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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
7章 『獅子と猪』編
472/820

第465話 13歳(春)…猪は来たれり

主人公が退場したのでしばらく三人称でお送りします。

 邪神を誕生させる――。

 そのカロランの目的はにわかには信じがたいものであった。

 よりにもよって千年以上も昔の災厄を現代に呼び起こそうとするなど正気の沙汰ではなく、いくらなんでもそこまでの狂気にカロランが突き動かされていたとは信じられない――、いや、信じたくないというのが国王を始めとした人々の正直なところであった。

 しかし、この都市がそもそも邪神の誕生を目論む魔導師たちの作りあげた場所であるという事実を考慮にいれると、それもあながちただの妄想であるとは言い難く、もし本当にそうであった場合は最悪の事態が今まさに進行していることになる。

 エルトリアの災いが大陸全体の災いへと変貌してからでは手遅れ。

 なんとしてもここでカロランの野望を阻止せねばならなかった。

 これについては先ほどの話し合いが終わってからのわずかな時間でカロランの野望を看破した少年――レイヴァース卿の主導で話し合われていたが、なかなか妙案はでてこなかった。

 レイヴァース卿は焦っているようだが、それでも冷静である。

 遺跡に閉じ込められて四年。

 世の情勢がどうなっているか知るよしもなかったが、聞けばレイヴァース卿はすでに二回、スナークの暴争を収めているらしい。

 そもそも活躍の始まりがコボルト王種の討伐という快挙。

 すでに英雄譚として語られるに相応しい活躍をする彼の物語に、このエルトリアの騒動も組み込まれることを人々は祈る。

 それは無事に事が終息するということであるからだ。

 そんな彼であるが、カロランを打ち破る策が思いつけず、皆に協力を呼びかけていた。自分のできないことを素直に認め、意地を張らず助力を求めてくる姿は好感を覚える。

 ただ誰かに投げるのではない。

 自ら傷つくことも厭わず、それでも足りぬと助力を乞う。

 その歳でこれができるのは負けられぬ戦いに身を投じ続けてきたからなのか。

 そんな彼を前に、本来であれば先陣を切って挑まなければならないエルトリアの為政者たちは彼に知恵を貸すこともできず、歯がゆい思いをしていた。

 その時だった。


『……力が欲しいか……』


 声と共に猛々しい猪の仮面が出現したのは!


「フォーウォーン……!」


 一目見て、国王を始めとした人々が脳裏に浮かべたのは言い伝えにある猪の悪霊――フォーウォーンであった。

 このエルトリア、ひいては大陸の危機に伝説の猪が姿を現したと思い、そして次の瞬間には『そうに違いない』と断言してしまえる謎の確信を抱いた。

 あれは、いや、あれこそがフォーウォーンであり、自らの力を授けるに値する者の前にこうして姿を現した――、そう、これは一人の少年がフォーウォーンの力を授かり、世界を救う物語なのだ、と。

 しかし――


「おまえの力なんていらない!」


 レイヴァース卿はフォーウォーンを拒絶した。

 これには誰もが驚くことになったが、そもそもレイヴァース卿に選択権などなかったのだろう、伝承の通りフォーウォーンは彼に試練を与えた。

 取り殺されるか、それとも打ち勝ち力を得るか。

 人々が見守る中、フォーウォーンに取り憑かれたレイヴァース卿の孤独な戦いがあり、そして――


「オオオッ! チェーンジッ! オークッ!!」


 鮮烈な叫び。

 それに伴い、どこからともなく、空間から滲みだしてきたように衣装が出現してレイヴァース卿の体を覆った。

 レイヴァース卿はフォーウォーンの化身となったのだ。


「オーク仮面! 見・参!」


 そしてフォーウォーンの化身と化したレイヴァース卿は告げ、片足立ちで左腕は水平に、右腕は上へと伸ばし、そこからくるっと一回転すると腕組みしての不動の構えとなった。

 世界の危機を救うべく、怪人は今ここに現れたのである。


    △◆▽


 出現した喋る仮面。

 これが伝説にあるフォーウォーンかとエルトリアの者たちは唖然としていたが、真実を知っている者たちにしてもこの唐突な騒動にはあっけにとられてしまい、結果、居合わせた者のほとんどがぽかんと、またしてもオーク仮面となった彼の行動を見守ることになった。


「やらねばなるまい、やるしかあるまい……!」


 オーク仮面が言う。

 その言葉は彼のものか、それともフォーウォーンのものか。

 するとすぐにこの状況に適応したミーネ――、いや、仮面をつけたレディオークが問うた。


「オーク仮面、作戦は!?」

「作戦……? そんなものは必要ない!」


 オーク仮面は毅然と言いきる。


「レディオークよ、我の知る者にこういう者がいる……。可能性がどれほど低かろうと、勝ち筋を思い描けたならば絶望的な状況にも果敢に飛び込んでいく――、が、しかし! 逆に思いつけねばうじうじといつまでも躊躇するという悪い癖を持つのだ!」

「いや、それ……、知る者ってか今お前が乗っ取った……」


 リィの指摘、しかしオーク仮面は気にしない。


「己に自信が無いから策を弄する。それもよかろう。しかし! 今は悠長に事を運べる時ではない! 信じる時だ! 己を、仲間を、すべてに打ち勝てると強く! さすれば自ずと道が開け、自分の中に生まれつつある新たな可能性に気づくことができるのだ!」

「じゃあまずどうすれば!?」

「そうだな……、よし、しばし待て。これから我が上の状況を確かめる」

「いや確かめるってお前……、どうすんだよ」


 リィが尋ねるとオーク仮面は自信ありげに頷いた。


「カロランは王都全体を魔法で探っていたのだろう? ならばこちらも真似してやるのだ」

「は? できるの?」

「無論! 何故なら、我が可能と信じているからだ! あのような外道にできて、我にできぬ道理は無い!」

「いやそんな馬鹿な……」

「では、披露しようではないか!」


 オーク仮面はそう言うと、左右のこめかみ辺りにそれぞれ手の平を添える。言ってみればそれは顔の前で小さく前ならえ。視野狭窄を揶揄するような状態であるが、オーク仮面にとっては違うようだ。


「高まれ……! そして目覚めよ、我がオークよ……!」


 そしてオーク仮面がくわっと目を見開いたとき、見上げた闇には煌めく人々の魂の光が満天の星空のごとく広がった。


「見える……、見えるぞ……! 人々の魂の光、そして荒れ狂う魔素の流れが!」

「ホントかよ……、ってかおい! それもしかして神から恩恵もらって増えた枠一つ潰したんじゃねえの!?」

「そうかもしれん!」

「いやもうちょっと考えろよ! せっかく増えたのを思いつきで勝手に使っちまいやがって!」

「かまわぬ! いくら思い悩み、考えた末の技であろうと今この場で役に立たねばなんの意味もないのだ!」

「いやまあ確かにそうだけどお前……、ってかそもそも! いったいお前はなんなんだ!?」

「オーク仮面!」

「いやそういうこっちゃなくてな!?」


 リィは困惑するばかりで、それを見かねてシアが言う。


「リィさん、駄目です。もう駄目なんです。こうなったらとことんやれるところまでやらないと収まらないようなんです」

「だって……、この状況でこれってどうなの!?」

「色々とアレな感じですが、やることはやるので、なんとかなるんじゃないかと。まあ、あとでご主人さまがヘコむのはどうにもならないんですが……」


 正直なところ、シアはこのノリも嫌いではない。

 オークなのはまあ置いておくとしても、だ。

 けれどあとあと主が超ヘコむのが容易に想像できてしまって冷静になってしまうのである。

 損な役回りであった。


「ふむ、カロランはまだ城に留まっているようだ。九つの塔へ向かった者たちは塔を破壊できたようだな。しかしカロランに動きがないことからして実際は意味がなかったのか……? いや、だが魔素の大きな流れは依然としてこの都市に集まってきている。エミルスの迷宮最下層に匹敵するような……、おかしい、柱は破壊され――」


 困惑するオーク仮面だったが、そこで驚愕の声をあげる。


「なんだあの光は!」


※誤字と文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/08

※誤字脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/02/18


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