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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
7章 『獅子と猪』編
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第463話 13歳(春)…世界樹

「確証があるわけじゃないんですが……、たぶん邪神はヨルドで行われた世界樹計画の結果として誕生したものではないかと思います」

「「…………?」」


 まず結論を告げたところ、アレサとリィはぽかんとしてしまった。

 一方、ミーネは「ふーん」とうなっただけだ。

 強い。


「じゃあじゃあ、悪神は関係なかったの? 言いがかりをつけられてたってこと?」

「それが無関係ではないんだ。悪神だからこそ関係する」

「わかんない」

「まあこれは変な観点から物事を見るおれだから……、あと神とある程度関わっているからっていうのもあるか。ともかく昔からの言い伝えに慣れ親しんでいるほど気づけないと思う」


 まず前提として『邪神(理想)』と『世界樹』が同一のものと考える。

 この『世界樹』を誕生させる取り組みが『世界樹計画』。

 この失敗が『邪神(失敗作)』を誕生させた。


「失敗なの?」

「こっちでやり直そうとしてるから、そりゃ失敗だろ」

「なるほど」


 成功していたなら『ヨルドを越える』なんて名前の都市にはならないはずだ。


「その世界樹計画ってのはどんなものだと考えているんだ?」


 リィが放心から復帰して尋ねてくる。


「ぼくの予想では人の……、便宜的に『魂』と呼びますが、それを魔素の流れに導き、そのなかで存続させるようなものではないかと思います。そして世界樹は人々を一つの『魔術』とする要――儀式装置のようなものではないかと」


 向こうの世界に照らし合わせるなら、電脳世界を管理するマザーコンピュータのようなものになるだろうか。

 人々は電脳世界――魔素の海という新たなる世界で存続し続ける。

 肉体という殻から解き放たれ、悲しみや憎しみどころか死ぬこともない、満たされた永遠の楽園。


「美味しい料理とかもないのに?」

「肉体があることで生まれる苦悩や欲求のすべてから解放されるんだ。あー、そうだな、楽しい夢の中でずっと暮らすようなものと考えたらいいかもしれないな。夢の中では嫌なこともなく、お腹もへらず、眠たくもならず、ずっと楽しい気分でいられるだろ?」

「なんとなくわかったわ。でもなんか釈然としないわね。その世界樹世界? 楽しいのかしら?」

「楽しいかどうかはわからんが……、こうも計画されたものだからな、きっと幸福ではあると考えたんだろうな」


 究極のところ、人は幸せな気分でさえいられるなら何もかも――自身の死すらもどうでもいいのだ。

 それは重度の薬物依存者によって証明されている。


「そのせいで私たちは大迷惑なのね……」

「そういうことだ。きっと昔は本当の天才たる魔導師が、その理想をそのまま実現できてしまうような状況だったんだろうな。魔導師とそれに付随する有力者たちはより幸福――楽を求めた。便利な魔道具を生みだし続けた果てに辿り着いた結論なのかもしれない」


 ただ――、とおれは続ける。


「それは人の歩みを終わらせる行為。人の歩みを促すことをその役目とする神に真っ向から喧嘩を売る行いだった」

「ああ! そこで悪神が関わるのか!」


 リィがようやく納得いったというように声をあげる。

 神の不興を買って大騒ぎってのはあっちの世界でも色々話がある。

 代表的なのはバベルの塔か?


「旧文明は楽園――ただただ楽である怠惰の園を望み、その邪心が邪神を生むことになりました。これはあらゆる魂を喰らい尽くす存在だったという、言い伝えと合致します。なんとか止めることはできたものの、その結果として残ったのが現在の瘴気領域なのでしょう」


 行きすぎた科学で滅ぶ、みたいな話そのまんまである。


「この計画の失敗は、悪神が横やりをいれたのか、それとも計画が不完全だったのか、そこは現段階では推測しようがありません。ともかく世界樹は邪神となった。それこそ神性すらも獲得していたのかもしれません。ぼくとしては獲得してしまったのだと思います。こう考えると色々と説明がつくので」

「それは……、神々が手を出さなかった理由か?」

「そうです。神性を獲得した相手だから直接的に関わることができなかった。神はその権能に応じ、領分を持ちます。そしてその領分を侵された場合、神はより力を得てそれを排除することができる。つまり神々が邪神に手を出せば、それは『人々を楽園へと導く』という邪神の領域を侵害――邪神の力をより肥大化させる結果に繋がる」


 だが、ただ一柱だけそれを越えて対抗できる神がいた。


「そう、悪神です」

「はぁぁ……」


 リィが顔に手を当てて深々とため息をついた。


「悪神にとって邪神は忌まわしい存在でありながら、人の傲慢に対する罰としてちょうど良い存在だったのではないでしょうか」


 それは世界樹を生みだした文明を破壊し尽くすためにも。

 もしかしたら文明の名残――痕跡だけしか残っていないのは、他の神々からの働きかけもあったのかもしれない。

 再び同じことが起こらないように、と。


「では魔王はなんだ? あれは悪神が直接関わるものなんだろ? 適度に人に試練を与えるようにしたとか?」

「それについては現状ではなんとも……。ただ魔王を手段として悪神が何か企んでいると考えているのは前に話した通りです。邪神は邪神の行動のままにさせ、その後に生まれた瘴気領域とスナーク、ここから何かを思いつき、始めたのではないかと」


 これまで一続きと考えられていた『悪神』と『邪神』と『スナーク』と『魔王』だが、実際はそうではなく、分けるならば『悪神』と『魔王』、『邪神』と『スナーク』であり、それぞれに関係性があるという実にややこしいことになっていたのだ。

 魔王と邪神もその規模の違いではなく、明確に『魔素溜まりとなった者』と『魔素と魂を集め束ねる者』という違いがある。結果的には似た様なものになるにしても、その目的が違うのだ。

 答えは同じでも辿り着くまでの式が違う。

 ここを勘違いしていると、阻止できるものも阻止できなくなるかもしれない。


「ってことはさ、悪神はべつに邪神を誕生させようとしてるわけじゃないってことになるのか?」

「それも現段階ではわからないとしか……。今はそれよりも、この都市が世界樹計画の再現――邪神を誕生させるために作られた場所であることが問題です」


 ここは古代の研究都市。

 そして邪神教徒であるカロランがこのヴィヨルドの継承者であり、かつての賢者たちを祖に持つと言うのなら、それはこの都市を作りあげた魔導師たちが自分たちを邪神教徒へと変化させていったということではないか。

 支配者たる『真の魔導師』と『隷属する奴隷たち』。

 やがて時代は進み、それは『邪神教徒』と『虐げられる人々』へと置き換わっていったのだ。


「邪神教徒は二種類あったんです。邪神を恐れるあまり精神の均衡を崩し、邪神を崇めるようになった者たちと、世界樹計画の成功を目指した研究者たちの末裔という。そしてカロランは後者」

「ちょっと待て、じゃあ……、なにか!? あの野郎がやろうとしてることは本当に邪神を誕生させようってことか!?」

「おそらくは。きっと邪神兵というのは邪神の出来損ないなのではないでしょうか。そして今、カロランはルーの森で得た何かしらの手応えでもって事に臨んでいます。わざわざ失敗作を作るわけがない」

「最悪じゃねえか……!」

「まったくです。洒落になりません。邪神が誕生してしまえば、それは悪神の力を高めることにもなるでしょう。カロランが悪神の神徒であるのは、悪神もそれを望むからか……。なんにしろ、カロランを好きにさせるとろくでもないことにしかなりません」

「じゃあどうする?」

「それが思いつかないんですよねー……」

「うぉい! 切羽詰まった状況なのがわかっただけか!?」

「じゃあリィさん何か考えてくださいよ!」


 言うと、リィはちょっと申し訳なさそうな顔でそっぽを向く。


「ご、ごめん、頼りなくて……」

「あ、いや、責めたわけではないですからね? ええ、一緒にどうしたらいいか考えましょう。もうぼくたちだけではどうにもならないのでこの場所に居る全員で案を出し合う感じで」

「全部話すのか?」

「大部分は伏せます。ただカロランが本当に邪神を誕生させようとしていることは伝えようかと」

「まあそれだけで大問題だからな」


 こうしておれたちはひとまず皆の居るところへ移動することに。

 うーん、アレサはまだちょっと放心してるな……。


「あ、ちなみにおれが話したことは誰にも言わないようにしてください。特にミーネ」

「わかってるわよー」

「ちょっと仲間内で相談しあうのもダメだからな? 話すなら、必ずおれのいるところで確認を取ってからだ」

「じゃあシアはどうするの?」

「シアにはおれが説明しておくよ」


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2018/12/26

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/08

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/04/27


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― 新着の感想 ―
[一言] ミーネの「わかってる」ほど信用できないものはないッ
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