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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
間章2 『心づくしの料理を』編
485/820

第477話 13歳(春)…妖精の宴

更新再開。

おそらく15話前後になると思います。

何気にコンパクトな話はこれが初めてになりますね。

よろしくお願いします。

 五月上旬――。

 もうすっかり体調が回復したと感じたその日、おれは研究室でお仕事中のリィにちょっとお願いをしに向かった。

 研究室は棚や小ぶりな引き出しがいっぱいのタンスに占領されており、もともとそう広くない室内がさらに狭くなっているため、入室すると祠の中に入ったような印象を覚える。

 そんな部屋のなかで、リィは空きスペースをさらに窮屈にしている大きな机に向かってカード型のプレートに細かな細工――回廊魔方陣を刻む作業に勤しんでおり、その隣では弟子入りしているクロアがお手伝いをしていた。

 クロアの仕事はプレートに描かれた線を歯科医師が歯をガリガリするような先の細い道具でなぞって削り、溝にする作業である。


「リィさーん、後でちょっとつきあってもらっていいですか?」

「んおー? おー、おー?」


 リィは手元から目を逸らさずの生返事。

 たぶん「ほう、いいけど、何やるんだ?」と言ってくれているのだと思い、そのまま続ける。


「そろそろ勝手に増えた能力の検証をしようと思いまして」

「あー、わかった。じゃあもうちょっとしたらな。これだけ片付けたいんだ。そしたら……クロアも休んで外の景色とか見てこい。それは無理せずどれくらいの時間で仕上げられるかの検証も兼ねてるから」

「はい、そうします」


 クロアもまた作業したままでの反応。

 この回廊魔方陣を刻む作業は速さよりも正確さが求められる。

 クロアの作業はお手本をただ丁寧になぞるだけなので一見簡単そうに思えるが、実はこれがなかなか難しかったりする。

 例えばそれは歪みのない美しい文字を習得する訓練のようなもの。

 練習帳にうっすらと印刷された文字をなぞる――、これを最初から最後まで気を抜かず、歪みもブレも無いようにと続けていくことはけっこうな集中力を使う。

 たった一文字であっても、気を抜くとどこかがおざなりになって歪んでしまうからだ。

 気を抜くことなく完成させる一文字。

 これを延々と積みあげることでようやく身につき、いずれは自然に書けるようになるという、まさに努力の積み重ね。

 回廊魔方陣の習得は適性があったとしても時間のかかることなのである。

 ちなみにおれは諦めた。

 適性の有無ではなく、おれがそこそこ絵を描けてしまうために弊害が出るのだ。

 回廊魔法陣は製図のようなもの。

 ところがおれはつい線を引くことを急ぎ、おまけに自分の線を描こうとしてしまうため、回廊魔法陣を習得するための第一歩、クロアのやっているなぞる作業の段階で躓いてしまうのである。

 もちろん絵が描けることと、回廊魔方陣を刻めるようになることは完全なトレードオフではなく、訓練によって修正可能である。

 だがおれがこれを習得することにあまり意義が無く、そこに費やす時間を別のことに使った方がいいと思ったので諦めることにした。

 他にも継続が重要で、あまりサボると精度が落ちていくというのも諦める理由になった。

 第一人者のリィですらサボりすぎを反省してさび付いた腕のリハビリ中だと言うのだから、おれが片手間で習得できるようなことではないのだ。

 リィは全盛期、思い描いた回廊魔方陣を火の魔術でそのまま焼きつけて寸分の狂いなく完成させていたらしく、そのレベルに戻れるようにと地味な作業を続けている。

 回廊魔法陣は世界を変える可能性を秘めていると思うのだが、リィ自身は興味が無く、これをあんまり勧めていると無理強いはよくないとクロアに「め!」されるので控えている。

 もったいないとは思うが、カードゲームがうまくいけば自然と回廊魔方陣の凄さも広まっていくだろうし、今は協力してくれることを素直に感謝している。


    △◆▽


 リィの仕事が一段落するまでおれはミーネが訓練場の片隅に作った地下室で時間を潰すことにした。

 国境都市ロンドで地下居住空間を作ったミーネはこちらでも秘密基地めいた地下空間を作って遊ぼうとしたようだが、予想通り三日で飽きて放置されることになった。

 屋敷にいた方がなにかと便利なので当然である。

 ミーネは大人しく埋めようとしたが、せっかくなのでそこは調味料の製作・貯蔵庫、さらには酒造りの実験場として活用することにした。

 調味料の製造は新たな料理を再現するため、そして酒はヴァイロ共和国の大工房との交渉材料とするためのものである。

 この試作中の調味料と酒のうち、今おれが熱心なのは調味料の方である。

 新しい調味料が完成すれば料理の幅が広がる。

 これまで調味料――特に和食や中華――の製作にあまり本腰をいれて取り組まなかったのは、洋風の料理があればまあいいや、というそれだけの理由だった。

 ここにきて取り組み始めたのは、自分の体重が据え置きになっていることが気がかりになったからである。

 現在おれは十三歳。

 あと二ヶ月ほど、七月になれば十四歳。

 さすがに成長が止まるには早いと思う。

 なら体重が増えずにいる状態というのはあまり歓迎されるものではないはずで、そこでおれは食生活の方にも少し力を入れることにしたのである。

 早めに気づけてよかった。

 それもこれも、物置に封印されていた体重計のおかげだ。

 屋敷で生活しているときはもう毎日乗っている。

 大活躍だ。

 体重計は決していらない子ではない。


    △◆▽


「うへっへっへっへ」

「あははー、はー」

「あー、あー、一番アペル! うーたうのよー!」


 地下室に行ったら妖精たちが酒盛りをしていた。

 精霊たちの仄かな明かりのなかで行われる妖精たちの宴。

 聞くぶんには幻想的であるものの、実際は中身がオッサンなのではと疑いたくなるような、惨憺たる狂宴でしかないのが残念だ。


「あら、お客さんですのよ? ゆっくりしていくですよ」

「おう? おーおー、お前か、よく来たな! まあ飲めよ!」

「飲まねえよ」


 あきれて立ちつくすおれに反応したのはロキュとピネ。

 宴会の誘いを断ったら、何がおかしいのか、みんなそろってケラケラキャッキャと笑いだした。

 地下室を貯蔵庫として使うようになってから、妖精たちはよくここに集まって酒盛りをしている。

 ここに試作中の酒があるというのも理由だが、他には部屋――妖精帝国での飲酒をおれが禁じているのも要因の一つだ。

 現在、妖精帝国はドールハウス作家が製作した家々を、壁に設置した何本もの柱それぞれに、積層型巣箱のように積みあげたことで現実離れしたファンタジー空間となり、ある種芸術的な装いとなっている。

 なのに住んでいる妖精たちが酔っぱらって管巻いているというのはあまりにも残念な話で、作ってくれた作家にも申し訳ない。

 そこでおれは妖精帝国内での飲酒を禁じたのだが、それから妖精たちは屋敷のどこかで細々と、父さんの酒を盗んでは酒盛りをするようになった。

 するとその結果、たまに酔っぱらって廊下で居眠りしている妖精をメイドたちがうっかり踏んづけたり、ダイナマイト爪先蹴りで跳ね飛ばしてしまうという事件が起きるようになった。

 まあ妖精というものは思いのほか頑丈な存在だったので大事には至らず、適当にお菓子を与えることで和解も成立するためそこはよかったのだが、この示談お菓子に味を占めた妖精たちが当たり屋のごとく酔っぱらったら廊下で寝るようになってしまった。

 実に迷惑なことである。

 そこでおれは精霊たちにお願いし、妖精が廊下で居眠りしていたらぬいぐるみたちを派遣し、廊下の隅に用意した木箱に放り込んでもらうようにするといった仕事を頼むことになったが、ここにきて絶好の宴会場が見つかったため、妖精たちは当たり屋稼業を引退、こうして大人しくたむろして騒ぐようになったのである。


「あんまり飲んじまうなよ? ここにあるのは一応試作途中のものなんだからな?」

「おうおう待てよー、今日のはあたしらが自分で作ったもんだぜ」

「おまえらが?」

「おおよ、お前んとこの森で作って運んできた」

「そうか、ならまあ、何も問題ないか」


 それまで妖精たちは落ちた果実が自然発酵したものを酒の代用品としたり、自分たちで集めた果実を木の洞や大岩のくぼみに集め踊りながら踏んづける、または潰したあと輪になって囲んで暗黒阿波踊りをして酒に変えて楽しんでいたらしい。

 これについて、以前なら「ふーん」ですませていたが、新しい調味料の製造や酒の試作を始めていたからだろう、その邪悪な儀式は発酵や成熟を急激に促進させるのではないかと気づくことができた。

 酒になれ、という願い、そして妖精たちの魔力、それらが相まって魔術儀式として完成されているのだ。

 おそらくおれの聖別も似た様なものなのではないか。

 ともかくおれはそれを活かしてもらうことにし、妖精たちに新しい仕事――この地下室にある試作中の調味料にもその儀式をやってもらうことにした。

 結果、カビの繁殖は抑えられ、一年はかかると思われた醤油や味噌はすでにそれっぽく変化、かろうじて料理に使うこともできている。

 これは大した功績なため、おれは妖精たちが試作中の酒を好き勝手に熟成させてぱかぱか飲むこと、そしてここで宴会を行うことも黙認することにした。

 それからおれはできあがった妖精たちに絡まれながら調味料のチェックを始めたのだが、ふと、壁に植物で作られた輪――リースがあることに気づく。


「いつの間にか妖精門が設置してあるじゃねえか……!」


 びっくりすると、おそらく酔っぱらっているせいだろう、妖精たちはおれの驚いた様子にまたケラケラキャッキャと騒ぎ出す。

 この妖精門はまず間違いなく妖精帝国との直通、ということは妖精たちにとってこの場所は『隣部屋の宴会場』のようなものだろう。

 この、ミーネが放棄した地下室を遠慮無く活用する妖精たちに対し、おれは遺跡に住みついて繁殖する小動物的なものを感じずにはいられなかった。

 今のところ、こいつらの数は増えていない。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2018/12/26

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/08

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/16

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/05/13

※さらに脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/02/19


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