第45話 7歳(春)…メイドたるには
シアが正常になった翌日、おれはシアを部屋に呼んだ。
「よし、メイド服を作るために寸法とるぞ。服ぬげ」
「いきなりなに言いだすんですかこのエロリスト!」
メイドがメイドたる要素のひとつであるメイド服の製作にとりかかるため、体の採寸しようとしたら妙な罵倒をされた。
「エロリストってなんだこら。いいからとっとと脱げボケが」
「ぬ、脱ぐってどこまでですか」
「下着までだよ。すっぽんぽんにはならなくていいから」
「あたりまえです! っていうかなんで下着にまでなんないといけないんですか!? 恥ずかしいです! 普通に服の上からでいいじゃないですか!」
「適当な服ならそれでいいが、メイド服を作るんだぞ? 万全を期す必要がある。人事を尽くさなければならないんだ。おれ七歳でおまえは六歳だぞ? いったいなにを恥ずかしがる必要があるんだ?」
「そんなこと言われても、恥ずかしいものは恥ずかしいです」
むぅーとシアに睨まれる。
「おまえ元死神なのになんでそんな羞恥心があんの? てっきりよっしゃーって叫んですっぽんぽんになるぐらいだと思ってたんだが」
「今わたしは普通の女の子になってるんです! ご主人さまだってそうでしょうに!」
「おれは今も昔も普通の男の子だが?」
「あ……」
そりゃそうだ、とでも思ったのかシアは声をあげる。
「んむむぅ、むぅー……、わかりました」
しぶしぶと、本当にしぶしぶとシアは承諾した。
「じゃあ、ぬ、脱ぎますから、ちょっと後ろ向いててください!」
「後ろ向いててって、どうせ――」
「む・い・て・て・く・だ・さ・い!」
「はい」
有無を言わせない剣幕だったので、おれは大人しくシアに背を向けた。
寸法をとるのは服の上からでも問題ないとは思う。
けれど、わずかでも、ああすれば、こうすれば、といった悔いをのこしたくなかったので面倒でもシアに従う。
シアは「くっ」とか「むぐぐ」とかうめいていたが、やがて覚悟を決めたのか服を脱ぎだしたのが衣擦れの音でわかった。
「は、はい。ど、どうぞ!」
振り向くと、シアはちゃんと下着姿になっていた。
上は短いタンクトップのような肌着で、下はおパンツである。
「……」
「な、なんですか! なにじっと見てるんですか!」
「あ? ああ、自分でさんざんいってるだけあって、確かに見てくれはきれいだなーと」
「――~ッ!」
こらえる表情のシアがすっかり赤くなる。
色白なせいで、実にわかりやすく赤みがさした。
「い、いいから、と、とっとと計ってくだしゃい! はやく!」
「へいへい」
無駄に緊張してしまってカチコチになっているシアを動かすより自分で動いた方が早そうだったので、おれはシアの後ろにまわって巻尺をびろーんとのばすと、まず首のつけ根から足下までの長さを計る。
「ほひゃ!」
首つけ根に触れたとたん、シアが奇声をあげて飛び上がった。
もちろんこれでは寸法とれません。
「あのシアさん? さすがに意識しすぎだと思うんですよねおれ」
「だってしかたないじゃないですかー!」
シアはすでに半泣きになっている。
「おまえ胸とか尻とか計るときどうすんの?」
「なんでそんなとこ計るんですかー!」
「計んないと作れないんだよ!」
ぱっぱとやってしまう予定だったのに、この調子ではいったいいつまでかかるのかわかったものではない。
「……あのな、世の中にはおれと同い年のくせに、微塵も男女の違いを意識せず、風呂に突撃してくる伯爵令嬢だっているんだ。さすがにあれくらいになれとは言わん。ただ寸法とるあいだだけ――」
「ちょっと待ってください。なんですその伯爵令嬢って」
動揺していたシアがぴたりと動きをとめる。
「クェルアーク伯爵家っていう、シャロ様と一緒に魔王と戦った勇者の末裔、そこのお嬢さんだ」
「ほほー、それで、ご主人さまとはどういったご関係で?」
「どういった関係って……、弟を攫っていこうとする悪い奴と、それを守るおれ?」
「わけがわかりません。もう、ご主人さまってときどき話が意味不明になるんですよね。じゃあわたしが聞くことに答えてください。そのご令嬢とはどうやって知り合ったんですか?」
シアは真剣に尋ねてきたが、ミーネの話なんて聞いてどうするんだ。
べつに話してもいいが、採寸したいんですよね……。
「あー、寸法とり終わったらゆっくり――」
「はいちゃっちゃと計っちゃってください!」
「……えー……」
なんなのこの子。
それからシアは奇声はあげたが暴れはしなかったので、なんとか採寸を終わらせることができた。
だがそのあとおれはミーネのことを話し続けることになり、結局その日は採寸だけで終わってしまった。
※誤字の修正をしました。
2017年1月26日




