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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
7章 『獅子と猪』編
462/820

第455話 13歳(春)…王都ヴィヨルド

450話に100文字ほど加筆しました。

要点は――

『城の者の証言から人質は城の地下に幽閉されていると推測される』

『しかし事件以降、カロラン以外に会った者は居ない』

『人質の居場所が不確定ならカロランとっちめて吐かせた方がてっとり早い』

の3点です。

 計画通り日の出と共におれたちは動く。

 裾野の森から出発し、すみやかに王都へと向かうのだ。

 しかしいざ出発となったところで、筋肉どもが「ここは駆け抜けましょう!」と進言してきた。

 却下である。


「辿り着いて終わりじゃないよ!? そっからが作戦の本番だってわかってる!? いや返事は言葉で! 胸をピクピクさせたからっておれにはなんのことかわからないから! ってか服を着ろ!」


 野郎どもの任務は九つの塔の破壊。

 ここにどれくらいの労力が必要になるかわからず、場合によっては想定外の事態によって独自の判断で行動する必要性も発生するかもしれない。なんにしてもなるべく体力は温存しておいた方がいいだろう。

 それにだ。

 五百人の野郎どもが猛然と都市に迫ってきたら、当然の判断として門は閉ざされ締め出しを食らうに決まってる。

 まあそこで身分を明らかにすればいいのだが……、なんか締まらないし、異常事態と判断されて警戒態勢もとられるだろう。王都に余計な混乱を起こすのは本意ではなく、大々的に広めなければならない王女の帰還に余計なケチがつくのもよろしいことではない。

 そこで移動はなるべく急ぎながらの徒歩、しっかりと騎士団の旗を立てて向かう。なんか数が多くなってね? とは思われるだろうがそこは堂々と。

 隊列は前方に騎士団、後方が倶楽部、そして真ん中に竜化したデヴァスに引っぱられたおれたちの乗る馬車という並びになっている。

 デヴァスの背にはリオ、それからリィとティゼリアが乗る。

 三人だけ特別なのは『竜の背に乗って王女が帰還』という民衆に対してのインパクトを求めた結果で、リィとティゼリアはその護衛だ。


    △◆▽


 出発にちょっと手間取ったものの、その後は何事もなく行進が続き、おれたちは無事王都へ到着。ここで一旦足を止め、この後の作戦のため、すみやかに隊列の変更を行った。

 幸い、不審がられ防衛体制を取られることはなかったが、それでもロンドとの往復にかかる通常の日数よりも短い期間で騎士団が戻ったことに何らかの事情ありと判断されたようで衛兵たちが集まってくる。まあ人数は倍くらい増えているし、竜は居るし、聞きたいことはいっぱいだろう。緊迫した雰囲気ではないものの、急に慌ただしくなったことで何事かと市民たちも集まり、やがては人だかりとなった。

 それを見計らい、隊の先頭にいたディアデム団長は声を張りあげて人々に告げる。


「私は獅子王騎士団、騎士団長ディアデムである! この度、私は王命により部下たちを率い、邪神教徒が潜むとされる国境都市ロンドへと赴いた! しかしそこに邪神教団などは存在せず、あったのは闘神ドルフィード様より祝福を授かった神徒による、闘士たちの集いであった!」


 闘神の名が出たことで、集まった人々に驚きの声が生まれる。

 しかしそんなざわめきに構うことなく団長は話を続けた。


「そしてその集いの中には我々――、いや、このエルトリアにとっての希望が存在したのだ! それは皆も知るお方! この国の第一王女であらせられるリオレオーラ様、その人である!」


 団長が指し示したのは竜の背、そこに居るリオ。

 メイド服ではちょっとあれなので、今はおれがこれまでの行程で夜な夜なチクチク修復したドレスっぽい服を纏っている。


「エルトリアの黄昏となったあの日、危機を逃れ、国より脱したリオレオーラ様は今日という日をずっと思い描き、そのために修練を重ねてこられた! そしてつい先日、ロンドへと向かった我々に『獅子の儀』を挑み、見事な戦いぶりで達成なされたのだ!」


 団長の話、まだ状況が理解できないか、聞く者たちはきょとんとしている。


「これより我々は王宮へ向かう! それはリオレオーラ様が新王となるべく陛下との決闘に挑むためである!」


 この瞬間から人々はその真意を理解し始める。

 リオは国を取りもどすべく、帰還したのだと。

 すぐに理解できない者が多かったが、周りから声が上がるようになるとやがて自ずと悟り、終いには大歓声となった。

 人々の声を受けながら正面を団長が歩き、その後ろにはデヴァスの背に乗ったリオ、リィ、ティゼリアが。おれたちはここで馬車を放棄してデヴァスに続き、そんなおれたちの後ろに九つの隊に分けられた騎士と闘士の混合部隊が続く。


「今のところ順調ね」

「本当に邪魔者もこねえニャ。ここまでくると不気味ニャ」


 普段よりも若干真面目な表情をしているミーネとリビラ。

 自分の作りだした状況を突き崩す存在が迫っているとなれば、何か理由をつけて兵を動かす、または私兵、傭兵、暗殺者と妨害にくるのがセオリーというものであるが、カロランはそれを行わない。

 魔法『デミウルゴス』による妨害も無いのは、リィの言うとおり強い魔力を持つ者がこちらにいることで効果を及ぼせないのか、それともただやろうとしないだけか。

 なんにしても何のアクションも起こしてこないのは、実は事態がとっくによろしくない状況になってしまっている可能性が高かったりする。


「ご主人さま、しかめっ面ですけどどうしました? 何かまずいことでも?」

「こっちに手出ししてこないのは、準備が整ったってことだろ?」

「それは……、あ、でも、自分の力に自信があるので誘い込むつもりかもしれませんよ?」

「同じだよ。この状況でリオを害しようもんなら反逆者ですって名乗りをあげるようなもんだ。それでもかまわないつーことは、もう体裁を保つ必要が無くなった、準備は整ったってわけだ」

「……あれ? ってことは、リオさんが儀を達成した意味――」

「しーっ」


 もし想像通りならリオは骨折り損のくたびれ儲け。

 おれとシアの会話を聞いた皆はそれぞれ苦笑い、アエリスはちょっと複雑そうな顔である。

 リオがデヴァスの背に居てくれてよかった。


「まあおれたちはどう動いていいかわからなかったし、あそこで儀を行わずに数日かけて騎士団と話し合いをしていたら間に合わなかった可能性もある。完全に無駄ってわけじゃないさ」


 とは言え、何か仕掛けてくるのが当然という状況なので、おれたちは油断しないよう努め、緊張感を保ったまま王宮へと道を進んでゆく。

 やがて都市の四層と三層の区切りとなる市壁をくぐったところで、九つの混合部隊はおれたちの後方から離脱。

 このあと各部隊はリオの帰還を叫び人々に伝えながら、それぞれ担当となった三層と二層を隔てる古い市壁――九つの塔へ向かい破壊するのだ。

 これで王宮へ向かうのは先頭のディアデム団長、その後ろに続くデヴァスの背に乗ったリオ、リィ、ティゼリア、そしてデヴァスの周囲を護衛するように金銀赤、リビラ、パイシェ、アエリス、ストレイ、エドベッカ、そしておれという十四名となった。

 おれたちは警戒しつつも三層の新都市区を通過、問題の市壁をくぐり旧都市区となる二層、そして王宮と町を隔てる城壁の門をくぐって一層へと到達する。

 城門をくぐると、城壁から王宮までには広場があり、それは王宮を円環――ドーナッツ状に囲んでいるようだった。


「なんか広々! でも広々してるだけ?」

「有事の際には市民を避難させる役割があるのです」


 ミーネにアエリスが説明する。

 建国時から侵略戦争に備える必要があった国ならではの話だ。

 おれたちはそのまま王宮の門へと進むが、すでに知らせが来ていたのだろう、城で働いていた者たちがリオの帰還を迎える。

 団長に支えてもらいながらリオはデヴァスから下りると、集まった人々に微笑みかけた。


「みなさん、お久しぶりです。ちょっとお城を抜けだしたら、戻るのにこんなに時間がかかってしまいました」


 そのリオの言葉に、破顔する者もいれば、目頭を押さえて俯く者もいる。


「この通り、リオレオーラ様は戻られた。国を取りもどすためにだ。――奴は、カロランは何処にいる?」


 ディアデム団長の問いに「謁見の間」との返答が。


「そうか。では、参りましょう!」


 団長を先頭に、おれたちは王宮へと足を踏み入れる。

 ここからはより慎重に、リオの身を最優先としての進行。

 デヴァスも人型となって同行する。

 自然とおれたちは足早になり、謁見の間へと急ぐ。

 そして辿り着いた謁見の間。

 大きな扉を開くと、広々とした空間が広がっており、正面からは奥へと続く鮮やかな赤い絨毯。その先には二段の階段があり、高くなった場所には玉座がある。

 そして階段の手前、こちらに背を向け、床に座り込んで俯いている者がいた。


「カロラン!」


 ディアデム団長が叫ぶ。

 そうか、あいつがカロランか。

 会いたかったわけじゃねえがようやく対面だ。

 団長の叫びに、ふと呼ばれたような感じで顔を上げたカロランはそのまま背を向けたまま言う。


「おや、これはディアデム殿。ずいぶんとお早いご帰還ですな」


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/02

※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/07

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/02/10

※さらに文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/04/27


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