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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
7章 『獅子と猪』編
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第452話 13歳(春)…主はメイドを助くもの

 それからアエリスの話はおれが王都で暮らすようになってからにまで進んだのだが――


「き、貴様ぁーッ! 弱みに乗じてリオレオーラ様を侍女扱いしていただとぉッ!?」


 なんかディアデム団長が激怒。

 その大声で寝てたミーネがビクゥッと痙攣して目を覚ましてしまったが、まあそっちはいい。

 問題は絶賛お怒り中の団長である。

 最初はまだメイドというものをよくわかってなかったので大人しく話を聞いていたのだが、徐々に表情が険しくなっていき、とうとう限界に達したのか大噴火。

 だがリオがエルトリアの王女だなんて数日前まで知らなかったことだし、ここでおれにキレられても困るのである。

 だというのに団長は席を立ち、肩を怒らせながらおれに迫って来た


「ひ、ひぃ……!」


 どこかの筋肉神にひどい目に遭わされた結果、おれはガタイのいい奴が迫ってくると恐怖を覚えるようになっていた。

 しかし、おれが恐れに身をすくめたその時、おれと団長の間に割って入る赤い影が。

 アレサである。


「はあぁ!」

「おぶらぁ!?」


 アレサは容赦なくゴメシャッとメイスで団長の顔をぶん殴った。

 いつもならやりすぎと窘めるところだろうが、今は本当に恐かったのでおれは大いにアレサを褒めた。


「よくやってくれました。よくぞやってくれました」

「……ふ、ふわぁぁぁー……!」


 やりました、と満足げなアレサの頭を引き寄せるようにして抱きしめ、よしよし撫でていたところ、ぶん殴られて倒れた団長の具合を確認していたティゼリアが苦笑いで言う。


「あ、あのね? あんまりその子をそうやって褒めると癖になっちゃうからそのくらいにね? 誰であろうとお構いなしに手を出すようになっちゃうと困るからね?」

「そうですか?」


 ならまあ、適当なところでやめておこう。

 そして寝起きドッキリをされたミーネだが、倒れたディアデム団長にこそっと忍び寄り、どさくさにつるつる頭をぺちこんっと叩いて部屋へてけてけ逃げていった。


「ぐぬぅ……、この痛み……、リオレオーラ様の頭突きに匹敵するものだ……!」


 アレサにメイスで殴られ、ミーネに頭をひっぱたかれた団長は痛みに悶えながらもまだけっこう余裕があるようだ。

 そんな団長に回復魔法をかけたあと、ティゼリアは言う。


「ディアデムさん、一応言っておきますけど、あの子をただの貴族と考えてはいけません。そこらの国の王より重要な人物なので、本当に害しようとすれば私もアレサと一緒になって貴方を叩き伏せることになります。場合によっては星芒六カ国を敵に回すことになりますし、そうなればまず聖都からは戦隊が派遣されるでしょう。ちなみにすでに一度派遣されて、とある森の王制が崩壊しています」

「お、おう……」


 ティゼリアの忠告に団長はちょっと萎縮。

 しかし――


「だがリオレオーラ様が使用人の真似事など……」


 それでも団長はちょっと不満そうで、ティゼリアは深々とため息をついて言う。


「現状、レイヴァース卿なら王女であろうと侍女にしてもおかしくない、それほど尊い人物になっています。そもそも闘神より祝福を授かった方ですよ。それだけでもエルトリアの女王が傅くに値する人物とは思いませんか?」

「む、むぅ……、言われてみれば……」


 リオ大事なあまりついカッとなった団長だが、聞いた話に納得できるくらいには冷静になったようだ。


「でもティゼリアさん、その尊いお子さんをこの騒動に関わらせるのはどうなんです?」

「そこはつきあいよ。出会いのきっかけも、元を正せばエルトリアの異変に辿り着くでしょう? 貴方だって放ってはおけないだろうし」

「確かにそうなんですけどね」


 ひとまず団長は落ち着き、席へと戻る。

 そこでリビラが口を開いた。


「姫が姫がとそんな悲観することはないニャ。ベルガミアでは進んで第一王女をメイドにさせてるくらいニャ。ちなみにニャーはレーデント伯爵家の者ニャ」

「レーデント……、もしやアズアーフ殿のご息女か!」

「そうニャー」

「おお、そうか。言われてみればシャリア殿を幼くしたような顔立ちだ……」

「ははニャを知ってるニャ?」

「ああ、実は非公式に試合をしたこともある。とんでもない剣でもって叩き伏せられたな」

「獣剣ニャ。今はニャーが使ってるニャ」

「あれをか!?」


 獣剣は先が尖った巨大蕎麦包丁な代物だからな、あれを使ってると言われればディアデム団長が驚くのも無理はない。

 ちなみに獣剣、今はシアの魔導袋に入っている。


「ふーむ、さすがはシャリア殿とアズアーフ殿のご息女か。アズアーフ殿は息災か?」

「元気ニャ。でもそれはニャー様――レイヴァース卿のおかげなのニャ。スナークの暴争時にはニャーさまにうんと助けられたニャ。あとでニャー様の活躍を聞かせるニャ。かわりにははニャのことを聞きたいニャ」

「うむ、わかった」


 意外なところでリビラと団長が意気投合した。

 リビラの話でおれへの風当たりが弱まってくれることを祈ろう。


    △◆▽


 会議が終わったあと、ほったらかしになっていた騎士たちの入部儀式とやらを見学に夜の郊外へと戻ったのだが、そこでは野郎どもが巨大な焚き火を何重もの輪となって囲み、暑苦しい歌を歌っていた。


「キャンプファイヤーですねー。ただの明かりや獣避けのための営火とは区別される、儀式的な意味を持つ神聖な炎です」

「最後は飛び込んで丸焼きになるのか?」

「ご主人さまが責任もって食べてあげてくださいね」

「いやそんな……、あ、そうか、老人は『てめえなんぞ食えるか』ってことでウサギの丸焼きを月にぶん投げたのか。なるほど、深いな」

「ええ、深いですね。そしてご主人さま、現実逃避してる間に迎えが来ましたよ」

「あ、しまった、とっとと戻ればよかった……!」


 シアと適当なことを喋っていたら、おれをめざとく見つけた上級闘士たちがこちらへとやってきた。

 聞いてもいないのに話し始めた彼らの説明によると、入部の儀式は無事終了し、今は焚き火を囲んで親睦を深めているところらしかった。

 上級闘士たちは新たに倶楽部の仲間となった騎士たちに会ってやってくれとおれに言ってくる。

 正直なところ面倒で仕方ないが、これから共に王都ヴィヨルドへと向かうのだ、ここは少し配慮すべきと、おれは新たに加わった闘士たちへ顔を見せに行く。

 ただ筋肉ばかりの中に行くのは恐いので、一緒に来ていたシア、アレサ、ティゼリア、パイシェにがっちりガードしてもらいながらの挨拶である。もし今のおれを情けないと言う奴は、一度ガチムチに強烈な一撃を喰らわされて宙に浮いてみるがいい。トラウマになること請け合いである。

 それからおれたちは筋肉の迷宮をうろうろすることになったのだが、げんなりした感じでシアが言った。


「しかしえらいことになりましたねー……、色々な意味で」


 まったくである。

 あまり認めたくない事実だが、おれはこの倶楽部――教団の教祖さまである。

 ある程度の命令なら聞いてしまうガチムチがすでに五百名。

 もしこの教団の影響力が広がっていけば、それこそおれは自分の勢力を持つことになるだろう。

 いいのかなぁ……。

 暴走しないようにちゃんと教義とか作った方がいいだろうか?

 難しいこと書いても理解できない可能性が高いから、人として守れということだけを幾つか並べる方向で。

 向こうの世界でも十戒のうち、上五つはどうでもいいとしても、下五つも守れない有様だからな。難しい。

 簡潔に『自分の良心に恥じるようなことはするな』くらいか。

 筋肉の迷宮を何周かして、そろそろ食料確認の仕事のためにも酒場地下に戻ろうとしたところ、リビラと一緒にディアデム団長がやってきた。

 これからここで行軍の計画を決めるのかな?

 そう思っていたところ、団長はおれの前に来て跪いた。


「先ほどの無礼、申し訳ございません。いかなる処罰も。首を望まれるのであれば差しだします。しかしどうか、この騒動が終わるまでお待ち頂きたい」

「べつに怒ってませんし、処罰するつもりなんてありませんよ。そもそも他国の貴族であるぼくが処罰とかおかしいでしょう」

「私も闘神を崇める一人ですので」


 あ、そっちの筋からか。


「リオを思うあまりの行動なので咎めるつもりはないですよ」

「しかし……」

「すでにアレサさんが罰しましたからね、これ以上は不要です」


 戸惑う団長にリビラが言う。


「ニャーさまの懐の広さは星芒六カ国に響き渡ってるニャ。だからそこまで萎縮することないニャー。ニャーさまニャーさま、団長も倶楽部に入れてあげてニャ」

「その気があればいいよ? 拒む理由もないし」


 むしろ騎士たちを監督してもらいたいので入部して欲しいくらいだ。

 騎士たちが加わったのに団長だけ違うというのも問題だろうし。


「有り難き幸せ」


 団長に感謝された。


「レイヴァース卿、最後に一つお尋ねしてもよろしいか?」

「はい、なんでしょう」

「何故、リオレオーラ様の願いを聞きとどけ、エルトリアを救う手助けをしてくださるのです?」


 ……ん?

 あ、そうか、団長はアレサに言わせた嘘をそのまま信じてるのか。

 実際はカロランをどうにかするついでにリオの願いも叶えるという状況なのだが……、今更それを言うのもあれである。


「そうですね……、リオがぼくのメイドだからでしょうか」

「メイドだから……、ですか」

「ええ、主がメイドを助けることに余計な理由はいらないのです」


 答えたところ、団長は何ともいえない困惑顔に。

 するとリビラがさもありなんといった顔で言う。


「まあそういうことニャ。特別な理由なんてないのニャ。問題はそこが良くも悪くもあることニャー」


 なんだ問題って。

 いいじゃないか、メイドを尊ぶ奴が世界に一人くらいいたって。


※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/31

※誤字脱字、文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/02/07

※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/03/18

※さらに脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/04/27


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