「ありがとう。よろしく頼む」


 そしておれはもう一度ミーネを撫で、これを以て勝者を労う一幕は閉じることとなった。

 なったのだが――


「わたしもそれなりに助けてると思うんですけどー?」


 やさぐれた感じのシアが閉じた幕をこじ開けてきた。

 さらにシアはアレサを巻き込み、結果、おれは周囲から生暖かかったり、破壊光線みたいだったりする視線を受けながら二人それぞれに『いつもありがとう。これからもよろしくね』といった旨の言葉を贈ることになった。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/01

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/08


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