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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
8章 『砕け星屑の剣を』編
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第499話 13歳(夏)…勇者大会初日・面談

 面談は筆記審査と同じく善神像の広間で行われる。

 参加者たちは審査員や委員会関係者が見守るなか前に出て行き、善神像の前で尋ねられたことに対して自分の考えを述べるのだ。

 善神像を前にする意味は、おそらく嘘偽り無い発言を促すためなのだろうが、そもそも聖女たちが見守っているのだから実際にはただの演出でしかなくなっている。

 もしかして開催地が聖都だったのはこれが理由なのだろうか?

 まあ今日初めて開催地を知ったわけでもあるまいし、あらかじめ聖都だとわかっていれば聖女が立ち会うことくらい予想され、そして対策は立てておける。

 結果、なんかどいつもこいつも似たり寄ったりな、嘘をついているわけではないが心の底から本当にそう思っているのかちょっと怪しい感じのする耳当たりの良い覚悟や展望を語ってくれることになった。

 正直、まったく心に響かない。

 苦しむ人々のために剣を、とか言うが、おまえこれまでその苦しむ人々助けたことあんの? とつい突っ込みたくなってしまう。

 国に衣食住と面倒みてもらって、効率重視で冒険者ギルドの依頼を片付けてきたことは審査員もわかっているだろうし――。

 いや、そうか。

 考えてみれば『知られていることを知っている』うえで臆面もなく堂々と語れるというのはなかなか度胸のいることだ。

 なんらかの危機が訪れ、怯え惑う人々に向かって「大丈夫!」と言える度胸、信じさせてしまう演技、人々を正気に戻し、冷静に対処させることは誰にでも出来ることではなく、ならば誰が、となったときに効いてくるのが認定勇者という肩書きだ。

 なるほど、この面談は意外と奥が深いのか……。

 でもなぁ、そうなると今度はその演技がいまいちで困る。

 勇者という『役者』になるなら欠かせないところなのに、何というか……、誰もが一生懸命自分の話をしているだけなのだ。

 もっとこう、あるだろう。

 相手に「お」と思わせるような演技が。

 まずそのワンコが覚えたての芸を懸命に披露しているような、がむしゃらな話し方をやめろ。

 おまえの覚悟を打ち明けてるんだろう?

 だったらもっと重々しく、もしくはこっちを威圧するように、覚悟なんだから覚悟決めて言ってくれ。

 あーもう、イライラする。

 ちょっと一人貸してくんないかな。

 小一時間でそのまんまよりはマシに仕上げてくるから!

 参加者たちの不甲斐なさにおれは苛立つことになったが、やがて大番狂わせ――演技などする必要もつもりもないお嬢さんが登場した。

 ミーネである。


「勇者の称号を持つ者として、どのような覚悟をお持ちですか?」

「そんなのないわ」


 強い。

 これまでの勇者たちによる、誰かが一生懸命考え、それを一生懸命覚えた回答が見守る人々の頭からきれいさっぱり消去されてしまうくらいの回答をしてくれた。

 質問者は一瞬動きが止まったが、務めを果たすべく次の質問に。


「勇者委員会公認の勇者と認定されたのちは、どのような活動をしようと思っていますか?」

「べつに、これまで通りだけど?」


 やはり強い。

 なんだかんだでミーネの経歴は輝かしいものだ。

 コボルト王種『ゼクス』討伐。

 ベルガミア王国の対スナーク防衛戦参加――バンダースナッチ『バスカヴィル』と交戦。

 エクステラ森林連邦の対スナーク防衛戦参加――バンダースナッチ『ナスカ』と交戦。

 迷宮都市エミルスのダンジョン初踏破。

 ルーの森の解放。

 エルトリア王国の奪還作戦参加。

 これらを踏まえ、こともなげに『これまで通り』とくればもう質問者は苦笑いするしかなかった。


「勇者委員会所属の勇者となった場合、さまざまな補助を受けられるようになりますが――」

「精霊門が使えるようになるのはいいわね。でもそれ以外はあんまりいらないかも」


 三つめの質問にして、質問者に最後まで言わせなくなる。

 質問内容は同じなので、ミーネなりに返答が用意されていたからだろう。

 さすがに質問者が気の毒になってきたのだが、それよりも気になるのは――


「……ご主人さま、ご主人さま、ミーネさん、ちょっと怒ってません……?」


 シアがそっと囁いてくるが、おれも同感だった。

 ときどき「ムキャー」と怒るミーネだが、今はなんか静かに腹を立てているような感じだ。

 それからも他の勇者と質問者が可哀想になるような返答が続き、やがてミーネは面談の最短記録を打ち立てた。


「あー、これから面談する参加者も気の毒ですねー」

「そだな」


 その後、やはりミーネの返答を意識したのか、暗記した答えではなく自分の考えを述べる者が出始めた。

 例えばそれは、勇者の称号を持つことが明らかになってから援助をしてくれた国に対しての恩返しという内容だったり。

 ミーネは劇薬だったが、参加者がまともなことを喋るようになるきっかけにはなったようだ。

 そして最後にネイ。

 あれ、この順番ってもしかして筆記試験の点数順だったりするんだろうか?


「勇者の称号を持つ者として、どのような覚悟をお持ちですか?」

「そりゃもう凄く頑張るさ」


 こいつもミーネ的な強さがあるな……。


「勇者委員会公認の勇者と認定されたのちは、どのような活動をしようと思っていますか?」

「認定されたら色々と優遇されるんだろ? ってことはさ、これまでは生活のことを考えて我慢しなきゃいけなかったことも出来るようになるわけだ。ほら、なんて言うかさ、貧乏すぎて冒険者ギルドに依頼すらできねえ奴とかいるわけよ。そういう奴らを助けてさ、礼なんかいらねえぜ、もし誰か困ってる奴がいたら次はあんたが助けてやんな、とか言って去るわけ。どうよ、勇者っぽくね?」


 ネイの返答はバカっぽいが、おれは嫌いではなかった。


    △◆▽


 面談がすべて終わり、本日の審査はここまでとなる。

 それから明日の実技審査についての簡単な説明が行われた。

 実技審査は開催場所を聖騎士たちが訓練を行う演習場へと移し、そこで聖騎士と一対一の模擬戦を行うことになる。

 ただこれは聖騎士に勝利する必要はなく、その戦いぶりを審査するためのもの。

 一応、勝者が出た場合は余興として勝者たちによるトーナメント戦も催される予定とかなんとか。

 説明の後、おれたちは用意された立派な宿に戻ったのだが、そこでちょっとした問題が起きた。

 昨日すでに一泊した、四人で充分生活できる広々とした部屋の扉に張り紙がしてあったのである。

 ただ一言――


『エイリシェへ戻れ』


 戻れと言われましてもね……。


「んー、これ、脅しですかね?」

「脅しかなぁ……」


 シアと二人、しげしげと張り紙を眺める。


「これは……、ミーネさんへの、でしょうか?」

「なのかな?」

「なんでもいいわ、早く入りましょう」

「あ、待った待った」


 脅しなんぞどうでもいいと部屋に入ろうとするミーネに待ってもらい、ちょっと〈星幽界の天文図〉で室内に誰か隠れていないかをチェックする。

 誰も居ないのを確認してから、そろりそろりと部屋に入って次は異常が無いかのチェックを行った。


「ふむ、今後はこういうことを想定して、お出かけのときは扉に張り付ける偽の鍵穴でも用意しておくといいかもしれませんね。こう、泥棒さんが鍵穴をカチャカチャやり始めたら、10万ボルトが流れるような魔道具を。泥棒さんは『ピカー』とか言いながら死ぬのです」

「そっちが死ぬのかよ」


 その発想、不審者が近づいたら火炎放射してくる車と同じだぞ。

 シアはのん気だったが、アレサはちょっと憤慨気味にこのことを宿の受付へ報告に行き、ついでに聴取も行ったが、残念ながら扉に警告を残した犯人に繋がるような情報は何も得られず終いだった。

 宿側はこの部屋を使うことが不快なら別の部屋を用意しようかと提案してきたが、それはこのままでいいと辞退した。


「やれやれ、何かと調子を狂わされるな」


 ようやくひと息。

 見物していたおれが気疲れしているくらいだ、参加していたミーネはもっと疲れているに違いなく、それを裏付けるようにミーネはよろよろベッドに近寄っていってバフーッと倒れこむ。

 やはりお疲れなようだ。

 面談中もちょっと怒っているような感じだったし、ここはちょっと吐き出させて落ち着かせておいた方がいいだろう。

 こうしておれはミーネの話を聞くことにしたのだが――


「なんて言うか、みんなキラキラしたことばっかり言うから……」

「うん?」


 ミーネはベッドでうつ伏せのまま、ちょっと悲しそうに言う。


「勇者の称号がね、嬉しいのはわかるの。私も嬉しかったから。みんなが喋っていたことほど難しくはないけど、そんなようなことも思っていたの。でも……、それは昔のことでね、今は称号なんかどうでもよくなっているんだけど、みんなの様子を見てると、なんか昔の自分を思い出して苦しいって言うか、言葉に表しようのない、こう、うわぁぁぁ、ってなっちゃうの……」

「おぉう」


 おれはようやく理解した。

 この勇者大会、ミーネにとっては生き埋めにした亡霊――遠い日の夢見る自分をまざまざと思い起こさせる黒歴史大会なのだ。

 そりゃ参加したくなかっただろうし、したなら気力がごりごり削れるってものである。


「もう途中から、何でこんなところに居なきゃいけないの、って腹が立ってきて、それで……」

「わかった。そうか、そうだな、それは……、うん、仕方のないことだ」


 ミーネは一人あの忌まわしい苦しみに耐えていたのか。

 でもレディオークの方が遙かにアレじゃない?

 うん、まあそこは人それぞれなんだろうけど。


「きついならここで辞退しとくか?」

「それは駄目」

「そこまで認定勇者になりたいってわけじゃないんだろ?」


 尋ねると、ミーネはむすーっとして答えた。


「だって認定勇者が居れば何かの役に立つかも知れないし……」

「……ん? ――あれっ、もしかしておれのため?」


 ちょっと驚いて言うと、ミーネはこれには答えず口を尖らせる。

 それはふて腐れたような、ばつが悪いような。

 言うつもりはなかったが、予想以上に精神が疲弊していてつい零してしまった感じかな?

 しかしミーネが嫌な思いをしてまでおれのために何かしてくれるようになるとはなぁ……、なんだか謎の感慨深さがある。

 実のところ、認定勇者がどんな状況で役に立つかさっぱり思いつかないが、ミーネの心意気には素直に感謝である。


「そうか、ありがとうな」


 むすっとしたミーネの頭を撫で撫で。

 するとシアもこれに参加し、やがてアレサも参加。

 おれたちはしばらくベッドに伏せるミーネを寄って集って撫で撫でし続けた。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/18

※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/04/29


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― 新着の感想 ―
[良い点] ミーネが成長している…!! [一言] あのミーネがなぁ…(感慨深い
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