第461話 13歳(春)…遺跡
ビルの間に伸びる平らな道を進んでいくとやがて円形広場に出た。
広場にはおれたちが歩いてきた地底湖方面への道だけでなく、放射状に幾つもの道がのびており、それがなんとなく広場は環状交差点として機能するようにと作られたのだろうな、と想像させた。
広場には各所に明かりが灯され、大勢の人たちが集まっていた。
男性はパンツ一丁、手には棒に尖った石を縛り付けた石槍。
女性は貫頭衣っぽい服を身につけている。
エルトリアを代表する王侯貴族の集団にこう言うのはちょっとアレだとは思うが……、すごく未開の部族っぽい。
「恐怖の裸族……! エルトリア地底大洞窟に古代民族は実在した……!!」
シアがぐっと拳を握りしめて何か言っている。
鎌を失ってしょんぼりしていたが、ちょっと元気を取りもどしたようだ。
やがて互いに姿がよく確認できる所まできた時――
「リオ! リオか!?」
「あ、お父様!」
集団の先頭で険しい顔で腕組みして待ちかまえていたガチムチおっさんが破顔してこちらへ走り出し、こちらはこちらでリオがおっさんに向かって駆けだした。
お父様ってことは、あの人がエルトリア国王か。
イカれた王位継承の儀がある国の国王だけあってずいぶんと逞しいおっさんだ。おかげで年齢はよくわからないが、おそらく四十代前後だと思う。紫みのある淡い赤の髪や、瞳の明るい青はリオと同じ。ああやって一緒に居ると確かに親子っぽい。
「リオ、無事だったのだな! しかしどうしてこんなところに? いったい何が起きている?」
「色々あったんです。おまけにまだ終わっていません。お父様と再会できたことはとっても嬉しいんですけど、今は再会を喜んでばかりはいられない状況になっています。詳しくは今まで私を保護してここまで連れてきてくれた――」
「ああ、リオ! リオなのね!」
「あ! お母様!」
リオが父親と再会を喜び合っているところに女性が駆けてくる。
今度はリオの母親か。
いや、それだけじゃない。
「本当にリオか!」
「おお! リオじゃないか!」
「リオねえさま!?」
青年二人に少年一人。
さらに女性、少女、なんかどんどん増えていく。
それを見つめる公爵は眉間にシワを寄せて「頭痛い」みたいな顔をしていた。
「しばらくかかるだろうから、あれはしばし放っておこう。ひとまず話し合いのための場を設けるから、こちらへ」
公爵が話し合いが出来る場所へ案内してくれるようなので、ちょっと待ってもらって参加する者を選ぶ。
まずはおれ。これは仕方ない。
次にリィ、アレサ、アエリス、パイシェ、ティゼリア、エドベッカ、ストレイという面子で、参加せず休んでもらうのはシア、ミーネ、リビラ、デヴァスである。
シアを参加させないのはまだ鎌を犠牲にしたことに気落ちしてるようだから、そしてミーネが参加しないのはそんなシアに付いていてあげることにしたからである。
「気持ちはわかるわ。武器が無いとしょんぼりよね」
シアの様子を見つつ、魔導袋から料理を出してここの人たちに振る舞おうとする。
リビラ、デヴァスもこのお手伝いをするようだ。
休ませるつもりが仕事になっちゃったな。
△◆▽
案内されたのは会議室。
いや、結構広いので会議場と言った方がいいかもしれない。
おそらく昔の魔導師たちがなんか小難しいことをあーだこーだと話し合うために使われていたのだろう。
部屋の真ん中には石作りの大きな円卓があり、その周りには石で作られた玉座とでも言うべき立派な椅子がずらっと並んでいる。
ふむ、どうも椅子がすべて同じ形ということからして、昔の魔導師たちは序列を定めない『円卓会議』をやっていたのかな?
あと目立つものとしては部屋の奥の壁にある壁画――大陸図だ。
普通の地図と違うのは大陸の中心――現在では瘴気領域となっているそのさらに中心に大きな木が描かれていることだろうか。妙に伸びた枝葉が天を覆い、同じく伸びまくりの根が大陸の隅々に届く、そんな絵である。
文字も刻まれているのだが、読めないのが残念だ。
エルトリア側で会議に参加するのは国王とリオ、公爵を始めとした貴族数名、それとディアデム団長である。
やがて公爵にパンツを引っぱられて無理矢理ぎみに国王が連れてこられ、リオもそれに付いて来た。
奥の壁画を背にした上座に腰を下ろし、リオはその隣に。
ちなみにおれは入口すぐの下座。
王様の真っ正面である。
まずは地下にいて状況がさっぱりわからない王様たちに、現状を簡単に説明すべく、ロンドでリオが『獅子の儀』を達成し、新王となるべく獅子王騎士団を引き連れて凱旋したところから始めた。
「リオが儀を達成したと!?」
「はい! 頑張りました!」
「え、ええぇ……、じゃあリオ、お父さんと戦うのかい? 困るぞそれは、お父さんリオとは戦えないよ?」
国王がおたおたし始めたところ、公爵がため息をつき言う。
「陛下、今重要なのはそこではないので静かに。すまないね、話を続けてくれたまえ」
「あ、はい」
公爵に促されておれはさらに説明を続ける。
リオが新王となるべく現国王との決闘に臨む、それを名目に騎士団と支援者を連れて王都に到着。作戦は部隊を十に分け、九つの部隊は塔の破壊を、そして残る一つ――おれたちはカロランに挑んだのだが返り討ちにされて撤退、結果、ここに落ちてきたというわけだ。
「現在、上の状況は不明です。しかしカロランが今まさに真の目的たるなんらかの――」
「一つ良いか?」
「あ、はい。なんでしょう」
真面目な顔になった王様に尋ねられる。
「リオの支援者というのはなんだ?」
「あー……、どう説明したものか……」
説明したくなかったから『支援者』って言ったのに、なんでそこを突いてくるかな。
「それについてはわたくしめが」
説明を買って出てくれたのはディアデム団長だった。
「支援者とは、闘神ドルフィード様がじきじきにその活動をお認めになった闘士たちの集いであります。そしてなんと、リオレオーラ様はドルフィード様から加護を授かっておられるのです」
「な……!? リオや、本当なのかい?」
「はい! 頂きました!」
「おお……、さすが自慢の娘……!」
「あ、でもこれはご主人様のおかげというのが大きいんです。私はご主人様のところで強くなって、ご主人様のおかげでドルフィード様にお会いすることが出来ました」
「……ごしゅぢんさま?」
国王がよく理解できないという顔になる。
「リオや、そのご主人というのは誰なのだ?」
「ご主人様はあちらにいらっしゃるレイヴァース卿のことです。私とアーちゃんはご主人様のところでメイドとして働いていたんですよ。あ、メイドというのは侍女みたいなものです」
「……侍女?」
あ、この流れ、どっかで――
「侍女!? 余のリオを侍女とは一体どういう了見か!」
国王がいきり立ち、びょーんと跳び上がったと思ったら円卓に着地。
そのままおれ目掛け一直線、猛然と迫ってくる。
「ひ、ひぃ……!」
筋肉が迫ってくる! 恐い!
まだ闘神のトラウマが抜けてないのに!
おれが恐れおののき仰け反った時、赤い影が一陣の風のごとくおれの側を通り過ぎ――
「はあ!」
「へぶ!」
迫り来る国王の腹部を平拳にて抉り込むように容赦なく打った。
集まった者たちがぽかんとするなか、円卓の上には両手でお腹を押さえて呻きながらごろごろする王様と、拳を突き出した体勢で制止しているアレサの姿があった。
「うぐぉ……! この痛み……、まさか王になってまで味わうことになるとは……!」
悶える国王を残し、アレサはこちらにやってきてぴょんと円卓から飛び降りる。
そしてにこにこ。
おっと、これは褒めないわけにはいかないな。
おれはアレサの頭を抱きしめて撫で撫で。
「よくやってくれました。これからもゴツイのが迫ってきたらお願いします」
「……ふわぁぁぁ……!」
「いや、あの、ホント癖になっちゃうからそのくらいで、そのくらいでお願い。終いには神にも殴りかかるようになっちゃうから。手紙の相談って結局あなたが原因なだけじゃないの」
ティゼリアが言うが、こればかりは仕方ない。
だってガチムチ恐いんだもの。
「ディ、ディアデム……、余がこのような目に遭っているのに座ったままとはどういうことか……!」
「陛下、恐れながら申し上げます。レイヴァース卿に手を挙げること、それ即ち星芒六カ国を敵に回すことと同義なのです。説明が遅れましたが、レイヴァース卿こそ先ほど説明にあった闘士たちの集い、『共に鍛え称え合う闘士たちの集い』――俗称『闘士倶楽部』を立ち上げた発起人であり、闘神ドルフィード様より祝福を授かった大闘士殿なのです」
「祝福……!? 大闘士……!」
「さらにそれだけではございません。レイヴァース卿はその家名でもわかるとおり、勇者シャーロットゆかりの者にしてシャーロットですら達成できなかった偉業、スナーク殺しを果たし、すでにベルガミアとエクステラにおいて発生した暴争を終息させ、両国では救国の英雄と崇められる生ける伝説であり、善神より祝福を授かったことから聖都においては神子猊下と崇められる人物なのです」
「そ、そういうことは早く教えておいて欲しいのだが……!」
恨み言を呟きながら、国王はお腹をさすりながら席へ戻っていく。
こうして会議は再開となったが、話し合われるべきはカロランをどうやって倒すかという、難しい問題。
戦わず、カロランの目的を妨害するというのでもいいが、今のところ九つの塔を破壊するくらいしか思いつかない。そしてそれすら本当に有効なのかもわからない曖昧な状態。
なにかアイデアは出てこないかと期待したが「とりあえず凄く速く走って近寄って殴る」くらいしか魔導師対策を思いつけない国の人たちだったので期待するだけ無駄だった。
そうなるとおれたちで何か考えるしかない。
地下に来てすでに二時間ほど経過している。
はたして上はどうなっているだろう……?
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/02/01
※さらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/02/07
※さらにさらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2020/12/27
※さらにさらにさらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/06/28




