第478話 13歳(春)…新しい能力の検証
ちっこい酔っぱらいたちに絡まれながら調味料のチェックをしたのち、リィが呼びに来たので検証を始めるため訓練場へと出た。
「ではまず人が光として? 見える能力から使ってみます」
「目が潰れるかもな」
「さらっと恐いこといわないでくださいよ!?」
からかわれながらも能力を使ってみたところ、リィの体の輪郭がわずかに発光しているように見えた。
なにこれ、と思ったが、瞬きの一瞬、光がより鮮明になることに気づいて目を瞑る。
すると闇のなかにリィの形が浮かび上がった。
これは……、あれだ、キルリアン写真が近い。
詳しいことはシアから聞くしかないが、確か物体の放電の様子を写真に撮ったとかそんなようなものだった。発表された当初はオーラではないかと騒がれたらしいが、実際はただの現象である。
しかしおれの場合は本当にオーラ? 魔力? そういったものを捉えているのではないだろうか。
なにしろリィ以外に顔を向けてみると、地下室で宴会している妖精たちや精霊が、他にもこの都市に暮らしている人々が障害物無視で光点となって見える。それはまるで満天の星空を眺めているようなもので、よく動く星間ガスのようなもの、これは魔素だろうか?
そのまま屋敷の方を確認したら光の固まりになって何が何だかよくわからなかった。
たぶん精霊が集まりすぎているせいだろう。
ってか普段は消えてるからわからないけど、あんなことになってたんだなうちって……。
ひとまずわかったことをリィに説明し、それから二人して首をひねった。
「何に使えるんでしょう……」
「何に使えるんだろうなぁ……」
障害物無視でそこに光を発するなにかが居ることを確認できる。
これを活用するなら……、例えば建物のどこかに犯人と人質がいる場合、それをすぐに確認できる――ってどんな状況だ。
これでおれにどうしろと。
よくわからないまま使い続けていると、ふと、遠くに妙なものを見つけた。
なんとなくできるような気がして〈精霊流しの羅針盤〉を使用してみる。
パチンッ、と雷が爆ぜ、現れたのは煙の固まりのようなもの。
「オォ……、ウォォ……」
なんか凄く幽霊っぽい……、ってか幽霊だコレ!
リィが「なにやってんだコイツ」みたいな顔してる。
「で、これをどうすんだ?」
「どうするって言うか……、なんか妙なものがあって、喚べそうな気がしたんで喚んでみました」
「つまり何も考えてなかったと」
「オォー……ン、オロロォ……ン」
幽霊は何か言っているが、何を言っているのかはさっぱりわからない。
「こういう異物が入ってきたら精霊が対処してたと思うが……、お前が喚んだからかな、反応無しだ。もしかしたらこいつお前の使い魔になってるんじゃねえの?」
「これを使い魔にして何かいいこととかあるんですか?」
「生気を吸い取られるとか?」
「それ取り憑かれてるだけですよね?」
「まあ今のは冗談として、利点なんか無いと思うぞ。ただ彷徨ってただけの幽霊っぽいし。つかこんなもんも見つけられるのか。ってことはその能力、魔力、魔素、幽体を視界の届く――って視界なんかねえから……、なんだ? 地平線の範囲まで見通せるってことになるのか?」
「正確な範囲はわかりませんが……、そのあたりはさらに検証を続けるしかないですね」
「そだな。だがあんまり急がず、少しずつにしよう。よくわからない能力をよくわからないままに使うのはあんまりよろしくない。ひとまずお前の使い魔はせっかくだが昇天さ……っていねえ。どこ行った?」
「あれ?」
おれとリィが相談していたわずかな間に幽霊は姿を消していた。
「勝手に帰ったんですかね? まあ検証を続けましょうか」
と、そこで興味を無くしたのがまずかった。
幽霊は屋敷へと行っており、メイドたちを驚かせ、そのうち一名は気絶までさせてしまったのだ。
おれとリィはみんなから説教されることになった。
△◆▽
言い訳めいた事情説明を行い、新しい能力の検証をしていたことをメイドたちに話した。
「あんちゃんがそんなことできると、あたいの立場無いぞ……」
「いや、ティアウルのものとは違うから」
近い部分もあるが、周囲の状況をしっかりと把握できるティアウルの『ミニマップ&レーダー』ほど有用ではないと思う。
そして屋敷へお邪魔した幽霊だが、すでに昇天させられていた。
シアの持つ二丁の鎌のうち、左手用のリヴァがアンデッド特効だったのでそれで始末されてしまったのだ。
幽霊にはちょっと悪いことをした気になった。
たぶん『喚ばれて来ました。ここがお家ですか? あ、みなさんどうもこんにち――アァァァァッ!?』って感じだったと思う。
すまぬ……。
そしてパイシェさん、ごめんなさい……。
幽霊のインパクトが強かったので、ひとまずこの能力の名称は〈野良なオバケの隠れんぼ〉にすることにした。
「いやいやいやいや」
そしたらリィから待ったがかかる。
「もうちょっとマシなのにしようぜ。神からの恩恵によって得られた能力なんだからさ」
「であればむしろ変であるべきかと」
「お前どんだけ神が嫌いなんだよ」
協議の結果、紆余曲折をへて名称が決定。
新名称は〈星幽界の天文図〉となる。
どうでもいい能力のわりには立派な名称になってしまった。
さらなる検証は後日に回し、次はもう一つの能力を検証することにしたのだが、これがまたしてもよくわからない能力だ。
精霊を合体させる能力……のような気がする。
しかし事が終わったら分離していたから一時的なものなのか?
「二人で推測するだけじゃ限界がある。ここは精霊たちに協力してもらいながら検証したらいいんじゃないか?」
「そうですね」
ということでクマ兄貴を召喚する。
バチコーンッ、と雷が爆ぜ、クマ兄貴が登場した。
「ちょっと実験に付きあってくれ」
『痛い』『?』
二枚のプレートを掲げてクマ兄貴が尋ねてくる。
「痛くはないと思うが……」
そもそも痛みがあるのかおまえ。
ひとまず名称未定の謎能力をクマ兄貴に使ってみる。
バリバリバリーとクマ兄貴が雷撃に包まれるが……、見た目の変化はまったく無い。
「どうだ?」
尋ねたところ、クマ兄貴は両手でガッツポーズをした。
「強くなった?」
『わからぬ』
わかんねーのかよ。
なんだよ今のガッツポーズは。
「単体に使っても意味ねーんじゃねえの?」
「では次は他の精霊たちにも協力してもらって……」
と、隠れている精霊たちにぶわっと出てきてもらい、クマ兄貴もろともに雷撃を浴びせる。
すると周囲に展開していた精霊たちが消え、残ったクマ兄貴はぽふんとうつ伏せに倒れたのだが……、突然クマ兄貴のボディが内側からぼこぼことうごめき始めた。
なんか蠅に卵を産み付けられた動物の死骸っぽくて恐い。
クロアとセレスが見たら泣きそうである。
「お、おい、大丈夫か……?」
やがてボディが落ち着いたところで尋ねると、クマ兄貴はゆっくりと立ち上がり、そしてバッと両腕を空に。
するとだ。
クマ兄貴の体から光――まあ精霊たちなのだが――が溢れだし、それが頭上で文字になったのである。
『ふっ、これでもう会話するのが面倒くさいとは言わせない』
「「……ッ!?」」
これにはおれもリィも驚いた。
人文字ならぬ精霊文字だ。
『我はとうとうここまで来た、思えば長い道のりであった』
『意志を伝えられぬもどかしい日々に我は今こそ別れを告げる』
文字を作る精霊たちの数の関係上、長文は無理で、一度文を作ってそれが変化するのだが、これまでの筆談、プレートを掲げての返答よりもずっと効率がよくなった。
それからもクマ兄貴は調子にのって色々と文章を表示させ続けていたのだが、自分だけの手柄のようなクマ兄貴に合体した精霊たちがイラッとし始めたのだろうか、文字がブレたり、消えたりし始めた。
『運命は我を選んだ。これからは我の時代だ』
と、それが契機だった。
表示された精霊文字がパッと散り、それでも残った文字。
『ウ・ン・コ』
クマ兄貴の頭上で燦然と輝く『ウンコ』。
おれとリィはその神々しい『ウンコ』に思わず動きを止め、ただただ見つめるしかできなくなった。
すると、クマ兄貴は様子がおかしいと思ったのだろう、ふとふり返って頭上を見上げ、ビクッと身をすくめた。
『ち、違う、違うんだ、これは何かの間違いだ』
と、一回表示された文字が薄れ、欠け、残った文字は――
『チ・ン・コ』
クマ兄貴の頭上で燦然と輝く『チンコ』。
なんか既視感があると思ったら、ネオン看板のパチンコの『パ』が消えた結果『チンコ』だけが輝いているのを見たことがあったからだ。
そしてクマ兄貴であるが……、ショックだったのだろう、ぽてんと後ろ――仰向けに倒れてしまう。
するとそこで効果が切れたのか、クマ兄貴の体からぶわっと精霊たちが溢れだし、それぞれ好き勝手に散っていく。
クマ兄貴を顧みる精霊はいない。
儚い栄華であった。
「な、なあ……、発想は悪くないしさ、威張らずみんなにお願いすれば、おれの力抜きにしても協力してくれると思うぞ?」
クマ兄貴はちょっと頭を動かしておれを見たが、すぐにまた虚ろに空を見つめ始める。
拗ねているようだ。
すると玄関からプチクマを乗せた猫がやってきて、動かないクマ兄貴の手に噛みつき、建物の日陰へと引きずって行く。
そしてのっしりと座布団に。
プチクマはネビアの背をベッドにしている。
あいつら仲いいな。
ちなみにこの能力の名称は便宜的に〈精霊の煮込み鍋〉にしておいた。
クマ兄貴の精霊文字「ウンコ&チンコ」は言語の設定的に苦しい……。
しかし、つじつまを合わせても面白くない上に勢いが削がれるため設定無視でいかせてもらいました。
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/10/03




