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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
7章 『獅子と猪』編
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第438話 13歳(春)…レヴィリーとバイアー

 レヴィリーとバイアーが殴り合いを始めたところで、おれはのんびり観戦するべく下がって皆の所へ戻った。


「レヴィリー様! やっちまえー!」

「バイアー! 負けんなー!」


 いざ殴り合いが始まると、シアの『威圧』でたじろいでいた両陣営も応援を始め、恐い物見たさで傍観していた市民たちも煽るように声をかける。盛りあがってまいりました。

 最初はそれぞれ立場からの主張をぶつけ合っていた二人だが、拳によるぶつかり合いに移行したところで感情任せの発言ばかりになる。


「スカした喋り方するようになりやがってこの格好つけ野郎が!」

「んだとこのデブがぁ! とっとと帰れや!」


 最初こそ景気よく殴り合っていた二人だったが、やがてレヴィリーの動きが悪くなってくる。

 あんまり運動好きには見えない体してるからな、その差が出たか。


「そのザマでどうして出張ってきやがるつもりになった! 頭の中まで脂肪になっちまったかこのデブが!」


 バイアー、けっこうきついこと言うな。


「てめえは! ミトス様の元でぬくぬくしてりゃあいいんだよ! 何もできねえだろうが! なら余計なことをしようとするな!」

「そういうわけにはいかねえんだよ!」


 と、繰り出したレヴィリーの頭突きがバイアーの顔面に入る。

 おや、鼻血ですね。


「親父はまんまと騙されてすっかり駄目になっちまった! あの親父がだ! そうなるとさすがにな、思うところがあるんだよ! んでもって今回の国境封鎖、すでにハメられたうちは与し易いとまた狙われかねねえ! だから俺が出るしかなかった!」

「もしもとなったら殺されることも覚悟でか!」

「そうだ! だが俺に何かあれば親父も目が醒めるはずだ! 特に優れたところもない俺だが、それくらいの役には立つ!」


 ほう、そんな覚悟をしていたのか。

 そうおれは驚いたのだが――


「嘘つけこのボケ!」


 バイアーは鼻血たらしながらレヴィリーをぶん殴る。


「――っつ、おいコラ! 嘘とはどういう了見だ! 嘘や酔狂でこんなこと出来るわけねえだろうが! 確かに俺は頼りにならないだろうし、いざ来てみたものの怯えて酒に逃げるだらしなさだ! だが、こうなったら俺が立たなきゃならない、そう決めた覚悟は嘘じゃねえんだよ!」

「ああそうか、だったら言い直してやるよ! お前は領地のことを思ってそんな行動を起こす奴じゃない! 子供の頃からずっと領主なんて面倒くさいと言ってただろうが! にもかかわらずお前は今こうしてここにいる! 後悔しても逃げ出さず、追いだそうとしてもしぶとく残ってやがる! 何故だ!」

「そ、そ――」

「いい加減に言え! つまんねえ建前で俺が納得すると思うなこのアホ! 悟られないとでも思ったか!? んなわけねえだろうが! 自惚れんなよこのこんこんちきが!」

「……ッ!?」


 バイアーの言葉に驚き、レヴィリーの反撃が止まる。

 それを見計らったようにバイアーはレヴィリーの胸ぐらを掴みあげた。


「言え! お前が死ぬかもしれない覚悟までして起こした行動の根幹にあるものを! つーかそれが言えないのになんでこんな行動は起こせるんだよ、お前どんだけ馬鹿なんだよ!」


 胸ぐら掴まれているレヴィリーだが、ろくに抵抗もせず顔を背けるばかりだ。


「なら俺が代わりに言ってやろうか!」

「ま、待て……!」


 焦ったレヴィリーの様子に、ようやく観念したのかとバイアーはレヴィリーを解放する。

 レヴィリーはしばし迷っていたが――


「お、俺も何か出来ることを……、親父に見せておきたかった。そうすれば……、こんな俺でも次の当主になれるかもしれないからだ」


 なるほど、次期当主としての足場を固めたかったのか。

 ん?

 当主なんて面倒と思っているのに?


「お前はずっと当主なんて面倒だと言っていた、なのにその心変わり。理由はなんだ? 俺はそれが聞きたい。お前は当主になって何をする?」


 おれがちょっと混乱するなか、バイアーが促すように言う。

 レヴィリーはなかなか言い出せないが、バイアーはそれを急かすことなく口を開くのをじっと待っている。

 そしてレヴィリーは覚悟を決めたように口を開いた。


「俺が当主となったあかつきにはロヴァンを貴族に取り立てる」

「兄を……?」


 これに驚いたのはロヴァンの妹であるアーシェラだ。


「あの、そうなったら私はどうすれば……、これまで通り侍女でよろしいのでしょうか?」

「違う。お、お前には……、あれだ、お、お、お――」


 言葉が詰まるレヴィリーだったが、見かねてバイアーがその尻に蹴りを入れる。


「肝心なところで詰まるな馬鹿が」

「うるさい」


 悪態をつき、レヴィリーはアーシェラに向きなおって言う。


「俺の妻になってくれ」

「…………へ?」


 突然のプロポーズ。

 さすがの魔道侍女も状況が飲み込めずぽかんとしてしまうし、それは見守っていた人々も同様だ。

 当然、おれたちも。

 誰もがきょとんとして状況を見守ることになり、そのなかで突如として騒ぎの中心に置かれてしまったアーシェラは戸惑いながら言う。


「レ、レヴィリー様……? 私はみなし子で……、レヴィリー様の妻となるにはあまりにも――」

「俺は気にしない。だが面倒なことにそうもいかない。だから俺はロヴァンを貴族にする。俺にはこれしか思いつけなかった」

「あ――」


 理解が追いついてきたのだろう、アーシェラはようやくハッとした顔つきになった。

 つまり、レヴィリーが行動を起こせたのも、しぶとくロンドに残ろうとしたのも、すべてはアーシェラを妻にしたいという一念によってということか。


「お前と一緒になるならネーネロ家を捨てたってかまわない。だがお前やロヴァンは親父に深い恩義を感じている。だから家が乱れるのは好まないだろう? だったら俺が当主となってどうにかするしかない」

「レヴィリー様……」

「アーシェラ、聞かせてくれ。お前は俺の妻になってくれるか? こんな俺だが……、お前が側にいてくれるなら、親父にも負けないような当主になろう。だからどうか、俺と結婚して欲しい」


 地位の高い相手に迫られたら従うしかないのだろうが、アーシェラの場合は戸惑いながらもその申し出を喜んでいる雰囲気である。

 よくわからんが両思いだったのか?

 やがてアーシェラは一言、簡潔に答えた。


「はい」


 その返事によって、ずっと見守っていたレヴィリーの連れてきた兵、市民兵、そして市民たちが祝福の歓声を、そして拍手を送り、そのなかでレヴィリーとアーシェラは抱きしめ合った。

 アーシェラの心境はあれか、のび太があんまりにアレなので結婚することにしちゃったしずかちゃんみたいなものだろうか?

 しかしエルトリアの異変すら利用してアーシェラを妻にしようとか、こいつなかなかしたたかだな……。

 レヴィリーの計画のため駆り出された兵とか、迷惑を被った都市の人々はちょっと前までの険悪な雰囲気など無かったように普通に祝福しちゃってるし……、やっぱりこういう話は好物なのかしらん。

 そしてシアやリオを始め、うちの面々も拍手をするのだが、そのなかにあって困惑するのはおれとリィであった。


「森でのんびり暮らしすぎたのかな……、ちょっと展開が急でついていけねえんだけど」

「リィさん、大丈夫ですよ、ぼくもついていけてませんから……」


 めでたいのはわかるんだけど、蚊帳の外な感がハンパない。


「これ、おれが関わらなくても勝手に解決したんじゃね?」

「そうでもねーニャ。ニャーさまが二人の殴り合いに留めず、兵と市民との大喧嘩になってたら確実にこじれて面倒なことになったニャ。こんなふうに告白してみんなが祝福するなんて有り得ない状況になっていたはずニャ」

「あー、そうかもしれないな……」

「きっとそうニャ」


 うんうんと自信をもって頷くリビラ。

 この状況、もうおれたちは邪魔かと思われたが、ここで帰っては何をしに来たかわからなくなるので、一応、ポーションを用意できることだけ伝えておくことにする。

 いや、レヴィリーとバイアーはボロボロになってるし、試しに飲んでもらう方がいいか。


「お前のような奴でも、人が羨むところが一つくらいあってもいいんだろう。俺としてはあまりめでたくないが、まあ、おめでとう」

「……面倒をかけたな」

「まったくだ、この馬鹿め」


 おれはようやく和解(?)したレヴィリーとバイアーに近寄り、それぞれにショットグラスを渡す。


「ちょっと試しに飲んでみてもらえますか。効果の高いポーションなんですが同時にとても度数の強いお酒なんです」

「それはちょうどいい。強いのをいきたい気分だ」

「いただきましょう」


 落ち着いた二人のグラスに『悪漢殺し』を注ぐ。

 二人はちょっと逡巡にした後、チン、と軽くグラスを当て、それからぐっと酒を一気にあおった。


「「ふおぉぉぉ――――うッ!?」」


 そして奇声。

 二人の体からはギーリスの時と同じように湯気(?)が立ち上ったのだが、やけにレヴィリーの方が多く、なんだかもくもくしている。

 やがて収まったとき、そこには清々しい顔のバイアーと、キリリとした表情で体型すら引き締まったレヴィリーがいた。


「美味いな。こんな美味い酒は初めてだ……」

「そうですね。それについては同意見ですよ」


 凛々しくなった二人は神酒を気に入ったらしく、それから詳しい説明を求めてきたが、これに関してはアレサが大げさに説明した。

 錬金の神も認め、おれに祝福を授けるほどの神酒である、と。

 これには二人だけでなく、側にいたアーシェラとストレイ、それから周囲の観衆も驚いたようだ。


「ちょっと待て。では……、なにか、これを提供してくれようとしているのか?」

「ええ、これでよければ。これから増産しますし」

「ならもう一杯もらってもいいか?」

「あ、なら私もお願いしたいです」


 二人は言ってくるが、たぶんもう飲んでも意味はない。


「基本は治療用なんですよ。なので怪我をしていないと効果は無いみたいです」


 そう説明すると、二人はどちらからともなく見つめ合い、うんむ、と大きく頷いた。

 思惑は一致。

 二人は再び互いに罵り会いながら殴り合いを始める。

 いや、回復するときの快感を味わいたいからと互いを痛めつけ合うとか本末転倒すぎるんですが……。

 アーシェラもにこやかに見守ってる場合じゃないと思うよ?


ぐりーん様、レビューありがとうございます!


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2018/12/25

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