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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
7章 『獅子と猪』編
466/820

第459話 13歳(春)…地底湖

 噴水の跡地――ぽっかりと空いた穴に飛び込んでの自由落下。

 明かりから急速に遠ざかるなか、リィが魔法の明かりを灯した。

 穴の幅がけっこうあるので、誰かが壁にぶつかって跳ね返った拍子にみんなでもみくちゃになることが無いのは幸いなのだが――


「これ下ってどうなってんの!?」

「地底湖です! 溺れないよう頑張ってください!」


 ここにきてアエリスが言う。


「急に言われても困るんだけど!」

「やべえニャ! ニャーは泳げねえニャー!」


 おっとそうなのか。

 そいつは困った話だが、まだ下が見えてこない落下距離となると着水の衝撃はかなりのもの。ここまでくるとたぶん泳げる泳げないは大した問題ではないと思う。着水の衝撃によって気絶しての溺死、もしくはそのまま即死という状況になるからだ。よく高高度から落下すると水面はコンクリートと大差ないと言われるが、それはある一定を越えると落下の衝撃が落下物の耐久度を超えるのでどっちにしろ同じという話なのである。

 さて、おれたちの状況はまさにコンクリートに当たって砕けろレベル。

 ひとまず〈針仕事の向こう側〉で意識を加速して考える時間を確保。

 まずは着水の衝撃をどうにかする方法を考えないといけない。

 次にすでに一名確定している泳げない者をどうするか。


「リビラの他に泳げない奴いるか!?」


 確認してみたが、どうやら他は泳ぐことができるようだ。

 とはいえ、服を着てとなると勝手が違うし、水泳能力にも個人差があるだろうからあまり信用はできない。それに水面に叩きつけられてから岸にまで泳いでいく体験など誰もしたことはないだろう。

 なんとか皆で助かる方法を……。

 この面々のなかで飛べる者はミーネ、リィ。

 でもミーネは飛ぶというより、自分の魔術で吹っ飛ばされているようなもの

 ならば……。


「リィさん、先に下へ行って風の魔法かなんかで着水の衝撃をやわらげることとかできます?」

「やってみる!」

「それから下で溺れた人がいたら救助を! リビラが確定なのでまずはそっちをお願いします!」

「わかった!」

「じゃあじゃあ、私も何かする!」

「お前は飛ぶっていうより吹き飛ばされてるだけでしょ! おれたちが巻き込まれるからダメー!」

「ぶー!」


 おれの指示を受け、リィが加速して先に下へ。


「それでデヴァス! 下ではみんなが取り付く場所になってもらいたい! 穴から出たらすぐに竜化してくれるか! 無理っぽかったら着水してから竜になってくれ! 竜の状態で着水されると凄いことになって皆が巻き込まれるから!」

「わかりました!」


 それから後は――、と考えていたところで、穴の先が明るくなっていることに気づく。先に穴から出たリィが明かりを灯してくれたのだろう。もうあれこれ考えて指示している時間はないようだ。

 そしておれたちが地底湖の上空へと飛びだす瞬間、下からの激しい突風によって落下速度が減衰――、いや、むしろちょっと浮き上がり、それから改めて湖へと落下する。

 開けた空間に飛びだすと、幾つもの魔法の明かりによって地底湖が照らし出されていたが、その畔までは照らしきれていなかった。

 かなり広い地底湖らしい。


「全員息を吸えー! 落ちたら光を目指してもがけー!」


 リィの起こした突風のおかげで、状態は高い崖からの飛び込み程度になったのだが、それでも着水の衝撃はなかなかのもの。

 ただ衝撃は覚悟していたのだが、まさか湖がけっこう温かいお湯であるとは予想していなくてちょっと混乱した。

 衝撃と混乱によって一瞬方向感覚が喪失したが、水上に明かりがあるおかげでどちらへ藻掻けばいいのか判断はつく。滲んだ視界で見えるのは揺らめく水面、足元には水底などとても見通せない闇。


「(――こわっ!)」


 ふいに感じた恐れは、おそらくごろりと転がっている自然の驚異に対する原初的なものだろう。にもかかわらず、目を瞑ってシャンプーしているとき、ふと感じる『得体の知れぬ気配』に似たものがあるのは、自然崇拝が何故始まったのかを漠然とながら理解させる。

 ちなみに、シャンプーをしているときに感じる気配について、おれはとあるコメディアンの返答『出待ちしているリンス』を採用して恐怖をしのいでいた。なつかしい話だ。

 水面へ上がると、すぐ近くに竜化したデヴァスがぷかぷか浮いており、その背ではミーネが指揮棒みたく剣を振り回し、魔術で水の流れを作って側にいる者を引き寄せていた。

 リィは水面を浮遊しながらぐったりして「んにゃー……」と唸るリビラを引っぱってきている。

 ひとまず点呼。みんな居るな。よし。

 なんかエドベッカが水面を歩きまわってるけどとにかくよし。


「追ってきてはいないようですし……、なんとか撤退できたと考えていいんですかね?」

「奴はあの場から動く気がないのかもな。上で逃げてる時も追ってはこなかったし……」

「ならひとまず体勢を立て直す時間はありそうですね」


 リィと話しながら周囲を見渡すが暗闇がそこにあるだけで、岸を見つけることができない。

 王都ヴィヨルドがあるのはカルデラ。火山活動によって形成される地形であり、ならば洞窟や地底湖があるのも納得だが、それにしてもでかい。

 湖がぬるめの温泉になっているのは、マグマが湖から近い地底にあるからだろう。広大な地底湖全体が温かいこともあって、地下の気温も温かいようだ。


「なあ、あっちに小さい明かりがあるよな?」


 暗闇以外なにも無いと思っていたが、リィが示す方向にはぽつんと小さな星のような光がかろうじてそこにあった。


「おそらく捕えられている者たちでしょう」


 これに予測を立てたのはアエリスだ。


「え? 居場所わかってたの?」

「あ、いえ、私が知っていたのはあの噴水が湖に通じているということくらいでした。幼い頃、噴水の水がどこに行くのか気になって父に聞いたところ、そう教えられたので。詳しい説明は『まだ早い』と教えてはもらえませんでしたが……」

「避難経路ってことなのかな?」

「おそらくは」

「でもこれ普通に死ぬよね?」

「本来はもっと安全に下りる手段があるのではないかと……。途中に横穴があったりするのかもしれません」


 まあそうだな、長いロープで下りるにしても下がこの湖じゃな。


「そしてこんな場所に誰か居るとすれば、それは消息が掴めなかった人質たちではないかと……」

「なるほど、奴は城の下に秘密の場所があることを逆手にとって人質たちを……、いや、逆か? 奴は元々知っていて、だから大勢を人質に取る方法を思いついた。おしいな、この場所のことがわかってれば違うやり方もできたかも……」

「すいません、上で逃げているときに思い出したことでしたので……」

「あ、いや、城の下に湖があるよって話くらいじゃさすがに有効な作戦も立てられないから気にしないで。人質がここにいるとほぼ確定していた場合だって、山の麓あたりからミーネとリィさんに頑張って穴を掘ってもらうような計画くらいだったろうし」


 言うと、もしかしたら大活躍だったかもしれない二人が凄く嫌そうな声をあげた。


「そ、それはさすがにつらいと思うの……」

「お前、どんだけ人を酷使するつもりだおい……」


 うん、不評だな。そりゃそうだ。


「ひとまず私は先に行って安全を確認してくるな」


 リィはそう言うと、闇の向こうにある光を目指して飛んでいった。

 一方、おれたちはデヴァスの泳ぎ任せ。

 飛べれば早いのだが、重量的には問題なくても背に乗っている人数が人数で飛びにくく、下手すると落下するとのこと。

 デヴァスは四肢と尻尾を使ってのゆるゆるとした遊泳。

 するとのんびりすぎると感じたのだろうか、ミーネは魔術で水流を作ってデヴァスが進むのに協力し始めた。

 やがて岸に大きな明かりが灯り、こちらに手を振るリィと他の人たちの姿が確認できるようになる。


「……おーい! 人質たちだー! 全員無事だってよー……!」

「「――!?」」


 リィからの吉報に、リオとアエリスの表情が明るくなる。


「大丈夫みたいね! よし、じゃあ一気にいくわよ!」


 安全が確認できたということで、ミーネが水流を超強化。

 パワーボートのごとき突然の推進力にデヴァスは戸惑いながらもバランスを保とうとしたが――


「あーッ! もう駄目だぁーッ!」


 堪えきれずに吹っ飛んだ。

 乗ってるおれたちも吹っ飛んだ。


「なんでニャァ――――ッ!?」


 そのリビラの叫びは、ミーネ以外の誰しもの心情を代弁したものであった。


    △◆▽


「ごめんごめん、ごめんごめん」


 余計な水上での立て直しがもう一度行われたのち、おれたちは無事(?)岸へと辿り着いた。

 ミーネは皆に一通り謝ったあと、最後に地面でうつ伏せになって動かなくなったリビラに繰り返し謝っている。


「……もーニャーは駄目ニャー、お湯でお腹いっぱいニャー……」

「ごめんごめん、お腹押す?」

「なんでトドメ刺そうとすんニャ!?」


 水難事故で水を吐かせようとするのは誤りである。

 今度注意しておこう。

 ミーネがリビラとの関係修復に勤しむ一方で、おれたちは岸にいた三人の男性と簡単な挨拶をしていた。

 三人の内訳はブリーフ型の下着一丁に金属の首輪をつけたおっさん二人と、若者一人である。

 このうちおっさんたちはエルトリアの伯爵で、柔和な顔した若者は公爵であり、そして――


「お父様!」

「アエリエス、無事だったか」


 アエリスのお父さんだった。

 ずいぶんと若く見える。歳の離れたお兄さんみたいだ。


「おおまかな話はリーセリークォート殿に聞いたが……、まったく無茶をする。リオレオーラ様、お久しぶりでございます」

「お久しぶりです。アーちゃんにはいつもお世話になっています」


 和気藹々。他のおっさん伯爵二人も嬉しそうに見守っている。

 やがてディアデム団長が前に出て言った。


「お久しぶりですアスピアル卿。陛下はご無事でしょうか?」

「ああ、それはもうな。まずは皆と合流しよう。詳しくは我々が住処としている遺跡で」


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/27

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/31

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/07

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/04/27


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― 新着の感想 ―
[良い点] ちなみに、シャンプーをしているときに感じる気配について、おれはとあるコメディアンの返答『出待ちしているリンス』を採用して恐怖をしのいでいた。なつかしい話だ。 このトークを持ってくるあたり…
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