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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
間章2 『心づくしの料理を』編
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第483話 13歳(春)…OH! MY CONSECRATION(おお我が聖別よ)

 翌日、おれは日中いつも通り仕事をこなし、日が暮れ始めたところで祭壇に向かうとまずは聖別する食材を並べた。

 一つ目は人の頭くらいあるブロック肉。

 ずいぶん前に買ってあったものだが、とある理由から食べる気にならなくなり、かといって捨てるのももったいないのでずっと仕舞い込んでいたものだ。

 二つ目はブリっぽい魚。

 腹は白く、背はエメラルドグリーン。

 迷宮都市エミルスから帰還する際、寄り道した港町で購入した魚のうちの一匹である。

 そして最後にキャベツ――玉菜っぽい野菜。

 キャベツよりも緑色が深く、葉は肉厚。

 以上、この三品を聖別する。

 肉、魚、玉菜が祭壇に並ぶ様子は祭事における供物――神饌そのものであるが、これは形式的な捧げ物ではなく、本当に神の口に入る食材たちだ。

 今日から三日間、おれはこの三品が超食材となるよう、夕方から深夜にかけて「おいしくなーれ」と真心を込めて祈るつもりでいる。

 聖別は誰かに手伝ってもらうことのできない孤独な作業だが、必ず遣り遂げなければならない。


「よし!」


 おれは気合いを入れ、祭壇前に座り込んでさっそく祈り始める。

 ちょっとブリが生臭いけど我慢だ。

 シアは生肉・生魚を野外に放置していては早々に腐るんじゃないかと心配していたが、おれの祈りが腐食ごときに負けるはずがない。

 その確信を証明するように、夜も更けた頃になると食材は霜に日の光が反射したように淡い煌めきを放ち始めた。

 気づけばブリの生臭さも無くなっており、おれの祈りがちゃんと食材に影響していることを確認させてくれた。


 二日目、食材の放つ煌めきが強くなり、日が沈めば祭壇の周囲を明るく照らすほどになった。

 コルフィーを助けるために籠もったときほど必死にはなっていないにも関わらず、この段階でここまでの変化が起きるのは予想以上に順調にいっているということだろうか?

 もしかしたらリィが祭壇の周囲に拵えた九つの柱によって集められた魔素も食材の……、なんだろう、熟成? まあ変化に貢献しているのかもしれない。


 三日目、何か、美しいメロディがどこかから響き、誘われるように精霊、ぬいぐるみ、妖精たちが集まった。

 精霊は祭壇の上で何重もの輪を作り、その渦の中で飛行型ぬいぐるみと妖精たちが泳ぎ回っている。

 飛べないぬいぐるみは地上で祭壇を囲み、盆踊りなんだかマイムマイムなんだか、ともかく楽しげに踊っていた。

 この祭壇の変化、クロアは実家で暮らしている頃に目にしたことがあったが、セレスはまだ生まれる前の話になる。

 セレスは初体験なためか大はしゃぎだった。


「すごーい、きれーい!」


 喜ぶセレスは犬とヒヨコと猫を引き連れ、ぬいぐるみに混じってきゃっきゃしながら祭壇の周囲を回っている。

 父さんと母さんは屋敷の玄関横に用意されたテーブルにてその様子をにこやかに眺め、集まってきたご近所さんにお酒や料理を振る舞って親睦を深めていた。

 メイドたちは急遽その給仕をすることになったが、基本はテーブルに並んでいる料理を自分でとって皿に載せるバイキング形式なのでそう忙しいわけでもなく、二名ごとの交代制を採用し、待機となる者はちょっと離れた位置にある別のテーブルで料理とお喋りを楽しんでいる。

 そちらにはシア、ミーネ、アレサ、それにクロアとリィ、コルフィー、デヴァスやティアナ校長の姿もあった。


「みんなどんどん食べてね!」


 この日、この時のためと、ミーネ主導で用意された料理の数々。

 おれは儀式中なので食べに行けないのが地味に切ない。

 そんなことを思っていたら――


「猊下、あーんしてください」


 アレサが来てお祈り中のおれに料理を食べさせてくれた。

 丸いミニコロッケか。

 ありがたく頂く。

 そしたらみんな来た。


「はい、あーんして!」

「まだまだいけますねー、では次にこちらもどうぞ」

「兄さん、あーん」

「御主人様、あーんしてください」

「あんちゃん、あーん」

「あん」

「いいから口を開けるニャ」

「ダンナ、まだ入るか?」

「ご主人様、早く呑み込んでください、どんどん行きますよー!」


 待って。

 待ってって。

 お腹空かせたヒナ鳥だってこんな一斉にこられたらキレるから!


    △◆▽


 そして四日目となる朝。

 今や肉、魚、玉菜は光を当てたブリリアントカットのダイアモンドのごとき煌めきを放つ超食材と化している。

 もうこれで充分な気もしたが、まだ日数はあるし、相手は神ということで、ここは駄目押しにとシャロ様像のお参りから帰還後、朝食を済ませてからしばらく祈りを捧げていたのだが……。

 それがまずかった。

 カッ、と放たれる強い光。

 何事かと思うよりも早く、突然発生した衝撃におれは祭壇前から弾き飛ばされ、地面をごろごろ転がることになった。


「な、なん……!?」


 これまでにない現象に驚きつつも祭壇を見ると、そこには九つの柱を外周とする光の柱が天を目掛けて伸びており、その内部がどのようなことになっているか伺い知ることはできなくなっていた。


「猊下ーッ!」


 騒ぎに気づき、まずアレサ、少し遅れてシア、ミーネ、リィ、それにクロアとセレス、そしてメイドたちがやってきた。

 アレサ以外、みんな食べかけのコロッケパンを持っていた。

 たぶんミーネが朝方から作っていたストックのお裾分けだろう。


「猊下、ご無事ですか?」

「あ、ああ、大丈夫」


 アレサに起こしてもらったところ、パンを咥えたシアが言う。


「いっふぁいあにやらかしふぁんでふか?」

「そんなもんこっちが聞きたいくらいだ」

「はい、コロッケパン」

「いやおれは……、あ、うん、ありがとう」


 ミーネにコロッケパンを貰い、おれは皆と一緒になって食べながら光の柱を眺めることになった。

 が、そこで気づく。

 光の中に生まれた人影がこちらへと歩み出して来たのを……!


『――ッ!?』


 誰もがパンを囓りながら愕然とした。

 現れたのはメタリックな銀色の全身タイツを装着したような、逞しい肉体をもつ人型の何か。

 そうとしか表現できない。

 何故なら、現れた三体はそれぞれ頭部が肉、魚、玉菜だったからである。

 それは超食材の怪人――。

 便宜的な呼称を考えるなら『食材超人』といったところか。

 誰もが驚きに動きを止めるなか、響いてくる声があった。


「If you are hungry,eat my face...(空腹ならば、我が顔を食べなさい……)」


 英語!?

 奴ら英語を喋るぞ!


「Don't hold back...(遠慮はいらない……)」

「Cut and come again...(好きなだけ取りなさい……)」


 三体の食材超人はゆっくりとこちらに近寄って来る。


「ごごご、ご主人さま、なんですアレ! どうするんです!?」

「まずいな、活きが良くなりすぎた。皿に並べるのは骨だぞ」

「そういうことじゃなくてですね! ああもう、えっと……、リィさん! これどうしましょう!」


 シアが呼びかけると、リィはパンをもぐもぐしながら言う。


「え? なんとかするの? 聞いていた『いつも』よりはまだマシだろ?」

「いつもよりはマシかもしれませんがこのレベルとなれば大差ありません! ってか聖別となればやっぱりこれくらいのレベルは保証されちゃうんじゃないですか! だから嫌だったんですよ!」


 ばかぁー、とシアがわめくうちにも、食材超人たちはこちらへと近寄ってきている。

 いや……、その視線(?)はクロアとセレスに向けられているようだ。

 それに気づいたのか、リィが手の平を上に向け炎の魔術を使用。

 シュゴーッとバーナーみたいな炎がその手に生まれる。

 それはクロアやセレスに何かしたら燃やす、という強い意志を感じる炎であったが――


「ちょっと失礼」


 と、ミーネはその炎でチーズを炙ってコロッケパンにはさみこんで食べ始めた。

 こいつ……、ここにきてチーズコロッケパンを完成させるとは!

 まあとにかくリィが威嚇したところ、三体は足を止めた。


「Wait,They can't be hungry.(待て、彼らは空腹ではないようだ)」

「Then,We can't stay long.(ならば長居はできぬか)」


 食材超人たちはなにやら相談を始め、そしてふとそれぞれにあらぬ方向を見やったと思ったら、そこで突然の跳躍。

 三体は建物の屋根へ飛び乗り、さらに跳躍して何処かへと行ってしまった。


「まずい! 食材たちが逃げだしやがった!」


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2018/12/26

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/31

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/08

※さらにさらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/18


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― 新着の感想 ―
[良い点] あっはっはっはっはwwwwww 顔を食べさせる三人かとなぜか思い込んでしまいましたwwwwww [一言] 相変わらず想像の埒外を突っ走って下さる作者様大好き
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