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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
間章2 『心づくしの料理を』編
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第479話 13歳(春)…これはプリンではありません

 五月中旬にさしかかったその日、おれとシアは六月にある大事なイベントについて話し合っていた。

 そう、六月はセレスの誕生日がある。

 これでセレスは六歳だ。めでたい。

 最近はちょっと料理にも凝り始めたので、誕生日にはこれまで再現しなかった料理なども用意してやりたいと思う。


「ところでご主人さまー、七月は何か予定ありますー?」


 話し合いのなかで、ふとシアが尋ねてきた。


「七月? 特に……、あ、あったわ。勇者大会」


 勇者大会――。

 アレサからちゃんと聞いたものの、正式名称は忘れてしまったので適当に勇者大会と呼んでいる。

 冒険者ギルドが主催で、勇者の称号を持つ者を正式にギルドや星芒六カ国を始めとした国々が認定するための……、選抜試験?

 まあともかく、国際的に認められた『勇者さま』が居ますよ、ということを世に告知し、そろそろ魔王がコンニチハしてもおかしくない時期にきているという人々の不安をやわらげようという催しであるらしい。

 おれは勇者の称号なんて無いので無関係と思いきや、名誉審査員とかいう謎の役職についてくれとお願いが来た。

 世間には伏せられているが、魔王どころか邪神の誕生まで阻止したおれを立ち会わせもしない審査など有り得ない、ということらしい。

 まあおれの希望通り公表を伏せてくれているわけだし、見学程度の仕事らしいので休養がてら大会前日入りの二泊三日、聖都に向かうことにしている。

 一方、冒険者訓練校の入学時、勇者の称号を持っていることが明らかになったミーネはぜひ参加してくださいとお願いされていた。

 てっきり喜んで参加するかと思いきや、ミーネは気乗りしないとさんざん渋ることになったが、最終的にはひとまず参加してみるということで落ち着いた。


「あれが七月の初め頃だったよな。あとは中旬の終わり頃にアレサさんの誕生日あるから、まあささやかながらお祝いを?」

「アレサさんの五日前にご主人さまの誕生日がありますが……」

「それはべつにいい。だから……、まあそれくらいかな。なんか面倒事が起きたりしなければ、あとは家で大人しく仕事してるだろ」

「そですか。わかりました」


 と、シアは話を終わらせてしまう。

 はて、七月ってなんかあったか?


    △◆▽


 あちらの料理の再現のため、試作をしようと調理場に行くとちょいちょい遭遇するのがミーネだ。

 秘密基地は三日で飽きたミーネだが、料理の方は今も続けており、現在はエルトリア遠征で大量消費したストックを回復すべく、時間があれば食堂に籠もって調理をしている。

 ミーネはまだ料理初心者といった料理歴だが、作る量が並大抵ではなく、おまけに手間暇も費用も惜しまない熱中具合とくれば上達するのも当然で、今ではバカにできない腕前に成長していた。

 まあさすがに一部の料理に限定しての話だが、それでも凄いことだと思う。

 なにしろ味付けのアレンジまで始めているからな。

 そんなミーネであるが、今日はカラ揚げを大量に作っていた。

 下拵えのお手伝いをしたのはティアウル、シャンセル、リオの三名と、妖精多数。

 ミーネは皆に見守られながら大量の鳥肉を順番に揚げ始める。

 ふむ、自分だけで揚げるのはやはりこだわりだろうか?

 手伝ったメイド・妖精たちは揚がるのを側で心待ちにしており、その様子は微笑ましいものなのだが……、妖精たちはもうちょっと離れようか、うっかり揚がりそうで見ていて恐いから。

 やがてミーネはカラ揚げ第一弾をざっと大型の揚げザルで一網打尽にすると、テーブルを埋めるように並べてあった同じく大型の揚げ網にごろごろっと転がす。

 ちなみにあの揚げザル、そして並ぶ揚げ網はミーネの特注品。

 いつの間にか持ってた物だ。

 同様に、いつの間にか揚げ油を植物油からラードに切り替えていた。

 おれは揚げ油の差違など一言も言った覚えはないのだが、ミーネはより美味しくするために勝手に辿り着いたらしい。


「はい、あげる」


 ミーネは揚げ網に転がした揚げたてカラ揚げ、その最初の一個を箸でつまんでひょいっとおれに差しだしてくる。

 料理をするときおれが箸を使うので、それを見て自分も使いたいと言いだしたのだが、最初は「ムキャーッ」とか叫びながら床に叩きつけていたのに数日で普通に使うようになった。

 前世で使っていたおれでも最初は指がついてこず、ちゃんと使えるにはそれなりの日数がかかったというのにまったく器用なことである。


「あーんして」

「いやその熱々をあーんはちょっと!?」


 嫌な予感しかしなかったので親指と人差し指でそっと挟んで手で受けとり、少し冷ましたのちありがたく頂く。

 うん、もうおれが作るより旨いですね。

 下拵えの違いなんだろうか?

 オリジナルの味付けにして上手く行くというのは舌が優れているというのもあるだろうが、それ以上にこの味にどんな味を足せばどうなるか、それを脳内でシミュレートできる必要がある。

 まだ幾つかの料理だけとはいえ、こいつ、もうそんなところまで……。


「おまえは何でもできるなぁ……」


 おれはちっちゃい頃からの積み重ねの結果だが、ミーネの場合は自分がこうと描いた理想へすっとんでいけるセンスが大きい。

 感心していると、ミーネはきょとんと。


「も一個あげる」


 そしてカラ揚げをもう一個くれた。

 やはりおいしい。

 くやしい……。

 気づくと追い越されていたとなれば、おれの方は新しい物で勝負するしかない。

 とは言え、現段階で再現できる物は限られる。

 そこで後日、なんとなく豆腐を作ってみた。

 大豆っぽい豆から、にがりを使わない方法で製作した一丁ほどの豆腐は、なんやかんやで二日ほどかかっての代物である。

 味は濃厚な豆の味がして思いのほか悪くない。

 ただ料理に使うのはちょっと無理なような……。

 それに費用対効果と言うか、これに時間をかけるなら他の物を作った方がいいような気がする。

 こりゃお蔵入りだな、と手元の豆腐を見つめるおれの横で、いつの間にか現れたミーネがおれを見ていた。

 じっと見ていた。

 おれはヘビに睨まれたカエルの気分を味わった。


「新しいプリンなのね?」

「いやプリンじゃないんだ」

「いいのよ。プリンなんでしょう?」

「だからプリンじゃねえっての。ほれ、やるから食べてみ」


 違うと言うのに、プリンプリンとミーネは試食し――


「――ッ!? 違う! プリン違う! 恐い!」


 豆腐に恐れおののいた。

 だがそれもわずかな間のこと。


「これはこれで」


 プリンとの味の違いに驚いたものの、すぐにその素朴な美味しさに目覚めたようで、ぺろっと残りの豆腐を平らげた。

 そのうちこの豆腐もミーネのストック候補になるかもしれない。


    △◆▽


 その日、屋敷にネームド『悪徳記者ルフィア』がポップしたので捕獲して仕事部屋に連れてきてもらった。


「あれ!? なんかバレちゃった!?」

「おまえおれにバレて困ることやってんのか。それも複数か」

「い、いやあそんな、ねえ、もちろんそんなことしてないのよ?」

「まあいい、今日はちょっと提案があって来てもらっただけだ」

「私に? あ、もしかして『オーク仮面物語』の続編をやっと……、って、どうしてそんな怯えた目をするの?」

「話したくない」


 ふとした瞬間、点や線が逆三角形に配置されたものを『顔』と認識する脳の働き――類像現象によって、またしても『仮面』が現れたのかとビクッとしてしまう日々はいつ終わるのか……。


「うーん、やっぱり続編は駄目なの? 今、エルトリアの事件の詳細が広まってまたオーク仮面の人気が高まってるんだけど……」


 ここエイリシェにもフォーウォーンの話が広まり、オーク仮面との類似性、そして関わる人物――要はおれ――も共通するということで色々な憶測が飛び交っているらしい。

 オーク仮面はフォーウォーンであったとか、実はフォーウォーンがオーク仮面に準えられた伝承であるとか、人々は勝手に想像している。

 今回のことでオーク仮面は『オークの仮面を被った変人』ではなく『オークの仮面に乗っ取られた幼気なお子さん』という認識が広まった。

 それはまあ都合がいいのだが、だからといっておれがべらべら喋るわけもなく、ルフィアのところに寄せられる「聞いてきてー!」という市民からの声に対してはノーコメントで通している。


「それじゃあなに? 冒険の書のこと? 遅れてるから予定を延ばすとか?」

「いや、作業は捗っている。遠征での遅れも取り戻せそうだ」

「そうなの?」

「ああ、提案ってのは新しいことだ。実は料理本を刊行できないかと思ってさ」


 まだ王都に来たばかりの頃、こっちの世界の食文化がどうなっているか調べるために金銀を連れてよく食べ歩きをした。

 そのなかで、シャロ様による文明レベルの向上運動によって『腹を膨らませるための食事』がようやく『食べることを楽しむための食事』の段階まで来ているというのがわかり、ならばとこっちでも再現できるあっちの料理――そのレシピ本を出版しようと考えた。

 ただ文章による説明ではなく、誰でも――子供でも作れるくらいわかりやすい、図解入りの丁寧な料理本だ。

 生きるために不可欠な食事という習慣に影響を与えることは名声値を得るに有効――と考えてのものだったが、ある程度王都での生活に慣れてから、と思っていたらずるずると今日まで来てしまった。

 ちょっと色々ありすぎたんですよねー……。


「料理本……、いいんじゃないかしら? ここの料理はとっても美味しいし、レイヴァース卿の、ってなれば興味を持つ人も多いと思うわ」

「そうなってくれると嬉しいけどな。利益については、おれの方は無くていいからとにかく刊行したい。一応これが原稿なんだが……」


 と、おれは各種料理のレシピ、その工程をわかりやすく絵にしたものをルフィアに見せる。

 ルフィアはごく希に見せる真面目な表情で確認し――


「これは一品ずつ新聞に載せましょう」

「は? 新聞? 本にするんでなくて?」

「本にもするわ。まずは新聞に乗せて、数がまとまったところで本にするの。わざわざ本を買いたくないって人も、新聞に載ってたらちょっと試してみようかって気になるだろうし、それが良ければ次も期待してくれる。中にはちゃんと本になってるものを欲しがる人だっているだろうし。いいかしら?」

「そりゃ人目に触れる機会が増えるからおれとしては願ったり叶ったりだけど……、新聞の枠にこんなのねじ込んでいいの?」


 向こうの世界なら目新しくもない話だが、こちらの場合はなかなか斬新な企画になるはずだ。

 ってかこいつってときどき有能なんだよな……。


「大丈夫。貴方が発信するものなら必ず入るわ。むしろ入れてくれってお願いされるくらいよ」

「そうか……。じゃあそこはルフィアに任せるよ」

「うん、任せて」


 こうして新聞に図解レシピが掲載されることになった。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2018/12/26

※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/08

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/06/30


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[良い点] サブタイトルから茶碗蒸しかと思いました。
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