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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
7章 『獅子と猪』編
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第462話 13歳(春)…楽園への歩み

 進展を望めないのであれば雁首揃えている意味はなく、ひとまず会議は解散となった。

 会議場に残ったのはおれとアレサ、それからリィの三名。

 おれはそのままの席で正面の壁画を睨みながら状況を打開する策はないかと思考を巡らし、アレサはその隣で大人しくしている。リィはうんうん唸りながらでかい円卓にそってぐるぐる巡回しており、短周期彗星みたいにおれに近寄ってきては離れてを繰り返していた。

 しかしいくら考えても打開策は思いつかず、やがては頭をからっぽにして考えてとっかかりを掴もうとしていたのだが、ふと、ぼんやり眺め続けていた壁画が記憶の中の地図に重なる。


「……あれ?」

「どうしたー、なんかいい案を思いついたかー?」

「あ、そうではないんですが……、その壁画にある木の瘤がある位置……」

「ん? ああ、これが?」


 リィが立ち止まり、壁画を眺めながら言う。


「迷宮都市エミルスで見つけたシャロ様の描いた地図、あれに記載されていた大陸各地のダンジョンと一致するような……」

「んん!?」


 おれの言葉に、リィも関心を持ってじっと壁画を観察する。


「関連づけるなら、瘴気領域の中心へと集まる気流――魔素がこの大陸を覆う天井のような枝葉で、それは幹に集まり、根を伝って再び大陸へと広がっていく感じでしょうか。その途中途中にある根のふくらみが魔素溜まりとしての資源型ダンジョン? シャロ様はここでこれを見たことであの地図を描いたのかもしれませんね」


 シャロ様が迷宮都市で過ごしたのはリィと別れてからだから、時系列的にはそうなるだろう。

 ……?

 時系列?

 そういやこの都市っていつからあったんだ?

 そして古代の魔導師たちの研究施設であった都市は、いつから邪神教徒たちに支配される都市へと変貌したのだろう?


「リィさん、壁画の文字とか読めたりしません?」

「読めないなー。必要になるような状況なんてなかったし」

「そうですか。このことに関連するようなことをシャロ様から聞かされたりしたことは?」

「無いな」


 そうか、話してないのか。

 シャロ様の残した文献にも古代文明に関係する話は無かったし、考えがまとまらなかったから残さなかったのかな?

 もったいない話だな、と思っていたところ――


「お昼よー、食べないのー?」


 のこのこミーネがやって来て言った。


「あ、ああ、もうちょっとしたら行く」


 壁画を眺めながら応えると、気になったのか、ミーネが横にきて一緒に眺めることに。


「なんなのかしらね、あのヨルドって木」

「ヨルド?」

「うん、ほら、そう書いてあるし」


 え、と見るが、そんな文字は……、いや、こいつ古代文字読んでるのか!


「おまえあの文字読めるの!?」

「え? うん、なんとなくは。クェルアークって家名の元になった言葉だし、昔ちょっと興味があって覚えたから」


 こいつ……、すげえな!?


「じゃ、じゃあわかるところだけちょっと翻訳してくれるか!?」

「いいわよー」


 むむぅー、と眉間にシワをよせながら、ミーネがぽつりぽつりと翻訳を始める。


「木の側に書かれているのは……、解説かしら? えっと幸福、公園……? ああ、楽園ってことなのかしらね。それからこの……世界を吸う? 食べる? 木の栄養ってことかしら? 世界の木のための取り組み……、世界樹計画?」

「うわぁ……、すっげえろくでもない気配がする……」


 これ失敗して大被害ってパターンのやつだ。

 旧文明は魔導学的に発達していたとは聞くが、その実態というものがまったくわからないまま。

 邪神の誕生によって衰退したのはわかるとしても、それまで培ってきた文明がいっぺんにリセットされるというのはどういうことか?

 まあシャロ様が現れるまでけっこう暗黒時代っぽかったようだし、これまでその疑問について研究が進んでないのはそれどころじゃなかったからだろう。邪神によって滅んだ前文明の研究よりも、現実的な問題として魔王への対策が求められるからな。


「えーっと、それから下の方にもじょもじょっとあるところね。んーっと、全部を一つにする挑戦の失敗」


 あ、やっぱ失敗したのか。


「古い人の代わり。容器さがし。挑戦は小さく。ヨルドの反省。新たな楽園をこの地に。ああ、それでここはヴィヨルドなのね」

「ん? どゆこと?」

「ほら、貴方の名前」

「……ぐすん」


 突然ミーネにイジメられておれはしょんぼり。


「あ、そっちじゃなくて! パーティー名にしてるヴィロックの方!」

「へ? ああ! あっちか!」


 本来であればおれの名前であったはずの『ヴィロック』は父さんが自分を越えるように――不幸な人生を歩まないようにと『ロークを越える者』ということで、古い言葉の『越える(ヴィ)』を『ローク』にくっつけて『ヴィロック』にしたものだ。

 ならばこの都市――『ヴィヨルド』は『ヨルド』を越える都市ということか。

 ジャージー島の出身者が『新しい』をつけてニュージャージーにしたようなものだろう。


「じゃあ木がヨルドなんじゃなくて、この木があるところに存在した都市の名前ってことなのかな? 位置的に、やっぱり失敗ってのは邪神が誕生したことで――」


 と、そこでおれの脳裏に生まれた閃き。


「――ッ!?」


 それは理解できる状態になるより早く、まずはとんでもなく嫌な予感を与え、そして実際に最悪な閃きだったと知ることになった。

 これ、邪神の誕生によって失敗したんじゃなく、実験したから悪神が邪神を誕生させたんじゃねえの?

 そんな予想を立てたところで、ミーネがさらに決定的なことを言う。


「この地に苗木。我々を楽園へ案内する、新しい神」

「あ――」


 そしておれが辿り着いた結論は、これまでの前提を覆す実に不愉快でどうしようもないものだった。

 邪神。

 それは旧文明が実験の果てに生みだしたもの――世界樹だ。


「おい、どうした……?」


 リィが尋ねてくるが……、これは話していいものなのだろうか?

 世間では邪神は悪神が誕生させたということになっている。

 公表したら少なからず混乱が起きるだろう。

 きっとシャロ様は結論が出なかったから伝えなかったのではなく、伝えることができなかったのだ。

 これは知る者は少ない方がいいだろうと思い、ミーネとアレサにはちょっと席を外してもらおうとしたのだが――


「いーやッ!」

「嫌っておまえ……」

「私が文字を読めたから何か思いついたんでしょう? なのにここで追い払うのはずるいわ」

「楽しい話じゃないから」

「そんなの貴方の顔を見ればわかるわよ。でも、だからって聞かせようとしないのはちょっと私を馬鹿にしてると思うの」

「馬鹿にしてるわけじゃないよ?」


 知らない方が幸せでいられるといった類の話なだけなのだ。


「猊下、私もここに残らせてください」

「アレサさんも!?」

「猊下だけが思い至り、そのせいで思い悩まれるのを見るのは忍びないのです。せめて苦悩を共有させてもらうわけにはいきませんか?」

「うんうん、そうそう、そういうことよ」


 二人は断固として残るつもりのようで、結局、おれが折れることになった。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2018/12/26

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/01/24


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